認知症の入院医療にはデメリットが多い

認知症の方の精神科病棟への入院にはデメリットが多くあります。
認知症の場合、精神症状・行動障害が激しい方の多くは、認知機能障害が軽度〜中等度です。
こういった方は、「精神科病院に入院させられた」ということは理解できることが多く、「精神科病棟に入院させられたこと」自体に反応して精神症状・行動障害が悪化する可能性があります。
これは、統合失調症や躁うつ病、うつ病などの内因性精神病の多くのケースで、ストレスの多い社会環境から離れて精神科病棟に入院すること自体に治療的意義があることとの大きな違いです。

精神科病棟は「生活の場」でないので、福祉施設とは異なり本人の残された能力を生かすような生活環境を作り出すことが難しく、入院生活を継続することでADL が低下し、認知機能障害が進行していくことになります。
また、認知症患者さんが精神科一般病棟や療養病棟に入院した場合、入院させられた認知症の方は、従来から入院している精神疾患の患者さんを怖がり、また、従来から入院されている精神疾患の患者さんは、入院してきた認知症の方が部屋がわからずに人の部屋に入ったり、人の持ち物をいじくったりすることに不満を募らせることになります。

現在の精神科の入院制度では、権利侵害に対する回復手段が不十分であると感じていますが、認知症の方はたとえ有効な権利回復手段があっても利用することができないという問題点があります。
また、認知症の方を精神科病棟に入院させると入院期間が長期化しやすい傾向があります。厚生労働省の新たな精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム第2R において認知症と精神科入院医療に関して議論が行われましたが、その中で精神病床における認知症入院患者さん454 人に関するアンケート調査が行われました。その中で認知症患者さんの平成22 年9 月15 日現在の平均在院期間が944.3日(中央値336 日)という結果が出ています。
日本の精神科医療が入院中心で長期在院患者さんが多いことが問題となっていますが、それでも平均在院期間は300 日程度です。認知症患者さんが精神科病棟に入院した場合の入院期間の長期化傾向は際立っていることがわかります。

こういったことから、認知症の方の精神科病棟への入院は出来る限り避けるべきであること、さらに精神科のない一般科病院や施設に精神科医療を外付けする形で高齢者の精神障害に対応したいと考えました。精神科外来を受診できない高齢者に訪問診療として精神科医療を提供することで、その人本来の生活の場での人生を支えたいと考えました。
認知症の方、特に精神症状や行動障害のある方は、医者嫌い・病院嫌いの方も多く、精神科医療に拒否的であることが多いものです。また、外来受診が可能であっても、混雑した待合室で待つことができなかったり、本人の目の前で困った症状を述べるわけにはいかず、複数での付き添い受診が必要であったり、外来受診の負担は相当なものです。
こうして、当院では患者さんが受診が困難なのであれば、こちらから出向いていこうということで認知症の方に対する往診サービスをはじめました。
(えにしのHP、http://www.yuki-enishi.com/ 「認知症ケアの部屋」から抜粋)