福祉人材とコムスン問題の部屋

ホームヘルパー 安すぎる訪問介護の報酬
ひばりクリニック院長 高橋昭彦さん 2007.6.20

 直径2センチ強のおにぎりには、のりが巻いてある。
 1センチ角に切った卵焼き。そしてみそ汁。これは、ある女性のためにホームヘルパーが作った朝ごはんである。
 家族は女性が起きる前に仕事に出る。日中、女性の暮らしを支えるのはホームヘルパーの仕事である。

 用意ができるとホームヘルパーは寝室へ行き、女性を起こす。歩けないのでポータブルトイレに移る介助も必要だ。トイレでは座っても出ない「空振り」も多い。トイレが終わると車椅子に女性を移して食堂へ。女性は食が細く、小さなおにぎりですら十分食べられないこともある。そこで、「あと一口、あと少し」と声をかけてうながす。

 利用しているのは介護保険による「訪問介護」。お陰で家族は働くことができ、女性の健康も維持ができる。ホームヘルパーは、やりがいはあるが厳しい仕事でもある。介助動作で腰を痛めることも多い。その家なりのやり方がある。雨にも、夏の暑さにも負けない体力は必須だ。それなのに国は、介護報酬の単価を段階的に引き下げている。

 今、この訪問介護が揺れている。24時間の訪問介護を先駆けたコムスンが、過大請求などのため介護事業から撤退する。しかし、これはコムスンだけの問題ではない。要介護者は地域に点在する家で暮らし、そこへホームヘルパーが出向く。
 商品の大量生産とは違い、その地域で人手の確保をしなければならない。しかも報酬の単価は決まっている。だから大手のコムスンですら、人手と顧客の確保が難しい過疎地域には手を出さなかった。
 今、介護業界では人手が不足している。主な理由は、給料が安いことと、景気が良くなってきたことである。介護職、中でもホームヘルパーは登録やパートが多く、いくら働いても満足に食べられない。

 コムスンに限らず「行き過ぎた経営努力」をしないと成立しない仕事だとしたら、それは制度自体が悪い。どの地域でも24時間体制の訪問介護が成り立つには、中小の事業所が参入できるような報酬の設定が必要なのだ。その地域で参入する事業所が複数あり、いい給料をホームヘルパーが得られれば、サービスの質は上がる。
 介護へのお金を惜しんではならない。24時間訪問介護は、私たちの老後を支える強力なパートナーとなるからである。

(朝日新聞栃木版「医を語る」に掲載)

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