優しき挑戦者(国内篇)
(49)「骨太」と経済財政諮問会議の「呪縛」から逃れるために

 救急患者のたらい回し、医師不足、介護崩壊の危機……その元凶として「骨太方針」「経済財政諮問会議」という馴染みの薄い言葉がメディアに登場するようになりました。
 このテーマについての迫力満点のシンポジウムが、2008年4月26日、福祉と医療・現場と政策をつなぐ「新たなえにし」を結ぶ会で、展開されました。
 まず、そのサワリをご紹介します。

◆「社会保障制度が死んでしまう」◆

 「自民党にこんな人がいたのか」と参加者を驚かせ、感動させたのは、尾辻秀久さんの"過激発言"でした。
 尾辻さんは、元厚生労働大臣で自民党参議院議員会長です。

「経済財政諮問会議は、総理大臣の知恵袋です。小泉内閣のときは、ほとんどすべての政府の方針を決めていたと言っても言い過ぎではありません。これを財界関係と学者さん4人の委員が主導していました。経済と財政至上主義者でありますから、財政を立て直すためには、国民が泣こうと知ったことかという感覚の人達です」
「社会保障費を削れ、削れ、の一辺倒であります。2002年からの5年間で、1兆1千億削れ、さらに07年からの5年間も同じようにやれ、と言う。『これ以上、毎年2千2百億削れと言われたら、日本の社会保障が死んでしまう。乾いたタオルをしぼったって水なんか出ない』と代表質問で福田総理に申しあげたのであります」

◆「あまりに少ない福祉現場の報酬」◆

 1987年、精神病の人びとが、日本で初めてカメラの前で思いを語りました。タイトルは「人間らしく生きたい」。
 テレビ史に残るこの番組のディレクターが、若き日の千葉県知事、堂本暁子さんでした。堂本さんの話は、この日も、「現場発」でした。

「福祉現場の方たちの給与がなんと低いことか。国は月額、22万円くらいというけれど、実際に足で歩いて聞いてみると、施設長さんで月給17〜18万円。これでは、食べていくだけでも大変。使命感がいくらあっても、あまりに忙しくて病気になってしまう。1人欠けると、残った方がまた疲れきっちゃうという悪循環が起ころうとしています」
「経済財政諮問会議の目指す社会保障改革は、病気の人、障害者、高齢者が切り捨てられる危機と背中合わせだと認識しています」

◆「下がり続けた診療報酬」◆

 鳥取県の南部町長の坂本昭文さんは、診療報酬を決める中央社会保険医療協議会の専門委員でもあります。
「診療報酬を改訂するときには、まず、経済財政諮問会議から、『2千2百億円削れ』という枠をはめられます。そのため、6年間ずーっと診療報酬が下がってきました。でも、削りしろが、もう、ない」

「同時に規制改革して、雇用主の都合のいいように、労働者の約3分の1が非正規労働者になってしまった。この人たちは社会保障制度に参加できないわけです。これでは、世代連帯の社会保障制度は崩壊せざるを得ないことになります。その厳しさを受けるのは、高齢者や女性や子供や地方。いわゆる弱者のほうに、全面的にしわ寄せが来ると危機感を持っています」

◆「絵に書いた餅を、ホンモノに」◆

 高齢社会をよくする女性の会理事長の樋口恵子さんは、堂本さんの言葉を引き取っていいました。
「福祉職は、ワーキングプアと言われるような状況の中で働いています。骨太の骨だけ残って血も肉も無くなってしまう。『持続可能な制度が大切』と厚労省はおっしゃるけれど、人材から『持続不可能』になろうとしています」。
 そして、次のような活動の成果を披露しました。

「初任給で3万円上乗せしなくちゃ、と私どもは、緊急提言の要望書をまとめ署名を集めました。あっという間に15万1267筆、が集まりました。それを厚生労働大臣に届けました。そして、昨日、衆議院で『介護従事者等の人材確保のための介護従事者等の処遇改善に関する法律案』ってのが、可決されました」
「たった5行の法律であります。平成21年4月1日までに、賃金、処遇を改善する施策のあり方を検討し、必要があるとしたら実行しなければならない、っていう法律になりました。朝日新聞に、早速、『絵に描いた餅』と言われました。その通りであります。どこから予算を持ってくるかの『担保』もない。けれど、きちんとした『根拠』なのです。絵を本当の餅にしていく、それが2千2百億の呪縛から逃れる第一歩ではないでしょうか」

◆Voloの精神に忠実に◆

 現場と政策、福祉と医療の間には、深くて広い河が横たわっています。そこに橋を架けようと、「志の縁結び&小間使い」を始めて8年になります。ふだんはメールとホームページで志を繋いでいるので、私一人の夜なべ仕事です。
 でも、年1度の新たなえにしを結ぶ会には、ボランティアが沸き出してきます。資料の印刷、袋詰め(写真右)、会場設営、受付…。

 呼び物は、席を離れての「えにし結びタイム」です。左の写真は、おしゃべりに夢中な人たちに、フライパンとすりこぎ、チベットからとりよせた鐘を鳴らしてシンポジウム再開を告げる司会の根岸親さんと福島容子さん、それぞれ、ポルトガル語とデンマーク語の達人です。

 どんなに有名な登壇者でも、手弁当がシキタリ。この連載を載せてくださっている『ウォロ』の表紙にある「Voloは、『喜んで〜する』。命令形のない動詞で、市民の自発性を象徴する言葉」を忠実に守っているつどいなのです。

撮影は、映像記録ボランティアの
同志社大学准教授で浄土宗應典院僧侶のの山口洋典さんと
精神保健ミニコミ誌クレリィエール編集長の高橋晴代さん

大阪ボランティア協会の機関誌『Volo(ウォロ)』2008年6月号より)

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