優しき挑戦者(国内篇)

※写真にマウスポインタをのせると説明が表示されます


メンバーがデザインした文字通り笑っているような咲笑のロゴマーク  「咲笑」という名の、世にも不思議な心なごむスペースが大阪・池田市の住宅街に生まれて2年たちました。
 「さくら」と読むのですが、辞書には載っていません。「いつも笑いが咲きますように」という願いをこめて、ここを利用する人たちが作った言葉なのですから。
 宝石商が住んでいた家だそうで、とにかく豪邸です。ダイニングキッチン(写真@)はインテリア雑誌から抜け出したよう。
 そして、その名の通り、笑顔が絶えないのです。いったい、ここは何なのか、誕生したばかりのホームページから抜粋してみます。

写真@:宝石商の家だっただけあって豪華なキッチン。ここは2階。3階には床の間、お茶の水屋つきの和室も

 それぞれがそれぞれの時を過ごす・・・
 咲笑ってそんな場所なんです。
 こころの病で1人で悩んでませんか? 仕事で行き詰ってませんか? 人間関係や家庭環境で苦しんでませんか?
 ここ咲笑は、地域で生活するこころの病を持つ方が、病状での悩みや生活する上での悩みをいい方向に解決出来るように、又あなたが今困っている事を相談できる公の施設です。
 病気でわからない事も知識の豊富な職員と経験者であるメンバーが出来るだけあなたの力になります。入院経験のある方や退院して行き場に困っている人も歓迎します。他の施設と違って作業や拘束される時間などはありません。自由に過ごせる場所、それが咲笑です。
 今まで誰にも言えなかった悩みもここでは話せてしまうそんな場所です。1人で悩まないでここで色んな生き方をしている人達と話し新しい自分を見つけませんか? 一度行ってみようと思ったらお電話ください!!優しいみんながお待ちしています。

■ホームページは、メンバーたちでレイアウトも■

 引用が長くなったのには、わけがあります。
 ここは行政用語では「精神障害者地域生活支援センター」です。このセンターは、国の補助もあって全国約500カ所ほどあり、ホームページをもっているところもあります。ただ、大半は「支援する側」から書かれています。 たとえば--
 「当センターでは、在宅の精神障害者に対し、電話相談、来所面接、訪問相談、憩いの場、地域交流活動…などを行っております」。
 読んでも「行きたい」という気持ちが沸いてきません。
 それとは対照的に、咲笑のは、精神病を体験したメンバーたちが、「仲間の役にたつように」と文章もレイアウトも何度も話し合い、練りに練り、自らアップしたものなのです。

■活動は、いずれも、メンバーの提案で■

 池田市と聞いたら、たいていの人はあの事件を思い浮かべることでしょう。刃物を振りかざした男が小学生たちを無残に殺したあの事件です。犯人は当初、精神病を装っていました。
 池田市の倉田薫市長は、作業所を激励に回りました。いま一番心を痛め、不安なのは、精神病を体験している人たちに違いない、と思ったからだそうです。そして、計画中だった「咲笑」のオープンを前倒しし、基本資産の約半分の490万円と年間約2000万円を、市から援助する英断をくだしたのでした。
 「通う所もなく孤立することが問題で、こういう場を増やすことが事件を防ぐことにもつながる」という考えからでした。

 報酬半減を覚悟で保健所をやめ咲笑のスタッフになった野田美紗子さんの信念で、ここでの活動はいずれも、メンバー自身の提案によるものです。運営もです。

写真A:スタッフがメンパーに料理を教えてもらうこともしばしば ☆一人前300円の夕食会
 水・土曜日、みんなで作り(写真A)ます。一人で食べる淋しい体験から発案されました。

☆フロとシャワー室でサッパリ
 風呂代百円、シャワー代も100円。

写真B:入院歴21回と思えぬこの笑顔 ☆ 木曜のモーニングサービス
 飲み物とトースト、キャベツとにんじんとベーコンの炒め物、ゆで卵。手づくりジャムを3種類まで選べて150円。
 この部門のチーフをつとめるコーヒー名人、重台さん(写真B)は、駅のホームに立っていると「飛び込め」と命じられる幻聴など辛い症状があり、21回もの入退院を繰り返した人です。ところがセンターができてからはずっとまちで暮らし、ご覧のような笑顔でいまや大黒柱のひとりです。ここを訪ねた佛教大の大学院生は、駅まで迎えにきてくれた重台さんを「スタッフ」と思い込んでいて、あらためて、自身の抱いていた「精神病」のイメージの間違いに気づいたと告白しました。

写真C:自転車で訪問するビア(仲間)ヘルパー ☆ ホームヘルパー
 精神病を体験した9人のヘルパーが、11人の精神病の人を料理、買い物、掃除、裁縫、洗濯、見守りなどでゆったり支えています。写真Cは雨の日、自転車で利用者の家に向かうところです。

☆講演活動
 阪大ボランティア人間科学の授業にもきていただき、大好評でした。

☆退院促進事業
 「まちでこんなに楽しく暮らせる」という証拠のビデオをもって病院を訪ねます。「この病気になっても笑えるンや」とは、入院している人の、ビデオを見ての言葉です。

■スタッフの採用にもメンバーが面接官に■

 中でもユニークなのは、職員採用の面接にスタッフが加わることです。「加わる」というより「中心になる」という方が正確かもしれません。
 採用のための面接の日が決まると、壁に「参加したい人はここに名前を」という紙が張られます。そこに記入すれば面接官誕生です。
 利用者本位とはまさにこのこと。そのためでしょうか。タッフとメンバーの間柄が実に自然で、何時間でもここに居たくなる雰囲気が醸しだされているのでした。
 咲笑のホームページは http://www.ikeda-sakura.com/です。

大阪ボランティア協会『Volo(ウォロ)』2004年6月号より)

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