福祉人材とコムスン問題の部屋
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毎日新聞船橋支局 中川聡子さん 2007.7.20
ペット用の柵の中で簡易トイレに座る後ろ姿、手首を金具でつながれベッドに横たわる男性。2枚の写真付きで2月に千葉県浦安市の無届け有料老人ホーム「ぶるーくろす癒海(ゆかい)館」の虐待疑惑を報道してから、5カ月が過ぎた。
癒海館は03年7月、運営を始めた。介護保険は使わずに経営者の中原健次郎医師が週2回往診し、外来診療として診療報酬を請求していた。介護は入所者27人に対し職員1〜3人で行い、夜勤はいなかった。
「ちょっとふざけて持ってきた」。数回の取材の後、現場監督の女性は柵の使用をあっさりと認めた。彼女は「拘束が虐待と言われたら私の人生がひっくり返る」とも話した。行為の悪質さに比べ、この感覚の軽さは何なのか。虐待は拘束が常態化し抵抗感がまひする延長上に起きた。
厚生労働省は介護保険制度の開始に合わせて99年から身体拘束をなくす取り組みを進めている。しかし、拘束はなくならない。県が行った緊急調査では、介護保険施設やその他高齢者施設計867施設のうち、約4割の344施設で身体拘束が確認された。拘束されている人の7割以上が「常時拘束」だ。
小規模デイサービス・宅老所千葉県連絡会の七尾ひろ子さんは「近年、認知症や障害の理解が進み、徘徊や自傷行為などの症状もその人なりの意思表示として読み取るケアを目指した研修も盛んだが、運営者によって意識の差は大きい」と指摘する。さらに、介護保険法の人員配置基準は入所者3人に対して職員1人だが、「勤務ローテーションがあり、実際には1人で入所者10人のケアをしているのが現状だ」と話す。
同県木更津市で通所介護施設(宅老所)を運営する伊藤英樹さんは、ある介護施設に勤めたころの様子を「工事現場と同じだった」と表現した。毎日、決まった時刻に食事、入浴、おむつ交換と流れ作業をこなす。
今回の問題が無届け施設で起きたことの意味も大きい。中原医師は施設を無届けとした理由を「他の病院では手に負えない患者を格安で引き受けている。届け出は義務ではない。役人に口出しされたくない」と話していた。
今回は1月に元職員が高齢者虐待防止法に基づき虐待を通報した。しかし、県と市は入所者に中年〜壮年の障害者が含まれているため、施設の法的位置づけに苦慮し「共同住宅のようなもの」と介入に及び腰だった。「有料老人ホーム」とみなして老人福祉法に基づき立ち入り調査したのは毎日新聞の報道の後だった。
取材を始めたころには思いもしなかったほど、問題の根は深かった。無届け施設を必要としている人たちがおり、セーフティーネットの役割を果たしている。再発防止の法整備をするにしても、こうした現状を直視し、現場の意見をよく聞く必要がある。 (毎日新聞「記者の目」 2007年7月20日 東京朝刊より) |
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