福祉人材とコムスン問題の部屋

今の介護報酬では、ヘルパーのなり手はなくなり、訪問介護サービスは間違いなく崩壊します。
社会福祉法人生活クラブ理事長 池田 徹さん 2007.6.11

 今回のコムスン事件で真っ先に思い出したのが、榎本さんのお顔でした。
 私が、1994年に生協としては全国で初めてホームヘルプサービス事業を始めることにしたその出発点がコムスンでした。コムスンが福岡県のいくつかの町との間で24時間ホームヘルプサービスの委託契約をしたという新聞記事を読み、介護が市場化される流れを読み取りました。食の不安に応える事業を展開してきた生協が、今後は老いの不安に応えなければならないという使命感を強く感じたのです。
 後に、榎本さんがコムスンを去られた直後、福岡のせいうん会に押しかけて、一面識もない榎本さんと松永さんとお話させていただくことができ、感激したことを懐かしく思い出しました。

 大手企業には、業界のオピニオンリーダーとしての社会的使命があります。
 利用者に対して正直でまっとうなサービスを提供しようとしたら、現在の介護報酬では、到底採算が取れません。したがって、ヘルパーの労働条件を切り下げるしかありません。その結果、生活クラブでもこの1年でおおぜいのヘルパーが転職していきました。

 これまで厚労省は、訪問介護事業は赤字といっても企業は黒字経営をしている。赤字なのは企業努力が足りない社会福祉法人やNPOだというような見解だったと思います。私は、それに対して、本当に悔しい思いをしてきました。本当なら、コムスンをはじめ大手企業が、オピニオンリーダーとして制度の問題点を明らかにしていかねばならにはずなのに、彼らは決してそれをしようとしなかったからです。

 生活クラブは11ヶ所の訪問介護事業所を持ってコスト削減にも取り組んできましたが、昨年の制度改定以後は、元々低いヘルパーやサービス提供責任者の労働条件をさらに引き下げるしかありませんでした。
 私は、全事業所を回り、職員に頭を下げて回りました。そして、訪問介護事業の現状を社会にも訴え、職員の労働条件を引き上げる努力をしていくことを約束しました。
 しかし、コムスン等の大手企業は、問題を社会化するのではなく、不正や利用者無視の事業展開によって利益を上げてきたのです。
 今回摘発されたのは、明確な不正ですが、そこまで行かなくても、例えば、生活援助だけでは儲からないので、前後に身体介護のサービスを強引にくっつけて時間単価を引き上げるようなことは日常的に行われていたといわれます。

 介護の社会化を実現するために介護サービスの市場化は必要なことだったと思います。
 しかし、どう考えても、現在の介護報酬水準で、まっとうなサービスを提供して株式を上場するだけの利益率をあげることができるとは思えません。直接人件費だけで、分配率が70%を下回ることができないような労働集約産業なのです。

 しかし、今回のコムスン摘発に、私は、ほんの少しですが光明を見出す思いです。
 ようやく、質が問われるようになったのだと思います。

 訪問介護というサービスが在宅要介護高齢者にとって今後も必要なサービスだとすれば、そして、そのサービスが一定の質で提供される必要があるとするなら、介護報酬の見直しが絶対に必要です。今のままでは、ヘルパーのなり手はなくなり、訪問介護サービスは間違いなく崩壊します。
 社会保障審議会福祉部会で「社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針」の見直しが行なわれていることも合わせて、厚労省は、ようやく現実に向き合ってくれるのかと大きな期待を持っています。

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