少子化と子育て、そして教育の部屋
児童虐待対策の「今」、そして「これから」
厚生労働省虐待防止対策室長・母子家庭等自立支援室長 伊原 和人さん

「3歳餓死。通報4回生かせず」
「4歳死亡、母逮捕。窒息、気管に唐辛子」
「児童相談所3回面談、措置取らず」
 いずれもこの1年間に発生した児童虐待による死亡事件をめぐる報道である。
 日本では、把握されているだけで年間50件を超える死亡事件が発生しているから、ほぼ毎週、こうした事件が報道されていることになる。
 少子化が懸念されるこの時代にあって、この世に生まれ出た子どもがその産みの親たちによって殺されてしまう。この不条理に担当者である私自身、しばしば何とも言えない思いに囚われることもある。

 こうした報道の度に、「我が子を殺すような親は極刑に処すべき」、「何度も通報があったのに、虐待死を防げなかった児童相談所の職員は免職にすべき」といった厳しい意見が寄せられる。確かに、我が子を虐待するなんてことはもってのほかであるし、また、子どもの命を守る砦である児童相談所がその役割を果たせなかったことは、その結果において重い責任がある。
 しかし、同時に、こうした痛ましい事件が生じた背景には様々な要因がある。
 親自身が深刻な事情を抱えていたにもかかわらず適切な支援が届いていなかったケースもあるし、また、児童相談所自体も、児童福祉司をはじめ職員が昼夜を問わず懸命の努力を払っているにもかかわらず、急増する児童虐待ケースに対応しきれていない状況がある。

 実情を知れば知るほど、児童虐待問題の難しさを痛感させられるが、同時に、子どもの命とその将来がかかったこの「待ったなし」の問題について、私たちが、今、何ができるかを、徹底的に考え、そして、実行することが求められていると感じている。
 本稿では、こうした児童虐待防止対策の「今」そして「これから」について説明したい。

■児童虐待の現状……虐待死の7割が3歳未満/大都市だけでなく郡部でも

 2005年度の児童虐待対応件数は約3万4千件。厚生省が児童虐待の統計を取り始めた1990年度)と比べると、実に31倍に上っている。このように急増している背景としては、現実に、家庭内での児童虐待が増えているほか、2000年に制定された児童虐待防止法以降、児童虐待は「しつけ」ではないという意識が市民に浸透し、虐待通報が増加したことも指摘されている。
 資料1は、2003年7月から2004年12月までの死亡事例(77事例、83人)を分析したものだが、これによれば死亡事例の約4割は0歳児であり、1〜2歳児を含め3歳未満でみると約7割に上っている。新生児を含め乳幼児はちょっとした暴力やネグレクトにより深刻な事態に至ることも多いことから、虐待死を防ぐという観点からすれば、乳幼児を抱える世帯に対するアプローチの重要性は高いといえる。
 こうした問題意識に基づいて、今年度から、生後4か月までの赤ちゃんを全戸訪問する「こんにちは赤ちゃん事業」をスタートしている。
 また、その家族形態をみると、ひとり親、内縁関係、子連れの再婚といったケースが約6割となっているほか、地域社会との接触頻度をみると、「ほとんどない」「乏しい」が約7割に上っており、こうしたハイリスクの家庭に対する丁寧な支援が求められている。
 従来、児童虐待は大都市特有の問題であり、郡部には無関係の問題と認識されがちであったが、最近、相次いで、これまで無縁と思われていた地域でも死亡事件が発生している。人々の移動が激しくなり、郡部でも他の地域から移り住むケースが増える中で、児童虐待のリスクが高い、地域社会との接触がほとんどない世帯が見られるようになっているのである。

■児童虐待防止対策の経緯……わが国では珍しく議員立法で対策を推進

 厚生省が児童虐待に関する統計を取り始めたのは1990年であるが、90年代は、児童福祉法に基づく要保護児童対策1) として対応されていた。
 当時は、子どもの養育は保護者の義務・役割という考え方が強く、児童相談所を含め、第三者が家庭に対し積極的に介入することには消極的であった。しかし、相次ぐ、死亡事例の発生や本格的な対策を求める民間団体などの声に押される形で、2000年に議員立法により、児童虐待防止法が制定され、これ以降、児童虐待対策が本格的に推進されることとなった。

 わが国の場合、超党派の賛同を得て成立する議員立法は、通常、基本法のような法律が多いが、この児童虐待防止法は児童虐待防止対策の実質的な内容を規定した珍しい例であり、その後も施行後の状況を踏まえて、2004年に議員立法により見直しが行われ、再び現在、その改正が行われようとしている。
 2000年の児童虐待防止法の制定以降の取組の経緯は、資料2のとおりであり、特に、児童相談所の機能強化にあわせて、市町村を児童虐待防止対策の担い手に加えたことが大きなポイントとなっている。

1) 要保護児童とは、児童福祉法第6条の3により、@保護者のいない児童(孤児、保護者が行方不明等の児童)、A保護者に監護させることが不適当と認める児童(保護者に虐待されている児童、保護者の疾病等により必要な監護を受けることができない児童、不良行為をなし又はなすおそれのある児童等)とされている。

■児童虐待防止対策の「今」

(1)3つのアプローチ

 資料3のように、児童虐待防止対策は、@発生予防、A早期発見・早期対応、B保護・支援の3つの領域から成っている。
 いずれも重要な課題だが、特に、目前の虐待死を減らすという意味では、危険が生じている子どもを早く発見し、一時保護するという早期発見・早期対応が重要となる。児童相談所の対応が遅れて、死亡事件にまで発展し、強い批判を受けるのも、この領域での問題である。
 昨年から今年にかけて、最近の死亡事例からの教訓を踏まえて、この早期発見・早期対応の強化に向けて、様々な見直しを行ったほか、今回、制定以来2度目となる児童虐待防止法の改正作業においても、この部分を中心に対策強化が予定されている(詳細は後述)。

(2)市町村・児童相談所の二層構造で対応

 前回(2002年)の法改正まで、児童虐待防止対策は、「児童相談所」のみで対応する仕組みであったが、前回の改正により、「市町村」も虐待通告の通告先となり、「市町村」「児童相談所」が二層構造で対応する仕組みとなっている(資料4参照)。
 現在、児童相談所は、児童福祉司約2,100人、児童心理司約1,000人と限られた数のスタッフで、児童虐待、非行、障害児などの問題に取り組んでいる。
 資料5のように、児童虐待防止法の制定時(平成12年度)と比べれば、児童福祉司で約1.6倍と、行政改革の流れの中で、異例の増員が図られているが、それでも、同時期の児童虐待対応件数は約1.9倍と、こうした体制整備を上回るスピードで伸びている。


 また、児童相談所は、原則として、一部の大都市を除けば、都道府県の組織であり、箇所数も近年増加しているものの191箇所と、必ずしも、地域密着型組織とはいえない。したがって、人も場所も限られている中で、四六時中、気になる子どもたちの状況をきちんとフォローすることは難しい。となると、やはり、市町村のスタッフ(約6,300人)、そして、主任児童委員(約21,000人)といった地域の福祉資源、さらには、警察、保育園・幼稚園、学校など幅広く関係者を巻き込んで、地域ごとのシステムを作る必要がある。

 その意味で、市町村の重要性が増しており、その中核となる要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)の設置が急がれている。昨年度(平成18年度)、補正予算で設置促進助成措置を講じたこともあって、2007年3月末で約85%が設置見込みとなっている(資料6参照)。しかしながら、設置率をみると、地域格差が大きく16都道府県で既に100%となっている一方で、50%台という県もあり、こうした立ち遅れの見られる自治体を中心に一層の取組強化が必要と考えている。

 仮に、地域協議会が設置されたとしても、年に数回、形式的な会議を開催しているだけではほとんどその意味は乏しい。ネットワーク組織は、真にそれが関係者の連携に結びつくような活動につながってこそ初めてその目的が達成される。その意味で、地域協議会の運営に当たっては、組織の代表者で構成される会議(代表者会議)以上に、実務者による会議(実務者会議)や個別のケースごとの会議(個別ケース会議)が重要である(資料7参照)。実際、大阪府の泉大津市や三重県の志摩市などの先進事例をみると、こうした現場レベルの会議が機能することで、小学校に上がる前の段階での虐待ケースの発見が進み、長年にわたり継続して虐待にさらされるような深刻な事態が回避できるようになったと報告されている。

 このように徐々にではあるが進みつつある市町村レベルでの体制整備であるが、しばしば、児童虐待の窓口が市町村と児童相談所(都道府県)の二箇所に分かれたことに伴う役割分担が問題となる。確かに、窓口が増えることは入ってくる情報の増加につながるが、他方、誰が責任をもって対応するかが曖昧になったり、押し付け合いになったりする危険が高まる。特に、児童虐待の場合には、子どもの生命・身体の危険への配慮とともに、保護者とのトラブルが避けられないことから、誰しもその責任を負うことには躊躇を伴う。

 基本的には、支援を担当する市町村と立入調査等の強制措置を担当する児童相談所という役割分担をベースに考えていくことが適当だと考えている。市町村は、住民サービスの一義的な実施主体として、まず、住民の中で発生している児童虐待について把握するとともに、その世帯が必要とする様々な支援を提供する役割を果たす。しかしながら、虐待が深刻であるために、立入調査や一時保護という強制的な措置が必要な場合には、その権限を有する児童相談所長(都道府県)が、きちんとその役割を果たすという関係である。これまでどうしても児童相談所がすべてを担当する形で進められることが多かったが、増加する児童虐待に対応するためには、市町村との分担が不可欠であるし、また、児童相談所が保護者への支援まで念頭に置いて行動すると、どうしても強制的な措置を行使することにためらいが生じることも避けられないが、分担することにより、こうしたリスクも回避が可能となる(資料8参照)。
 市町村における児童虐待への対応は、未だ発展途上の段階であるが、速やかにその力量アップを図り、地域における実効的な児童虐待防止体制を構築していくことが必要と考えている。

■児童虐待防止対策の「これから」

 前回(2004年)の法改正から3年目を迎えたが、この間も痛ましい虐待死は減ることはなく、現行の児童虐待防止対策について、様々な課題が指摘されている。そこで、昨年末より、この間の様々な事件、さらに、前回の改正法の施行状況を踏まえて、主として、以下の3つの対策が進められている。
(1)児童相談所や市町村の体制整備
(2)最近の死亡事例等を踏まえた児童相談所運営指針等の見直し
(3)児童虐待防止法の見直し
 資料9は、その全体概要を、@発生予防、A早期発見・早期対応、B保護・支援の領域ごとに、要約したものである。

@発生予防

 児童虐待防止のための究極的な対策は、児童虐待を起こさせないこと、つまり、発生予防であるが、そのためには保健、福祉分野での取組みにとどまらず、教育分野など広範かつ総合的な対策が必要となる。その意味で、これをやれば大丈夫という唯一絶対の対策があるわけではないが、本年度から、0歳児の死亡事例が最も多いという現実を踏まえて、生後4か月までの赤ちゃんを全戸訪問する「こんにちは赤ちゃん事業」をスタートすることとしている(資料10参照)。

 日本は1歳半健診、3歳児健診など母子保健分野において世界に誇れる優れた包括的な予防対策が取られているが、そこに新たに0歳児の段階ですべての家庭を訪問するという包括的な対策が付加されることとなった。全国で1年間に約110万人の赤ちゃんが誕生するが、そこに第三者が訪問することは、孤立しがちな新生児家庭と、地域社会をつなぐ最初の橋渡しとなるほか、児童虐待のリスクを把握することにもつながると考えている。
 今後、各市町村において、様々な形で訪問事業が展開されることになるが、それぞれの地域の実情に応じて、ユニークな取組みが行われることを期待している。

A早期発見・早期対応

 発生予防が究極的な児童虐待防止対策とすれば、早期発見・早期対応は、私たちが日頃、報道で目にする痛ましい死亡事件を減らすために、緊急に強化が求められている対策である。冒頭に引用した新聞報道のように、児童相談所などが児童虐待の存在を把握していながら、結果として、虐待死を防げなかった事件は、関係者にとって大きな衝撃となることは無論のこと、多くの国民にとっては命を守れなかった関係者に対する怒りとなる。その意味で、昨年秋の京都府長岡京市の事件を始めとする昨今の一連の虐待死事件は、従来の児童虐待防止対策の大きな見直しの契機となった。
 特に、虐待通告を受けてからの迅速な対応は、児童相談所や市町村にとって、最も基本的な業務であるが、その確実な履行の重要性が改めて指摘され、今回の法改正では、安全確認の実施義務化を明記する予定となっているほか、法改正に先立って、厚生労働省が1月に改正した児童相談所運営指針等では、通報後48時間以内に直接、子どもを目視により安全確認することを制度化した。

 今回の法改正では、資料11のように、立入調査についても大きく見直されることとなっている。現在、児童相談所は児童虐待が疑われるケースについて、家庭訪問等により安全確認を行っているが、保護者の拒否のため確認困難な一部のケースでは、警察の援助を受けて、立入調査を実施している。平成17年度においては、こうした立入調査が207件あったが、うち8件については立入調査の段階でも保護者の拒否により安全確認が実施できていなかった。わが国では憲法第35条の規定の関係もあって、司法が発した令状なく、強制的に開錠することは認められていないが、今回の法改正論議に当たっては、こうした頑なに立入を拒否するケースについても開錠できるような仕組みの創設が議論された。その結果、立入調査を拒否し、かつ、重ねての出頭要求に応じない場合には、裁判所の令状を得て、児童相談所が警察の援助を受けて、開錠して立ち入ることができるとの改正案がまとめられている。

 相次ぐ虐待死事件に関し、児童虐待防止の要となる児童相談所に対する批判は厳しいものがあるが、実際に現場に直面する児童相談所の置かれた状況をみると、人的にも設備的にも改善が必要となっている。そもそも保護者からその子どもを分離するという強権的な役割と同時に、親子再統合に向けて、その保護者の支援を行っていくという相矛盾する役割を背負っている児童相談所は、その運営自体に困難を抱えているほか、児童虐待ケースは保護者への対応をはじめ最も負担が大きい業務といわれ、増加するケース数への対応とあいまって児童福祉司等の中にはバーンアウト状態となる者が増えているといわれている。また、児童虐待件数の増加に伴って、一部の児童相談所では親子分離した子どもを一時的に保護する一時保護所が定員超過状態となるなど設備面でも問題が生じている。
 児童相談所は基本的に地方自治体の組織であり、その職員や設備の在り方については、地方分権の流れの中で、国が関与すべきではないとの意見もあるが、児童虐待ケースの急速な増加といった緊急性や地域格差の是正という観点から、国としてやれることはやるとのスタンスに立って、平成18年度補正予算や本年度予算において、児童相談所の体制整備に向けて、居住環境の改善、車両整備などを実施したほか、一時保護所が定員超過状態にある自治体においては、本年6月末までに一時保護施設等緊急整備計画の策定を求めたところである。また、スタッフについては、児童虐待対応の中核となる児童福祉司について、本年度の地方交付税措置において、標準団体(人口170万人規模)で従来25人とされていたところを3名増の28名とこれまでにない大幅な増員を図った。

 市町村の体制強化については、要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)設置の努力義務化が法律に明記される予定となっているほか、本年度の予算等では、@都道府県が児童相談所OB等を地域協議会に派遣・配置する仕組みを導入したほか、A地方交付税措置において、「地域協議会の機能強化など児童虐待対策の充実」を含めた少子化対策分として大幅な増額が行われている。2)
 国では3年前より児童虐待のために死亡した事例について検証作業を行っているが、今回の改正法案では、こうした検証作業を国だけでなく地方公共団体においても実施を義務付ける予定となっている。これまで自治体においても、関係機関の対応の立ち遅れのために死亡に至った事件等の場合、アドホックな形で検証を行う例は見られていたが、今後は、発生した事例を網羅的に検証することで、児童虐待の発生予防から早期発見・早期対応、保護・支援に至るまでの地域の課題をトータルに把握することが期待される。

2) 平成19年度の地方財政措置では、「地域協議会の機能強化など児童虐待対策の充実」など地域の子育て支援のための措置として、標準団体(人口10万人規模)当たり、5,500万円と前年度の2,500万円と比べ、3,000万円の増額となっている。

B保護・支援

 児童虐待対応の一環として親子分離した後において、保護者が児童相談所や施設にやってきて、子どもを連れ戻そうとしたり、あるいは、大声で騒いだり、職員に対し暴力を振るうといった事例がしばしば見られる。現行法でも強制的入所措置(児童福祉法第28条措置)の場合には、保護者に対して面会通信制限が可能となっているが、今回の法改正においては、一時保護中や保護者の同意を得て入所している場合においても、制限を可能とするとともに、強制的入所措置のケースで面会通信制限違反行為が見られた場合には、児童へのつきまといや児童の所在地の周辺をはいかいすることを罰則付きで禁止する命令制度の創設が検討されている。

 児童相談所は、虐待を行った保護者に対し、親子再統合に向けて様々な指導を実施するが、保護者の中にはこうした指導に対し全く従わないケースもしばしばみられる。現行法では、こうしたケースについて、都道府県知事が勧告するという手段が認められているが、勧告した後の取扱いが明確となっていないこともあり、現在のところ発動例は把握されていない。結果として、保護者指導が進まず、親子再統合の見通しが立たないケースが数多くみられるほか、逆に、施設入所中の我が子に全く会いに来ようともしないケースなどでは、子どもの養育の観点からは里親委託などのケアが望ましいにもかかわらず、そのまま放置されるような事態も生じている。そこで今回の法改正では、保護者指導に係る知事の勧告に従わない場合には、児童相談所長は、一時保護、強制的な入所や里親委託措置、そして、親権喪失宣告の請求など必要な措置を講じることを法律上、明記することとしている。

 この法改正により、今後は、保護者指導の実効性が高まることが期待されるほか、これに従わない場合には、いたずらに時間を過ごすことなく、日々成長する児童にふさわしいケアを講じることが求められることとなる。保護者指導については、これまで現場において試行錯誤しながら進められてきたが、今後は、保護者指導⇒勧告⇒新たな措置といったステップとなることから、その標準化作業を進めていくことが必要と考えている。
 今回の法改正では、附則で、里親や児童養護施設といった虐待を受けた子どもを養育する社会的養護体制の充実に向けた取組みを進めるよう明記することとされている。児童虐待問題が深刻化する中で、現在、2歳から18歳までの子どもたちが暮らす児童養護施設の入所率は9割を超え、満員状態であり、その環境改善は緊急の課題となっている。さらに、今後とも養護を必要とする子どもたちの増加が見込まれる中で、大都市部を中心に、こうした子どもたちをどこで、どうやって受け入れていくかについての目途が立っていない自治体もみられる。また、里親のように家庭的養護の重要性が語られる中で、どうやってその担い手を確保していくのか、施設職員による虐待など深刻な人権侵害事件が生じている現状をどのように変えていくのかなど社会的養護をめぐる課題は尽きない。
 現在、資料12に示すように、「今後目指すべき児童の社会的養護体制に関する構想検討会」(座長:柏女霊峰淑徳大学教授)において検討が進められており、今後、その検討結果などを踏まえて、虐待を受けた子どもたちの保護や自立に向けた支援のあり方について考えていきたいと思っている。


■最後に――この一文をお読みいただいた方へ――

 児童虐待は、子どもにとって最大の守り手である保護者によって為される行為ということもあり、この問題を積極的にアドボケイトしてくれる大人は、一部の関係者を除いて少ない。この問題は、死亡事件などが報道された時にのみ人々の意識に忌まわしい事件として記憶され、事件の背後に数多くの虐待を受けた子どもたちが様々な状況の中で懸命に生きているという事実は、残念ながらほとんど知られることがない。
 児童虐待問題は、社会自身が自らその問題に光を当て、また、その対応を考えていくことが必要となっている。またそれだけに、そうした機運は意識的な形で高められていくことが必要だと思う。現在、児童虐待防止法の制定をはじめ児童虐待防止対策の推進に当たって中心的な役割を果たしてこられた民間団体の方々が、この問題に対する社会的関心を高めることを目的として、オレンジリボンを身に付けて、広くこの問題をアピールしようというキャンペーンを展開している。
 そして私達、厚生労働省もこうしたオレンジリボン・キャンペーンを応援している。最近、雇用均等・児童家庭局の職員や各自治体の児童相談所のスタッフなどにも身に付ける者が増えてきた。初対面の方だと多くの場合、「このリボンは何ですか」と尋ねられる。そこですかさず児童虐待問題についてPRすることにしている。こうしたちょっとした配慮が広がることにより、社会全体でこの問題に対する関心が高まればと思う。
 ご関心のある方は、ぜひ、このホームページ(http://www.orangeribbon.jp/)を覗いてみてください。

(精神保健ミニコミ誌クレリィエール383(2007年6月号)より)

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