○このような機会をいただいたことを感謝。昨年8月26日の部長就任以来、多くの対話を積み重ねてこられたことにも感謝。今日の公開対話集会が障害者福祉の新たな一歩になることを切望したい。
○昭和50年に入省し、最初に配属されたのが児童家庭局。先輩につれられていくつかの知的障害者施設に宿泊研修にいったのが、つい昨日のように思える。行政官として経験を積んで、ふたたび、この分野の仕事をさせてもらえることは大きな喜び。
○「完全参加と平等」をテーマとした国際障害者年のあと、昭和58年、59年当時の社会局更生課の法令担当補佐として、身体障害者福祉に携わり、障害基礎年金制度の創設などの所得保障に取り組んだ。基礎年金の導入は、障害者が中心となった国民運動の成果。国際障害者年を契機とする一連の障害者運動がうち立てた金字塔。
○その後、北九州市に出向。直接障害者福祉行政は担当しなかったが、障害者の福祉民間団体にも入って交流。親の会の活動などに触れた。
○知的障害を持つ甥が、支援費制度施行後、ガイドヘルプなどを利用できるようになり、彼は、今年の正月ついにひとりで、ガイドと一緒だが、初詣にいった。制度の良さを実感した。
○昨年4月からスタートした支援費制度は、地域生活支援、自己決定や利用者本位というその理念において高く評価している。
○スタートして1年経過したが、サービスが全国津々浦々に広がりつつある。初年度においては、厳しい財政状況のなかにあって、実質3割増の予算が組まれていたが、サービスの伸びは6割を越えた。その結果、財源不足という問題が起きた。
○これについては、財源確保のために、私は、障害者団体の皆様や国会の先生方とも力を合わせて取り組み、最悪の事態を避けることができた。もちろん百点満点ではなく多くの課題が残された。引き続き、財源確保の困難さは解消されておらず、制度運営の効率化、公平化、国と地方公共団体の補助金ルールの見直しなど課題が山積。
○私は、この間の動きの中で、国や自治体の今後の財政状況がどうなるかということや支援費制度の仕組みを詳細に分析してみて、私の評価は、支援費制度については、このままでは、長期に安定的に持続することが大変難しいと考えている。
○それは、いわば、支援費号という多くの障害者が乗ったバスを、軽自動車のエンジンで動かしているようなもので、このバスのエンジン部分を大幅に強化しないと地域生活支援を長期にわたり安定的に進めていくことは難しいと考えている。
○また、支援費制度の実施主体である市町村からは、いろいろな問題提起がある。安定的な財源の確保のみならず、ケアマネジメントの仕組み、公平な利用のための支給決定基準、適切な自己負担の仕組みなどが支援費制度には欠けているのではないかとの指摘を受けている。
○今後、支援費制度の目指した理念を実現し、発展させていくためには、このような制度として足りない部分を補いつつ、制度を抜本的に見直すことが不可欠と考えている。
○今ひとつ大きな課題がある。「三位一体改革」である。
○この三位一体改革は、地方分権という基本的な考え方に立って、国の補助金や負担金、交付税を今年度から3年間で4兆円減らして、その分、税源を地方自治体に移していこうというもの。障害者福祉の補助金や負担金も、全国知事会や全国市長会から、廃止をしていいという要望が出されている。
○地方分権、三位一体改革という考え方は大きな方向として避けて通れない正しい方向であると私は考える。実際の三位一体改革はこれから国民レベルの議論がなされ、それによってどのような展開になるか不透明。市長会や知事会のいうように直ちにすべての障害者福祉の補助金や負担金がなくなるわけではないと思うが、現実の問題としてこれを大変厳しく受け止める必要がある。
○これは支援費制度を導入する法律を議論していた平成12年度には、想定できなかった。今そこにある現実の問題から眼をそらすことは許されない。
○今後の障害保健福祉施策について、現在、介護保険制度との関係をどう考えるか、ということについて、皆様方の代表が参加された検討会や審議会などの場で議論がなされている。
○私は、現行の介護保険制度については、さまざまな解決すべき課題を抱えるものの、その理念やシステムにおいて、大変優れた点があると考えている。市町村が責任を持ってサービスを提供する制度であり、市町村にサービス提供計画の策定が義務づけられていることや、ケアマネジメントが制度化されていること、あるいは国や地方の税金や国民の方々の保険料などいろいろなお金を持ち寄ってサービス提供に必要な財源を安定的に確保する制度であり、支援費の在宅サービスは裁量的経費である補助金だが、介護保険は国や地方自治体の財政負担はいわゆる義務的経費であることなどである。
○こうした介護保険の優れた理念やシステムを、精神障害者も含めた障害者サービスにもどう導入していくかということ、うまく導入して制度を強化することが、現実的かつ前向きな選択肢であると考えている。
○また、こうした多くの国民の方が、障害者のサービスのために、お金を出し合って、お互い支え合う仕組みを作ることができるならば、ノーマライゼーションの考え方により近づくことにもなる。
○一方、介護保険というシステムを活用することについては、障害者にも適したものとなるのかどうか、心配の声がある。ある意味で当然である。高齢者介護と障害者サービスは共通な部分もあるが、内容において大きく異なる部分もある。
○私たちがこれから考えようとしていることは、およそすべての障害者サービスを介護保険によって提供しようとするのものではない。共通のサービスは、年齢や障害の別によらず共通のシステムで提供されるが、介護保険のサービスとならないものや障害者サービスの特別のニーズについては、引き続き税財源によって対応する必要があるのはいうまでもないと私は考えている。
○高齢者介護と共通するものについては、共通の制度で対応できるが、例えば、超重度の障害者が地域で暮らすうえで必要なサービスが共通の制度だけでは十分提供できないのであれば、補完的なサービスを提供する仕組みが必要となるし、ガイドヘルプのように障害者の社会参加を支援する仕組みも必要となる。
○具体的な制度設計は、経済界、医療保険者、地方公共団体などこれから多くの関係者の理解と共感を得ながら、議論を重ねて、練り上げていくことになる。要は、障害者サービスの必要性について、税にせよ、保険料にせよ、多くの国民の理解と共感を得られるかどうかである。それによって、制度設計のあり方が決まってくるのだろうと思う。制度設計に当たっての私たちの基本的スタンスは、いかに将来にわたって障害者が地域で安心して生活することができるかということにある。
○また、保険料やサービスの受益に対する利用者の一部負担については、新たな支え合いの仕組みのいわば参加料であり、障害者だからといってなくていいということにはならない。もちろん、その上で、本当に収入の低い方への配慮は考える必要があるのはいうまでもない。
○いずれにしても、支援費制度の改善策は、障害者の地域生活を支援する仕組みとして十分なものでなければならず、同時に、それが多くの国民の方も納得できるもの、理解と共感の得られるものでなければならない。
○今後の障害者福祉を考える上で、介護保険というシステムをこれから活用していくのか、それとも現行制度のままで三位一体改革の中で対応していくのか、私たちは分かれ道に立っている。今、どの道を選択するにしても、全国の津々浦々に暮らす障害者やこれから生まれてくる障害者にとって望まれる道なのか、率直に議論して選択していただきたい。障害者福祉の関係者のコンセンサスなしでは、多くの国民の理解と共感を得ることは難しいと思う。
○障害者福祉は、昭和24年の身体障害者福祉法の制定以来、多くの関係者の様々なご努力により、前進してきた。知的障害者福祉法ができ、障害者雇用促進法ができ、精神保健福祉法ができ、障害者基本法ができた。
○いくつもの節目があったが、私は昭和56年の国際障害者年を忘れることができない。国際障害者年を契機として「完全参加と平等」ということが国民の感動を呼んだ。その流れの中で、障害者が地域で自立した生活を送ることを支援するという「地域生活支援」が中心的な課題となってきた。
○今や、「地域生活支援」は障害種別を超えて共通の課題となっている。
○今後、本気で地域生活支援を進めていくために、この1年かけて、障害者福祉全体の再構築にチャレンジしたいと考えている。介護や生活支援といった人的サービスはもちろんのこと、所得保障の観点も含めた就労支援や、地域生活の基盤となる住まいの確保、そしてややもすれば制度の谷間になっていた自閉症スペクトラムなどの発達障害支援といった諸課題に総合的に取り組んでいきたいと考えている。
○この場合の基本的視点は、障害者一人ひとりのライフステージに相応しい施策体系とすることにある。児童期、未成年期にはこれからの長い人生のための基礎づくりの視点が必要だし、青壮年期には働くことなど社会参加、社会貢献の視点が必要だし、高齢期には健やかな老いを迎える視点が必要である。
○こうした障害者福祉の再構築するなかで、入所施設から地域への移行や、福祉的就労から一般就労への移行といった長年の懸案について、道筋をつけていきたい。
○障害者の就労の問題は、せっかく厚生省と労働省が一つになったので2つの省の垣根を除き、厚生労働省の事務方のナンバー2である厚生労働審議官をトップとする省内横断的プロジェクトをもって取り組みを進めている。
○先週の22日には、全国の小規模作業所などの方々が日比谷公会堂などに7千人も集まり、与野党を問わず多くの国会の先生もいらして、私も参加して大きな力を得た。こうした方々や政治家の方々とも一緒になって、地域での重度障害者の活動の場や、就労支援の場の拡充に力を尽くしていきたい。
○この国会では、障害者の働く場の確保についての国の責務を規定する障害者基本法の改正法案が超党派で提案される。こうした大きな動きを、来年度予算編成や制度改正につなげていきたい。
○また、住まいの確保や発達障害支援の問題についても関係省庁とチャンネルを開いて取り組みを進めている。住まいの問題については、公営住宅に知的障害者や精神障害者は単身入居が認められていないが、私自身も国土交通省住宅局の審議官と話し合った。国土交通省との議論の場を作って、問題の前進を図りたい。発達障害についても、これまで制度の谷間。文部科学省と一緒に有識者との勉強会をやっている。近く超党派の議連が立ち上がり、新しい立法の動きもあり、協力していきたい。
○「地域生活支援」という考え方は、障害者に限らず高齢者や難病など様々な疾病を有する人も含めて、普遍的な価値のある考え方である。
○障害種別や年齢、原因疾病を超えて、支援の必要な人が、できるだけ身近な地域で必要なサービスを利用しながら自立して生活できる地域、地域住民が互いに支え合いながら安心して暮らせる地域を、日本各地でどう増やしていくかが重要である。
○障害者も高齢者も難病の方々も、介護が必要な人には、そのニーズに相応しいサービスが、均しくできるだけ身近な地域において提供されねばならないと考えている。「自立と共生」の考え方に立って、すべての介護が必要な人に必要なサービスを提供できる、新たな介護保障の構想を練っていく時期に来ている。高齢者のみが介護保険という制度により介護保障されるのではなく、すべての要介護の人に均しくできるだけ身近な地域で介護保障がされることが重要である。
○どうぞ皆さんも今日の議論をそれぞれの地域に持ち帰っていただき、仲間の方々や地域住民の方々、行政と議論をはじめていただきたい。
○すぐには解決できない問題もたくさんあるが、みなさんの主体的な参加があってこそ、一歩一歩制度も良くなっていくと思うし、障害の有無に関わらず暮らしやすい地域社会が築いていかれるのだと信じる。
○私は、日本社会が元気がないといわれるが、地域社会が元気であってほしいと願っている。障害者福祉の取組みが、地域社会が元気を取り戻すきっかけになってほしい。どうか皆さんには、元気な地域社会や新しい地域福祉づくりの先頭にたってほしい。障害基礎年金を導入したときのような国民運動を起こしてほしい。私も、皆さんとともに、自立と共生の社会の実現を目指して、全力で取り組んでいく覚悟。本日ご参集の皆様が各地域で前向きで積極的な議論を展開し、国民運動につなげるよう心から期待し、私の説明とさせていただく。