資料の部屋

新たな高齢者介護システムの構築を目指して
高齢者介護・自立支援システム研究会-----1994.12



(新介護システムの創設)

  •  かつてのように高齢者が限られた存在であった時代とは異なり、今や国民の半数以上が80歳を迎える社会となっている。しかも、年金制度は成熟化が進み、高齢者の経済的な自立への支えとして機能しつつある。このような中にあって、高齢者が自らの有する能力を最大限活かし、自らが望む環境で、人生を尊厳を持って過ごすことができるような長寿社会の実現が強く求められている。
     そのためには、これまで述べてきたように、介護に関連する既存制度の枠組みの中での対応では限界があることから、新たな基本理念の下で関連制度を再編成し、21世紀に向けた「新介護システム」の創設を目指すことが適当である。

(高齢者の自立支援)

  •  今後の高齢者介護の基本理念は、高齢者が自らの意思に基づき、自立した質の高い生活を送ることができるように支援すること、つまり『高齢者の自立支援』である。
     従来の高齢者介護は、どちらかと言えば、高齢者の身体を清潔に保ち、食事や入浴等の面倒をみるといった「お世話」の面にとどまりがちであった。今後は、重度の障害を有する高齢者であっても、例えば、車椅子で外出し、好きな買い物ができ、友人に会い、地域社会の一員として様々な活動に参加するなど、自分の生活を楽しむことができるような、自立した生活の実現を積極的に支援することが、介護の基本理念として置かれるべきである。
  •  したがって、新介護システムは、こうした基本理念を踏まえ、1.予防とリハビリテーションの重視、2.高齢者自身による選択、3.在宅ケアの推進、4.利用者本位のサービス提供、5.社会連帯による支え合い、6.介護基盤の整備、7.重層的で効率的なシステム、を基本的な考え方とすることが求められる。
1.予防とリハビリテーションの重視

(予防重視の考え方)

  •  まず第一に、寝たきり等の防止に最大の力を注ぎ、若い頃から日常生活における健康管理や健康づくりを進めるとともに、脳血管障害や骨粗しょう症、更には老人性痴呆などの原因疾患の予防や治療に関する研究を推進していく必要がある。
  •  予防重視の考え方は、介護サービスの提供においても貫かれる必要がある。従来の制度においては、例えば、福祉用具にしても、高齢者本人の障害が固定してからようやく貸与されるケースも見られたが、このようなことがいわゆる寝たきりを招き、かえって社会的費用の増加をもたらした面があることも否定できない。新介護システムにおいては、サービスが必要な場合には、迅速かつ簡単な手続きによりサービス利用が行われるような体制が求められる。
  •  また、介護を必要とする状態になった高齢者は、二次障害や三次障害を次々と引き起こす場合が多い。したがって、実際のケアにあたっても、次に起こり得る事態を予測し、それを防ぐための予防的な対処を行うことが重要である。既に発生した障害に対応するだけという後手後手のケアは、高齢者の「生活の質」の向上につながらないばかりか、予防的なケアに比べ結果として多くの労力と社会的費用を必要とすることになる。

(地域リハビリテーションの推進)

  •  そして、心身の機能が低下したことによって万一介護を必要とするような状態になった場合には、できる限り早い段階から適切なリハビリテーションを提供する必要がある。また、高齢者の社会参加を支えるためには、リハビリテーションの概念を大きく広げていくことが重要である。従来の施設や病院等における医学的、機能回復的なリハビリテーションだけでなく、高齢者本人の意思によって地域社会の様々な活動に積極的に参加できるように、日常生活の中にリハビリテーションの要素を取り入れ、地域全体で高齢者を支える取組みを推進していくことが求められる。
2.高齢者自身による選択

(「与えられる福祉」から「選ぶ福祉」へ)

  •  高齢者は社会的にも、経済的にも自立した存在であることが望まれる。社会の中心的担い手として行動し、発言し、自己決定してきた市民が、ある一定年齢を過ぎると、制度的には行政処分の対象とされ、その反射的利益(行政処分の結果として受ける利益)を受けるに過ぎなくなるというのは、成熟社会にふさわしい姿とは言えない。
     社会環境の変化を踏まえ、介護が必要となった場合には、高齢者が自らの意思に基づいて、利用するサービスや生活する環境を選択し、決定することを基本に据えたシステムを構築すべきである。

(選択を可能とする条件)

  •  こうしたシステムを構築するにあたっては、高齢者の選択に基づく自己決定を実効あるものとする観点から、次のような点に配慮する必要がある。
    1.  所得の多寡や家族形態等に関わりなく、サービスを必要とする全ての高齢者が利用できること(サービスの普遍性)
    2.  サービスを受ける場所やその種類・内容によって、利用手続きや利用者負担に不合理な格差がなく、公平であること(サービスの公平性)
    3.  サービスの内容や質が社会的に妥当な標準に沿うものであり、かつそれが適切に評価されること(サービスの妥当性)
    4.  利用者側に十分な情報が提供されるとともに、専門家が高齢者や家族を支援するような体制が整備されていること(サービスの専門性)

(緊急的な保護措置)

  •  サービス利用の必要性が高いにもかかわらず、放置されていたり、時には虐待されていたり、あるいは本人や家族が利用を拒絶しているようなケースなどにおいては、本人の自己決定にも限界がある。
     このような自己決定に馴染まないような場合については、緊急性があって、高齢者本人の福祉のために必要であることが明らかな時には、例外的に、行政機関が適切なサービス利用を確保するような仕組みが必要である。
3.在宅ケアの推進

(在宅ケアの重視)

  •  高齢者は、それぞれ長い人生経験の中で培い、形成してきた人間関係や価値観、ライフスタイルを有しており、高齢者の自立した生活は、そうした「人生の継続性」の上に成り立つものである。
     言うまでもなく、家庭は生活の基盤であり、高齢者の多くは、できる限り住み慣れた家庭や地域で老後生活を送ることを願っている。このような希望に応え、まず第一に、高齢者が無理なく在宅ケアを選択できるような環境整備を進めることが不可欠である。

(家族による介護)

  •  高齢者にとって一番大切なものは何か、という問いに対しては、ほとんどは「家族」という答が返ってくる。それ程高齢者にとって、家族の存在は大きい。在宅ケアにおいて家族が果たす役割は極めて大きく、実際に、家族が両親や配偶者を愛情を込めて懸命に介護している家庭が数多く見られる。こうした家族による介護については、制度的にも適切に評価されるべきである。
  •  しかし、一方で、家族による介護に過度に依存し、家族が過重な負担を負うようなことがあってはならない。在宅ケアにおける家族の最大の役割は、高齢者を精神的に支えることであり、そのためには高齢者と家族との間で良好な人間関係が維持されていることが当然必要となる。家族が心身ともに介護に疲れ果て、高齢者にとってそれが精神的な負担となるような状況では、在宅ケアを成り立たせることは困難である。

(在宅サービスの拡充)

  •  したがって、現在大きく立ち遅れている在宅サービスを大幅に拡充し、在宅の高齢者が必要な時に必要なサービスを適切に利用できる体制作りを早急に進めていく必要がある。そして、一人暮らしや高齢者のみの世帯であっても、希望に応じ可能な限り在宅生活ができるよう支援していくべきである。特に、重度の障害を持つような高齢者や一人暮らしで介護が必要な高齢者については、24時間対応を基本としたサービス体制の整備が求められる。
4.利用者本位のサービス提供

(高齢者の「生活の質」の向上)

  •  介護サービスは、何よりも利用者側の立場に立ってサービスが提供されなけらばならない。しかし、現実には、「縦割り」とか「お役所仕事」といった言葉に表現されるように、提供者側の事情や法令・行政制度の論理が優先しているように感じられる場面に出会うことがある。あくまでも高齢者の「生活の質」の維持・向上を目指す観点から、利用者本位の姿勢が貫かれる必要がある。
  •  そのためには、まず、高齢者の個別性が尊重される必要がある。高齢者は、長年にわたる生活習慣や環境の違いが年輪のように重なって、心身の状態に様々な影響を与えており、若い人に比べても個人差が大きい存在である。高齢であることだけを属性として捉え、高齢者を「一つの同質のグループ」と考えるのではなく、高齢者一人ひとりの個性を尊重し、サービスを提供していくことが重要である。

(ケアチーム)

  •  高齢者の生活を支えるという観点からは、個々の症状だけでなく、心身の状態や日常生活の全体像を踏まえたニーズの把握、すなわち「全人的な評価」が必要である。その結果必要とされる介護サービスは、保健、医療、福祉などといった従来の行政の枠組みにとらわれることなく、相互に連携して総合的に提供されななければならない。このためには、かくサービスを「一つのパッケージ」(サービス・パッケージ)として提供していくことが求められる。
     この基本的な考え方は、それぞれのサービス関係者が一つの「ケアチーム」となって、必要なサービスを組み合わせ、それを継続的に提供していくということである。介護を必要とする高齢者の生活状態やニーズは一様でなく、しかも、時間の推移によって大きく変化する。この「ケアチーム」は、個々の高齢者の状況に応じて、必要なメンバーが随時参加し得るような柔軟なものでなければならない。

(ケアマネジメント)

  •  そこで問題となるのは、介護サービスに関係する人数が多く、しかもその職種が多岐にわたっている上に、それぞれ異なる組織に属していることである。このため、往々にして関係者の調整に時間がかかったり、相互の連携が十分でなかったりすることとなる。
     こうした問題を克服していくためには、ケア担当者が利用者側の立場に立って、本人や家族のニーズを的確に把握し、その結果を踏まえ「ケアチーム」を構成する関係者が一緒になって、ケアの基本方針である「ケアプラン」を策定し、実行していくシステム、すなわち「ケアマネジメント」を確立することが重要である。

(地域ケア体制の整備)

  •  各地域においては、このような「ケアマネジメント」の考え方を基本に、サービス連携の拠点やネットワークづくりを進め、関係者が有機的に連携した地域ケア体制を整備していくことが求められる。この場合、従来の在宅と施設という区分けではなく、在宅ケアと施設ケアの連続性の視点を基本に据え、地域全体が高齢者や家族を支えていく施策の展開が望まれる。これによって、在宅ケアにあたる家族の安心感が高まり、在宅ケアの推進に大きく資することにもなる。
  •  なお、当然のことであるが、高齢者をめぐる状況、サービス提供の基盤となる関係施設などの整備状況、必要とされるサービスのメニュー、連携拠点、社会資源の状況、公的部門と民間部門の役割などは地域によって大きく異なる。したがって、地域性を重視し、画一的な枠にはめるようなことがないよう留意する必要がある。また、地域住民やボランティアの幅広い参加を進めていくことが重要である。

(多元的なサービス提供主体と市場メカニズムの意義)

  •  利用者にとっては、多様で良質なサービスが豊富に提供されることが望ましいが、そのためには地域の非営利組織による活動やボランティアグループ、シルバービジネスといった多様な主体が、それぞれの特性に合ったサービスを提供していくことが望まれる。
     そして、多様な事業主体が介護の現場に参加し、利用者のニーズを汲み上げながら、サービスの質の向上やコストの合理化をめぐって健全な競争を展開していく方向を目指すことが適切である。市場メカニズムを活用したシステムは、多様な資金調達の途を開き、サービス基盤調整を促進することにもつながるものと期待される。
  •  ただし、介護サービスの特性を踏まえ、市場メカニズムを補完する仕組みを整備する必要がある。介護に関する高齢者のニーズを客観的に評価する体制を整備するとともに、サービスに関する情報の提供やサービス内容とその質に関する第三者による評価、高齢者が不利益を被った場合に気軽に苦情を申し立てることができる仕組みの整備が求められる。
5.社会連帯による支え合い

(介護リスクの普遍性)

  •  現在、介護の必要な高齢者は約200万人にのぼっており、これが平成12年(2000年)には280万人、平成37年(2025年)には520万人に増加することが予測されている。また、亡くなる前に4割近くの人が6ヶ月以上床についているとの調査も報告されている。このように介護の問題は決して特別のことでも、限られた人の問題でもなく、長寿化に伴って国民の誰にでも起こり得るリスクとなってきていると言える。
     しかも、介護が必要な状態となった場合には、その期間や症状はまちまちで、介護に要する費用の予測も不確実である。なかには介護期間が長期化し、介護費用も高額にのぼるケースもあるため、各人が自助努力であらかじめ備えることは一般的には期待できない。
  •  このような普遍的なリスクである介護問題を社会的に解決していくためには、個人の自立と尊厳を基本にしながら、社会全体で介護リスクを支え合うという「リスクの共同化」の視点が必要である。その意味で、本格的な高齢化社会における介護リスクは、社会連帯を基本とした相互扶助である「社会保険方式」に基礎を置いたシステムによってカバーされることが望ましい。このようなシステムを制度化し、その適切な運営を図っていくことが、すなわち公的責任を新たな形で具現化することになるのである。

(社会保険の意義)

  •  社会保険システムにより、高齢者は社会全体によって支えられることとなる。しかも、その利益を享受するのは、現在の高齢者だけでなく、現役世代も自らの老親の介護に対する不安が軽減され、安定的な日常生活を営むことが可能となる。更に、将来高齢期を迎え、介護が必要となった時には直接利益を受けることとなる。
     また、企業にとっても、家族介護の必要性から予測し難い時期に従業員が離職することに伴う損失を防ぐことができるというメリットがある。このように高齢者介護について社会保険システムを導入することは、国民それぞれにとって、大きな意義が認められるものである。

(私的保険の役割)

  •  保険システムには、社会保険のほか、個人の自助を基本とした私的保険がある。私的保険の場合には、年齢に応じた保険料負担の増加といった問題のほか、現在介護を必要とする高齢者は利用できないという限界がある。
     このため、強制加入を基本とする社会保険によって、必要にして適切な水準の介護サービスを保障することとし、私的保険は、多様なニーズにへの対応として、社会保険を補完することが期待される。なお、社会保険の導入に伴い要介護認定等の事務体制が整備されることによって、私的保険においても効率的な事業運営が可能となり、事業展開のための基盤づくりにつながることが期待できる。
6.介護基盤の整備

(介護基盤の重要性)

  •  高齢者によるサービスの自己決定も、選択し得るだけの量のサービスが確保されて初めて可能となる。必要な介護サービスを支える人材や施設の確保は、あらゆる施策の基盤をなすものである。しかし、現状では、在宅サービス・施設サービス双方ともに、サービスの絶対量が不足しているほか、市町村間で大きな格差があり、さらに、都市部では施設整備の立ち遅れ、過疎地では専門的な人材の不足等の問題がみられる。
     平成2年から「高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」に基づき在宅及び施設における介護基盤の整備が進められているが、市町村における老人保健福祉計画の策定や新規施策の実施など、その後の動向を踏まえ、なお一層の基盤整備に取り組むことが強く望まれる。
     また、社会保険方式に基礎を置いた新介護システムの実現により、サービス提供体制の急速な進展が図られ、全ての高齢者にとってサービス利用の公平性が確保されるようになることが期待される。

(社会資本としての介護基盤)

  •  社会資本とは、私的な動機(利潤の追求や私生活の向上)による投資のみに委ねているときには、国民経済社会の必要性から見て、その存在量が著しく不足するか、著しく不均衡になるなどの好ましくない状況に置かれると考えられる性質を有する資本とされている。道路や港湾、下水道整備、治山治水などといった公共事業分野は、社会資本整備の観点から、従来から長期計画に基づき総事業量を明示しつつ、計画的な整備が進められている。
  •  これに対し、老人福祉施設などは社会資本の範疇には含まれてはいるが、上記のような事業分野に比べ、これまでの投資配分は必ずしも十分であったとは言い難い。介護施設の整備や、介護の重要な基盤である人材確保、住宅対策とまちづくりは、高齢者を含めた全ての人々が地域や家庭の中で共に自立した生活を送ることができる社会の基本的要素、言わば「福祉インフラストラクチュア」として位置づけられるべきものであり、介護基盤の整備が社会全体の介護コストを最適化するという意味において、国民経済的にも大きな意義を有するものである。
     新たな公共投資基本計画においても、生活・福祉分野への投資配分の拡充が提示されているところであり、本格的な高齢社会に向け、社会資本整備という観点からも、総合的な介護基盤の整備に積極的に取り組むことが強く望まれる。

(人材の確保)

  •  介護基盤整備の上で最も重要となるのが、介護サービスを担う人材確保の問題である。若年労働力人口の減少が予測される中で、介護サービスの中核を担う看護・介護・リハビリテーションなどの人材確保は最重要課題である。
     このため、これら専門職員の養成体制の強化を図るとともに、勤務条件の改善や魅力ある職場づくり、社会的評価の向上を積極的に進めていくことが求められる。また、民間セクターへの業務委託についても、介護の現場で働く従事者の勤務条件に対する十分な配慮がのぞまれる。

(資質と能力の向上)

  •  量的な確保だけでなく、良質なサービスを得るため、介護サービスを担う専門職としての資質と能力の向上に力を入れなければならない。
     高齢者のニーズを総合的に把握する能力、適切なサービス提供を裏づけるケア技術、多様な社会資源の活用を可能とする幅広い知識、そして、介護サービスの基本であるところの「やさしさ」と「高い倫理観」を兼ね備えた人材の育成に努めていくことが求められる。特に、ケアマネジメントを支える人材の養成やチームによるケアの提供のための実践的な教育・研修を重視する必要がある。
     こうした人材の養成・確保については、新介護システムにおいてしっかりとした財政面のバックアップを行うべきである。

(幅広い参加)

  •  高齢者介護を進めるには、こうした専門職だけでなく、地域住民やボランティアがお互いの役割を分担し合いながら、積極的に参加していくことが望まれる。また、高齢社会においては、高齢者自らが様々なボランティア活動等を通じて自己実現を図りつつ、虚弱な高齢者を心身両面にわたって支援していくことなどがますます重要となる。
     このため、各種ボランティア活動を支援していくとともに、家庭で介護に当たる家族や住民が、男女を問わず積極的に介護方法等に関する研修や交流の機会を持てるようにすることが重要である。既に多くの主婦等がホームヘルパーの研修に参加している状況にあるが、こうした機会は一層増やしていくべきである。介護のレベルアップにつながるとともに、家族の孤立化を防ぐ効果も期待できる。さらに、家庭介護を経験した人が、その知識と経験を活かし、介護サービスに参加できるシステムづくりも検討すべきである。

(関連技術の開発と活用)

  •  車椅子や入浴補助具、ベッドなどの福祉用具の開発普及は、介護を必要とする高齢者が自立した生活を送り、社会参加する上でも、また、介護者の身体的・精神的負担を軽減する上でも有用である。このため、関連分野における技術革新を活かし、利用者の特性やその置かれた環境等を踏まえた福祉用具の研究開発を進めるとともに、福祉用具の展示・普及の地域における拠点づくりや適切な流通市場の整備により、その普及を積極的に図ることが望まれる。
     また、介護は、性格上労働集約的な面が強いとされるが、機械化・情報化等により業務効率を向上させ、介護サービスを効率的に提供する体制を目指すことが重要である。

(住宅対策とまちづくり)

  •  我が国の住宅は、高齢者が在宅生活を行う上で、段差が多い、浴室やトイレが使いにくい、廊下が狭く車椅子では通れないなど、安全性や利便性等について問題が指摘されている。また、介護を必要とする高齢者の在宅ケアを進める上で、段差等の障害のないバリアフリーの住宅等の方が介護コストの軽減につながるとの報告もある。こうしたことから、高齢者が住み慣れた地や家庭で生活を続けていくための基盤として、住宅、住環境の整備を進めていく必要がある。
  •  このため、バリアフリーの住宅やヘルプステーション、デイサービス・デイケアセンター等の生活支援機能が付与されたケアハウスやシルバーハウジングなどの整備を進めることが重要である。このような観点から、既存住宅の改造を推進するとともに、高齢者に配慮した公的住宅の整備、融資制度や税制を通じた民間住宅の整備促進等により、高齢者への対応を視野に入れた住宅ストックを形成していく必要がある。
  •  また、建築物、交通ターミナル、道路、公共交通機関等における物理的障害の除去など、高齢者を取り巻く生活環境の改善を進め、高齢者が自立し、スムーズに社会参加ができるような「まちづくり」を行うべきである。さらに、利便のよい場所に高齢者関連施設を設置するなど都市計画の観点からの取り組みも望まれる。一部の地方自治体では、高齢者や障害者が暮らしやすいまちづくりを目指した条例の制定などが行われているが、今後更にこうした積極的な取り組みが推進されることが期待される。
7.重層的で効率的なシステム

(重層的なシステム)

  •  高齢者自身の自立を基本としつつ、社会連帯という視点に立って、家族や行政機関、サービス提供機関、地域、企業などといった様々な主体が、高齢者を支えていくことが重要である。
     行政機関は、地域のニーズに応じた介護サービスの基盤整備と提供システムづくり、サービスの質の確保、人材の養成、それらに要する費用に対する財政支援などの役割と責任を担うこととなる。サービス提供機関は良質なサービスを提供し、また、地域や企業も高齢者を様々な角度から支援していくことが求められる。
     新たな介護システムが適切に機能するためには、このように各主体が役割を分担し合い、高齢者を重層的に支えていく体制が必要となる。

(行政の責任と役割)

  •  市町村は、地域住民に最も身近な行政主体として、高齢者のニーズを的確に把握するとともに、老人保健福祉計画に基づく介護サービスの整備目標の策定と地域のサービス体制づくり、サービスに要する人材や施設の確保整備など、主として介護サービス提供の役割と責任を負うことが考えられる。
     都道府県については、人材養成、サービス体制の広域的な調整、財政面における市町村の支援を行うことが、また、国は、制度の法政化や全国民に共通するサービスや負担についての標準の設定、財政面の支援など、制度の維持・運営に関する役割と責任を負うことが考えられる。

(効率的なシステム)

  •  新たなシステムは、規制緩和や行政簡素化の方向に沿ったものでなければならない。その点で、保健、医療、福祉の連携の強化や利用者によるサービス利用の決定などは、行政改革の観点からも大きな意義を有するものと言えよう。さらに、事業運営にあたっては、ICカードシステムなど情報処理通信システムの活用をはじめ事務処理の機械化、効率化を積極的に推進すべきである。
  •  また、実際の制度・事業運営にあたっては、行政の直営のみにこだわることなく、地域の特性に応じて、様々な関係機関や組織の事業参加を求め、住民により近い場で専門家による事業が遂行される体制が最も望ましい。
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