高齢福祉政策激動の部屋
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この国の医療を変えたい
福祉を変えたい
─大熊さんはこの国の医療と福祉の現場に多くの変革をもたらしてきました。今の福祉政策の多くを表で裏で、支えてこられました。
大熊 1965年に科学部に移ってから、日本の医療の世界におかしなことがたくさんあると気づきました。医師が看護婦さんを召使いみたいに見ていたり、カルテは適当にしか記入しなかったり、患者に見せなかったり……。さまざまな理不尽なことについて記事にしました。その中で、透析している方や難病の方といった、医学だけでは解決できない問題か抱えている方々とのお付き合いが始まりました。 ─医療・福祉現場の悲惨さと、モデルになるものを見て、行政と政府が少し変わることを実感したわけですね。
大熊 ええ。「あってはならない現実」と「こうすればできるという実践」の両方を見てしまったのです。
─そうですね。鷹巣町は日本でもっとも高齢者福祉政策が進んだ町だと思います。特徴的なのは、住民が積極的に自分たちの町を変えていっていることですよね。そのきっかけを大熊さんがつくられた。医療・福祉の現場、行政、政府に加えて、首長(自治体)、住民が「変わる」姿を見てこられた、あるいは、実際に「変われますよ」ということを導いたということなんでしょうね。
大熊 今年7月に鷹巣町の老人保健施設を訪ねましたら、雰囲気がデンマークっぽくなっているんですよ。デンマークっぽいっていうのは「さあ、みんなで何かやりましょう」というのではなくて、ぼわっとしていられるっていう雰囲気です。それから、老人ホームでテレビを見ているお年寄りの姿はだいたい寂しいでしょう?テレビの前に放置されている印象です。鷹巣町では「水戸黄門」を見ているお年寄りのそばにケアワーカーさんが寄り添って、楽しそうに話をしているんです。
「変えられる」という実感を
若い人たちに伝える
─そういった経験を大学では若い人たちにどんなふうに教えていらっしゃるんですか。
大熊 大学では、大学院生のゼミだけでなく、学生さん向けの授業もしています。3、4年生+院生向けの授業は、前期が「福祉とメディアの人間科学」、後期が「医療とメディアの人間科学」というタイトルです。なるべく当事者をお招きするようにしています。大阪の駅にエスカレーターやエレベーターをつける運動に取り組み、交通バリアフリー法のきっかけをつくった尾上浩二さんという電動車いすを利用している方や、顔にあざがあったり、大きなこぶがあったりという方たちの組織、「ユニークフェイス」の代表の石井政之さん、精神医療人権センター事務局長で、「ぶらり訪問」という形で精神病院を訪ねて改革を進めている、みずからも精神病を体験した山本深雪さん……といった風です。 とりあえず、誰でも簡単に調べられる☆印のチェックからどうぞ
◆外出の楽しみを支える仕組み 1.レストラン、店、学校がお年寄りや障害者をもつ人に優しいバリアフリー 2.車椅子で走りやすい平らな道路舗装 ☆ 3.駅にエレベーターエスカレーター 4.「福祉のまちづくり条例」づくりに、障害をもつ人たちが参画 5.難聴の人たちのための要約筆記や手話サービスを快く提供 6.舞台の音を補聴器利用者がくっきり聞くことができる磁気ループなどが集会場に 7.階段のないノンステップバスや車椅子利用者送迎用の車が町を走っている 8.車椅子の人を外でよく見かける
◆食事を作れなくても 9.毎日型の宅配サービスがあり、食事会も(福岡県春日市など各地ですでに) 10.おいしくて暖かく、選択できる(食事を作れず心ならずも入院・入所する人も)
◆昼を過ごすデイサービス、デイケアなどが 11.小学校区にひとつある ☆12.多様な活動があって選べる("幼稚園風"はお年よりの誇りを傷つける) 13.痴呆のお年寄りを受け入れてくれる ☆14.送り迎えしてくれる(家族だけでは無理) 15.早朝から深夜までの利用も可能 16.介護保険で「自立」と判定されて人が利用できる憩いの場もある
◆ホームヘルパーは ☆17.休日や夜も快く来てくれる(敬老の日はお休みという市町村は落第) 18.さすが訓練を受けたプロ、という仕事ぶり 19.困ったとき、電話1本で訪ねてきてくれる 20.痴呆症に詳しい専門ヘルパーもいる 21.役場の職員と同等の待遇 ☆22.男性のヘルパーがいる(将来性なる誇れる仕事である証拠) 23.小学校の先生と同じぐらいの数がいる(北欧はこのレベル)
◆年を取っても住みやすい家 ☆24.住宅改造の申し込みが簡単(電話1本できてくれる市町村も) 25.貸付ではなく、まちの予算で補助(貸し付けだと家族に気兼ねして我慢する傾向) 26.臨機応変に改修できるプロがいる 27.SOSベル付きでバリアフリーのケアハウスや公営住宅もある
◆補助器具、福祉機器の提供システムは 28.上下するベッド、不自由を補う自助具、車椅子などを貸し出す仕組みが身近に 29.作業療法士などが体に合わせてくれる(入れ歯と同じで会わない車いすは有害) 30.補助器具センターで試せる 31.補聴器を調整する専門家がいる
◆宅老所やグループホーム、特養ホーム・老人保健施設・療養型病床群などの介護施設を訪ねると ☆32.入居者が思い思いの髪型をしている(ザンギリの「養老院カット」なら落第) ☆33.和服も含め、よく似合う服装をしている(着替え、お洒落はなによりのリハビリ) ☆34.つなぎ服を着ている人がいない(つなぎ服は技術未熟の証拠) ☆35.嫌なにおいがゼロ(臭いはオムツ替えを怠っている証拠) ☆36「寝かせきり」にしないで起こしている(いまどき、寝かせきりなら、劣等生) ☆37.病院臭さがなく、住まいの雰囲気 38.個室化が進んでいる、あるいは計画がある(グループホームは個室が標準) ☆39.居室に思い出の家具が持ち込まれている 40.お年寄りと職員が、一緒にゆったりと食事 (チューブ食だらけ、並べてせかせか餌を与える風情なら落第) 41.夕食は普通の家庭のように5時以降 42.夕食後にも楽しみがあり、起きて過ごす 43.夜も入浴できる(裸るして行列は論外) ☆44.職員がゆったり、生き生き 45.リハビリテーションの専門職がいる 46.歯科衛生に配慮(入れ歯を取り上げる先進国はありません。歯は誇りと健康のもと) 47.かかりつけのお医者さんや訪問看護婦さんと連携が取れている。 48.なくなったときは入居者達でお見送り(裏からこっそりは、冷たい施設の証拠) 49.不明朗な費用徴収がない(地獄の沙汰も金次第を臭わすなら危ない) 50.家族や利用者の自治会がある ☆51.町はずれや工業地帯でなく、町の中にある 52.地域のお年寄りのためのデイサービスやショートステイにも熱心 53.近所づきあい、買い物、散歩、喫茶店、居酒屋の利用などで、地域にとけ込んでいる。 54.地域の行事や子供達との交流が盛ん 55.ボランティアが楽しげに出入りし、入居者も心から楽しみにしている様子 56.一人一人の人生をよく知り、ほこりを大切にし、さりげなく支えている。 ☆57.玄関ホールや理事長・施設長室より、お年寄りの居室にお金をかけている 58.同族経営の色彩がなく、経営がガラス張り ☆59.お年寄りがいい笑顔 ☆60.首長さんが暮らしたくなるところだ
◆病院・診療所・訪問看護ステーションは 61.自宅で最期まで暮らしたい、自宅で死を迎えたいという希望を理解してくれる 62.福祉サービスをよく勉強している 63.お医者さんが気軽に往診、訪問看護婦、ヘルパーとパートナーの関係 64.理学療法士が訪問リハビリ、地域リハビリ 65.歯科医、歯科衛生士がお年寄り思い。 66.かかりつけ医や訪問看護婦と夜も連絡OK 67.縛ったり、閉じこめたり、寝かせきりにしたり、口から食べられるのにチューブ食にする病院が近隣にない (あれば、あなたもいずれはそこへ。病院は介護保険施設でないため、「身体拘束禁止」の治外法権)
◆介護保険事業について 68.コンサルタント会社に任せず役場職員がお年よりの元に足を運んで調査し計画立案 69.公開の場で、住民が保険料やサービス基準を決め、納得 70.介護保険の最低基準に甘んじることなく、「横だし」「上乗せ」のサービスを用意 71.家族がいなくても自宅で暮らせるサービス水準を一般会計からも拠出して保障。 72.痴呆の人の訪問調査には、調査員が複数、何度も足を運ぶ 73.調査票や医師の意見書のコピーを本人に 74.介護認定審査会のメンバーに現場をよく知る人を委嘱。判定会議には調査員も同席。 75.保険料や利用料が払えない人のために、きめ細かな仕組みを独自に作った。 76.苦情「処理」ではなく苦情「解決」の仕組みがある。 77.計画づくりや見直しの委員会に、介護を体験した人々や女性委員が5割はいる。
◆役場の担当者や在宅介護支援センターは 78.入院中から退院後のサービスを計画 ☆79.行政が「出前」「御用聞き」の姿勢 ☆80.気軽に相談できる雰囲気、親身な応対 81.たらい回しせず、一カ所で相談や手続き 82.福祉の担当者や保健婦さんがいきいき 83.保健所が、老人病院や精神病院の実態を利用者の身になって、厳しく調べ公開 84.障害者の自立支援センターの知恵も借り、当事者の目線で行政 85.介護事業者の詳細な情報を集めて公開 86.草の根グループのNPO法人化を支援 87.介護サービスの質をチェックする機関(オンブズマンなど)を作り、 立ち入り調査・勧告・公表の権限を与えている
◆市町村議会や審議会のメンバーは 88.住民には無用のハコモノづくりより保育や福祉に関心のある議員が沢山いる 89.福祉の雇用効果、経済効果に気づいている人が大勢いる ☆90.委員会や審議会が公開されている ☆91.メンバーに女性が大勢いる
◆市長さん、町長さん、区長さん、村長さん、知事さんは 92.介護を社会のみんなで支えた方が、家族の愛情が枯れないことを知っている 93.住民本位の行政を進める市町村長の会・福祉自治体ユニットなどに加入して勉強 94.ホームヘルパーの待遇を高める姿勢 95.手続きの簡素化のために機構改革をした 96.選挙のとき福祉を唱えるだけでなく、実際に福祉予算を増やした。 97.敬老金をばらまくより、サービス供給体制を作る方を重視している 98.小中学校の空き教室や給食設備、敷地、建物をお年寄りのために活用するなど、 縦割り行政を乗り越えようとしている 99.ヘルパーや介護施設を自分自身も利用する可能性があると考えている。 100.事業者に「丸投げ」せず、自治体の責任で安心を補償しようという信念
★このチェックポイントは、日々改善しています。みなさまのご意見をお寄せください(メールはこちら)。
(『ひょうひょう』(財)長寿社会開発センター刊2001年12月号) |
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