「交通バリアフリー法」改正に向けた提案
2005年10月 市民がつくる政策調査会「移動(アクセス)権の保障」検討PT
○はじめに
「交通バリアフリー法」が制定されて、5年が経過した。この間、多くの駅でエレベーターやエスカレーターが整備され、ノンステップバスも多く見受けられるようになった。車いすの方々も、街中で日常的に見かけるようになった。しかし、一方で鉄道事業の需給調整規則が廃止された2000年以降、地方の私鉄をはじめ約50近くの路線が廃止(貨物・休止含む)されている。これは交通機関のバリアフリー化レベルの問題ではなく、移動(アクセス)手段の選択肢を減少させており、その影響を一番に受けるのは高齢者や障がい者など、移動に制約のある人々である。
1.「移動(アクセス)の権利」を保障する
全ての人が自由に社会参加できるよう"だれもが自由かつ安全に移動できる環境づくり"が必要である。ユニバーサルデザイン政策大綱(2005年7月国土交通省)でも同様の指摘がされており、その"環境づくり"を進めるためには移動(アクセス)の権利保障を法的に担保することが重要であると考える。また、障害者基本法(2004年改正)では、基本的理念として"個人の尊厳とそれにふさわしい生活を保障される権利"、"社会を構成する一員としてあらゆる分野への参加"、"障がいを理由とした差別の禁止"が明記されている。
そのことから、「交通バリアフリー法」第一条(目的)に、または(及び)『基本的理念』の条項を加え、"高齢者、障がい者等の移動の自由を確保"を明記することを提案する。
*基本的理念(例):「障害者基本法」の基本的理念及び「高齢社会対策基本法」の基本理念に基き、@すべての高齢者、障がい者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障し、その移動が保障される権利を有する。Aすべての高齢者、障がい者等は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられ、地域社会を自立と連帯の精神に立脚して形成する。B何人も、高齢者、障がい者等に対して、身体的な状態等を理由として自由な移動を制約し、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。
2.自治体による地域交通計画、移動円滑化基本構想の策定を促進する
市町村から提出された基本構想は191(2005年7月末:うち23は複数提出)であり、全市町村数2,317(2005年9月20日現在:都道府県市町村 データと雑学で遊ぼうhttp://www.glin.jp/index.htmlより)からすると8.2%と、とても多いとはいえない状況である。もちろん2,317市町村のうちには、乗降客5000人/日以上の旅客施設のない(重点整備地区に該当しない)市町村もあり、またバリアフリー化に対する意識の"温度差"があることは認識している。が、公共交通機関またその周辺のバリアフリー化は、地域全体を捉えたまちづくり政策に欠かせないテーマであり、また乗降客5000人/日に達しない駅でも自治体の判断で重点整備地区を定めることができることから、自治体のイニシアチブが不可欠であると考える。
3.乗降5000人未満の駅・周辺の整備を促進する
全鉄軌道駅数は9,544で、乗降客5000人/日未満の駅は6,809である。そのうち段差解消がされた駅数は800駅とされている。(いずれも2003年度末:国土交通省資料より。)その割合は11.7%ととても多いとはいえない状況である。これは、「交通バリアフリー法(2条5項)」に示された「特定旅客施設」が、施行令で「1日当たりの平均的な利用者の人数が5000人以上であること。」とされたこと。また、それに基いてか補助金等の基準が同一の定めのものが多いことなどが要因のひとつと考えられる。これは都市部と過疎地域をある意味差別化する政策であり、その是正が必要であると考える。
4.ハイヤー・タクシーを対象とする
福祉タクシーの車両数は4,574台で、全ハイヤー・タクシー車両数267,141台からすると1.7%と、その割合はとても多いとはいえない状況である。その要因のひとつとして、「交通バリアフリー法」の対象にハイヤー・タクシー事業が除外されていることがあげられる。法の目的には「・・・高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した・・・」とされているにも関わらず、その役割を担っているハイヤー・タクシー事業が除外されている。
5.STSを対象とする
STS(スペシャル・トランスポート・サービス)については、「交通バリアフリー法」制定時に衆・参両院の付帯決議で"STSの導入に向けて努力する"旨が示された。障害者基本計画でも"・・・利用者のニーズや地域の実情等を踏まえ、STSの活動を含め適切な対応を図る。"旨、示されている。また、「福祉有償運送及び過疎地有償運送に係る道路運送法80条第1項による許可の取り扱いについて」(2004年3月:国土交通省通達)、いわゆる"ガイドライン"が示され、NPO等の運行する移動・移送サービスについて一定の位置づけがなされた。しかし、STSの概念や役割、促進方法など、交通政策及び支援策については何ら示されていない。
6.利用者の参画を明記する
利用者・市民の参画などについては、移動円滑化基本構想の策定に際して、市民へのアンケートや、高齢者、障がい者などの参加のもとに定点調査の実施、懇談会の開催などにより意見を聞くなど、市町村でさまざまな工夫がされている。が、その意見がどの程度反映されたのかなどについては不明であり、そもそも移動円滑化基本構想の基となる基本方針の策定にあたっては、パブリックコメントによる意見の募集のみである。市民参加に関する定めとしては、基本方針で「基本構想の指針となるべき事項」として、「・・・高齢者、身体障害者等を始め関係者の参画により、関係者の意見が基本構想に十分に反映されるよう努める。」とされているのみである。
7.可動式ホーム柵・ホームドアの設置を促進する
「交通バリアフリー法」制定時にも、国会の審議等での重要なテーマのひとつであった「ホーム柵・ホームドア等の設置」についてであるが、その設置がされた路線はホームドアが10路線、可動式ホーム柵が12路線、固定式ホーム柵が16路線と、とても多いとはいえない状況である(以上、2003年3月現在)。事故数に関しては、ホームからの転落死傷者数42人、うち死亡者数21人。ホーム上での(車両との)接触死傷者数64人、うち死亡者数5人。線路内立入り死傷者数216人、うち死亡者数169人となっている(以上、2003年度)。前年度を見てみてもホームからの転落死傷者数47人、うち死亡者数21人と、年20人以上の方がホームからの転落事故で死亡している。
8.ハンドル式電動車いすでの利用を促進する
シニアカー、電動スクーターなどと呼ばれている「ハンドル式電動車いす」は、1980年代後半から増加し2000年には約3万台が、2001年には約2万7千台が出荷されており、標準型電動車いす(ジョイスティック型)の5倍近くに上る。制度上の位置づけとしてはJIS規格と交通バリアフリー技術規格調査研究報告書で(身体障害者福祉法及び児童福祉法に基く)補装具として、「電動車いす」のひとつとされている。
9.(鉄軌道)車両とホームの段差・隙間の解消を進める
「交通バリアフリー法」制定時にも、国会の審議等での重要なテーマのひとつであった「(鉄軌道)車両とホームの段差・隙間の解消」についてであるが、いまだに多くの駅で駅員同行のもと補助具によって乗車しているのが現状である。新規の鉄道駅においても、車いす使用者が自立して乗降できるような整備がなされている状況ではない。移動円滑化基準においては、段差については「・・・できる限り平らであること。」とし、隙間については「・・・できる限り小さいものであること。」とされている。が、このある意味あいまいな記述が、解消が進まない要因のひとつと考えるものである。もちろん、"島型ホーム"によりホームが湾曲しているため接触回避のための隙間が必要であることや、車両の仕様により段差が生じるなどの課題は認識している。
10.トラブル・クレーム等の相談・事故調査機関を設置する
「交通バリアフリー法」制定後の現在でも、車いす使用者が鉄道やバス利用時に乗車拒否を受けるなどの"事件"が発生している。すでに示した「ハンドル式電動車いす」使用者においては、法的根拠なく事業者の判断で利用の条件が定められている。この要因としてはすで示したように「移動(アクセス)権の保障」が法律に位置づけられていないことがそのひとつだと考える。また、当事者からのさまざまなクレームや意見、事業者とのトラブル、乗降時等の事故など、その検証はおろか情報の集積もなされていないのが現状である。
11.エレベーター整備を促進し、エスカレーターの安全性を促進する
「交通バリアフリー法」に基く基本方針において、鉄道駅・軌道停留場、バスターミナルなどの段差解消を可能な限り進めることを目標としている。事業者によりばらつきはあるものの、エレベーターとエスカレーターの設置割合はほぼ同様の数値であり、目標の設定当初懸念されたエレベーターよりも費用負担の少ないエスカレーターの整備が進むのでは、という問題は見られない。一方で、車いす使用者や高齢者などによるエスカレーターの使用時の事故が多発しており、エスカレーター上での歩行が原因と思われるものも見られる。また、移動円滑化ガイドラインでは、車いす対応エスカレーターをエレベーターが設置できない場合の代替手段として認めており、その代替に当たっての判断基準は示されていない。その結果として、多くの事故が発生し、その原因も検証されていないのが現状である。
12."交通に関する基本的な法律"を制定し地域(自治体)交通計画を策定する
すでに示したが、まちづくりと一体とした公共交通機関のバリアフリー化については、自治体(市町村)のイニシアチブが不可欠である。「交通バリアフリー法」に基く移動円滑化基本構想や福祉有償運送に係る運営協議会など、交通政策に関わる自治体の関与は強まっているが、交通に関する基本的な計画等の策定については、あまり進んでいないのが現状である。また、公共交通機関やその施設と周辺などに限らず、点から線へ、線から面へとその移動(アクセス)の捉え方を見直し、制度も改変すべきである。 「移動(アクセス)権の保障」検討プロジェクト
1.目的
2.検討課題
3.活動内容
1)現状の把握
○研究者・事業者・行政関係者等へのヒアリング・意見交換の実施
2)問題点の整理・提案○実態調査 4.プロジェクトメンバー
伊藤 正章(東京ハンディキャブ連絡会)
伊藤 みどり(福祉交通支援センター) 今西 正義(全国頸髄損傷者連絡会) 今福 義明(DPI日本会議) 大須 賀郁夫(わかこま自立生活情報室) 荻野 陽一(世田谷ミニキャブ区民の会) 尾上 浩二(DPI日本会議) 川内 美彦(アクセス プロジェクト) 上薗 和隆(障害者総合情報ネットワーク) 長谷川 清さん (移動サービス市民活動全国ネットワーク) 松井 俊次(交通行動東京実行委員会) 三澤 了(DPI日本会議) 三苫 修子(市民がつくる政策調査会) =事務局兼務 小林 幸治(市民がつくる政策調査会) =事務局兼務
5.事務局 |
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