医療福祉と財源の部屋

「社会保障費を削るのはもう限界です」
2008.1.22参議院本会議での尾辻秀久さんの代表質問から

代 表 質 問 原 稿

自由民主党・無所属の会
議員会長  尾 辻 秀 久 (二十・一・二十二)

(山本孝史先生哀悼)
 質問に先立ち、今は亡き、山本孝史先生のご冥福をお祈り申し上げます。
 山本孝史先生は、病魔と壮絶な闘いを続けながら、がん対策、自殺対策の立法に尽力されました。
 その先生のお姿がこの議場に見えないこと、国民が最も関心を寄せている社会保障のご専門の先生がいらっしゃらないことは、残念でなりません。
 山本先生をしのびつつ、これから質問をさせて頂きます。(略)

(税制)
 景気による税収増があまり期待出来ないなかで、税制をどうするのか、お尋ねします。
 来年度の税制改正では、いわゆる「ふるさと納税」が創設されました。
 そこで、今回の税制改正の柱である地方税体系の見直しに関して、地方経済へのテコ入れ効果をどのように判断されているのかを伺います。
 少子高齢化の進展による社会保障費の増加に対応するためにも、消費税の見直しを中心 とした税制の抜本的な改革は避けて通れない課題であります。
 とくに、公的年金の国庫負担二分の一への引き上げは、待ったなしの課題であります。
 昨年末の与党の税制改正大綱では、消費税に関して持続可能な社会保障制度とするための安定した財源として位置づけられています。消費税のあり方や今後の見直しに関して、総理のご見解を伺います。

(財政―予算)
 平成二十年度予算は、税収の伸びが小幅に止まる中でも、歳出・歳入全般にわたる努力で、新たな国債の発行額は、四年連続の減額となりました。
 一般会計規模と一般歳出ともに増額ではありますが、公共事業関係費や政府開発援助は減額し、小泉内閣以来の歳出削減方針は堅持されました。評価したいと思います。
しかし、課題も多くあります。
 例えば今年度一般会計の削減の中、特別会計の歳出合計は昨年度より六兆円多い約三六八兆円となりました。(重複計上を除く純計額は三兆円増の約一七八兆円)
 特別会計の数は、今年度七つ減らして二十一会計、平成二十二年度までに十七会計とする方針と聞いています。もちろん数を減らすことは大事ですが、先ず国民の目に見える会計にすべきであります。
 総理、初めて編成された来年度予算をどう評価されますか伺います。

(プライマリーバランス)
 来年度予算案では、財政健全化の主要指標である基礎的財政収支は約五兆二千億円の赤字で、五年ぶりに悪化することになりました。
 これまでの政府の方針は「骨太の方針二〇〇六」で示されています。即ち黒字化目標を二〇一一年度と明記、財源不足額十六・五兆円を十一・四兆円から十四・三兆円の歳出削減と二兆円から五兆円の税収増で対応するとしております。
 しかし直近の内閣府の試算では、税収の減少により二○一一年度は名目GDP比マイナス○・一%、七千億円程度の赤字となりました。
 総理は、国民に新たな活力を与え、生活の質を高める「生活者や消費者が主役となる社会」を実現する「国民本位の行財政への転換」を基本方針にされました。
 そうであれば、黒字化達成目標について、多少の見直しが必要ではないかと思いますが、総理のお考えをお示し願います。
 関連して申し上げます。
 プライマリーバランス黒字化に向けての歳出削減方針の下で、このところ毎年社会保障費を二千二百億円削減してきました。来年度予算でもそうなっております。
 しかし社会保障費を削るのはもう限界です。乾いたタオルを絞っても水は出ません。
 来年のことを言うと、鬼が笑うと言いますが、あっという間に平成二十一年度予算の概算要求の時期になりますので、申し上げます。
 平成二十一年度予算では、社会保障費二千二百億円の削減は行わないと約束して頂きたいのであります。

(経済財政諮問会議)
 経済財政について伺いましたので、この問題の最後にお聞きします。
 私が大臣をさせて頂いた時にしばしば経済財政諮問会議に呼びつけられました。
 経済財政諮問会議は内閣府設置法に規定されておりますが、その議員のうち、民間議員の選任は官邸で行われ、国会が相談を受けることはありません。同意案件ではないのです。
 民間議員から国会決議を無視すればいいという発言を耳にしたこともあります。会議が実績を残したことは否定をしませんが、一方で格差を広げたことも事実であります。
 福田内閣においては、議院内閣制の下で、この経済財政諮問会議をどのように運営されていかれるお考えか伺います。(略)

(社会保障の基本理念)
 少子高齢化と人口減少が進む中での、これからの社会保障の理念とその在り方についてお尋ねします。
 ここ数年の年金、介護、医療にわたる社会保障改革は、社会保障の持続可能性を高めるため、経済や財政との調和、給付と負担の均衡、世代間の公平性の確保という観点から行われたものです。
 しかしこれからの社会保障改革は、そこにとどまらず、地域経済の発展にも貢献し、何よりも、地域社会の助け合い、支え合いの新しい仕組みを作り、地域社会の連帯感や絆を取り戻すことこそを、基本理念にすえるべきであると考えます。
 総理のおっしゃる自立と共生の社会づくりは、まさにそのことを目指すものであると考えます。これからの社会保障改革の全体像、福田「福祉社会」ビジョンを早急に取りまとめて頂きたいと願います。

(社会保障のかたち)
 そのために、まず、社会保障の大きさをどの程度にするかを決めなければなりません。
 日本は、社会保障について、欧州諸国との比較では「小さな政府」を目指していると言えます。この社会保障の水準が、安心できるものとして十分であるかどうか、国民的論議が必要であります。
 社会保障の給付の水準を上げるためには、一方で国民負担が必要となります。そのための国民合意は欠かせません。
 私は、負担は大きくとも、弱者に優しい国にしたいと願っています。
 中長期的な社会保障の在るべきかたちについて、総理は、どのようにお考えなのか、ずばり、日本を国民負担率何%の国にしようとお考えなのか、お聞きいたします。

(社会保障国民会議)
 総理は施政方針演説において、「幅広く国民各層からなる『社会保障国民会議』を開催し、社会保障のあるべき姿や、その中での政府の役割、負担の仕方などについて、高齢化時代の国民の不安に応えることができるような議論を行う」と表明されました。
 そこで、申し上げますが、社会保障の在り方についての議論は、小泉内閣時代の平成十六年に設置された「社会保障の在り方に関する懇談会」など、過去にも行われて参りましたし、今、噂されているメンバーは、基本的にはこれまでの懇談会と同じ構成であります。それでも、今度の国民会議が、これまでと一味違う答を出せるのか、期待されるような成果をあげることができるのか、会議の運び方について総理にお尋ねします。
 さらに申し上げますと、経済財政諮問会議もこれまで社会保障に口を差し挟んできました。
 その諮問会議の議論は、社会保障の負担面ばかりに焦点が当てられてきました。
 社会保障の議論は、超高齢社会を迎える中で、持続可能な制度としていくという視点は欠かせませんが、国民が安心して暮らすためにどのような社会保障サービスが必要なのかということが基本にされるべきであります。
 新たに設置される「社会保障国民会議」では、社会保障をいかに抑制するかというような議論ではなく、総理のおっしゃる「消費者」「生活者」の視点から、どのようなサービスが必要なのか、そのようなサービスを支えるために政府や国民がどのような役割を負うべきなのかなどについて、広く議論が行われることを期待いたしております。

(年金への信頼の回復)
 年金記録問題では、政府は言葉を並べすぎました。「名寄せ」「突合」「突き合わせ」「統合」「照合」などであります。そして、それぞれに都合のよい定義をした上で、「名寄せはできますが、統合はできません」と言っても、理解されるはずはないのです。
 混乱させて国民を不安にしたのですから、厚生労働大臣はまず謝罪をして、その上で、今一度、三月までと、その後に分けて、できること、できないことをきっちりと説明して下さい。

(年金記録問題)
 年金は国民の老後生活を支える社会保障の中核の制度であり、今後も安定的に維持していくことが必要です。
 先日、福田総理と小沢代表の党首討論がございました。
 その中で、民主党の小沢代表から「全員に年金の状況を送付して確認をしてもらう。違うという人は申し出てもらえばいい。まずは往復のはがきでいいから全員に送付して、国民みんなの判断と申し出を受け付けるべきじゃないだろうか」、というご提案がありました。
 私は、かねてから、いわゆる「スウェーデン方式」に学ぶのであれば、学ぶべきは長い年月をかけ、与野党が一緒になって年金の抜本的な改革を行ったことだと考えてきました。
 年金制度を支えているのは、国民の信頼であります。年金記録問題によって揺らいだ国民の信頼を一刻も早く取り戻すために、皆で力を合わせるべきです。
 参議院においても、年金制度自体の在り方について超党派で議論し、検討していく場を設ける時に来ているのではないかと考えております。
 まさに社会保障の柱である年金制度が、時代を超えて確固たるものとして国民の生活を支えていけるように、立場を超えてあらゆる叡智を結集すべきではないでしょうか。
 そのことを申し上げた上で、総理にお伺いします。
 先日の小沢代表のご提案は助け舟ではなかったのかなと思いますが、総理はどのようにお受けとめになったのか、そして、改めてお受けになるおつもりはないのか、お尋ねをいたします。

(年金担当大臣)
 総理、一つ提案をさせて下さい。
 今や、社会保障関係費は一般歳出の半分近くを占めます。
 厚生労働大臣は、一人でその責任を負っています。私も、厚生労働大臣をさせて頂きました。
 正直に言いますと、あまりに忙しすぎます。
 一人で担当するのは無理があります。
 消費者担当大臣も置かれるようですから、年金のみを担当する大臣をつくられては、いかがでしょうか。
 党派を超えて人材を登用されるなら、国民の不安解消にも役立つと考えます。

(国家観)
 安倍前総理は「戦後レジームからの脱却」を掲げられました。そして約十ヶ月で、防衛庁の省昇格、教育基本法の改正、憲法改正のための国民投票法の制定と、短い期間ながら懸案の処理に成果をあげられました。
 国の形をどう創るか、その中で国民をどのように導いていくか、国家の最高指導者に課せられた重い課題であります。
 そこで、総理の国家観を伺いたいのであります。二千年以上の時が流れる我が国の歴史を踏まえ、今、どのような国を創ろうとなさるのか、その上で国家百年の計である我が国の将来を担う若者たちの教育をどうするのか、国家の基本たる憲法は如何にあるべきか、お考えをご披瀝願います。

(結び)
 最後に一言申し上げます。
 薩摩藩主・島津斉彬に次の言葉があります。
「勇断なき人は事を為すこと能わざるなり」
 総理、難局に当たる今こそ、断固たる信念のもと、国と、国民のために先頭に立って下さい。
 私共も全力をあげて、ご一緒に頑張りますことを申し上げ、私の質問を終わります。

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