優しき挑戦者(国内篇)

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(26)皆の衆・神宮寺の「えにしin 信州」

 私のお弔いでお経をあげてくださる予定の神宮寺の高橋卓志和尚は、住職なのに「とび職」と呼ばれています。タイ、カンボジア、チェルノブイリ……とHIV感染や放射能汚染の被害者のために飛び回り、由緒あるこのお寺にさっぱり居つかないからです。
 禅宗の中でも戒律の厳しい臨済宗の修業をしたらしいのですが、ご本人は「いやいや、『みなのしゅう』です」。

 そんな和尚ですから、やることなすこと、坊さま離れしています。
 透明性とか情報開示とかが話題になるずっと以前に、寺の経理を全面公開しました。

 寺を学びの場にする「尋常浅間学校」を月1回開校し、10年間に100回の授業をして、なお継続中。校長は永六輔さんです。子ども図書館「おてら文庫」を開いて、いろんな世代を溶け合わせています。
 原爆の図で有名な丸木位里、俊夫妻は、そんな和尚に惚れ込んで、神宮寺のために88枚の襖絵と杉戸の禅画を描きました。それはそれは素晴らしい作品です。その襖絵に、左の写真のように、車いす利用の修行僧を描いてほしいと注文するところが、和尚らしいところです。

 2002年6月末、3日連続でおこなわれた「葬式の見本市」、Funeral Fairの案内文を受け取ったときにも肝をつぶしてしまいました。でも、終わりまで読んで納得しました。抜粋してみます。

 このフェアは、3つのキーワードから成り立っています。
 『創る』は、ワークショップを中心に別れのデザインを描き、『試す』は、そのデザインにしたがって自らが望むお葬式のシュミレーションに参加し、『視る』は、旧来型およびそこから脱皮しようとするお葬式を取り巻くさまざまをご覧いただこうというものです。

霊柩車の乗り心地を確かめる。
火葬場を見学する。
装束を着けて実際に棺に入る。

 出会い方に違いがあるように、別れ方にも違いがあって当然なのです。ならば、定食・定番化している現状の別れのセレモニー=葬儀は、果たして大切な別れを満足させてくれるのでしょうか。世間の慣習に流され、知らず、知らず、自分の本意とはかけ離れた儀式を行うことに違和感を持ちませんか。
 あまりにも高額になっている現実を変えてみようとは思いませんか

 心惹かれながら、先約と重なって参加できなかった私に、こんどは、生・病・老・死を素材にした美味しいケア料理を食べ尽くす尋浅レストランへの招待状が届きました。こんなメニューが同封されていました。

レストラン開店日=2002年11月3日午後1時から7時まで
◇前菜◇ 食前酒を楽しみながらの自己紹介
◇季節のスープ◇ ケアタウン浅間温泉をスープ皿に注ぎながら、まち、ひと、施設の創り方と動かし方を考えます
◇お魚料理◇ ケアの本質とはなにか?を討論
◇メイン料理◇21世紀型福祉とは?松本はほんとうに福祉先進都市?ケアタウン構想の行く末は?
◇デザート各種◇ 食べ残し、語り残しをここで

 実は、これ、延々6時間も語り合う「まち起こしシンポジウム」の企てなのでした。
 300人ほどの見物客に囲まれて会場の真ん中にテーブルが一つ。そこに案内された5人ゲストは、シェフ姿の高橋和尚が運んでくる"食材"と格闘する羽目となりました。見物席からも塩尻市長はじめ、多彩な方々もテーブルに呼び込まれ、「餌食」になりました。

 和尚によれば浅間温泉には、2種類の鳥の大群が押し寄せているのだそうです。
 シジュウカラ、別名「始終、空(カラ)」や閑古鳥という名の"鳥"です。
 とび職の和尚も、故郷の危機を目の当たりにして郷土愛に目覚めたようです。廃業を決意した旅館を、ケアする人・される人を癒す「現代風の湯治場」として蘇らせ、まちを「障害をもつ人も赤ちゃんも死を間近にした人も認知症の人も受け入れられるケアタウン」に変えようと同志とNPO ライフデザインセンター設立を計画。まちの外からの知恵も借りようと執り行われたシンポジウムでした。

 計画は着々と進み、NPO法人ケアタウン浅間温泉が、廃業した老舗旅館「御殿の湯」で始まりました。写真は御殿の湯、自慢の温泉です。
 2003年の朝日新聞の正月社説は発想転換の道しるべとしてこの試みを取り上げました。

 2002年から始まった「ケアレストラン・えにし」は、「えにし in 信州」と称して、毎年、海の日に"開店"するのが恒例となり、私は店長を命ぜられました。
 第1回の"フランス料理"に続いて、第2回は"懐石料理"、第3回は"中国料理"の満漢全席。第4回は、"ダイエット&エステ"。ことし7月16日(日)のタイトルは、なんと、「失恋レストラン? 失職レストラン?? い〜や…ケアレストラン!」

 宮城県知事を辞めた浅野史郎さん、志木市長を1期で辞めてしまった行政改革分野の希望の星、穂坂邦夫さん、秋田県鷹巣町長の座を奪われた岩川徹さん、松本大学講師でもある薬害エイズ訴訟原告の川田龍平さんなど異色のみなさんが登場します。
 長寿県名物に祭り上げられている「PPK(ピンピンコロリ)」の倫理をめぐっては、生命倫理研究者の武藤香織さんと高橋和尚の「人間やめるのも楽じゃない」が予定されています。

開催日:7月16日(日)13.30〜19.30
会場:〒390-0303松本市浅間温泉3-21-1  神宮寺アバロホール
http://www.jinguuji.or.jp/annai/annai3.htm
申し込みは、
TEL0263-46-1611 FAX0263-46-3919
E-Mail: info@jinguuji.or.jp
 くわしくは下記をごらんください。
 老・病・死を考える会世話人・尾崎 雄さんは、神宮寺や浅間温泉について、こう書いておられます。

 昔の寺院は学校、病院、老人ホーム、託児所など庶民の暮らしを体と心の両面から支えるためのコミュニティセンター。僧侶と尼僧の地域機能の一つは病人のケアと看取りと供養だった。癌で亡くなったとされる良寛和尚を最期まで世話して看取ったのは若い尼僧である。また、ホスピスの原型を作ったのはアイルランドの尼僧、メアリー・エイケンヘッドである。同尼がダブリン郊外で始めたアワ・レディーズ・ホスピスが現代ホスピスの源流とされる。
 全国に8万ある寺のうち3万は事実上住職不在の空き寺になりつつあるという。それらをミニホスピスとして活用すれば、社会資源を再利用した効率的なコミュニティケアができるはずだ。

 お寺の世界の反主流、反逆児の神宮寺、実は、「本来のお寺」の主流なのかもしれません。


↓2006年の「えにし in 信州」の印刷用チラシです。

・pdf版

・jpg版(画像をクリックすると、文字がはっきり読めるように大きくなりますp(^-^)q)



大阪ボランティア協会の機関誌で、『Volo(ウォロ)』の前身、「月刊ボランティア」2002年12月号に書いたものに大幅に加筆しました)
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