福祉人材とコムスン問題の部屋

高齢者の介護/この賃金ではもたない
朝日新聞2007.7.8社説より

 職員の数をごまかして介護報酬を不正に請求したコムスンの事件は、背後にある重大な問題を浮かび上がらせた。
 高齢者介護の現場が、深刻な人手不足に陥っていることである。その現実にきちんと向き合わなくてはならない。

 新しい施設や訪問介護の事業所を開いても、職員が集まらない。都市部では、とくにひどい。景気が回復しているここ数年は、福祉系の大学や専門学校を出た若者たちも一般の企業に就職している。
 介護福祉士の国家資格を持っている約41万人のうち、介護の仕事に就いているのは約23万人しかない。ひとつの職場の勤続年数も、平均3年ほどだ。

 理由は、はっきりしている。重労働なのに報われることが少ないからだ。
 財団法人・介護労働安定センターが、05年度に2500事業所で働く約3万人を対象に調査したところ、平均年収は200万円余りだった。半数近くを非正社員が占めている。訪問介護を支えるホームヘルパーは、8割が非正社員だ。
 厚生労働省の試算だと、ヘルパーの時給は1210円。全産業の平均時給より600円近く安い。大半が女性で、時間単位で働く登録型ヘルパーは、月収10万円未満の人たちが少なくない。

 介護サービスにかかる費用は、人件費も含めて国が決める介護報酬でまかなわれている。9割は保険料と税金から支払われ、1割を利用者が負担する。
 00年度に介護保険制度が始まって以来、利用者は大幅に増えている。厚労省は社会保障費を抑制するため、2度にわたって介護報酬を引き下げた。

 生協を母体にした千葉市の社会福祉法人生活クラブは、老後の不安にも応えたいと11カ所で訪問介護サービス事業を展開している。事業費の8割は人件費だ。
 去年の介護報酬引き下げで、ヘルパーの時給を1100円から1000円に下げるしかなかった。理事長の池田徹さんは事業所を1軒1軒回り、ヘルパーらに頭を下げた。しかし、頼みの綱のヘルパーは1年で100人以上が辞めていき、新規の依頼は受けられなくなっている。

 いまこそ、介護に携わる人たちの待遇を抜本的に考え直さなければならない。といっても、介護報酬をただ上げればいいわけではない。報酬を人件費とそれ以外とに分け、人件費は削れなくする。あるいは一定の給与水準を保証する。そんな仕組みをつくる必要がある。
 不足分は税金で補ってもいい。所得の低い人に配慮しつつ、保険料や利用料を引き上げる必要があるかもしれない。

 現在、約100万人が介護保険のサービス分野で働いている。お年寄りの喜ぶ顔を支えに頑張るといっても、いまのような低賃金で、将来の昇給の展望が描けなければ、限界がある。
 高齢者が急速に増えている日本では、今後10年であと50万人の介護職員が必要になる。介護を「ふつうの仕事」にできなければ、担い手はいなくなる。

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