福祉人材とコムスン問題の部屋

介護人材確保のための緊急提言

2007 年 9 月 20 日

厚生労働大臣
 舛 添 要 一 様

NPO法人高齢社会をよくする女性の会
理事長  樋 口 恵 子
副理事長  沖 藤 典 子
 〃   袖 井 孝 子

介護人材確保のための緊急提言

 世界に先駆け超高齢化がすすむわが国において、人生のライフラインである介護保険が、担い手の側から崩壊の危機に瀕しています。

 四半世紀前の結成当初から私たち「高齢社会をよくする女性の会」は、介護の社会化を提唱、当時嫁に一極集中していた介護を、大切なものとして位置付け社会全体で支え合う活動をすすめてきました。介護保険の成立は大きな成果でしたが、介護労働に従事する人たちの労働条件の現状は、まるで介護が「社会の"嫁"」によって担われている感があります。介護者が幸せでなければ、要介護の高齢者が幸せになれるはずがありません。

 私たち女性は介護従事者の8割を占め、家族介護者の4分の3を占め、また要介護者の72%、一人暮らし高齢者の4分の3を占め、介護についてきわめて高い当事者性を持っています。その視点からみて介護従事者の置かれた状況を看過することはできません。

 私たちはこの9月8、9日に開催された第26回全国大会・静岡(約3千人)の全体集会において、本件に関して緊急提言することを満場一致で決議いたしました。
 以下にその要望を記します。

T 介護にかかわる人材確保のための緊急・確実な待遇改善

1、介護従事者の賃金に1人月額3万円を上乗せする「3万円法」(仮)の制定

@ 介護従事者の賃金は平均を下回り、かつ確実な昇給の期待が持てません。人間の生活の最終期を支える労働として報われるところが少な過ぎます。今すぐ介護に働く人々に月額3万円の上乗せができるよう、たとえば「介護人材確保緊急措置法」(仮)(通称3万円法)を時限立法で策定して当面の危機を乗り越え、長期的には介護労働について適切な評価基準を明確に設定し、昇給昇進の見通しを立てる必要があります。

A 財源については、本来税金で行なわれてきた地域支援事業費を回すほか、事業経営の効率化などの工夫をし、安易に介護保険料や利用者負担の増加に直結させないよう望みます。

B 地域密着型事業所等の事務費の削減と可視化簡素化をめざして、地域全体の事業所事務のネットワーク整備を、厚生労働省の責任で支援・推進してください。

C 事業所は経営に関する情報公表をすすめるとともに、介護報酬の一定比率を介護従事者の賃金として確保するよう基準を定め遵守し、公表することを望みます。

2、労働基準法等法令を遵守した経営

 介護に従事するすべての労働者に対して、労働基準法はじめ、男女雇用機会均等法、改正パート労働法の法規を経営者は遵守してください。とくに、時間外賃金、深夜業の賃金に関する法令の遵守を求めます。

3、年金加入、福利厚生に関する特別の配慮

@ 介護に従事する非正規労働者に対して、年金制度に緊急な特例を設け、一定限度(週20時間以上)の従事者には就労期間を年金に算入すること。第3号被保険者でなくても、国民年金保険料の免除、半減などの減額を行い、支給時には満額支給するなどの優遇措置を求めます。

A 介護従事者の4割が健康に不安を感じています。介護に働く人の健康の保持は、要介護者にとっても必須要件です。正規・非正規を問わず介護従事者の公休による定期的無料健診の確実な実施を求めます。

4、研修の代替要員派遣と専門介護職への道

 研修に参加する介護従事者のために、潜在有資格者、ボランティア経験者等による代替要員を確保し、一定の研修は無料とします。
 また意欲ある介護従事者の個性と能力を生かして、要介護者の生活をより豊かに支えるために専門介護従事者への道を開いてください。また介護従事者として出発した有能な人材が、管理職、責任者として活躍する道をひらくよう望みます。介護保険に関連して働く事務・管理部門の職員は、必ず介護現場の体験を持つよう望みます。

U 介護を魅力ある仕事にするために
  ・・・生きる手応えと向上の喜び、出会いに満ちた職場・・・・

 介護はますます高齢化する21世紀にあって、人間の尊厳を守り個人の生活を支える重要な仕事です。魅力ある職場をつくり、有能な人材が若い世代も中高年も多様なルートで参入できる道を開くことが大切です。私たちの会の調査によれば、現在の要介護者・家族が望む介護者像の一番人気は「保育・介護体験があり、資格技術を習得した中年女性」でした。介護従事者の参入ルートの1つとして、女性の現状を踏まえ次の点を要望します。

1、放送大学への介護学科創設

 全国どこに住んでいても、安い学費で充実した授業を受講できるよう、放送大学に「介護学科」を新設してください。すでに看護については設置されています。

2、家族介護体験を生かしたプロへの道の確保

 家族の介護看護を理由として職場を離れる人は年間10万人近く、ほぼ9割は女性です。その体験をプロとして生かせるような参入ルートをつくり、研修の機会と情報提供、就労斡旋を行なってください。文部科学省が行なう再チャレンジ支援事業とも提携するよう望みます。

3、介護職への奨学金制度の創設

 介護は日本社会を土台で支える仕事でありながら、国費による養成はじめ奨学金制度が不十分です。企業をはじめ広く社会から奨学金を集め(たとえばグリーンリボン奨学金などの名称で)とくに中年女性、途中離職女性などの再チャレンジを支援する奨学金の推進と充実を望みます。

4、介護従事者大会の定期開催

 全国、各自治体で、介護従事者による会合を定期的に開き、介護従事者同士が出会い、好事例の発表、情報交換、交流研鑽の場とするよう支援してください。介護従事者を中心として各職種との交流、とくに利用者・家族とのネットワークの場とします。

5、介護の日の制定

 介護の重要性を認識する世論形成のため、介護従事者、家族介護者を支援する「介護の日」の制定を求めます。すでにイギリス、オーストラリア、米国などでは公的に定められ、国際的なネットワーク化の動きもあります。高齢化先進国であるわが国は、世界に向けて発信する介護に関する内容をすでに蓄積しています。

 以上のような活動を通して、人生100年社会とも言われる今、人間の一生を支える介護という柱を、社会の豊かさをはかるもう一つの基準軸として確立し、生涯にわたる国民の安心を持続可能とするよう要望します。

連絡先/事務局
〒160-0022 新宿区新宿2−1−19
      第31宮庭マンション802
TEL 03−3356−3564(月・水・金)
FAX 03−3355−6427

▲上に戻る▲

福祉人材とコムスン問題の部屋・目次に戻る

トップページに戻る