千葉・ちいき発


やっぱり必要、みんなで作ろう!45

学校での性被害

 前号でも紹介しましたが、千葉県浦安市の小学校の男性教諭(46)が担任していた知的障害の女児にわいせつ行為をしたとして起訴されたものの無罪判決が出た事件で、被害にあった女児と両親が県と浦安市、教諭を相手取った損害賠償訴訟を起こしました。この浦安の事件に限らず、障害のある子どもの性被害は深刻だと思います。加害者が学校の先生というのは大変ショックなことですが、残念ながら先生による障害児へのわいせつは各地で起きていることなのです。
 表面化する事件は氷山の一角に過ぎません。示談などの話し合いで済んでいるケースは、その何倍もあるのは間違いありません。示談どころか被害者が泣き寝入りしていたり、まだ誰も気づいていなかったりする事例はさらに多いと思われます。なかなか表面化しないのはなぜなのかと言えば、障害ゆえに被害の認知ができないとか、障害児が被害を訴えても周囲が気づかないということのためですが、学校や教育委員会の姿勢にも疑問を感じざるを得ないケースがよくあります。被害者が必死に訴えても取り合わなかったり、信じなかったり、初めからそんなことはなかったことにしようとしたりすることが度々あります。
 子どもが性被害にあう事例は後を絶ちません。あらゆる職種の人々が加害者に名を連ねています。加害者の中には警察官や医師や新聞記者もいます。教師がいないわけがありません。むしろ、子どもたちと日常的に接している教師は、子どもにとっては性被害のリスクの大きい職種と言えるのかもしれません。
 問題なのは、教育委員会や学校がなかなか認めようとしないことです。「そんなことあるわけがない」→「あっては大変なことになる」→「あったとしても認めるわけにはいかない」。事実の隠蔽に向かって負の心理がエスカレートしていくのがよくわかります。これでは、被害者はさらに傷つけられ、再犯防止にも役立たず、学校不信が募っていくばかりです。何よりも学校という職場が内部から腐り出していくことでしょう。誰よりも性被害のことを知っているのは同僚の教師たちなのです。彼らは仲間と対立関係になるようなことができずに苦しんでいる場合がよくあります。判断能力にハンディのある障害児の性被害が刑事訴追され、裁判で有罪になるケースは決して多くありません。その数少ない事例を見ると、同僚教師の証言が被害の立証に有力な裏づけを与えていることに気づきます。逆に言えば、同僚教師の勇気ある証言がなければ、学校という「密室」での障害児に対する性被害は立証が難しいということが言えるかと思います。
 子どもに取り返しのない傷を負わせ、家族を踏みにじり、再犯防止にもつながらず、同僚教師をダメにし、教育委員会や学校の信頼も失う……。それが障害児に対する先生のわいせつ行為なのです。

浦安の教師を提訴

 浦安事件の訴状によると、被害にあった女児の弁護団は、知的障害者はわいせつの被害にあいやすい一方で、被害にあったことが明らかになる事例が少ないこと、知的障害者の意思疎通能力の特性などを指摘した上で、「市教委と県教委には被害を事前に防止する義務があり、被害を訴えた後に心のケアなどの救済を怠った」などと主張しています。
 女子生徒が03年7月に被害を訴えた後の学校、市教委の対応について、原告側は訴状の中で「訴えを軽視し、まともな事実調査もせず、被害者保護策なども一切講じなかった」と述べています。学校は教諭への聞き取り調査をしただけで、「(性的虐待の)事実はなかった」と結論づけ、市教委も事実を否定するだけだったというのです。女子生徒の主治医で、性的虐待による心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断した慶応大学病院への照会もいまだにしておらず、災害共済給付制度に基づく治療費の申請についても、学校側は「被害日時などが特定されていない」と受理しなかったといいます。
 原告側の主張は、この教師の刑事責任を追及した警察などの捜査でも裏付けられており、千葉地検は一審の論告で「学校や教育委員会の調査が極めて不十分であった」と指摘しています。弁護団は、セクハラをめぐる裁判では確立されている所属組織の事前・事後の対処義務について、児童へのわいせつ行為でも問いたいとしています。以下は朝日新聞の解説(抜粋)です。

 「闘い続けることに迷いを感じた」という女子生徒側が、民事訴訟に踏み切った。後押ししたのは、「知的障害者に対する様々な虐待が起きる中、ほとんどの被害者は訴えることをあきらめ、傷を背負って生きていく現実を何とか変えたい」という思いだ。
 特に密室の犯罪の場合、刑事事件として立件できるかどうかは、被害者がどの程度正確に証言できるかにかかっている。それは、知的障害者や認知症(痴呆症)患者らにとって容易ではない場合が少なくない。
 民事提訴した女子生徒のケースも、刑事裁判では、証言のあいまいさから、被害日時を特定できないとして、被告の無罪が確定した。「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の原則からは、やむをえないと言える。
 しかし、こうした間も被害が拡大している恐れがある。弱者の被害者は今後も泣き寝入りせざるをえないのか。対処を求められているのは捜査や司法の場だけではない。今回の事例でも十分な調査や対処ができなかったとされる学校や教育委員会も、早急な改善を求められている。

続発する学校での被害

 05年10月には、静岡県の県立盲・ろう・養護学校の男性教諭(46)が知的障害を持つ高等部の女子生徒にわいせつ行為をしたとして、懲戒免職処分となっています。男性教諭は前年から複数回にわたってわいせつ行為を繰り返していたといいます。
 横浜市では、市立中学校で個別支援学級の教諭だった当時、知的障害のある女子生徒の体を触った疑いで元男性教師(61)が逮捕されました。県青少年保護育成条例違反の罪に問われた教師の判決公判が04年10月にあり、「障害に乗じ大胆かつ悪質」として懲役1年(求刑・懲役1年6月)の実刑判決を言い渡されました。判決などによると、この教師は03年1月、校内の個別支援学級学習室で、同1年の女子生徒に、胸や尻を触るなどわいせつな行為をしました。教師は公判で罪を否認しましたが、裁判官は被害にあった女子生徒の証言と、同僚教師の目撃証言が一致したことを重視。「常習性も肯定せざるを得ず、個別支援学級の教師に対する信頼を損ねた」と指摘しました。
 98年には島根県で授業中に知的障害のある女子生徒(13)の胸などを触ったとして強制わいせつ罪に問われた男性教師(28)に有罪判決が出ています。この教師は保健体育の授業中、女子生徒と2人、準備室で隠れんぼをしたところ、生徒が段ボール箱に隠れた際に胸を触るなどわいせつな行為をしました。裁判官は「講師を信頼して授業を受けていた女子生徒の精神的打撃は大きく、保護者の憤りはもっともである」と述べ、懲役1年6月(執行猶予3年)の有罪判決を言い渡しました。
 この事件では、教育委員会や学校が事件のもみ消しを図ろうとしていたことも裁判の中で明らかになりました。検察側の冒頭陳述によると、学校側が生徒の家族に「じゃれているうちに胸に触れた程度」と、事実とはかけ離れた説明をしていたことを明らかにし、市の教育長が警察を訪れ、事件化しないよう署長に暗に要求したとの検察の取り調べ調書も証拠として採用されました。
 また、同年には知的障害のある教え子の中学生にわいせつな行為をしたとして、神奈川県警が同県内の男性教諭(48)を県青少年保護育成条例違反(わいせつ行為)の疑いで逮捕しました。この教師は放課後、勤務先の中学校のトイレ内で、自分が担当する養護学級3年生の女子生徒(当時14歳)の体を触るなどしました。この教師は女子生徒のクラブ活動の顧問でもあり、教師との関係が女子生徒の手帳に書かれているのに気付いた母親が学校に相談し、事件が発覚しました。
 岐阜県の県立盲学校の男性教諭(28)も視覚障害のある女子生徒に対して半年以上にわたって体に触るなどのわいせつ行為をしていたとして逮捕されました。そのわずか1か月前には同県内の中学校で特殊学級の担任をしていた男性教諭(41)が、知的障害を持つ女子生徒に対するわいせつ行為の容疑で逮捕されました。女子生徒の父親は、被害を世間に知られるのを覚悟したうえで告訴したのを受けての逮捕でした。ところが、検察庁は、女子生徒の証言で被害を立証するのは難しく、公判維持は困難と判断し、起訴しませんでした。父親は「学校側からの接触はない。謝罪もない。だれも信じられない」と語ったそうです。

千葉市の教師は…

 普通学級でも教師によるわいせつ行為は多数起きています。同じ教師が異動先の学校でもわいせつ行為をしているケースもあります。教育委員会の再発防止に向けた取り組みはいったいどうなっているのでしょうか。
 千葉市で児童にわいせつ行為をして退職した男性教師が、宮崎県で再び教師になり授業中に小学生たちにわいせつ行為をしたために逮捕されました。以下は05年に掲載され新聞記事の一部です。

 小学3年生の理科の授業。教科書を開いていた女児の机の前で、先生がしゃがんだ。下から伸びた手がスカートの中に入ってきた。声が出ない。
 先生が急に怖くなった。一昨年の2学期。その後半年近く、授業中に触られた。気づいた級友に女児は「黙ってて。お母さんが悲しむから」と頼んだ。級友は自分の親に相談し、校長に伝わった。宮崎県警延岡署は常勤講師の男(55)を強制わいせつ容疑で逮捕した。
 04年5月、初公判で男の「過去」が明らかになった。県教委が採用した87年以降、勤務した延べ8校で同じ行為を繰り返し、被害女児は20人に上っていた。しかも前任地の千葉市でも児童に触り、依願退職していた。
 なぜ男は教壇に立ち続けられたのか。
 千葉市から郷里の宮崎県に戻り、すぐに延岡市教委に履歴書を提出した。「親の介護のため、やむを得ず帰ってきた」という説明を聞き、市教委は「それ以上、せんさくしなかった」という。年齢制限で教員採用試験は受けられず、講師として採用された。同僚は「ホンチャン(教諭)だっただけあって、非常に腕がいい」と一目置いていた。
 担任でないと児童と2人きりになるのは難しい。授業中、「(触りやすい)最前列に座る我慢強そうな子」を狙った。教室内での犯罪は、16年前から重ねられてきた。
 市教委は法廷で初めて「余罪」を知り、男が以前勤務した学校の校長らに問い合わせた。だが、「どこも被害を把握していなかった」という。

どうなっている教育委員会

 全国の公立小中高校などで、わいせつ・セクハラ行為で教員免許を失効した教員が、教育職員免許法の改正(03年1月)から2年余りで、250人を超えたということが、昨年、毎日新聞に掲載されました。同新聞社が都道府県・政令市教委へのアンケートを実施して判明したというものです。同法は03年1月に改正され、懲戒免職者は自動的に免許が失効するようになりました。また文部科学省は児童・生徒へのわいせつ行為をした教職員は原則、懲戒免職とするよう通知していますが、3分の1の教委は「ケース・バイ・ケースで判断すべきだ」としており、守られていない実態がわかりました。以下は新聞記事の抜粋です。
 調査は47都道府県と13政令市(05年4月に政令市となった静岡市は都道府県分に含めた)が対象。わいせつ事案の免許失効者は「把握していない」という大阪市を除く59教委で計255人に上った。文科省は01年7月に神戸市で起きた中学教諭による女子中学生監禁致死事件を受け、児童・生徒へのわいせつ行為をした教職員は原則として懲戒免職とするよう通知しているが、05年4月現在、原則を明文化したのは22道県市、実質的に原則としているのが14府県市。23都府県市は原則化しておらず、宮崎県は「原則かどうかも公表できない」と答えた。
 04年度に、わいせつ行為で懲戒処分(免職、停職など)とされた教職員数は「非公表」とした宮崎県と横浜市を除く58教委で134人。前年度の155人(文科省統計)より少ない。警察に逮捕・送検されたのは「非公表」とした栃木県、大阪市を除く58教委で、02年度49人▽03年度54人▽04年度55人――と微増している。教職員から性的被害に遭った子供は、02年度からの3年間で59教委が把握しているだけで、自分が勤務する学校の児童・生徒が370人、自校以外の18歳未満は92人だった。
 05年に公表された文科省の調査によれば、処分を受けた教師166人にわいせつ行為をされたのは、「自校の生徒・児童」が計50・6%。被害者が自校生である場合は高校生が最も多く、65・4%を占めました。発覚の要因は「教職員への相談」を除けば、警察からの連絡で初めて知るケースが28・3%、第三者から学校・教委への通報が13・9%で、行政のセクハラ相談やスクールカウンセラーが窓口としてあまり機能していない様子がうかがえます。

(文責・野沢)

<呼びかけ人> 田上昌宏(千葉県手をつなぐ育成会会長)/竜円香子(同権利擁護委員長)/大屋滋(日本自閉症協会千葉県支部長)/土橋正彦(市川市医師会長)/植野慶也(千葉県聴覚障害者連盟会長)/野内恭雄(千葉県精神障害者家族連合会会長)/成瀬正次(障害者差別をなくすための研究会委員・全国脊髄損傷者連合会副理事長)/佐藤彰一(同・法政大大学院教授)/高梨憲司(同・視覚障害者総合支援センターちばセンター長)/野沢和弘(同・全日本手をつなぐ育成会理事)
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