議会傍聴報告(3月15日)
予算委員会での質疑です。河野議員(民主)は、条例案の中で勧告や公表をめぐっての質問、藤井議員(公明)は差別解消委員会に関する質問が中心でした。
河野俊紀議員(民主)の質疑
☆質問
議員にとって条例の審議は重要なことであり、専門的な質問になるが、代表質問のご答弁に対して確認させていただきたい。前回の代表質問で、適用除外条項等に基づき県が勧告・公表をしなかった場合でも、義務付け訴訟により裁判所から勧告・公表を命じられるのではないかと諮問したところ、知事から、義務付け訴訟の要件である「重大な損害が生じるおそれがあること」についても「損害を避けるため他に適当な方法がないこと」についても該当しないとのお答えでした。しかし、「重大な損害が生じるケースは想定できない」のは何か客観的な基準があるのか、損害を避けるための方法が他にあるならばこの条例は何のために作られたか。
★答弁
とことん納得のいくところまで、法律的な問題でもお答えしなければならない。
義務付け訴訟については、司法が行政より先に行政行為の必要性を判断するものであり、事後救済が原則の行政訴訟の例外。実際、裁判所が、特定の行政行為を命じた事例はほとんどない。
「一定の処分がされないことにより重大な損害が生ずるおそれがあること」という要件についても、この位置づけを踏まえれば、県が「勧告や公表をしないこと」が原因で重大な損害が発生し、この要件に該当することは想定しにくいと考えている。
前回、義務付け訴訟の「損害を避けるため他に適当な方法がない」という要件に該当しないことの例示として、民事訴訟等の提起を挙げたが、すべての事例において民事訴訟で対応できるわけではない。
むしろ、日常生活の差別の多くは、当事者間の誤解などに基づくもの。時間や費用の負担の大きい民事訴訟よりも、第三者的な立場の相談員が間に入って、問題解決に向けて知恵を絞るこの仕組みが有効な場合が多いと考えている。したがって、条例の存在がたいへん大事。
☆質問
憲法では、刑事罰を科す場合には法の適正な手続をとることを求めている。この条例の勧告公表は刑罰に匹敵する制裁であり、適正手続が必要と考えるが、憲法には違反しないか。
★答弁
憲法の「法律の定める手続によらなければ刑罰等を科せられない」という法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものだが、行政手続においても、その内容に応じて適正な手続が必要との見解がある。
勧告、公表は、罰則のない場合の最終的な担保措置として、既に様々な制度において規定されている。この条例においては、勧告・公表に当たって、事前に意見聴取を行うこととしており、他の諸制度よりも手厚い手続を定めている。
その運用に当たっては、障害差別解消委員会において、中立的、第三者的立場から、勧告の相当性を審議し、事前に当事者の意見を聴取する手続を定めるなど、慎重に対応していく。
藤井弘之議員(公明)の質疑
☆質問
これまでの議会の質疑を聞いてきて、この条例のどういうところが問題なのか分からない。これまで障害者に対して様々な差別があったのは事実だろうし、その気がなくていつの間にか差別をしてしまっていることも事実だろう。条例において「なくすべき差別」を掲げることは素晴らしい知恵のひとつ。研究会など1年以上の県民参加の議論での、大変な労力と知恵、思いを感じる。ただし、内容が先駆的であればあるほど、その運用は慎重であるべきと思う。この点についてどう思うか。
★答弁
この条例は、様々な立場の県民が理解しあって、できるだけ差別をなくしていこう、差別する側とされる側を対立軸でとらえるのではなくて、すべての人がその人の状況に応じて暮らしやすい社会をつくろうということが基本理念。
なくすべき差別を例示したというのがこの条例の特徴だと思っている。差別とは何かはっきりしないので、それを県民の目に明らかにした。一方で、罰則を設けず、第三者的立場の相談員が間に入って問題解決を図る仕組みをとっている。この相談員の役割は、大変重要なので、条例施行までに十分な研修を行うことが必要。
勧告・公表についても、罰則のない場合の最終的な担保措置として、様々な制度にあるが、その運用に当たっては、誰が見てもやむを得ないと思える悪質なケースに限定して、客観的かつ公正な判断で慎重に運用していきたい。
☆質問
障害差別解消委員会が、よくも悪くも両刃のつるぎ。この委員会の公正さを確保することが必要。障害の有無を差別しない趣旨の条例で、同委員会構成員の資格のなかにあえて「障害のある人」と規定した背景は何か。
★答弁
障害差別解消委員会は、一番大事な要の役を果たす。障害を理由とした差別事例について、第三者的な立場から公平に両者の言い分を聞き、助言、あっせん等を行うことにより、個別事例に即した問題の解決を図るために設置する。また、この委員会は、条例の解釈指針や、差別をしない例の表彰に関する意見、勧告の相当性の審査等の業務も行う。
このような委員会の趣旨を踏まえ、この条例では、その委員を「障害のある人」と「人格が高潔で識見の高い者」を併せて10人以内で構成する旨が定められている。県民各層から成る公正な委員構成としていく。
具体的には、障害者と障害者以外のバランス、福祉、雇用、教育など各分野のバランス等を考慮して委員を選任し、公正な審議が行われるよう努めていきたい。
障害者の「生きづらさ」「暮らしにくさ」など当事者でしかわからないことが多いので、障害者の思いと実情をよく理解している当事者を必ず委員として入れることを規定した。
これら当事者と、企業や学校の現場をよく知っている者を委員として組み合わせて、委員会の公正な運営に努めていく。
一口メモ
「これまでの議会の質疑を聞いてきて、この条例のどういうところが問題なのか分からない」という藤井議員の言葉が印象的です。全国のどこにもない先駆的な内容の条例だけに、さまざまな疑問や懸念を県民が抱くのはよくわかります。そのために県民から選ばれた議員が質問しているわけで、さまざまな質疑を通して少しでも理解が進むことを願っています。1年以上にわたって障害者の差別の解決方法や条例案について議論してきた研究会から見ると、なんだか意地悪な質問のような感じられるものも中にはあるかもしれませんが、一般県民から見ればわからないことだらけなはずで、どんな質問にもきちんと答えていかなければなりません。
私たちは障害者本人や家族という「当事者」として、この条例案の成立を願ってやみません。それ以外のいかなる思惑もありません。平日の昼間の議会には、足を運びたくても現役世代の人はなかなか難しいものです。今後も議会報告を続けていくにあたり、改めてこのことを強調しておきたいと思います。千葉県内には障害者やその家族が少なく見積もっても、数十万人規模でいます。この条例案を理解し成立に向けて応援してくれる人は、政党や主義主張にかかわらず、みんなで一緒にスクラムを組んで進んでいきたいと思っています。
(野沢)