障害福祉政策・激動の部屋

 支援費制度の開始からはや一年、支援費はこれまでの措置制度の殻をこじ開け、在宅福祉サービスの利用は2倍に伸びました。「自己決定の尊重」を掲げた支援費の理念とねらいに沿ったものと言えます。
 特に、知的障害者・障害児のホームヘルプ、ガイドヘルプ、全身性障害者の日常生活支援といった地域生活に不可欠な支援が大きく伸びています。また、当事者を中心に、各地でつくりあげられてきた自立生活・地域生活支援や、まちづくりの取り組みにとって大きな追い風になっています。まさに、「地域生活の夜明け」とも言えるスタートを切ったのです。
 しかし、現在そのためと思われる大幅な予算不足が不安視されています。今年度(平成15年度)は、厚生労働省内の予算の流用で、なんとかしのげるだろうとのことですが、来年度からの財源の確保は引き続き大きな課題です。

 一方、地方分権による「三位一体の改革」は、3年間で4兆円の国庫補助金廃止と地方への税源委譲を予定しており、総額600億円の居宅に関する支援費がここに飲み込まれるのは時間の問題であるといわれています。
 もし、一般財源化となれば、障害者福祉は新たな財源確保がないまま地方に分割され、その裁量に委ねられます。そうなれば、深刻な財政難が続く中で、真摯に取り組んでいる自治体ですら、その施策を後退させる可能性があることは多くの関係者が指摘しているところです。

 このような状況の下で、支援費制度の今後と介護保険の見直し問題が、まずは切迫した財源問題との関係で登場してきています。まさに、そういうときだからこそ、私たちはもう一度原点に戻って考えてみたいと思います。

 重い行動障害をもつ人たちや重度の脳性麻痺や頸髄損傷、 ALS(筋萎縮性側索硬化症)をはじめとする重度障害の人たちは、長時間にわたるサービスが必要です。これら現行の介護保険給付の範囲では地域生活を維持することが困難な人たちにとっては、両制度の統合により、当事者の地域生活に必要なサービスが本当に保障されるのか、死活に関わる問題としてあります。
 また、障害者の地域生活支援は、社会参加や就労支援、いわゆる「見守り」を含む多様な内容を含んでおり、諸外国で進められてきた自立支援のための介護・介助・支援の実現が大きな課題です。そうした地域生活支援に関する新しい人的支援サービスを展望した時に、これまでの介護概念とどのような位置関係になるのかの突っ込んだ検討が必要です。
 「本人の希望と選択にもとづく地域生活の継続」が介護保険制度導入の際に掲げられましたが、結果として、特別養護老人ホームの「待機者」激増という現象を生み出し、施設入所を誘導する結果となりました。支援費制度も理念とは裏腹に、安定した地域生活を送るための制度にはなりえていません。
 今こそ、障害者も高齢者も住み慣れた地域での暮らしが実現できるような新しい制度設計について、真摯に向かい合うべき時に至っていると私たちは考えます。
 すべての人が地域社会の中で共に育ち、学び、働き、生活することができる、私たちが求めてきた地域福祉の姿を、今度こそ本当に実現できる制度にするために、私たちは、支援費制度で始まった地域生活支援をさらに当事者中心のシステムに発展させていきたいと思います。支援費制度と介護保険制度、それぞれの発展が生み出す、自立と共生を支える新しい制度創設のための議論に参画したいと考えています。

【論点】
@既存の介護保険への吸収合併ではなく、どんなに重度の障害があっても地域での生活が可能となる、地域での新しい人的支援サービスの創設について。
A身体障害・知的障害・精神障害のある人それぞれにとって有効な認定システムやサービス提供を可能とする介護保険制度について。
B保険制度の枠を超える部分のサービスの創設について。
C親元の生活から離れ、グループホームやアパート等での地域生活を希望する人の自立支援について。
D地域であたりまえに暮らすことを希望する人の施設・病院からの退所・退院について。
E重い障害のある人も含めて、だれもが社会の中で働くことができる仕組みづくりについて。
F障害者差別禁止法や障害者総合福祉法といった大きな法制度やサービス体系をつくることについて。

 私たちは、これらの論点を大切にしながら主体的・積極的に議論に参加します。 ただし、新しい制度作りが、異なる方向性を示す場合、私たちはそれに反対するという立場も明らかにしたいと思います。

 支援費制度と介護保険制度の見直しは、サービスの負担と給付について国民全体を巻き込んだ議論を展開することによって、障害者福祉に対する国民の理解が深まり、障害者福祉の新しい流れをつくる、重要な事柄としてとらえています。
 障害当事者、障害福祉関係者、行政関係者、地域住民など幅広い人たちの参加を呼びかけ、各地域の特性や力を活かした共に支え合う豊かな地域社会をつくるために、絶対にあきらめず前に進みます。

2004年2月22日

アメニティーフォーラム 実行委員会
全国地域生活支援ネットワーク 
代表:根来正博
石渡和実水流源彦
牛谷正人戸枝陽基
遠藤正一西嶋美那子 
大熊由紀子日浦美智江
北岡賢剛廣瀬明彦 
北野誠一福岡 寿 
佐藤 進松坂 優
清水明彦松永正昭 
副島宏克村上和子
曽根直樹安井愛美 
高原伸幸渡辺次男

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