医療費の単価を決める中央社会保険医療協議会(中医協)が4月からの診療報酬改定の内容をまとめ、患者への領収書の発行も盛り込まれた。しかし、中身は「保険内・保険外などの小計のみ」と記載されただけだった。
中医協では、医療の個々の正式名称や単価・数量等をすべて記した明細書の発行を進めるか否かが最後まで焦点だった。この議論が反映されたとはとても言えまい。
明細は、患者にとって自分がどんな内容の診療を受け、いくらかかったかという、医療の基本データである。
どの医療機関も、医療費の7割を支払う健康保険組合などに対して処置名・薬名・検査名等の正式名称をすべて単価と共に記した請求明細書(レセプト)を発行している。それなのに、3割を負担する患者本人には出さない。厚生労働省も患者に見せないよう指導していた。
医療事故や薬害の被害者たちの長年にわたる訴えで、患者・遺族にレセプトが開示されるようになって8年たつが、そのためには日を改めて健保組合などに出向かなければならない。そのうえ、1カ月分がまとめられているので個々の治療はわかりにくい。
それに早ければ3〜5年で破棄されてしまう。薬害肝炎事件では、カルテやレセプトが破棄され、投与された血液製剤がわからない患者がいた。妊婦が知らない間に点滴に入れられた陣痛促進剤の副作用で胎児が脳障害を負うケースも後を絶たない。
中医協は数年前、患者に薬を手渡す際に、正式名称や副作用などの説明文を添付すれば100円請求できるようにした。これで患者が持ち帰る薬の情報提供が進んだ。
今回、医療機関のIT化を進めるため「電子化加算」が期間限定ながら新設されることになっている。私は委員として「レセプト並みの明細書の発行」がその必要条件になると感じていた。
実際、明細発行を促すために診療報酬を加算すべきだという意見が医療側の一部からも出ていた。3年前から明細を発行する愛知県のトヨタ記念病院や、今春から発行を予定する大阪府の枚方市民病院の例からと手間や費用がとくにかからないことも証明されている。
にもかかわらず、議論を踏まえて出されるはずの厚労省の答申原案では、「電子化加算」の必要条件が「明細書」ではなく、25年以上前から医療機関に指導してきた「小計のみを記載した領収書」にすり替えられていたのである。
厚労省は、明細書発行に努めるよう文書で通知するというが、対象は「希望者」だ。「希望者に限定すると情報開示の大きな壁になる」という意見を公益の立場の委員が出していた事実を考えても一連の決定は非常に不透明だ。
薬害エイズ事件の反省で厚労省の多くの審議会は公開されたが、中医協は最も遅れ、贈収賄事件の場にもなった。
中医協は公聴会を開いたり国民から意見を募集したりしているが、医療の中身や単価が知らされていない国民がどうして議論に加われるだろう。改革に「患者・国民の視点の重視」を掲げても実を伴っていない。医療費の自己負担が増やされ、保険料も値上げされる中、単価の明細を隠し続けることは許されない。
明細書の発行こそ、中医協改革の原点だ。そして医療改革そのものの切り札であることを国はしっかりと認識すべきである。