「漏れる」「出ない」など、他人には明かしにくい、オシッコにまつわる症状に悩む人は、人口の7〜8%、日本では、およそ900万人の人がこの悩みに直面していると推定されています。
この世界で、いま、日本コンチネンス協会、中枢性尿崩症の会、腎性尿崩症友の会……といった名前の"オシッコボランティア"が大活躍です。
さきごろ開かれた日本老年泌尿器科学会では、主催と運営をまかされ、シンポジウムに出演し、八面六臂。医療の専門家にも深い感銘を与えました。
日本コンチネンス協会の会員は、いま、700人ほど。排泄障害を持つ当事者と医師や看護師などの専門家、両方から構成されているのが特徴です。
ホームページには、電話相談の案内、基礎知識、用具の活用、社会資源の活用、専門外来をもつ医療機関など、役にたつ情報が、ユーモラスなタッチで、ぎっしり書き込まれています。
会報(左)で失禁に関する新しい情報を発信するだけでなく、様々な原因で失禁の悩みに直面した当事者が、ボランティア精神を発揮して、自身の体験をありのままに寄せた『失禁コントロールガイド』も発行しました。(保健同人社刊)
失禁のイメージを変えるために、「コンチネンスケアマーク」(右)も考え出しました。賛同する医療機関の窓口や商品に、このマークがつけられて、イメージチェンジに一役かっています。
産声をあげたのは、1989年。失禁勉強会という地味な名の門出でした。
写真右、黒板の前で話しているのが「日本初のオシッコナース」、西村かおるさんです。
「"コンチネンスアドバイザー"という、排泄のことを専門にする資格をイギリスで取ったとき、向こうの先輩から"ひとりでは絶対に出来ないから必ず仲間を募れ"ってずいぶん言われました。で、日本に帰ってきて、小さい勉強会を開いたのがそもそものきっかけです」
当時は、失禁は専門に診る医療機関もほとんどありませんでした。電話やファックスによる相談事業には、顔を合わせずに話せる、という気軽さから、多くの相談が寄せられました。
そんな中から、失禁の原因別の会も立ち上がっていきました。
ことしは、日本老年泌尿器学会を主催、運営するまでに成長しました。学会長は西村さんです。
「医者じゃない、大学教授じゃない、女性である、所属団体が非常に基盤の弱い非営利団体である、そして何といっても50歳以下という、初めてづくしの異色の学会長でした」
シンポジウムでは、失禁の悩みをかかえる3人(写真の左端)が、練りに練った内容の発言をして、感銘を与えました。
学会当日の3人の体験者の話がとても感動的だったので、抜粋しますね。
香川県から参加した塩津直子さん。
病名は、「中枢性尿崩症」。抗利尿ホルモンが少なくなったり、全く分泌されなくなったりするため、体内の水分が尿となってどんどん排出されてしまう病気です。
1日に出る尿は、おとなだと、10リットル前後。体は極度の水分不足となり、常に大量の水分を補給しなければなりません。
学会当日も、塩津さんのテーブルの上にはペットボトルがずらりと並んでいました。
「砂漠で旅人が水を求めてさまよう時の猛烈なノドの渇き、それが、私たちには日常にあるというくらい猛烈な渇きです」
「またトイレ? なんで水ばっかり飲むの? という友人からのなにげない質問にも、当時は答えられるはずもなく、そう言われることがたまらなく恥ずかしくて、ひたすら目立たないよう人目を忍んで、欲求を満たすことに心血を注いでいました」
「それが今では、"疾患を持った元気人"として、このような場でも発表できるようになりました。自分自身が病気の理解し、また分かち合える仲間たちを得て、コンプレックスを克服できたのだと思います」
塩津さんの学会発表の原稿と資料:学会原稿1(Word)/学会原稿2(Word)/学会資料(PDF)
神野啓子さんは、2人の子供が「腎性尿崩症」。
薄い"オシッコの原料"から水分を回収する役目の腎尿細管が、ホルモンに反応しないため、薄いオシッコが大量に出てしまう病気です。
9年前、神野さんは、15歳の長男を亡くしました。
手首を骨折し、全身麻酔をかけて手術をした時のこと、水分の補給が間に合わず、脱水症状を起こしたのが原因でした。自分のような経験をほかの家族にさせてはならない。
神野さんは患者会を立ち上げました。
「この病気、1度も見たことがないっていう先生たちが多いんです。病気の名前と内容、どんなことを苦労しているかを知ってもらうことが、まず、すごく大事だと思ってるんです」
「乳児期は、昼夜かかわらず1時間に1度オムツ交換をしなければならず、睡眠不足からくるノイローゼで子供を6階のベランダから落とすのではないか、と母が週末に泊まりに来てくれて、私を朝まで寝かせてくれました。母のサポートで頑張れたと思っています」
神野さんの学会発表の原稿と資料:学会原稿(Word)/学会資料(PDF)
矢澤康行さんは、1歳の時に脊髄の病気の後遺症で障害が残りました。
「小学校に上がったときには、母が学校へ通ってオムツを換えていました。就職しても、上司が女性だったこともあってこのことが告げられず、オシッコのことでアタマがいっぱいで、仕事も上の空になりがちでした」
日本コンチネンス協会失禁電話相談室にたどりつき、紹介された病院で、9年前のクリスマスイブに診察を受けました。
カテーテルで自己導尿することになり、それはすばらしいクリスマスプレゼントになりました。
「カテーテルからほとばしるおしっこを見て、ああ、これで人生変わると思いました。確かに変わりました。今は結婚して、4歳になる息子がいます」
矢澤さんの学会発表の原稿と資料:学会原稿(Word)/学会資料(PDF)
詳しくは以下のホームページをご覧ください。
日本コンチネンス協会:http://www.jcas.or.jp/index_a.htm
中枢性尿崩症(CDI)の会:http://members.at.infoseek.co.jp/cdin/
腎性尿崩症友の会:http://www.geocities.co.jp/Beautycare-Venus/7094/
矢澤康行さんの個人HP:http://homepage3.nifty.com/y-yasu/
神野さんの「剛は自転車で転んで死んだ」:http://www.ops.dti.ne.jp/~boolin-k/
(
大阪ボランティア協会の機関誌『Volo(ウォロ)』10月号より)