らうんじ・えにし

男ざかり(窓・論説委員室から) 1994年6月25日夕刊

「女ざかり」という映画を見た。吉永小百合さんが演じる主役の女性論説委員は、きれいだし、文章はすらすら書くし、同業の女である私は、つい、浮き浮きしてしまう。
ところが、一緒に見た同僚たちは、ひどく立腹している。「男の論説委員ときたら、まるで妖怪(ようかい)だ」

そういわれてみると、映画とわが職場はずいぶん違う。
たとえば、映画での論説委員たちは、社説を書くのをおっくうがり、新人に押しつけたり、逃げたりする。
わが部屋は競争率が高く、今週も3本が先送りになった。

どれをとりあげるかは、毎日昼の会議で決まる。事前に司会役の副主幹に重要性を訴えておくことが肝要だという人もいる。原稿を一応完成しておいた方が採用されやすいという説もある。財政担当と環境担当は、論説委員室で深夜書き上げ、ソファで夜明かしする常連だ。

登場人物の年齢も違う。
女主人公に社説を代筆してもらう落ちこぼれ論説委員を演ずる三国連太郎さんは、おん年71歳だというし、他の論説委員もかなりお年に見える。
一方わが同僚。目つきの鋭い牛若丸みたいな政界担当、ネクタイをした眠狂四郎といった風情の文化担当、貴族には見えないが独身のヨーロッパ担当……。映画以来、わが同僚が若々しく男前に見えてしまう。

そういえば、女主人公と私もずいぶん違う。
医療・福祉担当の私はといえば、締め切りギリギリまで悩みに悩む。社説を書く日には、わが家から資料をリュックにぎっしり、時には両手にも紙袋をさげて出社するので、ギックリ腰気味になった。
それもこれも、新鮮な材料と提言で読者のお役にたちたい一心からのことであります。どうぞ、ご愛読を。〈雪〉

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