優しき挑戦者(国内篇)

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(48)滋賀と京都、輝きと誇りのケア・最前線

「年をとった時、自分が働いている施設で暮らしたくはない」
 そう秘かに思っている理事長や職員が、日本には大勢います。
 そんな自分に愕然とした人たちが1999年、福島に集いました。それが毎年続き、2007年9月、滋賀の米原に1200人が集まって第9回ユニットケア全国セミナーが開かれました。

 雑居ではなく自分の部屋があり、家族のように過ごせる団らんの部屋がある10人ほどのユニットでの暮らしが、「ユニットケア」です。
 言い出しっぺの武田和典さんが提唱した合い言葉は、「入口はその人らしさ、出口は地域」。それが、日本のあちこちに根付き始めたことを示す数多くの発表の中から、ホンモノのボランティア精神にあふれた報告を再現してみます。

■小学生がつけたメッチャしっくりした愛称は、「オイワカ」■

 まず、大津市の「老い若か」の海岸秀さんと西村茉沙子さんの報告−−。
 もともとは「老いも若きも」なんやけど小学生軍団が「オイワカ」と呼ぶようになり、今では、めっちゃ、しっくりとした雰囲気になっています。
 母体の社会福祉法人真盛園は56周年を迎える古い施設。「様々な世代みんなの交流の場をつくって地域に貢献したい」という想いが強くなってきた矢先、滋賀県の「あったかホーム事業」が登場しました。
 改修費とスタッフの人件費に補助金がもらえるので、昔風の家借りました。

 2年間に、のべ1万2855人。1日平均20人。高齢者が47%、子ども23%、その他30%。気兼ねなく寄れる「友達の家」、
「安らげる場」、「出会いの場」と思っていただいているようです。
 柿や落ち葉でままごと遊びをしている小学生たち。その様子を微笑みながら見守っているお年寄り、地域のおしゃべり好きなおばさん、道で見かけたら、ちょっと怖そうなおじさん……。

 最近は子育て真っ最中の若いお母さんと乳幼児の利用がとても多くなりました。
 子育て講座、健康教室、親子食育講座、歯科講座。
 夏休みと冬休みには小中学生の絵画教室と書道教室。
「先生」は、みなさんボランティアで、仕事の合間に走って来て下さっています。休み明けに「賞もろたで〜!」と嬉しそうに報告にきてくれる子供もいます。
 毎月様々なジャンルの本を300冊ほど市立図書館で借りてきて、貸し出しています。ランチ、喫茶、お風呂は実費を頂いていますがその他は無料。

■「コテコテの専門職」が座っていなかったからこそ輝いた!■

 特養ホームのお年寄りも5〜6人のグループで来られます。
 朝から買い物に行って昼食を一緒に作ります。台所仕事や畑仕事をテキパキとされる、施設では想像できない姿を見て、施設職員のお年寄りへの見方が大きく変わったのも収穫です。

 世代間交流とよく言いますが、「さあ交流しましょう」とかでは、ちょっとしんどい。
 無理に喋らなくても、ただ同じ空間にいるだけでいいんとちがうかな。
「あなたでなくては」と期待されることで人が輝くようです。
 ここに、コテコテの専門職がドカッと座っていたら、いまの『老い若か』はなかったと、いま、思うのです。

■ここに来たときには、おむつ、ツナギの寝間着の「重症」の人々でした■

 次は、松葉ガニで知られる京丹後市に、やはり、2年前に誕生したユニット型特別養護老人ホーム「第二丹後園」。
 平均年齢87歳、いずれも認知症があり、要介護度3.78。ここに来たときには、おむつ、ツナギの寝間着、徘徊、どの施設からも敬遠された重症の人たちです。
 その人たちが、おむつもとれ写真のように、輝いています。以下は、そのわけを語ってくれた冨田智子さん報告−−


 開設の想いは、どんなに重い認知症の方でも、の尊厳をもって安心して暮らしていただきたい、そういう「家」をつくりたいということでした。

■香り、まな板の音、ふくらむ期待■

 6つのユニットのそれぞれに玄関があります。廊下を進むと、畳のお茶の間、廊下を挟んで洗濯機。もう少し進むと、何だかよい匂いがします。
 ダシジャコの香り、トントンというまな板の音、肌に伝わってくる湯気や熱、きょうのおかずは何かな、と期待がふくらみます。

 3食ともユニットの台所で調理します。調理する横であれこれ指図するお年寄りもおられます。
 あれが食べたいなあという声があると、数日後には食卓に出ます。
 畑の野菜が獲れたら、「誰々さんがつくった野菜だよ」と食卓に。すぐそばで調理しているので体調の変化によって食事を変えられます。調理員は朝の6時から夜の8時まで2交代でここにいて、見守りやおしゃべりの相手もします。

 目の前で調理するので、できることを自然に手伝ってくださいます。
 お味噌汁をよそっている方は101歳。この方が喜んでしてくださる「仕事」はこれだけですが、毎回、実に真剣です。目の前で調理するので食欲も最高潮です。

 目の前で洗って、干して、取り込むので自然に手が出ます。
 はじめのうち知らん顔をしていた男性が実に上手に手つだってくださるようになるのには、驚きました。針を使うことを忘れた方が、最近はボタンをつけたり、破れたところを直しくださったりするようになりました。

■誰にも邪魔されない、自分らしいひとときも■

 そんな中、誰にも邪魔されない、自分らしいひとときも見つけていただけるようになりました。
「ご老人がお好きですか?ゆっくりおしゃべりできますか?」を採用の基準にしていること、「家に帰ったとき、自分だったら、どういか格好で、どうしたいか」をみんなで、絶えず考えてきたことが、秘密といえば、秘密でしょうか?

 記念すべき「第10回のユニットケア全国セミナー」は、2008年10月7日(火)〜8日(水)札幌市コンベンションホールで開かれます。お問い合わせは、clc@clc-japan.comへ。

大阪ボランティア協会の機関誌『Volo(ウォロ)』2007年10月号より)

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