自立生活の部屋

福祉用具 貸し出し制限は自立に逆行
光野有次さん(車いす姿勢保持協会・会長)

 介護保険制度は、介護サービスを本人が選択する仕組みで、要介護度に応じて補助対象となる限度額が決まる。
 ホームヘルパーや施設の利用とともに、電動ベッドや車いす、歩行器などの福祉用具のレンタルも選択でき、レンタル料の1割を負担すれば必要な期間借りられる。福祉用具は特別なものではなくなり、バリアフリーの考えが広まったこともあって、街角では、車いすの高齢者とよく出会うようになった。

 ところが、今年4月の制度改定で、軽度者(要支援1と2、要介護1)へのレンタルが制限されるようになった。改定前から借りている人も、猶予期間が切れる10月から原則利用できなくなる。
 厚生労働省のガイドラインによると、電動ベッドでは、これまでは「寝返り、起き上がり、立ち上がり」のいずれかができない場合はレンタルの対象だったが、今回、立ち上がりができない人は除外され、「寝返り、起き上がりができない人」に限定された。

 「要介護状態の軽減や予防」の考えが制度に加わり、「福祉用具に頼ることが身体機能を低下させる原因になる」「必要性の低い用具まで借りている人がいる」といった指摘があることが制限につながった。

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 軽度者というが、半数以上は寝床からの起き上がりに手すりや介助が必要とされる。日本医師会総合政策研究機構がある自治体を対象にした調査では、軽度者の85%は自力で立ち上がることができないという。

 様々な立場から介護にかかわる私たち福祉関係者は、今年3月から3回、都内で「福祉用具国民会議」を開催し、福祉用具を利用している約100人の軽度者にアンケートを実施した。多くは、用具を上手に使って自立的な生活を継続している実態がわかった。

 布団から立ち上がることが難しく、トイレに行くのに困っていた人たちも、寝床の高さ調節や手すりが付いた電動ベッドのおかげで、介助者の手を煩わすことなく、生活が自立できている。立ち上がりの支援を目的に利用している人が大半で、こうした人たちは今回の改定で借りられなくなるため、「寝たきりになってしまう」「家族の負担が増える」と心配している。

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 介護保険の総支出の中で、福祉用具・住宅改修にかかる費用は4%である。厚労省は利用を制限することで総支出を減らしたいのだろうが、福祉用具がなければ介助の人手は確実にかかる。要介護度が重くなることも懸念され、総支出は逆に増加してしまうのではないか。

 福祉用具を正しく利用することにより、要介護度を重くしない事例は多い。用具の選び方の相談に応じ、効果的な利用法を指導できる専門職も増えている。  厚労省は利用実態の調査を行い、貸し出し制限で生じる不利益を把握すべきだ。適切な利用を進めることこそが、介護保険の理念である自立的な生活を支援する重要な方法である。

 49年生まれ。工業デザイナー。

(2006.6.30 朝日新聞 「私の視点」より)

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