福祉用具の部屋

国民会議の問題提起
和田勲さん

1.座り込みから1年、そして見直しへの感謝

 昨年は、厚生労働省の正門で座り込みなんて、普段の私からは一寸考えにくい行動をとらせて頂きましたが、それにも拘らず、このような会合に厚生労働省からお二人もの方が参加して頂いたことを感謝致します。
 また、介護保険における福祉用具貸与について、昨年4月から大幅な改定がなされましたが、この結果、ご利用者の実態から遊離した面が多々発生していました。これらについて、国における実態調査を踏まえ、改善がなされた事を、高く評価するとともに、担当部門におけるご努力に対し、篤く感謝するものです。

2.この1年間にあった実態事例

(1)例外規定があるにも拘らず、軽介護度には、車いす等の利用を一律に制限する保険者も

 電動車いすが無いと、買い物にいけない環境にお住まいの独居老人の事例です。4月に電動車いすの貸与を外されました。止むを得ず、自費レンタルを利用されました。しかし、レンタル料の負担が生活費用と精神的な負担を膨らませ、入院されました。お聞きしたら、「入院したくは無いけど、負担が軽いんだ」と。
 例外規定が無視される事例が大変多いのが実態です。この実態をどうにかして頂きたいものです。

(2)起き上がりが「出来る」「出来ない」の判断に大きな差が

 特殊寝台の利用は、一次調査の結果が基準になります。しかし、「最後に介助が必要な場合」は、「出来ない」になるとの注釈があるにも拘らず、全てに近い方が一律に「出来る、つかまれば出来る」になっています。一律に不適切とは言い切れないものもありますが、実態はそのような「介助が必要な方」の相当数が「つかまれば出来る」にチェックされて、本来必要な利用者が利用できない状態に放置されています。審査会の委員からも、「知っている方の事例しか分からないけど、状態が変わっていないにも拘わらず、何故、今回は"つかまれば出来る"になったのだろう?」との意見を何度かお聞きしました。認定調査が包括支援センターに移行した結果、経験の浅い調査員が増えている事も背景に有るようにも思われますが、その実態についても検証をお願い致します。

(3)介護度が軽くなっている!

 上記と同様の課題ですが、状態像に変化が無いにも拘らず、再認定で2段階以上介護度が軽くなる事例が頻発しており、区分変更申請が頻発しています。審査会の委員の方からもこのような実態に対して疑問が寄せられていますし、これによって、審査費用が拡大しています。結果として、自治体が調査員指導を徹底するところも出てきていますが、一方で、自治体によっては区分変更申請自体を却下している事例も頻発し、この結果、利用者は勿論、ケアマネジャーも「怒りとあきらめ」が広がりつつあります。この実態も調査・検証をお願い致します。

3.軽度者への例外規定の拡大について

(1)評価

@ 昨年の改定において、基本調査の結果のみを前提に一律利用が制限された福祉用具について、高齢者の身体状況の変化に対応した利用制限の緩和がなされました。手続きの複雑さはあるものの、保険者や、医師、介護支援専門員等の関係者が適切に行動し、判断されれば、利用が可能になりました。この改善によって、本当に福祉用具を必要とする方の一部について救済されると考えられます。

(2)課題

@ 福祉用具の必要性の判断は、身体機能の角度だけでは不十分です。それは、若干でも介助を要する方に対し、福祉用具の提供によって、自立度を高める機会を脹らませる事も大切です。特に、一人住まいの、或いは老々所帯や日中は一人住まいになる等、介護力に問題が有るケースにおいては、必要度が高く、かつ有効な支援になります。この視点での再検討が必要だと考えられます。
A 身体機能の面から言えば、立上り能力に課題を持たれる方に対し、必要な福祉用具の利用制限がなされた事については大きな課題を含んでいます。日常生活で、寝ている時間が膨らみ、結果として、介護度を高くする可能性が膨らんでいます。

4.費用圧縮の意義と効果の検証

 ノルウェーのオスロ市役所でお聞きしたお話です。漁船員が障害者になり、病院を退院する時、市役所の方がご本人の意向を確認したところ「漁船員を続けたい」と言われたので、市役所は、漁船の改造費用2千万円を出した、との事です。私はすぐに「税金をそのように使うと。市民から苦情が来ませんか?」と問いかけました。「それが福祉と言うものでしょう」との回答を予想していましたが、回答が奮っていました。「この方が働いてくれると税収があります。働いてくれないと、障碍者年金を払うだけになります。例えば、年金を10万円払っているとし、この方が20万円の所得を稼いでくれると、10万円の税収になります。「出」と「入り」を差し引くと、8年で元が戻り、以降は税収が増えるだけです。そして、何よりこの方に生甲斐があるでしょう。」でした。この感覚(納税感覚と活用感覚)が日本の行政及び国民に根付くかどうかは、正直なところ、疑問はありますが、改めて考えさせられました。
 このような観点から考えても、福祉用具を適切に活用すると、自立度が高まり、在宅生活の可能性が高まります。厚生労働省のデータを見ても、居宅における1人平均の利用額は、施設の半分程度になっています。また、福祉用具をうまく活用されている方は、人的サービスも圧縮されています。
 福祉用具に限らず、@サービス毎の費用圧縮の観点からだけではなく、A介護保険だけの財政からではなく、B医療であり、C住環境の整備等を含めた条件を勘案し、それらと連動した検討とその構築が大切だと思います。そして、例えば、福祉用具の活用によって、家族の介護の軽減を図る事で、労働環境を改善することによって、収入を得る方が増えれば、税収は増えるのです。私も会社経営の立場から費用の圧縮がいつも大きな課題ですので、財政の観点からだけ考えると、理解できる部分もございますが、社員のモチュベーションが落ちない工夫をいつも心がけています。全体費用との整合性が実に大切です。この観点からの検討を合わせて実施して頂けるよう提案致します。

5.最後に。必要な福祉用具の範囲について

(1)必要な福祉用具の範囲について

 @身体機能から  (2)介護環境から  (3)生活スタイルから  (4)モチュベーションから
 これら多様な視点で、必要性とその効果を検証しながら、そして、本当の対費用効果を挙げるものであって欲しい、と思います。

(2)自立支援法と介護保険の行方は?

 以上の課題を前提に考える時、厚生労働省・社会援護局の局長の私的諮問機関で検討が始まっている「自立支援法」と「介護保険」の合体がどのようになるのか、現在を生きる高齢者と現在と未来へ向かう若年障碍者の人生への違いについて、本当の対応が可能なのか、大変心配です。

 私は私なりに、考えたいと思っていますが、お立場、或いは現段階では不明な点も有るかとは思いますが、福祉用具の角度に限定せず、この辺りについても、パネリストのみなさんから、示唆、又は、ご意見をお聞かせ頂ければ幸いです。

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