医師「想像以上に悲惨」 福島の避難患者衰弱死
2011.3.23 共同通信

福島第1原発の20キロ圏内にあるとして避難指示を受けた双葉病院(福島県大熊町)の入院患者ら21人が救出後に衰弱死した問題で、人体への放射線の影響を調べるスクリーニングと治療の優先順位を決めるトリアージに携わった医師が「想像以上に悲惨だった」と当時の状況を語った。

福井の災害派遣医療チーム(DMAT)を率いた福井県立病院の林寛之(はやし・ひろゆき)さん(49)。双葉病院から支援要請を受けた自衛隊が14日から3回にわたり計146人を救出し、林さんは最後のグループ35人の治療に当たった。
林さんによると、16日昼ごろ「大熊町の病院で自衛隊員が患者を発見。スクリーニングを受けておらず避難所に入れない」と連絡を受け、患者の搬送先になっていた二本松城(福島県二本松市)の駐車場に駆け付けた。

白い防護服に身を包んでバスに乗り込むと、思わず息をのんだ。マットレスと掛け布団にくるまれた高齢の男女が座席にあふれ、衰弱しきっているのかほとんど動かない。排せつ物で汚れた布団。通路にも何人かが横たわり、女性が「足が、足が」と、か細い声でうめいていた。
患者の被ばく線量を計測しようと、座席の肘掛けの上を伝い歩きして奥へ移動。男女1人ずつが亡くなっているのが一目で分かり、調査よりも治療を急いだ。

「先生、座席3番の人は意識不明です」「座席15番は死後硬直が始まってます」。看護師の切迫した声が車内に響く。脈を測りながら呼び掛けたが、応えたの は4人に1人。ほとんどは脱水症状を起こして意識がない。カルテがないため氏名や既往症も分からず、20人弱の心拍はみるみるうちに弱っていった。
消防に交渉し救急車を2台呼んだ。脈がかすかにある男性2人を近くの病院に運んだが、1人は途中で呼吸が止まり間もなく死亡。別の病院には、心拍の弱った女性2人と男性1人を搬送した。

「しっかりせーの」。看護師が福井弁で元気づけた。水を飲ませていいのか戸惑う県職員に「飲める人には飲ませて」と叫んだ。点滴を打とうと腕に駆血帯を巻いたが、脱水症状で肌が乾き、血管は浮き出てこない。
残りの搬送順は、意識レベルと呼吸で決めた。病院での高度医療が期待できないため、点滴や抗生物質だけで助かりそうな人を優先した。
受け入れ可能な病院はすぐになくなり、避難所に救護所が設置された。「すぐ心臓が止まりそうな患者もいる。助かりそうな人から治療してくれ」と担当医に伝えた。
翌日、さらに数人が亡くなったと聞いた。「避難指示圏内の病院へのサポートは十分とはいえなかった」と林さん。福島県災害対策本部は助かった患者らの消息をいまだに把握しきれていない。