「物語・介護保険」書評
浅川澄一さん(日本経済新聞編集委員)
介護保険の成立過程を丹念に調べ上げ、克明に描き、類書の追随を許さない画期的な著作である。著者は元朝日新聞論説委員。官民の人名がこれほど次から次へと出てくるドキュメントも珍しい。
といっても単なる裏話ではない。
厚生省の介護保険の取り組みを80年代から説き起こしているのが本筋だ。89年の介護対策検討会に光を当て、「介護の社会化の『受精』段階」と位置付ける。以降、諸々の審議会委員や省内の担当者の発言や人柄に話が及ぶ。
「鳥の目、虫の目、歴史の目」という著者の取材スタンスが十分に発揮され、全方向から介護の在り方を問う。介護保険の原点を浮き彫りにし、それでいながら平易な書き方で、書名通りの「物語」として楽しめる。 |