優しき挑戦者(阪大・ゲスト篇)
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大阪府障害者施策推進協議会(2002年6月7日)
第4章.基本的な施策の課題と方向
1.共通事項 (1)支援費への考え方、契約制度への移行
社会福祉基礎構造改革のもと、障害福祉分野の支援費制度の全容はまだ不明な部分も多いが、平成15(2003)年度から契約による利用制度が導入される。 事業者と利用者の対等な関係に基づく福祉サービスの利用に当たっては、以下の仕組みが必要とされ、その段階的導入が図られつつある。
これらの仕組みが、その設計どおり有効に機能し、社会福祉法に盛り込まれた個人の尊厳の保持や自立支援、与えられる福祉から選択する福祉といった基本理念を実質的に保障できるように府としてこれらの制度の充実を図ることが重要であることは、言うまでもないことである。
そして、これらの狙いを実現する最も基本的なことは、選択を可能とする福祉サービス供給体制の基盤整備である。国は、この部分について「障害者プラン」の着実な推進を図ると述べているが、そのプランも平成14(2002)年度末で最終年を迎えている。府としても国の「障害者プラン」の今後の動きに留意しながら、第3次障害者計画の策定に当たっては、その着実な推進への道筋を提示する必要がある。
次に、利用制度化に際して重要な要素は、相談体制の整備である。ともすれば、障害者のみならずその家族も日々の介護に追われるなどの状況から周囲の情報を得るなどの手段から遠い位置にいることも少なくない。従来の与えられる時代から利用する時代に相応しい気軽に相談できる窓口が福祉事務所などの行政窓口以外にも身近な場所で展開される必要がある。また、制度の枠組みに障害者の生活を当てはめるといったことではなく、一人ひとりの障害者の生活全体を視野に入れ、その生活に、制度を、サービスを、近づけるといったケアマネジメントが必要とされる。
近年、障害者自身が障害者の相談活動に従事し、またサービスの供給体制を作り上げるといった活動が活発になってきている。施設の中へ障害者自身が入り、「このように地域で暮らしているよ」とモデルを提示する活動も芽生え始めている。このような当事者による活動は、対等な関係を補強し、サービス供給主体の多元化の観点からも重要な意味を持つものであり、ボランティア活動やNPO活動の積極的支援の観点を含めて今改めて検討すべき問題である。
こうした相談機能が事業者情報の収集と提供、求めがあった場合の利用の斡旋、調整、必要に応じた利用要請も含めて府内市町村で有効に働かなければ、選択や契約も障害者本人や家族任せとなり、自立を支援するという社会福祉法の理念から実態は、単なる自己責任を強調するだけの制度に変質することとなる。
一方、都道府県は、事業者指定という事務を通じて一定の質の担保を図るとともに、基準違反などに対する指導を行うことが業務として予定されており、府内市町村の相談活動に資するよう事業者情報の効果的提供などに十分留意する必要がある。
最後に、知的障害者・身体障害者福祉に関しての残された措置制度についても、その予算の確保と柔軟な発動体制が必要であることを指摘しておく。親や兄弟姉妹と死別し、あるいは時に放置された単身の知的障害者などの中には、福祉サービスの利用契約に際して自己の判断のみでは契約能力が不十分な人が存在する。便宜的な家族の代理行為も不可能なこうした障害者に対して、地域福祉権利擁護事業や成年後見制度の効果的活用が本来は必須の条件である。この地域福祉権利擁護事業については、契約行為に対する支援は一人ひとりの生活全般を視野に入れた支援が求められ、また事業の利用者のまさに権利を擁護する代弁機能を重視しなければならない。そのためには、実施機関は地域の生活支援センターや各種の相談窓口との連絡を密にした態勢が求められ、今後予測される利用ニーズの増に対応した新たな生活支援員の確保方策の検討が課題である。 現在、居所の変更を伴う入所型施設の利用に際しては先の地域福祉権利擁護事業も活用できないため、家庭裁判所への速やかな市町村長の申し立てと共に、申し立て費用と選任された成年後見人などへの報酬に対する公的措置が欠かせない。そして、緊急の対応も含めて、こうした法的な問題に対するセーフティネットとしての「残された措置」の必要性について市町村は確固とした認識をもっておく必要がある。 (2)地域福祉の視点
平成5(1993)年1月、国の中央心身障害者対策協議会は、同年3月に終了する「国連・障害者の十年」を総括し、それ以降の障害者対策のあり方について意見具申を行った。
この中で「(当時の)現状を見れば、障害者の『完全参加と平等』を目指すとの観点からは、十分な状態が達成されているとは言えず、今後も一層施策の推進を図っていく必要がある。」とし、それまでの「啓発中心の運動から具体的行動へ」という国連の提唱のもと、国及び地方公共団体とも施策の総合的かつ体系的な推進を図っていく必要があるとした。
それらの流れも受けた「ふれあいおおさか障害者計画」では、先にも述べたように主要な施策について数値目標を掲げ、それらの取り組みが国の「障害者プラン」への糸口となったものと考えている。しかし、その進捗状況の評価もさることながら、その数値目標設定の意味は、今後とも有効な意味を持っているのかが改めて問い直さなければならない。
一例をあげると、「ふれあいおおさか障害者計画」後期行動計画では、府内において短期入所の整備床数を700人分と目標を定めていた。この短期入所事業については、在宅福祉サービス分野で目標を達成した事業の一つではあるが、現在府内の在宅障害者が「いつでも、どこでも、だれでも」利用可能な状況になっているかといえば、まだ不十分な状況であると考える。これは、700人分というボリュームが真の必要量を満たしているかの検証とあわせて、その利用のしやすい仕組みを作り出すという両面の課題が存在すると考えられる。
府内では、南部地域に入所施設が偏在している傾向にあり、そのため、短期入所床も南部に偏っている傾向にある。緊急時の利用に際して、このような地理的偏在は、サービス利用を大きく妨げる要因である。また、短期入所の場合、利用者の状況を普段からよく把握した所でなければ、施設や利用者とも不安を抱えるといった点からも身近な地域での展開が重要な点である。
今後は、主要な施策に関して、この短期入所のように府域全体で700人分といった設定ではなく、各障害保健福祉圏域で、あるいはもっと小さな人口単位でのエリアを設定し、その中での資源配備についての目標設定をする必要がある。
精神障害者に関しては「ふれあいおおさか障害者計画」の策定時には制度化されていなかった市町村の精神障害者居宅介護等支援事業が平成14(2002)年から実施されるので、施策の数値目標の設定が、今後の市町村障害者計画の指標として大きな意味を持つものになると考えられる。
次に、それらのサービス資源は事業ごとの数値目標もさることながら、各事業の組み合わせ方や弾力的な運用の方法をあわせて示されなければならないと考える。
通所施設でのショートステイ、グループホームへのヘルパー派遣や体験入所など新しい動きもあり、従来の固定的イメージの事業形態から、効率的・効果的な支援体制のデザインが今後は必要とされると考える。
第3次障害者計画策定に際しては、こうした地域福祉の考え方を重視した内容にすべきである。 2. 施設サービス
今後の障害者施設の目指すべき方向は、すべての障害者の地域での自立支援と社会参加の実現を目指すことであり、そのため今後の障害者施設のあり方は、利用制度化という新たな環境のもとで、地域の支援センターや障害者福祉作業所をはじめ、他の施設など様々な資源と連携し、自らも地域生活への支援体制の一翼を担うなどの姿が求められる。また、入所施設については、利用者は、そこに住み活動する生活者であり、施設生活も地域生活の一形態として施設そのものを暮らしの場へと転換を図る努力が求められる。
次に、地域で暮らすことへの基盤の整備がまだ不十分であることから、まだまだ多くの障害者が長期間の施設生活を送らざるをえない実態があるが、先の施設自身の変革とあわせて、地域での生活支援の基盤整備とともに、基本的な利用の方向性としては、地域生活へ向けた準備の場として位置づけ、社会生活力の形成など、目的を明確に持った利用と支援費支給の更新などの際の一人ひとりのケアプラン作成などを通じて、利用者の意思を中心に置きながら地域生活へ向けた可能性を検討するなど行政及び関係者が地域移行へ向けた不断の努力をしていかねばならない。
また、現在の「待機者」といわれている人たちや入所施設の利用者の状況を把握し、どのような支援がどの程度あれば地域での生活が可能か検証していく必要がある。 (1)入所施設における人権の尊重
「与えられる場」としての入所施設からいよいよ制度的にも「利用する場」としての入所施設に変貌をとげなければならない時を迎えている。支援費は本来本人に帰属する金銭であるがゆえに、施設の運営は本人たちに支えられている。憲法第13条にある個人の尊重と幸福追求の権利は入所施設の中にこそ体現されなければならない。
個々それぞれの自立の姿を目指す障害者が集う入所施設は、そこを利用しようとする障害者の意気込みと喜びに応えられる場であるべきである。この障害者の生き方を支える入所施設は社会のどの場にも増して、こうした障害者の権利を護る砦であるとともに、地域の中においてそこの住民とともに根付き呼吸をしている暮らしの場でなければならない。
求められることは数多いが、何にも増して施設管理者がこの「幸福追求の権利」実現のため寄り添い、支える強い職業的使命が求められる。利用制度のもと人権尊重に立脚した生活構築の実践を積極的に進めなければならない。
一方、こうした生活を護り育てる仕組みも重要である。施設内での人権侵害事案に対する利用者の声が埋没されることのないよう、苦情解決にあたる第三者委員の積極的活用や監査時における利用者からの聞き取りをはじめ、さまざまなNPO的活動の活性化や権利擁護相談機関の充実など民間活動も含めた権利侵害の防止・解決に向けた仕組みの強化が重要である。
また、こうした仕組みの強化とともに障害の重度化等の中で、その意思を把握し適切な対応を展開していく上でも、障害者の生活支援・自立支援、権利擁護に関する知識と実践力を高めていくための研修プログラムを開発するなど職員の専門性の向上についても十分配慮していくことが求められる。
質の向上のための第三者評価については、その結果が利用者に確実に周知される必要がある。
施設の評価は、利用者自身の声を聞くことによって評価されることが重要であり、たとえ重度の障害により意見表明が難しい場合でも、本人の意思を可能な限り聞き取り、汲み取って評価がなされる必要がある。 (2)入所施設の新たな位置付け 入所施設利用か在宅生活かという二者択一の考え方は、これを放棄すべきである。そのため、寝食の場・活動の場・レクレーションまでが自己完結的に提供され、一人ひとりの社会関係を断ち切りがちであった従来の「入所施設」のイメージを乗り越えて、そこでの生活も地域生活の一形態であり、在宅福祉サービスの提供など地域の社会資源としての役割の一翼を担うなど変容を図る必要がある。
今後の居住の場を伴う施設は、地域での住居の一形態と位置づける。また、新たな支援費制度のもとでは個別プログラムの位置づけがなお強化される方向にあることから、地域移行へ向けた社会経験が広がるような個別的支援が、利用するすべての障害者に提供され、地域生活の促進機能の強化が必要である。これらの機能は、地域で家族と暮らす障害者が親から離れて暮らすことへの準備としても役立たされねばならない。 (3)通所施設の新たな位置付け
さまざまな活動の場としての通所施設も、通所者への日中活動の場の提供だけでなく、地域に暮らす障害者に対する支援の重要な拠点として位置づける。 (4)今後の施設配備
今後の施設配備については、障害保健福祉圏域を基本エリアとした障害者の地域福祉を設計するといった発想での配備を重視する必要がある。
そのため、圏域内市町村障害者計画を基本指針とし、施設配備に関して市町村の関与のあり方を検討する必要がある。 (5)知的障害者入所施設のあり方
今後の知的障害者入所施設の建設に対する考え方は、圏域内地域支援の拠点としての機能を必須の要件として、圏域内のニーズの推移を見極めながら、地元市町村の主体性のもと、身近な地域での整備方向を随時検討する必要がある。
地域支援体制は、一日にして整うものではないので圏域内障害者のセーフティーネットとしての役割は今後も期待される。しかし、その場合においても(2)に述べた考え方を最大限考慮する必要がある。 (6)精神障害者生活訓練施設(援護寮)のあり方
現在ある生活訓練施設は、医療法人による設置が先行してきたため、当該病院の近くに設置され、ほとんどの利用者がその病院の退院者で占められている。今後は、入所者が施設入所中から地域の状況になじめるよう、地域への施設設置を促進することが望ましい。また、運営面では、他の病院の退院者にも門戸を開くとか、運営委員会に地域の関係者を入れるなど、運営を開かれたものにする努力が求められる。 (7)利用制度化における施設のあり方
15年度からの利用制度を前にして、利用し、選択することを実効性のあるものとするためには、多様な供給主体によるサービスの量の十分な確保と質の高いサービスが提供され、かつ選び・契約するための情報が利用者に提供される必要がある。
施設のあり方に関連しては、施設運営のほとんどが第1種社会福祉事業に位置付けられており、第1種事業の運営主体は社会福祉法人に限られるため、多様な主体の参入が見込みがたいところから、通所施設を中心により一層の計画的配備が必要である。
また、地域移行促進を指向した支援費体系が予定されており、戦後から築き上げてきた貴重な福祉資源としての既存入所施設の、目的を明確にもった利用の促進を通じて、20年、30年を固定的あるいは閉鎖的な空間で過ごすことのないよう、その流動性を高める必要がある。また、契約による利用のもとで地域移行促進や生活の質の向上は、ひとえに施設ばかりの責務とするのではなく、施設が地域の資源とも積極的に連携して進めていく必要がある。そのため、平成10年(1994)3月の「知的障害者入所施設利用者の生活・支援のあり方に関するガイドライン」や、平成11(1999)年12月の「身体障害者入所施設利用者の生活・支援のあり方に関するガイドライン」の趣旨の推進をめざし、施設の地域資源の積極的利用の連携方向などを推進するための施設・市民・行政も一体となった提案型福祉オンブズマンとも言える「モニター委員会」などの検討もしていく必要がある。
精神障害者に関しては、設置主体となる社会福祉法人が育っていないため、精神障害者共同作業所の法人化を促進し、通所施設が地域の中心となって、各種サービスを供給していく必要がある。 (8)市町村の重度障害者に対する役割
契約による施設利用が、重度障害者を排除することにつながらないよう市町村による相談、調整、あっせんが効果的に機能することが必要である。
単身の重度知的障害者などの場合、契約締結能力が問題となることから、緊急やむをえない場合の措置について、その柔軟な発動体制を市町村は整えておくことが必要である。 (9)障害児施設のあり方
障害児施設については、知的障害児施設等の入所型施設において定員を超える入所希望がある実態を踏まえ、在宅障害児及びその家庭に対する療育相談等の支援策強化を含め、施設のあり方について検討を加える必要がある。 (10)精神障害者施設のあり方
精神障害者の社会的入院を解消するためには、入所施設も通所施設も現状では不足しており、整備が必要である。また、精神障害者の自立と社会参加を進めるためには、施設の整備にとどまらず、特に入所施設においては、利用開始時から施設退所後の地域生活への移行を見越して、支援の取組みを行う必要がある。 3.地域生活の支援
平成9(1997)年に実施した府の障害者ニーズ調査では、65歳以上の対象群で知的障害者は票数としては少数(66票/417票)であったが、その約8割の人が兄弟や兄弟の配偶者によって身体あるいは家事介護を受けて生活しているとの回答である。今後、知的障害者自身の高齢化が進展していく中で、こうした親族に身を寄せることがどの程度可能なのであろうか。団塊の世代が自身の親の介護を担いつつ、その兄弟の知的障害者の介護なども引き受けられるのであろうか。
また、身体障害者の圧倒的多数を占める高齢障害者(約6割)や壮年期以降の中途障害者の多くは、家族の心情に根ざした家族介護を受けており、必ずしもヘルパー派遣への強烈なニーズには結び付いていないことも多い。しかし、全身性障害者をはじめ幼少時あるいは若年期からの障害者の場合、成人した後の親との同居に無理が来るのは不可避であろう。こうした重度の身体障害者層が、家族から離れて暮らすための介護の問題は、先の知的障害者の問題と共通する部分がある。
精神障害者に関しても、高齢の親は自分亡き後の障害者の生活に不安を抱いている。また、成人した精神障害者の場合、親との同居によるストレスが病状再悪化の誘因ともなる場合もあるので、障害者が家族から離れて暮らすための支援は、いろいろな意味で有効である。
障害者の介護を社会が家族に期待することは、今後の核家族化・少子高齢化の進展によりますます困難な状況になることが予測される。
一方、昭和45(1970)年頃より若年からの身体障害者、特に全身性障害者が成人して親・家族から独立して自立生活をはじめる動きが出てきた。この動きは、障害者自身の自立意欲の高まりとまちづくりによって底支えされてきた活動範囲の拡大、ピアカウンセリングに代表される当事者による支援の輪の広がりなどさまざまな要因によって、今後とも拡大していくと考えられる。知的障害のある当事者による意見ヒヤリングでも、親も含めてもっと自分たちの意見を聞いて欲しい、自分たち自身もいろいろな話し合いの場を作りながら実践し始めているとの意見があった。
今後は、障害の種類によってこうした自立生活に必要とされる施策の留意点は異なるものの、基本的な在宅福祉サービスの厚みのある提供体制の基盤づくりが最重要課題である。
「介護の社会化」の観点から見て、社会はまだまだ介護の多くを家族に依存している。
この介護の提供については、全員に等しく介護を(例えば)○○時間提供することが平等なのではなく、個別の状態に応じて「過不足のない」介護を提供することが平等の姿である。この考え方を目指すべき方向として、その提供体制の拡充に努力しなければならない。
以上の認識を基調としながら今後の施策展開に当たっての留意すべき点を次に述べる。
@規制緩和、自由契約といった改革の方向に対する不安が寄せられることが多いが、むしろこれを積極的に推し進め、「9時・5時サービス」といった従来の硬直的なサービス供給の仕組みを改める良い契機として捉えなおすことが必要である。あわせて、ホームヘルプ、ガイドヘルプ、デイサービス、ショートステイといった基本的サービスの提供主体の多元化を図る。
A反面予想される、契約体系への障害者の「放りだし」に対しては、的確な情報提供・総合的な相談体制・苦情解決・権利擁護施策を強化し、それらは可能な限りサービスの供給実態の見える市町村にその窓口を置くことが必要である。
B全ての障害者が利用可能な自立生活へのトレーニングの場としての機能を地域内に配備する。
C2の施設サービスでも述べたが、通所施設やデイサービス事業者が核となり、周囲に住まいの場としての福祉ホームやグループホームを配備し、自らもヘルパー派遣事業者として、住まいの場へ介護を供給し、障害の軽重に関わらず障害者が地域で暮らせる仕組みを目指すことが必要である。
D地域での以上の仕組みが整うまでのセーフティネットとして、広域的な既存入所型施設の活用の道も用意しておく必要がある。 4.就労・日中活動 (1)就労とは?日中活動とは?
この分野においては、障害の種別・軽重などその多様性から、その施策方向についてさまざまな意見がある。ここでまず今後の障害者計画づくりに資するため、改めてこの分野での言葉の概念の整理を提案しておきたい。
(2)多様な就労・日中活動
大阪の障害者の就労と日中活動を概括する際、まず作業所について論じなければならない。認可施設が、ADL(日常生活動作)や自力通所能力といったIADLを利用の条件とすることが多いため、総体として無認可障害者福祉作業所に、より重度の障害者が通っている現実があるのは否定できない。その結果、かなりの作業所は、作業収益を得るといった活動内容ではなく、生活のリズムを形成する場、仲間と交流し、人とのつながりのない在宅生活を回避する場としての実態がある。
また、工賃ではなく賃金に近い水準をめざし、一定水準の生産設備と障害のない、共に作業に従事する職員などの配置により、そこが生産の場として機能している作業所も存在する。
さらには、介護人の派遣を不定時に、あるいは常態的に派遣するといった活動、また緊急時の宿泊、次いで自立生活へ向けたトレーニングの場としての宿泊訓練活動などを、作業所の互助活動として行い、さらにそれを発展させ地域の障害者にまで対象を拡大させているなど、地域生活支援センターとして実質的に活動を行っている実態も一部見られるようになっている。
その反面、多くの作業所はそこから雇用へ結びつけるといった活動には、あまり熱心ではなかったのではないかという意見もある。この点について、それは作業所のみの問題ではなく、認可施設も含めた共通の問題であり、障害者の可能性を追及し地域での生活へ、雇用の場へといった実践が作業所や施設の評価につながらない措置や補助体系に問題が起因するという指摘もある。また、関係職員の就労支援に対する意識と実践の向上が課題でもあると考えられる。
一方、障害者雇用の推進の所管は労働行政であり、福祉行政からはそれへバトンタッチするといった発想が強かったのではないかと感じられることもある。その結果、職場での定着率も低くなかなか雇用率も高まらないといった現状が続いていると考える。今後、国政が厚生労働省となったのを受け、府レベルでも労働と福祉の一体となった施策の展開がますます重要な課題である。
昨今の不況下での雇用対策として、ワークシェアリングの必要性が叫ばれているが、障害者雇用の分野でも、グループ就労や短時間雇用など、柔軟な雇用形態が必要である。そうした柔軟な雇用形態への取り組みについて、まず府や市町村など行政が、率先した取り組みが求められる。
柔軟な対応は、雇用の形態に留まらず、一人ひとりに適した職域の開発や職務の抽出などの方法も含めて、公民ともに求められると考える。
また、企業と授産施設や作業所の連携などを通じた活動の強化を一層図ることにより、直接雇用以外の方法での企業の社会的責務の果たし方や社会貢献の姿も今後は求めていかなければならない。
次に、障害児の日中活動については、完全学校週5日制が始まろうとしている今、学童保育の場でも障害児が、障害のない児童と同等に受け入れられているとは言いがたい実態がある。春休み、夏休みに日帰り利用による短期入所が予約でいっぱいであるなどの現状は、地域の中での障害児の日中活動の場が欠如していることの現れである。また、それがかえって児童間の交流を乏しいものとしていることは否めない。今後は、学校の余裕教室などを活用する等の工夫により、障害児との交流を促進する取り組みが地域の中で営まれる必要がある。 (3)今後の障害者の活動と参加の考え方
障害者本人にとっての活動と参加の意味は、自己実現と可能性の追求であり、社会にとってはそれへの支援である。 @職業的自立も自立の一つ。 「手に職」発想は言うに及ばず、一般雇用につくことにのみ価値を見出すのではなく、職業的な自立は、その人なりの自己実現の道筋の一つと位置づけることが必要である。大切な意味は、障害があることによる孤独からの回避であり、社会的役割の構築である。 自宅で病臥する障害者にも、その人しか果たしえない社会的な役割が存在する。この役割を保持・強化することを支援することが最も大切な視点である。
この支援と障害者自身の意気込みの延長線上にさまざまな日々の活動が意味あるものとなっている。
口で絵筆を取る障害者が居られる。その作品が、家族に喜ばれ、友達に喜ばれて次の作品への意欲が起き、そこに生きがいを得るチャンスが潜んでいると考える。
障害者の日中活動には、障害のある本人がいかにその障害と付き合っていくかによってさまざまな姿あるいは段階がある。 A日中活動の目的は、自己実現の追求。
金銭的見返りの得にくい「生きがい活動」としてのデイ活動の場での創造的作品が人に使ってもらえれば、それは社会に貢献している証となる。次にそれをもっと売れるようにすることを考えることは、障害者やその支援者にとって社会に貢献する証を確かなものとする意味で、重要なことである。
しかし、本来楽しいはずのこうした行為が、生産ノルマのごとく自己目的化すると、たくさん作るために障害者は、身体を壊してしまうことがある。時に命を縮めてしまうこともある。
無理をして体調の悪化を引き起こすより、無理をしないで人とのつながりを求めることを重視する精神障害のある人の姿もある。
そうした様々な活動の姿に「自己を実現する」意味が潜んでいるのだろうが、それを一人ひとりが必ずしも明確に意識しているものでもないであろう。むしろ日常的には「生活のため」とか「することが無いのも困る」というほうが一般的かもしれない。しかし、ここで求める「自己」とは、友人や職場の同僚、家族など、社会の中での様々な関係に生きる自己の確認であろうし、その関係の中で自分が認められ、尊重され、それがあるがゆえに、活動が継続できるといった性質のものなのではないであろうか。 B可能性の探求……その1 豊かな福祉的就労の場に。 無理をするのではなく、効率性を高めるといった発想で作業のプロセスを改良したり、簡易なものでも作業機械を導入したりし、改善を図ることは大切な視点である。そのため、こうした分野に精通した人のアドバイスが有効なときがある。こうした支援の仕組みは拡充していかねばならない。
しかし、重度の障害者の多い現状からは、そこに多くの障害のない人を配置するか、よほどの設備整備をしないかぎり、生産効率は高まらないことが多いと考えられる。設備の減価償却もままならない生産性の下では、それの導入自体が借入金の増加につながりかねない。体力にあった分しかできないことが多いのが現実である。この難しさを常に意識しながら、改良への努力は継続されるべきである。 C可能性の探求……その2 訓練ばかりでなく。
従来の職業訓練は、模擬的な環境設定の中で、モデル的作業を積上げて技能の向上を図ろうとしたり、職業的な精神的準備性を高めたり、体力をつけたりとした方法が主流であった。そして、ある程度の準備性が見出せた段階で実習にこぎつけたりする方法がとられていた。しかし、職業的に重度の障害のある場合、いつまで経っても訓練の日々が続くという現実も存在した。近年、その反省から、模擬的な場所ではなく、まず実際の雇用の場に出て、そこの環境設定や作業プロセスの改善、具体的な支援者の助言などを通じて雇用の場への適応をめざす方法が模索されつつある。こうした方法による福祉的就労から一般雇用への移行の進展が期待される。トライアル雇用やジョブ・コーチは、障害者の雇用拡大にとって大切な制度として拡充が望まれる。 D可能性の探求……その3 就労と生活の両面からの支援を。
今まで、地域で暮らす障害者に対してグループホームのバックアップや各支援センターの相談でその生活に対する相談や支援が行われてきた。しかし、職場内の人間関係や雇用問題などについてはそれとは別の体系による労働施策に委ねる形が多かった。近年、継続的・安定的な就労生活を維持するためには、二者を分離して実施するのではなく、同一機関が両面からフォローすることが有効との考え方が広まっている。「障害者就業・生活支援センター」事業の取り組みは、こうした方向をめざすものであり、その実践への評価も高く今後一層の展開を図らねばならない。 E可能性の探求・・・その4 柔軟で多様な一般就労の形態を。
多様な障害の実態や個々の障害者の多様な生き方を考えたとき、その雇用のあり方も多様な形態が望まれる。そうした意味では、福祉的就労の実態のほうが、一歩先に多様化が進んでいる。画一的な8時間労働を前提とした雇用形態ではなく、短時間勤務や在宅勤務、グループ就労など多様な雇用の形態が障害者の一般就労の可能性を広げていくと考えられる。こうした仕組みの進展が、福祉的就労の場から一般就労への可能性を広げていくことにつながると考える。 F可能性の探求・・・その5 中途障害者に対するリハビリテーションの重要性
内部障害者をはじめ50歳以降の壮年期や高齢期での中途障害者が増加している。その背景には、高齢化や医療技術の向上など複数の要因が推測されるが、特に壮年期での中途障害者の医学的治療の次に続く、社会参加へ結びつく援助の仕組みが必要とされる。広域的なリハビリテーション機能と地域レベルでのリハビリテーション機能がどのような場で用意されるのが適切か。またその活動は、理学療法や作業療法といった手段での機能回復訓練に留まらず障害の受容から社会活動への参加まで一人ひとりの障害の程度に即した段階的な援助が必要とされる。特に、こうした障害者にとって雇用や就労への段階的な支援は、重要な意味を持っており、この分野での適切な支援の有無がその後の生活の質に大きく影響すると考えられる。こうした点から、それに携わる専門技術職員の確保と効果的な配置が今後とも重要な検討課題である。 (4)IT(Infomation Technology:情報通信技術)活用支援
インターネットや携帯電話の爆発的な普及は、「IT革命」と呼ばれるように、産業・教育・福祉などあらゆる分野に及び、社会経済システムに大きな変革をもたらしている。
このようななか、国においては、「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(IT基本法)を制定するとともに、「e−Japan戦略」を決定し、日本を世界の中の情報通信の最先端国家とするため「超高速インターネット網の整備」や「電子政府の早期実現」などの各種政策を打ち出している。
大阪府においても、昨年2月、行政内部の業務革新と併せて、府民に対して簡単・便利な電子サービスを提供する「府民本位」の行政システムを構築するための行動目標として「電子府庁アクションプラン」を策定し、ITを活用した電子申請の導入などを進めるとしている。
このITは障害者にとっても、極めて大きな意義を秘めている。インターネットなどネットワークの発達は、障害者にとって必要な情報の入手や自らの情報発信を容易にするとともに、コミュニケーションを拡大し、社会参加の促進や生活の質の向上に大きな役割を果たすものと考えられる。平成12年(2000)の総務省の調査でも、インターネットを利用する障害者の約9割が、利用後の生活の変化について「よい方向に変わった」又は「どちらかといえばよい方向に変わった」と回答しており、障害者の生活向上のためにIT活用は効果的であることが分かる。平成13年(2001)版の国の「障害者白書」でも、「障害のある人とIT〜ITが拓く新たな可能性〜」を副題として、障害者とITの問題を取りあげ、障害者の情報通信の現状やIT利用に対する支援策について解説するなど今後この分野での障害者の参加の重要性を示唆している。
また、ITは障害者の能力を引き出し、ネットワークを活用した在宅勤務など、新たな就労の可能性を切り拓いていくための重要な手段でもある。
さらに、15年度より施行される「支援費制度」においては、障害者にとって、各種福祉サービスの情報を如何に収集して選択し、組み合わせるかということが求められ、そうした点からもITの活用は大きな意味を有することとなる。また先の「電子府庁」への障害者自身からの確実な利用など今後の障害者の情報社会への参加の問題などを考えると、これをいかに使いこなすかが、障害者の生活にとって非常に重要な意味を持っている。
しかし、障害者のIT活用の現状は、例えば、障害特性にかかわらず入力を可能とする機能を有しているパソコンは少数にとどまっていたり、画像情報を含むホームページ上に、画像情報を代替する文字情報がない場合、視覚障害者が画像の存在を把握できないなど、機器やシステムが必ずしも障害の特性に応じたものとなっておらず、また、ITを知り、体験し、技能を取得する機会も少ないなど、障害のない者との間に様々なデジタル・デバイド(Digital Divide:デジタル情報格差)が生じている。
このようにITは、障害者にとって新たな可能性を拓く大きな力となることが期待される一方、これまで以上に情報へのバリア(障壁)を高めて「情報弱者」にしかねないという負の側面が危惧されている。そのため、情報通信技術(IT)基礎講習会の開催や、障害者がパソコンを使用する際に必要となる専用ソフト(画面音声化ソフト等)や周辺機器(大型キーボード等)を購入するために要する費用の一部を助成する障害者情報バリアフリー化支援事業などが実施されてきた。しかし、今後の障害者のためのIT関連施策としては、社会参加、地域生活の支援、就労支援など様々な分野での活用の側面が考えられ、また障害者のニーズも、ITへの入門段階のものから、ITを使いこなして就労に結びつけるレベルまで、幅広いものとなる。そのため、府は、これらの方向を見据えて、障害者のためのIT活用支援のため、「大阪府障害者ITサポートセンター」等の整備に着手した。今後とも府をはじめ行政は、こうしたITの効用と格差への危惧といった両面を踏まえ、デジタル・デバイドの解消を目指し、障害のある人もない人も同じように、IT革命の成果を享受できる「情報バリアフリー社会」の実現に向けて、支援策を講じていくことが重要である。 |
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