福祉人材とコムスン問題の部屋

許せぬ コムスンの不正
国立長寿医療センター総長 大島伸一さん 2007.6.14

 公金を横領した。それも財源難に苦しんでいる介護保険、命のお金である。私は今回のコムスンの不正を知って唖然とし、組織の生き残りの手口を聞いて憤然とし、ほとんど逆上した。子供の教育をどうするか、大変だ大変だと議論をしているようだが、まず最初にすべきことは、こういった大人を決して許さない社会にすることである。

 コムスンとは、コミュニティ・メディカル・システム・ネットワークの略で、もともとは榎本憲一さん(平成15年74才逝去)が、設立した会社である。榎本さんは、その一生を介護の質の確立に努力してこられた方だ。亡くなられる1ヶ月前に「(略)未だ(介護保険の)保険給付は額において不充分であり、質においても充分なものではありません。しかし、介護保険の充実により、質量ともに拡大していくことが可能であると思います。(略)私は介護という仕事が人を支え励まし、誇りある人生の結実に役立つことを信じております。」という「惜別の言葉」(大熊由紀子氏、えにしメール、私信から引用)を残されたが、金第一の人達には、こんな言葉を聞く耳などなかった。

 高齢者が増え、要介護状態のお年寄りが増え続けている。介護施設など、介護の現場で働く人達、特に若い人達の姿を見ると私は自分でも恥ずかしくなるほど感動する。20年も前のことだろうか、医療の最前線で汗を流していた頃である。私も若かったが、看護学校を卒業したばかりの若い看護婦(今では看護師)さん達と話をしていたときのことだ。「看護の仕事で何が厭かといって、お年寄りの大小便の世話をすることほど厭なことはない」、20代の若い女性達である、たとえ看護婦であってもそう感じて当然だろうと納得したが、「私達も厭だけど世話をされる患者さんの方がもっと厭だと思う」と聞いた時に、この子達は人のお世話をすることがどんなことなのか、本当に解っていると思ったのである。

 介護は素晴らしい仕事だ。人のお世話をすることはどれほど崇高なことであろう。美辞が並ぶが、いくら言葉で飾ろうと高齢者や障害者の介護がどれ程のことか、余分な説明を要しない。しかも、介護の仕事に対する報酬は驚くほど低いのが現実である。そんな仕事に従事している人達の誇りをズタズタにしたのである。儲けた金で自家用のジェット機を乗り回すのは勝手である。だが、お年寄りを食い物にし、若者を裏切り、日本という国の品性を汚し、どん底に落とした、その金がジェット機の一部にあてられているとなれば話は別だ。

 後始末をどうするのか、職員のこと、利用者のことが心配とはよく言った。そんなことを言える資格がどこにあるのか、噴飯ものである。許してはいけないことだと思う。

(中日新聞 長寿の国を診る 2007年6月30日に掲載)

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