精神保健指定医 「性善説」では立ち行かぬ 東京新聞 2015年4月24日「社説」  聖マリアンナ医科大病院(川崎市)で発覚した精神保健指定医の資格取得の不正は、精神医療体制の根幹を揺るがす重大事件だ。医師の「性善説」に立った制度設計を抜本的に見直さねばならない。  厚生労働省は先週、同病院を舞台とする精神保健指定医の資格の不正取得があったとして、医師20人の資格を取り消した。  指定医には精神保健福祉法に基づき、精神障害者の自由を制約できる強い権限が与えられる。順法精神や倫理にもとる行為はいささかも許されない。医師の業務自体を停止するべきだ。  資格申請の主な要件は、精神科での三年以上をふくめ五年以上の実務経験を持ち、指導医の下で診断や治療をした8症例以上のリポートを厚労省に提出することだ。  11人は先輩が作成したリポートを書き換え、自らが担当したように装って申請していた。9人は指導医だったのに、その確認を怠って署名していた。同病院ではリポートの使い回しが常態化していたというから悪質極まりない。  約1万5000人にのぼる精神科医のほとんどが有資格者だ。同病院での不正行為は厚労省職員が気づいたが、氷山の一角ではないか。全国規模の徹底調査が急がれる。  精神障害によって自傷他害に及ぶおそれがあると判断した場合には、指定医は患者の意思にかかわらず入院を強制したり、退院を制限したりできる。院内での隔離や身体拘束といった行動制限の指示もでき、権限は強大だ。  指定医制度は患者を保護し、医療を受ける権利を守るために導入されたが、今や精神科医にとっては欠かせない資格という。権限や診療行為の幅が広がり、診療報酬も優遇されるからだ。それで一人前とみなされる風潮も根強い。  最大の問題は、資格審査の仕組みが医師への過剰な信頼を前提にして設計されている点だ。同病院は症例を一元管理してリポートの使い回しを防ぐというが、危機意識が希薄すぎないか。身内任せにしている限り、再発する可能性は否めない。  資格を取得できるかは、症例集めにかかっているのが実情だ。リポートの条件を満たすため、入院期間や入院形態を意図的に操作するといった衝撃的な話も聞かれる。患者が置き去りにされている。  利権の温床のようになっている以上、外部の目を入れて厳しくチェックする仕組みが必須だ。障害者権利条約の理念に照らし、人権擁護の視点を一段と強化したい。