高齢福祉政策激動の部屋

大阪大学大学院教授(ソーシャルサービス論)、元厚生労働省老健局長・堤 修三さん

 今回の介護保険改革の内容には、政府の「設計主義的発想(制度を動かせば、現場を自由に変えることが出来るという発想)」がいくつか見られますが、これは、ファイナンスを行う制度と市場で行われるサービスの取引とは別であるという冷静な認識を欠いたものだと思います。
 制度に出来ることは、若干の誘導と規制にすぎず、それとても市場が政府の意図したとおりに動くという保証はありません。
 求められることは、現場の皆さんが、制度に引きずられることなく、良いケアをするために工夫し努力すること、政府は現場の努力や工夫を阻害しないで、良いものがあればそれを制度に写し取っていくことでしょう。

 もちろん、市場における取引といっても、保険制度で底上げされた準市場ですから、サービスの提供者も購入者も節度が求められることはいうまでもありませんし、福祉用具という人目につきやすい物ですから、一部の乱用が大きく取り上げられやすいという側面もあります。 その点を考えれば、全く野放図というわけにはいかないかもしれません。
 ただ、その場合でも、現場の実情や利用者の声を無視して、役所が制度をいじることが良くないことは上述のとおりです。

 まず、実際の事例に即して、利用者の声を集めることだと思います。その意味で、この会議で多くの利用者やケアをされている方々から実情を踏まえた声が上げられることは大変有意義なことであると思います。

光野有次さんからの質問
 「ファイナンスを行う制度と市場で行われるサービスの取引とは別である」とありますが、もう少し詳しくご説明ください。

お答え:
 介護保険法は、保険給付として「介護サービスの給付」という形式ではなく、「介護サービス費の支給」という形式を取っていますが、これは、実体として、まず市場における介護サービスの取引があって、その費用の一部(9割)を介護保険制度で補填するということを意味しています。この点、医療保険の世界では、まだ「療養の給付」という形式が残っていますが、実態は医療サービス市場が先行し、医療保険制度が費用補填しているという関係は、介護保険と変わりはありません。
 もちろん、費用補填の対象となるものを明確にするために、介護サービスの種類や範囲など について、介護保険制度で規定していますが、そのことは、上記の本質を否定するものではないと考えます。
 例えば、小規模多機能サービスは、当初、介護保険制度では想定していませんでしたが、介護サービス市場において、利用者のニーズと現場の工夫から生まれ、後に、介護保険制度が費用補填の対象に取り入れたということですから、私の申し上げていることの証左といえるでしょう。
 「ファイナンス」といったのは、'費用の補填'の意味です。「介護サービス市場」は、'介護の現場'のことです。
 もちろん、人によっては、サービスの提供・利用と費用の補填は表裏一体だという人もいるでしょう。しかし、介護保険法の給付形式はそうではありませんし、また離して考えるほうが実態にもあっていると、私は考えています。


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