たばこの部屋

「たばこのために、毎年250万人が命を落としている。ジャンボ機が連日20機ずつ墜落し全員死なせているのに匹敵する恐るべき数だ。正しい知識と政策によって、たばこの呪縛から解放された社会を実現しなければならない」
 9日東京で開幕した第6回喫煙と健康世界会議で、世界保健機関(WHO)のマーラー事務総長が語った言葉である。
 この会議は4年に1回開かれ、「禁煙オリンピック」と呼ばれる。若者や女性、途上国へのたばこ産業の売りこみ攻勢が激しくなり、被害者が急増傾向にあるなど緊急性が増してきたため、次回は1990年のはじめに、そのあとは2年ごとに開くという。

 喫煙する人は、その振る舞いによっておおむね3種類に分類できるとされている。
 まず「愛煙家」。たばこを愛し、マナーを守る。非喫煙者のいる場では相手のつらさや健康を思いやってたばこを控える。残念ながら、数はそれほど多くない。
 つぎは「哀煙家」。スモーカーの約7割を占める。本当はやめたいのだが、やめられない。厳しく規制されている場ではやむなく従うが、規制のないところでは吸わずにいられないというのが、この人たちだ。
 最後は「暴煙家」。とにかく自分がたばこを吸えればよく、他人は眼中にない。

 たばこは酒のように個人の趣味、嗜好といわれるが、2つの点で差がある。
アルコールをたしなむ人の多くは、飲む時と場所を一応は心得ている。仕事の場では、がまんすることもできる。
 やめたいのにやめられず、朝からウイスキーを飲む人、仕事中もアルコールを離せない人は慢性アルコール中毒と診断される。哀煙家や暴煙家は、酒でいうとこの「アル中」にあたるのではないか。たばこは一度吸い始めるとなかなか脱出できない強い薬理性を持っているのである。

 第2の違いは他人への影響だ。さきごろ公表された厚生省の「たばこ白書」は、たばこが空気を汚し、同席している人に、発がん物質やその他の毒物を含んだ煙を吸いこませる「間接喫煙」の危険を指摘している。
 たばこの煙は、さまざまながん、呼吸器病、心臓病、ある種のぼけ、胎児の奇形などを引きおこし、医療費をふやす。その額は4兆円とも計算され、たばこによる税収を上回るとの見方もある。

 もちろんたばこの煙を吸った人のすべてが、がんや呼吸器病や心臓病で死ぬわけではない。だが、それは、ちょうど高速道路を歩くのに似ている。高速道路を歩いても車にはねられずにすむ人はいるが、歩道を歩くのに比べれば危険度は高い。
 多くの先進諸国では、まず「高速道路」を歩く恐ろしさを徹底的に国民に知らせ、さらに「高速道路」に近よりにくくする作戦をとった。
 こどもたちへの教育、たばこの箱への有害表示、自動販売機の禁止、CMの禁止、たばこ税の引き上げなどがそれだ。たばこの値段が高くなれば、未成年者は買いにくくなり、おとなも本数が減る。
 値段が日本の2倍の国では1人あたりの本数が2分の1、5倍の国は5分の1である。
 税収は減らさず、国民の健康を守ることも、不可能ではない。

 先進諸国の第2の作戦は、公共の場や職場の禁煙や規制だ。いわば「歩道」を歩く人を高速道路に引きこむ危険を回避する方法で、いずれも喫煙の害を除く上で大切だ。
 「禁煙オリンピック」に出席した藤本新厚相は、「この会議が、わが国の喫煙対策に大きく寄与することを期待する」と述べた。
 その言葉通りの真剣な取りくみを期待する。

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