(高齢者の「生活の質」の向上)
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介護サービスは、何よりも利用者側の立場に立ってサービスが提供されなけらばならない。しかし、現実には、「縦割り」とか「お役所仕事」といった言葉に表現されるように、提供者側の事情や法令・行政制度の論理が優先しているように感じられる場面に出会うことがある。あくまでも高齢者の「生活の質」の維持・向上を目指す観点から、利用者本位の姿勢が貫かれる必要がある。
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そのためには、まず、高齢者の個別性が尊重される必要がある。高齢者は、長年にわたる生活習慣や環境の違いが年輪のように重なって、心身の状態に様々な影響を与えており、若い人に比べても個人差が大きい存在である。高齢であることだけを属性として捉え、高齢者を「一つの同質のグループ」と考えるのではなく、高齢者一人ひとりの個性を尊重し、サービスを提供していくことが重要である。
(ケアチーム)
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高齢者の生活を支えるという観点からは、個々の症状だけでなく、心身の状態や日常生活の全体像を踏まえたニーズの把握、すなわち「全人的な評価」が必要である。その結果必要とされる介護サービスは、保健、医療、福祉などといった従来の行政の枠組みにとらわれることなく、相互に連携して総合的に提供されななければならない。このためには、かくサービスを「一つのパッケージ」(サービス・パッケージ)として提供していくことが求められる。
この基本的な考え方は、それぞれのサービス関係者が一つの「ケアチーム」となって、必要なサービスを組み合わせ、それを継続的に提供していくということである。介護を必要とする高齢者の生活状態やニーズは一様でなく、しかも、時間の推移によって大きく変化する。この「ケアチーム」は、個々の高齢者の状況に応じて、必要なメンバーが随時参加し得るような柔軟なものでなければならない。
(ケアマネジメント)
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そこで問題となるのは、介護サービスに関係する人数が多く、しかもその職種が多岐にわたっている上に、それぞれ異なる組織に属していることである。このため、往々にして関係者の調整に時間がかかったり、相互の連携が十分でなかったりすることとなる。
こうした問題を克服していくためには、ケア担当者が利用者側の立場に立って、本人や家族のニーズを的確に把握し、その結果を踏まえ「ケアチーム」を構成する関係者が一緒になって、ケアの基本方針である「ケアプラン」を策定し、実行していくシステム、すなわち「ケアマネジメント」を確立することが重要である。
(地域ケア体制の整備)
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各地域においては、このような「ケアマネジメント」の考え方を基本に、サービス連携の拠点やネットワークづくりを進め、関係者が有機的に連携した地域ケア体制を整備していくことが求められる。この場合、従来の在宅と施設という区分けではなく、在宅ケアと施設ケアの連続性の視点を基本に据え、地域全体が高齢者や家族を支えていく施策の展開が望まれる。これによって、在宅ケアにあたる家族の安心感が高まり、在宅ケアの推進に大きく資することにもなる。
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なお、当然のことであるが、高齢者をめぐる状況、サービス提供の基盤となる関係施設などの整備状況、必要とされるサービスのメニュー、連携拠点、社会資源の状況、公的部門と民間部門の役割などは地域によって大きく異なる。したがって、地域性を重視し、画一的な枠にはめるようなことがないよう留意する必要がある。また、地域住民やボランティアの幅広い参加を進めていくことが重要である。
(多元的なサービス提供主体と市場メカニズムの意義)
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利用者にとっては、多様で良質なサービスが豊富に提供されることが望ましいが、そのためには地域の非営利組織による活動やボランティアグループ、シルバービジネスといった多様な主体が、それぞれの特性に合ったサービスを提供していくことが望まれる。
そして、多様な事業主体が介護の現場に参加し、利用者のニーズを汲み上げながら、サービスの質の向上やコストの合理化をめぐって健全な競争を展開していく方向を目指すことが適切である。市場メカニズムを活用したシステムは、多様な資金調達の途を開き、サービス基盤調整を促進することにもつながるものと期待される。
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ただし、介護サービスの特性を踏まえ、市場メカニズムを補完する仕組みを整備する必要がある。介護に関する高齢者のニーズを客観的に評価する体制を整備するとともに、サービスに関する情報の提供やサービス内容とその質に関する第三者による評価、高齢者が不利益を被った場合に気軽に苦情を申し立てることができる仕組みの整備が求められる。