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新たな高齢者介護システムの構築を目指して
高齢者介護・自立支援システム研究会-----1994.12



《新介護システムの基本的な考え方》

  1.  「高齢者の自立支援」を基本理念に既存制度を再編成し、新介護システムを創設。
  2.  新介護システムの主なポイントは、1.高齢者自身による選択、2.介護サービスの一元化、3.ケアマネジメントの確立、4.社会保険方式の導入の4点。
1.高齢者介護の基本理念
  •  長寿比に伴い、高齢者介護は「最期を看取る介護」から、高齢者の「生活を支える介護」へと変化。こうした状況を踏まえ、今後の高齢者介護は、「高齢者が自らの意思に基づき、自立した質の高い生活を送ることができるように支援すること(高齢者の自立支援)」を基本理念とすべき。
2.既存制度の再編成
  •  高齢者介護については、これまで福祉、医療などの制度が個別に対応してきたが、様々な問題点が生じている。このため、介護に関連する制度を再編成し、「新介護システム」を創設することが適当。

  • 《現行制度における問題点》
    1. 福祉(措置)〜利用者がサービスを選択出来ない。利用にあたって心理的な抵抗感。
    2. 医療〜介護の相当部分をカバーしているが、ケアのあり方や生活面の配慮で限界。
    3. 年金〜年金が介護への不安から貯蓄に回り、有効に活用されていないという指摘。
    4. 制度間の不整合〜同じ様な高齢者が、特養、老健施設、病院といった機能や利用者負担が異なる施設に入所。また、各サービスが縦割で、相互の連携が十分でない。
3.新介護システムの基本的な考え方

(1)予防とリハビリテーションの重視

  •  高齢者の自立支援のためには、まず予防を重視し、寝たきり防止に努めることが重要。また、介護が必要となった時に、適切なリハビリテーションを提供する体制整備が必要。

(2)主なポイント

  •  新介護システムの主なポイントは、1.高齢者自身による選択、2.介護サービスの一元化、3.ケアマネジメントの確立、4.社会保険方式の導入の4点。こうした考え方は、ドイツの公的介護保険創設などの欧米諸国の動向と同一方向。新介護システムの創設によって、我が国社会保障制度全体の機能強化と効率化が推進。
I.高齢者自身による選択

1.基本的な考え方
  •  高齢者が自らの意思に基づいて、利用するサービスを選択し、決定することが基本。このため、介護サービスの提供は、高齢者とサービス提供機関の間の契約方式によることを原則とすべき。
     ただし、介護放棄や虐待など高齢者の自己決定が馴染まないケースには、契約方式を補完するものとして、行政機関が緊急的に保護する仕組が必要。
2.介護サービスに求められること
  •  高齢者の選択の実効性を確保する観点から、次の点が求められる。
    (1)サービスの普遍性=所得の多寡や家族形態等に関わりなく、サービスを必要とする全ての高齢者が利用できること。
    (2)サービスの公平性=サービスを受ける場所(施設)や内容によって利用者負担等に不合理な格差がないこと。
    (3)サービスの妥当性=サービスの内容や質が社会的に妥当であり、かつ、それが適切に評価されること。
    (4)サービスの専門性=利用者側へ適切かつ分かりやすい情報が提供されるととも に、専門家が利用者を支援する体制が整備されていること
3.在宅ケアの推進

(1)在宅サービスの整備

  •  多くの高齢者は、できる限り住み慣れた家庭や地域で生活を送ることを願っており、高齢者が無理なく在宅ケアを選択できるようにすることが重要。ただし、家族介護に過度に依存し、家族が過重な負担を負うようなことがあってはならない。
  •  したがって、在宅サービスを大幅に拡充し、次のような方向を目指すことが重要。
    1. 高齢者が必要なサービスを、必要な日に、必要な時間帯に受けられる体制。
    2. 一人暮らしや高齢者のみの世帯も、可能な限り在宅生活が続けられるように支援
    3. 重度の障害を持つ高齢者や一人暮らしの要介護高齢者は、24時間対応を基本

(2)家族介護に対する評価

  •  家族による介護に対しては、外部サービス利用との公平性等を考慮し、現金支給を検討すべき。ただし、適切な介護の確保という問題や家族介護の固定化の懸念もあるため、慎重な検討が必要。例えば、家族への介護研修や専門家によるバックアップ、必要に応じ外部サービスへの切り換えが可能であることを現金支給の条件とすべき。
II.介護サービスの一元化

  •  これまで各制度にまたがってきた介護サービスを、新介護システムの下で一元化。

(1)在宅サービス

  •  保険・医療・福祉の各サービスが総合的に提供される体系を確立。また、各サービスが適切に組み合わされ、「サービス・パッケージ」として提供されることを目指す。

(2)施設サービス

  •  特養、老健施設、療養型病床群、老人病院(入院医療管理病院)については、機能を強化する一方、利用者負担等の格差を解消。これらの施設は将来的には一元化の方向を目指すことが望まれる。ただし、多様性を認めるとともに、段階的な移行措置が必要。
III.ケアマネジメントの確立

1.ケアマネジメントの意義
  •  (ア)高齢者がサービスに関して十分な知識を持っておらず、また、(イ)サービス提供機関も相互の連携が十分でない場合が見られる。ケアマネジメントは、こうした問題点を克服するため、ケア担当者が高齢者や家族を支援し、適切なサービスに結びつける仕組み。
  •  ケアマネジメントは、次のような機能を果たすことが期待される。
    1. 高齢者や家族の相談に応じ、専門的な立場から助言すること。
    2. 高齢者のニーズを把握し、ケアプラン(ケアの基本方針とケア内容)を作成すること
    3. ケアプランを踏まえ、実際のサービス利用に結びつけること
    4. 適切なサービス利用を継続的に確保すること
2.ケアマネジマント体制のあり方

(1)ケアチーム

  •  ケアマネジメントは、保健、医療、福祉のケア担当者等をメンバーとする「ケアチーム」によって進められることが適切。ケアチームは、高齢者の状況に応じ、ケア担当者が随時参加できる柔軟性が重要。また、高齢者の心身の状態に関する医師の専門的な判断は十分尊重されることが必要。

(2)ケアマネジメント機関

  •  ケアマネジメント機関は、利用者が複数の中から選択できることが適当。また、地域のサービス提供機関と十分に連携するとともに、自らもサービス供給機能を持つことが適切。各地域において、実情に応じたケアマネジメント体制の確立が望まれる。
W.社会保険方式の導入

1.社会保険方式の意義

(1)介護リスクへの対応

  •  長寿化に伴い、介護の問題は国民誰にでも起こり得る普遍的なリスクとなっている。しかも、介護の期間や費用の予測は難しいため、各人の自助努力で備えることは困難。
     このため、社会全体で介護リスクを支え合う観点から、社会連帯を基礎とした「社会保険方式」によって対応することが最も適切。

(2)国民全体にとっての意義

  •  社会保険方式の導入は、国民全体にとって有意義。
    1. 高齢者〜介護リスクを社会全体で支え合う。
    2. 現役世代〜老親介護に対する不安の解消、将来の高齢期には自らも受益。
    3. 企業〜従業員福祉の向上。家族介護による従業員の離職等が防げる。
  •  こうしたシステムを制度化し、運営することは、本格的な高齢社会において公的責任を新たな形で具現化するもの。

(3)公費(措置)方式との比較

  •  社会保険方式は、公費(措置)方式に比べ、様々な点でメリット。
    1. 高齢者によるサービス選択に資すること
    2. サービス受給の権利的性格が強いこと
    3. ニーズに応じてサービス供給を拡大させる機能があること
    4. 負担と受益の対応関係が明確で、国民の理解につながりやすいこと

(4)私的保険の役割

  •  私的保険は、社会保険を補完する役割が期待される。社会保険の導入により事務体制が整備され、私的保険の事業展開のための基盤づくりが進むことが期待。
2.社会保険の主な論点

(1)保険者

  •  1.市町村とする考え方、2.より規模の大きな主体とする考え方、3.各主体が機能分担する考え方がある。さらに、医療保険や年金保険の保険者の役割の検討も必要。いずれにせよ、各主体が重層的に支えていくことが期待される。

(2)被保険者・受給者

  •  65歳以上の高齢者を被保険者・受給者とするのが基本。現役世代も、世代間連帯等の観点から被保険者に位置づけることを検討。
     高齢者以外の障害者については、総合的な施策の推進が望まれるが、介護サービスのみを取り出して社会保険とすることは慎重な検討が必要。

(3)費用負担

  •  国民全ての公平な負担が重要。1.高齢者に対する年金給付の意義、2.医療保険や年金保険の保険者の役割、3.公費の組み入れ、を検討することが必要。

(4)保険給付、利用料

  •  要介護判定やケアマネジメントの適切な実施が必要。現物給付を基本に、償還払いも認めることが適当。利用料は、一定率または一定額の応益負担が考えられる。
【参考資料】
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