えにしの本のエッセンス

鈴木敦秋  講談社 本体1700円
http://www.bk1.co.jp/product/2779821
日本一の病院で心臓手術をうけた、12歳の少女が死んだ。
死因は隠蔽され、記録は改竄された。
悲劇をくりかえさないために……。

 著者は、読売新聞医療情報部の記者で、一貫して医療問題に関して、鋭い分析・批評と有用な提言を行っています。本書は、いずれもベストセラーとなった『大学病院に、メス!』、『小児救急「悲しみの家族たち」の物語』につづく、第三作目の書き下ろしノンフィクション作品です。

 2001年3月、群馬県高崎市の歯科医・平柳利明・むつ美夫妻の次女、明香ちゃんは、東京女子医大病院附属心臓血圧研究所(心研)で、心房中隔欠損症の手術を受け、2日後に死亡しました。その後、カルテの改竄、人工心肺装置の誤作動などが発覚し、証拠隠滅罪と業務上過失致死罪を争う刑事事件になっています。

 本書ではまず、手術室で何があったのか、その全容に迫ります。
 第1章「明香ちゃんが病院で死んだ」から第3章「両親への報告はこうして行われた」まで、冷静な筆致で検証していきます。
 第4章「屍を乗り越えて」では、心臓病に関しては自他ともに日本一と自負する東京女子医大「心研」の戦後史を、まったく新しい角度から検証していきます。泣き寝入りから法廷へ、患者と医師の関係が、戦後60年、どう変わってきたのかを検証します。
 最後に第6章「病院が変わることを信じて」では、患者と医師が対話を重ねるための新しい方法「対話型のADR(裁判外紛争解決)」に注目し、東京女子医大病院と被害者連絡会との間に成立した新しい取り組みを紹介しています。

 あとがきでの、利明さんの下記の言葉は、とても印象的です。
「医療事故の問題は、医療の中で決着をつける、そういう仕組みをつくるべきなんです。それなのに、医療界は、『医療が崩壊する!』と大合唱するばかり。自分たちを庇うだけで、患者や被害者の立場に目を向けず、医療不信を拭い去るために動こうとしない。これではどんな主張も社会に受け入れられないですよ」
 私も、まったく同感です。
 医療の進歩という強い光が、医療の闇の部分を覆い隠してしまった牧歌的な時代は、既に終わりを告げました。
 このような現代に読むべき優れたノンフィクション作品として、みなさまに是非、ご一読をお勧めいたします。

目次
第1章 明香ちゃんが病院で死んだ
第2章 第5手術室で何が起きたのか
第3章 両親への報告はこうして行われた
第4章 東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所(心研)の戦後史
第5章 2医師の逮捕
第6章 病院が変わることを信じて
あとがき

岩岡秀明さん(船橋市立医療センター 内科外来部長)

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