高齢福祉政策激動の部屋
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川崎医療福祉大学助教授 齋藤芳徳さんから
私がこの紙面を借りて皆様にお伝えしたいことは,あえてインパクトの強い表現を用いれば, ということです。 高齢期においては,年を重ねるごとに環境への適応能力が減失していきます。福祉用具は,適応能力の減失の影響を最小限に押さえたり,不足分を補ったりするだけでなく,ストレスを和らげ,最終的には,利用者の自負心を持ち続けることを補佐するモノでなければなりません。 例えば,安易な車いすの使用は,歩行不能者を増やす危険性を孕んでいます。一方で,適切な車いすの使用によって,座位姿勢の安定とともに移動能力が向上し,座らせきりに近い生活から,生活に積極性がみられるようになった事例も確認しています。この事実は,福祉用具が利用者の生きようとする意欲を引き出して支えるきっかけになることを示しています。
心身の衰えを感じている利用者にとって,生きようとする意欲を引き出して支えるきっかけは,各人異なるでしょう。畑仕事かもしれませんし,縁側での世間話かもしれませんし,車いすで外出して友人に会うことかもしれません。今回の介護保険制度の改正では,要支援・要介護1の利用者は,福祉用具(車いすやベッドなど)のレンタル使用が出来なくなるということですが,利用者に対して福祉用具が必要か不必要かについては,生活の質やケアの目標をどのレベルに設定するかで異なると考えます。利用者が外出する機会や立ち上がる機会を失うことによって,生きようとする意欲が失われる可能性が生じることを危惧しています。
利用者の生きようとする意欲を引き出すきっかけづくりは,「寝かせきりや座らせきりの利用者をつくらない」ということに繋がります。要介護高齢者の将来推計は右肩上がりですが,利用者の自立を支援する福祉用具が適切に支給されていけば,この推計数は減る可能性が高いと考えています。そして,要介護高齢者が減れば,介護負担も減り,財政負担も減ると思われるので,多くの人々の幸せに寄与する可能性も高いと考えています(車いすなどの福祉用具を使用しないで生活できることが望ましいことはいうまでもありません)。
このような背景を踏まえて,多くの利用者やケアの現場の福祉用具に関する生の声を社会に訴えるための「福祉用具国民会議」は,大変有意義な集まりであると思います。利用者やケアのニーズを引き出し,「寝かせきりや座らせきりの利用者をつくらない」社会が到来することを祈念しております。 |
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