バリアフリー新法/「本当に使える」という実質の確保を
日本福祉のまちづくり学会理事、一級建築士 川内美彦さん

 東横インの不正改造問題では国中から非難の声がわき起こり、「バリアフリー化は当然」との意識が国民に定着してきていることをうかがわせた。
 今国会では、建築物と公共交通機関のバリアフリー化を定めたハートビル法と交通バリアフリー法の一本化法案も提出されており、意識面でも法律面でも、バリアフリー社会が実現しつつあるように見えるかもしれない。

 だが、利用者側から見ると、実態はそれほど前進しているとは言えない。両法には対象施設や機関を利用する権利の規定や、利用拒否への罰則がなく、この点は提案中の一本化法案でも変わらないからだ。

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 例えば、大阪法務局は04年に、JR東海がハンドル型電動東いす利用者の乗車を一律に拒否していることについて、重大な人権侵害にあたると改善を勧告した。だが、デッキつきの新幹線や特急には今も乗ることができない。この件に関し、交通バリアフリー法は、まったくの無力だ。
 同様に、ハートビル法でスロープをつけた施設が、車いす利用者の入館を断っても同法違反ではない。

 私たちは障害を持つ立場として、国土交通省に改善を求めてきたが、財政支出の増大につながるなどとして、反応は芳しくない。
 何も最新式の設備を瞬時に導入してほしいと言っているのではない。整備には時間も費用もかかることは承知している。
 問題にしているのは、使える環境が整備されているのに、利用が拒否されるという現状なのだ。
 両法は施設の整備だけが目的で、実際に使えるかどうかは関係ないとでもいうのだろうか。

 時刻表で新幹線の車いす利用案内のページを見てはしい。
 「2日前までに、直接または電話で駅に予約をしてほしい」と書かれている。これでは、家族の事故など緊急を要する移動には対応できない。
 東海道・山陽新幹線の自由席には車いす利用に対応した席はなく、指定席を取らないと乗せないといわれた事例や、車いすで乗れるバスが導入されたのに、事業者自身が何時にどの路線を走るかを把握していなかった例もある。

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 鉄道事業法では、鉄道事業者が利用者の利便や公共の利益を阻害している事実があると認めるときは、国交相が改善を命じることができると定められている。
 加えて、ハートビル法や交通バリアフリー法まで作りながら、「利用できる」という実質を確保することについて、国はなぜこれほど及び腰なのだろうか。当事者の懸念や不安に対し、きちんと応えるべきだろう。

 02年にできた「身体障害者補助犬法」では、公共施設や飲食店などが盲導犬や介助大などの同伴を拒否することが禁じられている。
 同法を参考に、ハートビル法と交通バリアフリー法の一本化法案も国会での審議を通じ、利用者の権利や利用拒否を禁じる規定を明記するよう強く望みたい。
 私たちは、単なる施設の整備でなく、本当に使えることを望んでいるのだ。

(2006年4月11日 朝日新聞「私の視点」より)

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