高齢福祉政策激動の部屋

宣言

 今年1月26日、社会保障審議会介護給付分科会は、4月からの介護報酬と指定基準の改定案を諮問し、厚生労働省は原案通り了承した。原案は、要介護軽度者を対象に新予防給付の枠組みを創設する一方で、給付基準が引き下げられる内容となっている。これにより軽度者給付費の9割を占める通所介護、訪問介護、福祉用具貸与が大幅に抑制されることになる。
 福祉用具は、障害を持つ方や高齢者の自立を支援するばかりか、生活の質そのものの向上に大きな役割を果たし、その方の尊厳を保障する用具である。
 介護保険は、その基本理念に「高齢者の尊厳の保持と自立支援」を上げている。そうであるならば、どんなに費用の伸びが大きくても、尊厳の保持と自立支援につながらない改定は避けるべきである。認定調査の基準で「歩行」が「できない」(歩行距離目安は5m)ということで、車いすは不要であるいう論理は、単に人体機能の一面しか見ていない判断である。生活の質とは、他者との関係や生活環境など、生活行為すべてを指すものである。
 厚生労働省は一昨年、「介護保険における福祉用具給付の判断基準(案)」(以下ガイドライン)が出された時点で「パブリックコメント」を実施している。この結果公表の中で「利用者の介護サービス選択権利を奪うのでは?」という懸念に対し、「(前略)福祉用具の選定を行う場合の標準的な目安であって一律に使用を制限するものではありません。(中略)その者の置かれている環境等を十分に踏まえて、必要性が判断されるものです」と回答している。
 さらに今回の改定案が出た段階では、「『別に厚生労働大臣が定める者』は除く。除かれる対象は車いすの場合、日常的に歩行が困難な者である。日常的としたのは、『要介護認定で5m歩行可ということだけで判定するのは適当ではないため』」という趣旨の発言を新聞のインタビューに答えている。
 ところが、今回の改定にあたって実施したパブリックコメントでは、「車いすについては、外出支援という観点ではないものの、日常生活範囲における移動の支援が特に必要と認められる場合について、例外的に介護保険の給付対象」と公言している。
 この認識は、車いすは「外出支援用具ではない」という点、さらに「移動の支援が特に必要」と誰がどのような基準で認めるのかという点、「例外的に」とは認められるのは極めてまれな場合のみと規定している点など、明らかに前時点よりも後退したものである。特殊寝台にいたっては、一昨年のガイドライン時には利用が想定しにくくないとしていた「立ち上がりが困難な者」が、今回の改定では「立ち上がり困難者」には不要との認識を示している。
 これらの回答からうかがえることは、「その方がどんな生活をするのか、したいのかは介護保険では全く関知しない」ということである。この考え方のどこに「尊厳の保持と自立支援」があるのだろうか。
 本日、私たちは、実際の事例に則して、利用者やケアをしている方々から実状を踏まえた声を集めた。そして、あらためて現場の実情や利用者の声を無視した制度改定は、容認できないことを確認した。
 私たちは、今後とも福祉用具を必要としている方々や関係団体との連携と協調をはかり、厚生労働省や現場のケアマネージャーなどとの調整や意見交換を重視しながら、とくに下記の諸点の要望実現に向けて尽力していく所存である。引き続き、国民の皆さんのご理解とご支援を心から呼びかけます。

  1. 厚生労働省は、介護支援専門員・福祉用具専門相談員等の専門性を尊重し、それら専門職および利用者によるサービス担当者会議という「現場」で行うアセスメントを第一に考えて下さい。
  2. 保険者は、すでに福祉用具貸与を受けている利用者に対し、適切に必要性の判断を行うとともに利用者への説明責任を果たして下さい。
  3. 介護支援専門員・福祉用具専門相談員等専門職は、サービス利用者の生活を「尊厳の保持と自立」の観点で捉え、利用者のQOL向上に全力をあげて下さい。

2006年3月25日
『福祉用具国民会議』緊急フォーラム参加者一同

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