千葉・ちいき発


文責:野沢和弘(「障害者差別をなくすための研究会」座長)

なぜ条例が必要なのですか?

 県民全体からみれば障害者は少数であり、障害の特性や育ってきた環境のために自らの意思表明が苦手な人がたくさんいます。生活の様々な場面で「暮らしにくさ」「生きづらさ」を抱えているのに、なかなか声を上げることができないのです。
この条例は、障害者に対する理解を広げ、差別をなくすことにより、障害のある人もない人もともに暮らしやすい社会を作ることを目的としています。差別とはどういうものか、どうすれば差別を解消できるのかを明示することにより、障害者だけでなく、多くの県民にとってもやさしい社会をつくることに役立てるはずです。

この条例が成立すると、どういういいことがあるのですか。

 まず、「差別とは何か」が明らかになることで、これまで気付かずに差別をしてきた人の行動が変わることが期待されます。それを見ている周囲の人の気持や行動も変わることが期待できます。
 また、実際に差別があった場合に、第三者が間に入って丁寧に話し合いをし、関係者が知恵を絞ることで、個別事例に即したきめ細かな解決が期待されます。
 さらに、個々の差別事例の分析を通して、制度改革や県民の意識改革のための施策につなげられる仕組みも盛り込まれています。
このほか、障害者に対する理解を広げるために頑張っている人を応援する仕組みなどを通じて、障害者に対する理解が広がり、差別がなくなっていくことが期待されます。

罰則もないのに、効果が上がるのですか。

 差別の多くは悪気がなく、それと気付かずに行われているので、「差別とは何か」が明らかになり、具体的な解決に向けて関係者が知恵を絞る仕組みができるだけで、かなりの効果が期待されます。
 また、極めて悪質なケースについては、「勧告」「公表」による対応も可能です。
 むしろ、「何が差別か」について共通の理解がない中で罰則を設けた場合、罰を恐れて障害者との接触を避けたり、反感を強めたりする「副作用」の恐れがあります。
 なお、虐待など悪質な差別行為については、この条例を使って、これまで陰に隠れていた犯罪行為を明るみに出し、刑事罰につなげていくことが期待できます。

この条例は「障害者に特権を与えるもの」との批判を聞きましたが、本当ですか。

 この条例は、障害者に経済的特典や法的な権限を直接、与えるものではありません。もとより、条例は法律の範囲内でしか制定することができないことになっています。少数派である障害者の「生きづらさ」「暮らしにくさ」が理解されにくい現状を踏まえて、この条例は提案されています。つまり、「すべての人が暮らしやすい社会を作る」という考え方に立ち、障害者が理不尽に不利な扱いを受けている状況を解消しようとするものです。決して障害者に特権を与えるものではありません。

「悪気もないのに、差別をしたと言われ、勧告・公表されるのはおかしい」とも言われますが。

 勧告・公表は極めて悪質なケースのための「伝家の宝刀」という位置づけです。この条例は「敵を懲らしめる」のではなく「味方・理解者を増やす」という考え方に立っており、差別があった場合には、第三者が間に入ってよく話し合いをし、関係者が知恵を絞って、自主的な解決を図ることを基本としています。
 何が差別かどうかは、はっきり白黒つけられるものではありません。それぞれの人間関係やものの見方によって、差別のように思えたり、そうでなかったりするものです。この条例は柔軟で慎重な運用をすることの方が、実際の効果が上がることを踏まえ、運用面でさまざまな工夫が盛り込まれています。

批判されている鳥取県の人権条例とはどう違うのですか。

 鳥取県の人権条例とこの条例は、「差別行為を対象とする条例」という共通点があります。
 しかしながら、鳥取県の条例では、
@ 「差別」の定義がなく、曖昧すぎる
A 「誹謗・中傷する行為」も対象としており、「表現の自由」を侵す恐れがある
B 調査拒否について過料(5万円)が科せられる
といった点が批判されているのに対し、
 千葉県の条例では、それぞれ
@ 「なくすべき差別」が8分野16種類にわたり例示されている
A 「表現の自由」に関わる行為を対象としていない
B 差別行為に対する罰則・過料が全くない
といずれも異なっています。
 このため、鳥取県の条例を批判している日本弁護士連合会や鳥取県弁護士会に属する弁護士たちも、「千葉県の条例は問題ない」と言っています。

一生懸命障害者と接している学校の先生の足を引っ張るのではないですか。

 この条例では、「なくすべき差別」を県民の目に明らかにした上で、罰則を設けず、関係者が知恵を絞って「できることから確実に」解消に向けた取組みを行う仕組みです。
 むしろ、学校現場にとっても、第三者が仲裁的な立場で関与することにより、保護者との意思疎通が容易になったり、地域の他のサービスと連携の輪が広がったりして、負担が軽くなるという効果も考えられます。

「重要な条例なのに拙速すぎる」という声もありますが。

 この条例については、16年7月に発表された障害者計画に盛り込まれて以来、1年半の時間をかけて、事例募集、20回にわたる官民協働の研究会、県内30か所以上で開催されたタウンミーティング、関係団体のヒアリングなどを積み重ねてきました。県の他の様々な施策と比べても、特に時間をかけて議論してきたものです。
 なお、条例ができた後も、障害者に対する差別の状況や人々の意識、社会のあり方などの変化に応じて、必要な見直しを行う旨の規定も置かれています。

「理不尽な思いをしているのは障害者だけではないのに、なぜ障害者だけが対象なのか」と言われました。

 障害者は、少数派故にその「暮らしづらさ」が理解されにくく、差別を受けやすい傾向があり、諸外国でも「障害者のみを対象とする差別禁止法」が作られています。
 なお、研究会の最終報告においては、最も理不尽な思いをしてきた障害者の差別を取り上げることで、地域社会には他にも様々な差別があることに気付き、誰もが差別を「自分の問題」と考え、「あらゆる差別のない地域社会」の実現を目指す、という考え方が示されています。

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