千葉・ちいき発


"ちょっといい話"
 いつも近所の家の前で「う〜」と声を上げる自閉症の男性がいて、近所中から「うるさい」「気持悪い」と煙たがられていたそうです。ところが、ある家だけはそういう苦情を言わない。そこで、その自閉症の男性はその家の前にばかりいるようになりました。そこの家の旦那さんは「声が聞こえると、今日もあの子は元気だなって分かるのでほっとする」と、この家だけは自閉症の男性を温かい目で見ていたというのです。
 ある時、近所一帯が空き巣被害にあった。ところが、その家だけは被害にあわなかった。「きっと、あの自閉症の男性の声が、空き巣を寄せ付けなかったのだ」と旦那さんは言っていました。これは実話です。その旦那さんは養護学校の先生なのです。
(K.N.)
 養護学校に通っていたやんちゃな男の子の話です。バスの中で同級生とトラブルになり、窓ガラスを叩いたり、停車用の呼び鈴を鳴らしたりして乗客の迷惑になった。運転手さんが「いい加減にしなさい」と叱ったら、唾をかけて逃げていった。怒った運転手さんが養護学校に電話をかけて「もうあの子はバスには乗せないでくれ」。
 相談を受けた地域療育等支援事業のコーディネーター(現中核地域生活支援センターのコーディネーター)が間に入り、親と養護学校の先生と一緒のバス会社を訪ねていき、知的障害や自閉症の特性などについて説明したそうです。すると、バス会社は運転手さんたちにそのことを伝えてくれた。その男の子はまたバスを利用できるようになったのですが、その子が乗ってくるとほかの乗客が怖がって緊張が走る。そこで、気を利かせた運転手さんが「○○君、おはよう! きょうも元気だねえ」と乗客たちに聞こえる声で話しかけるようにしたというのです。何らかの支援が必要な子なのだということが伝わるので、バスの中の雰囲気が穏やかになり、男の子も落ち着いてきたそうです。
(K.N.)
 会社の私が所属している部にひねくれものがいて、後輩には厳しい…というか、いじめみたいなことをするし、上司を上司とも思わない乱暴もの。しかし、身長180センチ以上、筋骨隆々、悪役レスラーみたいな風貌で、みんな怖がって近づかない。
 ある日、地下の食堂街で彼が視覚障害者の女性の手を引き、やさしい言葉をかけながら店に案内しているところを、私は見てしまったのです。彼は店の人に女性を託すと、また、やさしい言葉をかけて立ち去ろうとしました。そのとき、私と視線が合いました。彼はまずいところを見られたような顔になり、大きな体を揺らして慌てて走り去りました.
(K.N.)
 息子が高校1年生の3学期、テストの点数がとれなくて赤点のオンパレード。このままでは進級できません。でもほとんど欠席せずに授業に参加しています。私は、先生方が息子の努力をどう評価したらいいか、とまどっているのだろうと考えました。それで赤点を付けている先生方1人1人とお話をしたいと願い出ました。紆余曲折がありましたが、願いは叶えられました
 1人の先生がこう言いました。「僕は、はじめ彼に触られるのもいやでした。でもそれが偏見だとわかりました。これからは、もっともっと彼とつきあっていきたい。その中で進級のことも考えたいです」
 息子はよく、ぽんぽんと先生の肩などに触りますが、その先生はいやだったんですね。それが偏見と気づいてくれたこと、その気持ちを話してくれたことが、本当に嬉しかったです。先生は、初めてのお子さんが生まれたばかりの時で、「お母さんは、彼が生まれたときどんな気持ちだったろうと考えました」とも言っていました。
 毎日息子とつきあうことが、先生の意識を変えていったんだと思います。人はいい方向に変わることができるんですね。
(H.Y.)
 Y君は発語もなく、全介助が必要な子です。6年生の3学期に一ヶ月ほどの入院をしていた時、「すべてに反応しなくなった」とママは暗い顔をしていました。ところがある日、満面の笑みを浮かべて、「Yが、カセットテープから流れるクラスメート全員の励ましの声を聞くなり、一生懸命スピーカーに手を伸ばし、顔をそっちに向けたのよ」と。Y君は元気な時でも自分を思う通りに動かせないのに、すごいです。友達が、学校が一番の薬だったんですね。
 今は、一緒に過ごした友達に囲まれて中学1年です。
(Y.S.)
 S君の中学3年修学旅行をひかえ、学校とお母さんの話し合いに同席した時のことです。「S君は毎週発売されるハンバーガー店のオマケを集めることに強いこだわりがあり、開店と同時に買っても集合時間に遅れてしまう。どうしたものか」と聞いていました。「それがその後の旅行を混乱なくやり遂げることに繋がる」と、担任も介助の先生も当然のことのように受け止め、校長先生も「介助の先生がS君を連れて後から東京駅に合流すればいい」と。
 その後も、日程表を見ながら細々とした打ち合わせが続きましたが、お母さんが安心して送り出せる話し合いでした。横で聞いていて無性に嬉しくなりました。
 今回の修学旅行には、介助の先生がつく子がS君の他に2人参加したそうです。先生方は夜もろくに眠れなかったと思います。おかげで、S君は皆と一緒に、中学生活最大のイベントを楽しい思い出として終えることが出来ました。
 今はずいぶん落ち着きましたが、一時期、S君は非常に不安定な状況に陥っていました。そのとき療育専門家のアドバイスを受けながら、S君に関わる皆でつくった"S君対応虎の巻"を、学年だけでなく、先生全員が共有できるように職員会議で取り上げたそうです。打ち合わせのときも、校長先生の手にはその虎の巻がありました。
 普通学級では悲惨なことだけでなく、いい話が沢山あるんですよ。だからこそ障害があっても皆と一緒にいることが当たり前になって欲しいと思っています。
(Y.S.)


(参考)『障害者差別をなくすための研究会検討経過』に進む

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