ゆきの部屋

■待っても、待っても、来てくれない医師をひたすら待つ時の思いは……■
 「もしかして、こんなかわいい子の命が奪われてしまったの……?」というのが、配布資料の1枚目の写真を見て、最初に感じた気持ちでした。豊田さんが話し始め、自分が直感した通りだと分かりました。
 私は、豊田さんの話がだんだん進んでいくにつれて、苦しくなってきたのです。亡くなられた理貴くんが苦しい思いをしたのだろうという思いもありましたが、それ以上に、豊田さんが当時の話をしている姿や、辛い思いをたくさんしながら乗り越えてきたのだろうなと考えたら、涙が出て止まりませんでした。
 「こんな事があっていいの?人の命に対して、この医師は何を考えていたの?」と、病院側に対して苛立つ気持ちがありました。2回目の受診時に、お腹はパンパンに腫れていて医師に連絡したのにも関わらず、対応に時間がかかり待たされていたという話を聞いて、その時の状況が目に浮かぶような感じでした。
 待っても、待っても、来てくれない医師をひたすら待つ時の思いは、本当に私達には考えられないほど辛かったのではないだろうかと感じました。自身は医師でも看護師でもなく、病気の事も分からない、目の前で苦しんでいる子を助けてあげる事もできない……。
 もし私が豊田さんの立場だったら、自分の息子を助けてやれない自分自身を、責めて、責めて、責めまくると思うのです。
 新聞社数社に内部告発があってからは新聞社や雑誌社、マスコミ関係者などが一気に押し寄せてきた時期があったのに、その後、潮が引くように消えてしまい、「マスコミまで、離れていってしまう。心のよりどころがなくなってしまう。」と、不安に駆られてしまったと豊田さんは話されました。当時は本当に誰にも頼れず、自分を責めてしまい、「そばにいて支えてくれる人はマスコミしかいない」と思わざるをえないような辛い状況だったのだと感じました。
 そんな辛い思いや経験をしてきたのにもかかわらず、豊田さんは今、医療メディエーターとして病院で勤務しながら、医療スタッフと患者さんの橋渡し役をしているのは本当に凄いことだと感じています。そんな辛い思いや経験があったからこそ、人に対して優しくなれるのでしょうか。
 今の豊田さんと出会える患者さんや医療スタッフは、とても幸せですね。
 豊田さんの話を聞いて、人の命を預かる仕事の重さや大切さ、「患者さんや家族の思いを考えて対応をする」という当たり前のことができる事が非常に大切だと、改めて感じた授業でした。
 初心に戻り、自分の仕事を見直す機会になったと感じています。
 ありがとうございました。

医療福祉学分野 岡本光代さん(介護職)

■ご自身を責める方にベクトルが向いているようで、痛々しく■

 身近な人の死は、人生で経験する最もストレス度の高いことだと言われます。なかでも子供に先立たれた親のストレスは計り知れないものと思います。同僚の小児科の医師が、「子供は生きているだけでよい」とおっしゃった言葉が、今も強く印象に残っています。
 看護師として「親より子が先に死ぬ光景」をみることが多くあり、親にとっては本当に辛いことだと実感しています。

 豊田さんのお話で、驚いたことがいくつかありました。
1、子供を亡くしたとき、家族や友人、親戚などみんながショックが強く、支えあえないということ。このようなときには、親族の絆が深まるものだと思っていました。
2、医療ミスを犯した病院や医師に対する恨みの表現が少なかったこと。
「病院を許せない」「裁判で勝って息子の無念をはらしたい」という思いの強さより、「良くしてくれた看護師もいた」と繰り返し話されたこと、冷静に医療ミスの原因が分析されていること、病院と和解することを選択なさったことなどです。
「なぜ、あの病院に連れていったのだろう」と、ご自身を責める方にベクトルが向いているようでした。「あんな病院潰してやる!!」と、いっそ、外へ恨むベクトルが向けば楽になるのでは、と感じました。

 事故からまだ4年程度で、このようにパワフルに活躍されているということは、自分と同様に傷ついている人を助けることで、自分の罪悪感を少しでも解消、緩和しておられるように思えて、とても痛々しく感じました。
 「医療ミスで子どもを亡くした親」に私が抱いていたイメージが大きく変わりました。

保健医療学専攻博士課程末田千恵さん(看護師)

■医師から生意気な看護師だと思われたとしても■

 理貴ちゃんの身に起きた事故は、2つの重要な医療職種の担当者が、その職務を十分に遂行しなかったことから起こったのではないでしょうか。
 まず、医師の怠慢と知識/経験の不足。
 この医師は、救急医としての責任をまったく果たしていないのです。おそらく知識や経験も救急医として乏しかったのではないかと推測します。長時間労働による疲労もあったのかもしれません。疲労による医療事故が起こったりしないようにするためにも、勤務医の労働環境の改善は急務の懸案です。それでも、です。たとえどのような激務が続いていようと、「救急センターからの手紙」(浜辺祐一著、著者は執筆当時都立墨東病院救急救命センター部長)などを読むと、理貴ちゃんが受けたような「治療」などあり得ないと感じてしまいます。勤務中であればどんな場合にも、救急医には経験と知識と強い責任感が必要不可欠です。

 そして第2に、看護師の役割認識の不足。
 常に患者の側にいる看護師は、早期警告者としてとても重要な役割を担っています。あまり知られていない「看護師の臨床判断」の重要性を示すものです。
 ただ、看護師の中にも指示されたことを完璧にやればそれで看護師の仕事をこなせていると考える人々が少なくないのも、残念ながら、事実です。考える事や責任は医師の分野だと割り切る看護師たちです。
 この事故の場合は、あてはまらないかもしれませんが、医師が36時間ぶっ続けで勤務していて疲れすぎている場合もあるでしょう。そんなときに看護師は重要な役割を果たさなければならないと思うのです。
 医師が一度や二度で応えてくれなければ、その緊急性がわかるように伝えなければならない、たとえ医師から生意気な看護師だと思われたとしても。看護師にしかできない命の防波堤としての役割を確かに担って欲しい。患者の願いです。

 病棟の看護師への申し送りでも、その緊急性、危機感をきっちりと伝えなければならなかったと思います。的確な申し送りがなければ、最初から看ていない病棟の看護師が事態を十分に理解できなくてもしかたないかもしれません。その事態が十分伝わるように申し送りをすることが看護師の重要な役割の一つだと考えます。
 的確な臨床判断ができ、それに基づいて医師と話ができる看護師が増えて欲しい、それが私の願いです。

 医師と看護師、その、どちらかがその職務を十分に遂行していれば、この事故は防ぎ得た、少なくともこのような不幸な結果にはならなかったのではないでしょうか。

医療福祉ジャーナリズム分野 修士2年 早野真佐子さん(医療ジャーナリスト)

■被害者が増えるということは、加害者も増えるということ■

 「被害者が増える、ということは、加害者も増えるということ。どちらも増やしたくない」という豊田さんのお言葉が心に刺さった。
 辛い気持ちの時に、家族、親戚、友人にも話せなくなってしまっていた。マスコミの方々だけが頼れるものであった。被害者を支える場がない−−この事を、身をもって感じていた豊田さんは、今、支える立場になっている。
 被害を受けられた方に対する支援は本当に大切であり、これからも継続する必要がある。

 ADRやMediationという言葉を知らず、この講義で始めて知った。
 医療職者として、誰が医療ミスを起こしたくて起こすだろう。もちろん、何を言っても、医療ミスを起こすことは許されることはない。だから、日々医療職者は重い責任の中で、心身をすり減らしている。
 それでも、ありえないことが重なり、起こるのが医療ミスである。その様な医療ミスに対して、裁判は被害者・加害者にとって辛いことの連続でないかと思う。
 ADRでは、「相手を知ろうとするプロセスが大切」と豊田さんは話された。一件一件の事故から学ぶ姿勢が大切であり、まず、医療者と患者家族の認識の差とは何なのか、考えてみることから始める、本当にこれは大切である。

 私自身も「向き合うことの大切さ」――患者さんの声に耳を傾ける(聴く)、相手の身になって考える(想像する)、対話を持つよう努力する(コミュニケーション)ことを、実践していきたいと思う。
 本当に辛いお話しをありがとうございました。今日のことを忘れず、心に焼き付けたいと思います。

保健医療学専攻 修士1年 横田雅子さん(看護師)

■愛想はいいが、医師の指示がないと動けない看護師が、事故に登場する■

 理貴君の亡くなられた経緯や豊田さんのその時々の心情をきき、この春までリスクマネジャーとして関わった多くの事例について思いをはせていました。
 私は看護師なのでどの事例でも関わった看護師の言動が気になります。今回の理貴君の事例でも受講者からいろいろな意見がでていましたが、豊田さんご自身がスライドに示されたことのほかに「病棟看護師のフィジカルアセスメント能力」によるところが大きかったように思いました。

 豊田さんはお話の中で「外来看護師は危機感をもっていたのに、病棟看護師は愛想がいいもののまるで危機感がなかった」といったようなことをおっしゃっていました。残念ながら「愛想はいいが、医師の指示がないと動けなくて、予測的に行動できない看護師」は少なくありません。
 私が仕事で関わったインシデントやアクシデントに登場する多くの看護師は、こうした看護師でした。いいかえると、看護師が自分をインシデントやアクシデントといったリスクから自衛するためには、自分の臨床力を上げることが一番だと考えます。
 次に起こりうることが予測されれば、予測されることの重大さに気づけ、重大さに気づければ「医師の指示待ち」「医師が来るまで」待たずに、「医師の指示を引き出すような情報提供を医師に行い」「医師が来ざるを得ない」状況を作り出すことが可能です。

 私から見ると、当直医師も病棟看護師も同罪です。この当直医師はもともと問題の多かった医師とのことでしたが、であれば病院は以前からリスク回避の体制を整えておくべきだったはずです。それを理貴君の命と引き換えに、それも、内部告発という形で解決を図る。それを美談にしていけないと思います。
 最後にお子様を亡くされてまだ数年しか経たれていないのに、こうしてお話しくださった豊田さんに感謝申し上げます。

博士課程1年 (看護師)

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