住まいと暮らしと誇りを支え、人と人をつなぐ福祉用具 岩元文雄さん(全国福祉用具専門相談員協会理事長)   厚生労働省が推し進める「2025年の地域包括ケアシステムの姿」の中央にあるのは住まいであり、目指すべき姿にも「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で」と示されています。この住まい(住宅)をその人の個別のニーズに合ったものにする役割、いわゆる土台づくりのサービスが福祉用具・住環境整備と考えます。  地域包括ケアシステムの構成要素の図においても、頑丈な鉢の中で栄養素たっぷりの土に青々とした葉っぱが育っています。 この頑丈な鉢には適切なアセスメントに基づく福祉用具・住環境整備プランが必須です。何故なら、生活の基盤となる住まいの形態は様々であり、必ずしも身体能力が低下し、或いは失われても、生活を継続できる、暮らしやすい住居が確保されているとは限らないからです。そして、栄養素たっぷりの土には、24時間疲れも知らず、休むことなく生活を支えることができる福祉用具の存在は欠かせません。  加えて、この福祉用具や住環境整備を専門とする福祉用具専門相談員の介在が地域包括ケアシステムには必要と考えていますし、求められる存在でなければならないと思っています。ただし、福祉用具専門相談員が真に地域包括ケアシステムの構成要素となり得るには、さらなる専門性の向上が必要であるとも思っています。  地域包括ケアにおいて福祉用具専門相談員が必要な存在として地域包括ケアを支える一員に加えていただくために、取り組むべき課題を3つピックアップしました。 課題1 「暮らし」の専門性向上  介護保険制度のなかに位置づけられる福祉用具専門相談員は、平成24年度に義務化された福祉用具サービス計画書の導入を通じて、福祉用具の知識・技術に関する領域に加えて、福祉用具の選定と利用支援に関する領域において、着実に専門性を高めています。しかし、地域包括ケアシステムにおいては、介護保険制度の枠内では完結しない課題も捉える視点が必要となります。それは「暮らし」に対する視点です。介護保険制度では基本的に支援対象が被保険者本人となるのに対して、地域包括ケアシステムでは、本人に限らず、家族や家族との暮らしそのものも支援対象となるからです。 高齢者の暮らしは様々ですが、そこに家族が入ると更に多種多様な形が存在します。平穏な暮らしもあれば、そうではない暮らし(孤立・生活困窮・徘徊・障がい・消費者被害・虐待・災害など)もあります。これら多様な暮らしに生きる高齢者を支える知識や技術が、地域包括ケアシステムにおいては求められていると思います。高い職業倫理と人権擁護、虐待対策、生活保護等の各種社会制度の知識、更には関連する団体や他の専門職につなげるネットワークの構築といったいわゆるソーシャルワークの知識・技術なども必要です。  私が理事長を務める一般社団法人 全国福祉用具専門相談員協会(以下・ふくせん)では、福祉用具専門相談員の専門性の向上を目的に、厚生労働省・平成24年度老人保健健康増進等事業の助成を受け、「福祉用具専門相談員の研修ポイント制度」を開発し、運用を開始しました。この制度は、福祉用具専門相談員の研修受講の履歴をポイントに換算して公表することで、受講者本人にはスキルアップの指標となるものです。福祉用具専門相談員に求められる知識・技術として整理された5つの領域(@職業倫理と社会制度、A利用者の生活・介護・医療、Bコミュニケーション、C福祉用具の選定と利用支援、D個別福祉用具の知識・技術)ごとに自分の取得ポイントを確認でき、強みや苦手分野を把握しスキルアップを目指すことができます。この制度を拡充させていくことで福祉用具専門相談員の自己研鑽を支援し、地域包括ケアシステムにおける「暮らし」の専門性向上につなげていけるのではと期待しています。 課題2 介護ロボット開発支援  ふくせんでは、厚生労働省・平成26年度老人保健健康増進等事業の助成を受けて、在宅における介護ロボット普及の課題と福祉用具専門相談員の役割を検討しています。介護ロボットは、政府の成長戦略の目玉でもあり、将来の保険給付化も期待される分野でもあります。保険給付化になった場合、生活の中に介護ロボットを導入することになるわけで、その際の支援業務を福祉用具専門相談員が担うことになるとすれば、その役割は重大です。個別の状態像や解決したい課題・動作などを踏まえたうえで、これまでと違う提案をすることが求められることになり、新しい援助技術の習得も課題となります。更には、普及活動の一環として、暮らしに適したロボット開発に向けて、メーカー等への情報提供も大事な役割となります。地域の暮らしと開発をつなぐ大事な役割が求められると言ってもいいでしょう。 課題3 組織力  地域包括ケアシステムの姿(前述)では、「住まい」を取り囲む円(医療・介護・生活支援・介護予防)が示されています。円になるためには、それぞれの分野が手をつなぐ取り組みが必要不可欠であり、その鍵は各団体と連携できる組織力であると考えます。  東日本大震災では避難所や仮設住宅で生活を余儀なくされた高齢者等に適切な福祉用具を届けるのに時間を要したことがADL低下の一因となりました。福祉用具事業者で構成され全都道府県にネットワークを持つ一般社団法人日本福祉用具供給協会では、このような経験とそれらから導き出される教訓を踏まえて、全国組織であることの利を活かした「大災害時の対応マニュアル」を策定しました。そして、防災訓練等を通じて平常時から自治体や他団体と連携を取る事を目的に災害時における福祉用具の提供強力に関する協定の締結を推し進めております。今後、いつ発生するか分からない首都直下型地震や東海・東南海・南海連動地震等への備えに万全を期するとともに、自治体等からの要請にもとづき会員各社の協力によって福祉用具を必要とする方々に迅速に供給することを使命とし、社会的責任を果たすことに繋がると考えています。これは取り組みの一つとしてご紹介いたしましたが、地域包括ケアにおいて福祉用具専門相談員が真に必要な存在となりうるためには、職能団体として、また、業界団体として、組織力を更に高めて、中央においても、地方においても、関係する各団体との間に緊密な協力体制と、顔の見える関係を構築していかなければならないと考えています。 まとめ  繰り返しになりますが、ケアが必要になっても地域で暮らし続けるために、先ずは暮らすための環境整備が必要であり、その一つが福祉用具と住宅改修です。  我々は、福祉用具が、地域包括ケアシステムの 構築に際し、欠かせない構成要素として認識していただくこと、そして、そこが質の高い福祉用具専門相談員が活躍する場であることを願い、活動を続けてまいります。