病院と患者のことばでキャッチボールできる関係に 「大阪発―入院中の精神障害者の権利擁護の取り組み」 山本深雪さん(NPO大阪精神医療人権センター副代表)  国の検討会(長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会)で「病棟転換型居住系施設」が認められていくような状況の中で、私自身は、これまでどれだけの声を上げることができてきたのだろうと振り返っています。やはり、高齢の精神障害者は何があっても相手にしないのが世間か?と。。でも、声をあげ続けてきたからこその今があると思いたいです。 大阪の取り組みから「社会的入院は人権侵害」  大阪では大阪府精神保健福祉審議会から知事に宛てた答申に「社会的入院は人権侵害」と書き込まれました。  その事を受けて退院促進事業(その後の地域移行・定着支援事業)ができました。 そして2000年に知事に提出した意見具申をもとに、精神科病院への訪問活動が制度化されました。約5年かけて大阪府下の全精神科病院に訪問します。その活動報告に基づいて当事者も病院も委員として参加している協議会(当事者、家族、専門職、病院などの団体や行政)でディスカッションを行い、その結果を医療機関に返すというやりとりを繰り返すことで、療養環境の向上を目指しています。現在は予算が限りなくついていない中ではありますが、この制度による訪問を続けることができています。 大阪での取り組み 1997年 大阪府精神保健福祉審議会の委員に入りました。 ■1997年 「生活人権部会」を設置   →1999年 答申「社会的入院は人権侵害」   →地域移行・地域定着支援事業へ ■1999年 「医療人権部会」を立ち上げる   →2000年 意見具申を府知事に提出   「大阪府精神障害者権利擁護連絡協議会」を   設置(「権利宣言」をもとに病棟訪問活動)   →2003年〜 精神医療オンブズマン制度が   連絡協議会の保障の下、スタート   →2009年〜 療養環境サポーター制度   (4〜6名で入院体験者と支援者で病棟に滞在して入院中の患者さんの声をききます) ■「退院したい」と言えないわけ  入院中、そこに何か違和感があったとしても患者さんはなかなかそれを口にできません。  職員との間に力関係がある中で、そのようなことを口にしている限りは退院させてもらえないことが分かっているからです。1ヶ月も入院していればそこを脱出する道として、意見を言わない、ノーと言わない、なすがままでいることがだいたい身につきます。患者さんからは「薬が増えるから言えない」との声もききます。逆らっている患者さんが職員に引きずられて隔離室に連れて行かれ、縛られている姿も目にしてきているわけです。そこに入った方がその後、いつその扉から出てくるのかというのも、どんな姿で出てこられるのかということも目にしてきているわけです。  そうするとスタッフとの関係においては、「自分の意見を言うこと」=「退院できない」  ということを学習していき、そして段々それが苦痛ではなくなっていきます。始め1ヶ月間ぐらいは苦痛です。でも時が過ぎると苦痛だと思っている自分が苦痛になりますので、苦痛だと思わないように、考えないようにする。そしてそういうことを繰り返していると、「ここでいい、ここが安心だ」と口にするようになっていく。病棟はそういうとても複雑な力関係に満ちた場なのだということは、入院された方はたぶん十分承知だと思います。 ■思いを口にできるようになるには時間がかかる  「病棟転換型居住系施設」を検討してきた国の会議では入院患者さんに対して「退院意欲を喚起しよう」というテーマで議論をしていました。非常に不思議な、おかしな光景だと思いました。医療従事者の方々はまず今までやってきた事をごめんねと謝った上で、患者さんに対して「あなた方がしたい人生、歩みたい人生を 送っていただいても良いんですよ」というスタンスに立たないと、入院している方の自分の意欲、希望というものが口にできるわけがない。そういう関係になってきたじゃないかと思うのです。  本当に必要なのは病院、病院の職員もそうですし、地域社会に対して「退院支援していこう」という意欲を呼び起こすことです。病院からは退院することが当たり前です。ここは病棟でずっといる所ではない、治療の場だから退院だね、そういうかかわりをつくることが 必要です。退院できないと思い込んできた時間が10年あれば、やはりそれに匹敵する長い時間がかかることだと思って取り組まなくてはならない。その方の思いを口にしていけるような力添えが必要なのです。 ■今、問われていること  そういうことに関わる人手にこれまでお金がついてきませんでした。精神障害者の地域福祉というと、常に行政が語るのは、半分はボランティアというような言い方です。退院してきた患者が取り組むことも全てボランティアでやってくれと言われました。何をしても、つくのはお弁当代ぐらいという世界で来ましたし、これから先もそうなのだと彼らから言われてきました。そんな事をしてきたから、スタッフが退職して、転職してしまわざるをえない、残念ながらそういう貧相な精神障害者福祉の世界であったと感じています。  そして今、そこが問われているのだと思います。そこを変えることなしに、病棟を変えて住む場にすることを認めてしまったら、そこは十分使われるでしょう。一時的ではなく、そのままずっと住む場所として使われるのは、火を見るよりも明らかです。入る方がいなくなればきっと認知症の方を受け入れるのでしょう。一旦作った建物は使いまわすということ、私たちはこれまでずっと見てきました。何らかのニーズがあると常に言われてきました。 ■病院内に退院するのは嫌なもの  今やはり私たちは、「病院内に退院するのは嫌」と言わなくてはいけません。入院している患者さんだけにそれをゆだねることは、とても無理があります。言える環境にある私たちが、まず声を出していくことから始めていきたいと思います。多くの方々とこうやってこういう場で一緒に取り組みをすることの中でしか、そういう流れというのは、作られていかないだろうなと感じています。みんなで知恵を寄せ集めて声を出していきたいと思います。一緒に取り組んでいきましょう。  精神科医療機関療養環境サポーターという、大阪府下のとりくみを地域に(認知症高齢者もふくめて)拡げていくとりくみができたら大事なことを『あきらめ』ずにすむと感じている60路の私です。 ■精神科関連で発覚した主な問題事件(この年表は原昌平氏作成の年表を当センターが抽出したものです)  発覚年 月 所在地  医療機関     主な内容   2010.9   岡山  倉敷森下病院 カルテに入院理由の記載なし、任意入院患者に外出許可願などで改善命令。11年2月に入院制限命令。6800万円の診療報酬不正受給で返還要請 2011.8  石川 桜ケ丘病院 事務職員が患者37人の口座などから約1億8千万円を着服。10月逮捕 2011.12 熊本 宇城市の精神科病院 看護師が入院女性に強制わいせつ容疑、書類送検   2012.1 栃木 県立岡本台病院 看護師が患者4人に頼まれた買い物のお釣り39万円を着服。停職処分   2012.3  新潟  県立精神医療センター 男性患者が胸を骨折。第三者委の調査で看護師8人が暴力をふるった可能性。県が告発。容疑者不詳で書類送検   2012.5   長崎 長崎県 措置入院の病状報告遅れ。07〜11年度に県精神医療セなど6病院20件   2012.5   茨城 ホスピタル坂東 看護師数ごまかしなどで不正請求、保険指定取り消し   2012.7  千葉 成田病院 入院患者38人の預け金計約270万円を男性看護師が着服、懲戒解雇 2012.10 大阪 さわ病院 認知症の男性患者が布団にくるまれ窒息死。看護師を解雇、逮捕。逮捕監禁致死容疑で起訴 2013.5  群馬 西毛病院 入院患者が殴られ死亡。看護助手の男を傷害致死容疑で逮捕・起訴。初公判で事実認める 2013.6  佐賀 虹と海のホスピタル 男性准看護師が入院患者の預金を33万円着服 2013.9 神奈川 国立病院機構神奈川病院 精神科病院から虫垂炎症状で搬送された統合失調症の女性患者の入院加療を拒否 2013.10 宮城 光ヶ丘保養園 看護師7人を業務上過失致死容疑で書類送検。男性患者(86)に水分補給などをする際、手足を押さえつけて腰椎を脱臼骨折させ、出血性ショックで死亡させた疑い 2014.3 東京 都立松沢病院 50歳代の男性看護師が、入院患者4人以上の顔をたたくなど暴力。「死ね」など暴言も。都が発表   大阪府こころの健康総合センターホームページ「こころのオアシス」 http://kokoro-osaka.jp/ →大阪府精神科医療機関療養環境検討協議会 より 法レベルの人権侵害 侵害のレベル   分類 解決を求める方向 解決方法 人権侵害あり 緊急1 緊急項目A  あらゆる法的手段を用いる 緊急2 緊急項目B 行政 精神保健疾病対策課 実地審査・病院指導等を求める 緊急3 緊急項目C 行政 精神保健疾病対策課 病院指導を求める 法にはふれないが人権侵害あり 人権上の問題あり 問題項目A 行政・病院双方に 精神保健疾病対策課 病院指導を求める 行政・病院双方に 病院理事者 改善を求める 問題項目B 病院 病院理事者 院内権利擁護委員会 改善および検討を求める 問題項目C 病院 院内権利擁護委員会 検討を求める 人権侵害の疑義 人権侵害にあたるか否か不明確時間をかけた検討必要 検討事項A 協議会で検討 検討結果により問題項目Cに移行させることもあり 検討事項B 協議会で検討 問題点の整理が必要 検討事項C 協議会で検討 事実確認等、病院(院内権利擁護委員会も含む)との意見交換含む 病院とのやり取り 検討項目 病院側の対応 ベッド周りのカーテン 設置することを検討します。/○年度中に設置します。 トイレ、個室の鍵 (高い位置にある鍵を)多くの患者が使いやすい位置に早急に変更します。 トイレットペーパー 設置しました。/今後、病院の経費として購入を検討します。 ポータブルトイレ 使用後速やかに処理を行うようにします。/運ぶ際には蓋をするようにスタッフの教育を行います。/排泄物は患者にとっても他の人に感づかれることは恥ずかしいものであり、看護者としては細やかな気配りをしなければならないと思っています。改善いたします。 隔離室 改善対策として格子側の通路にまわる時は必ずトイレ使用中でないことを出入口の窓から確認することを職員へ徹底させる。格子側の通路についたてを置き患者が外部から見られることに対する不安を少しでも解消する。 鉄格子 撤去することを検討します。/撤去いたしました。 薬の説明 薬の説明や病名説明等、入院時には必ず行っていますが、長期に入院されている患者の場合には以前に説明を行った経過もあり、再度患者に確認を行い、説明及び情報提供を行います。 薬の渡し方 病室で薬を渡すことを原則とし、デイルームで配薬する場合は座って待って頂くこととしました。今後改善していきます。 声のかけやすい詰所に 施錠を原則としています。ただ、患者との信頼関係をよりよりものにし、開放感のある療養環境の中で治療を進めていくという観点から考えると、現状は改善を検討すべきことと思われます。今後は「詰所内に職員がいる時は詰所の扉は施錠しないこと、小窓は大きく開けておく」ということを原則とし、病棟職員に徹底していく予定です。 意見箱 設置場所の変更を検討しています。家族の方も記入しやすくなるよう各病棟だけでなく、病院玄関部にも設置し、広く意見を頂戴するよう努めます。/今回は回答の作成が滞っていたので気をつけます。/畳を一部撤去し、掲示物の前まで車イスでいけるように改善しました。/精神科病棟の患者は病棟から出る機会が少ないため、病棟内で対応し掲示することを検討します。 利用者の立場にたった病院ごとの情報を発信