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濃縮シンポジウムT 障害福祉は介護保険のいいとこどりで?!?!?!

國松善次さん(滋賀県知事)
熊坂義裕さん(岩手県宮古市長)
中西正司さん(全国自立生活センター協議会代表)
松友 了さん(全日本手をつなぐ育成会常務理事)
田島良昭さん(コロニー雲仙理事長・前宮城県福祉事業団理事長)
河村博江さん(厚生労働省社会・援護局長)

コーディネーター
川名紀美さん(朝日新聞論説委員)

― テーマは、"介護保険に障害福祉を統合するか否か" ―

川名: 介護保険に、障害者の福祉を統合していくのかどうか、というのがこ濃縮シンポジウムのテーマです。
 2000年に導入された介護保険は、保険料が40歳以上から、そして実際その保険料を使って介護を受けられるのは原則として65歳以上からという変則的なかたちで始まりました。
 2004年4月から支援費制度も始まり、介護保険についても、支援費制度についても数々の問題、あるいは改善しなければいけないところが残っています。この数年で、高齢者の問題、障害者福祉を考えるときに、もっとも大きなテーマになっていくのではないかと思われるこのことについて、たった1時間で6人の方々からアピールしていただきます。

― 7人の熱き知事が集まったアメニティーフォーラム ―

國松: 「アメニティーフォーラムINしが」が毎年、滋賀県で開催されています。第6回目の今年のフォーラムでは、「障害者福祉は介護保険で」というテーマに賛成する7人の知事が寄って、シンポジウムが行われました。

 障害者福祉サービスを充実させようとすると、多様な選択肢を用意しなければいけませんが、一方で国も地方も財源に大変悩む時期に入っています。
 介護保険のスタートのときには、障害者福祉をどうするかということが結果として見送られた経緯があるわけですが、改めて今度17年に介護保険が見直されるときに、障害者福祉も一緒に考えてもらうということが大変重要なんじゃないかという認識から、議論を始めたわけであります。
 この7人の知事は最後に「障害者福祉に関する7県共同アピール」をまとめました。(http://www.yuki-enishi.com/ の「障害福祉政策・激動の部屋」にアップされています)

― 障害者福祉は道半ば ―

國松: そうは言いましても、そもそも必要なサービスというのは税できちっと行われるのが公的サービスの原点、原理です。
 そういう議論がいくつかある中で、私が特に思ったことは、今日のテーマ「障害福祉は介護保険のいいとこどりで?!?!?!」の、「いいとこどり」です。いいとこどりというのは、私が言った言葉なんです。

 障害者福祉の充実ということについて言えば、明らかに道半ばです。施設中心で来たという過去の歴史もありますし、また、地域で福祉をというときに、それを支えるだけの仕組みがまだ十分揃っていません。そして24時間きちっと支えられるサービスがそれぞれの地域で準備されてこそ、福祉は一定の水準にあるということになると思いますが、それも十分ではありません。
 しかも、単に生活を支えるわけではなくて、当然、教育もありますし、就労もあります。私はやはり、1人の人間として、生きがいも含めていろんな活動ができるというとこまで、みんなが支えあってこそ本物になるんだろうと思います。

 一方、介護保険の方は、サービスを必要とする高齢者が間違いなく急激に増える、そして、それは家庭で十分支えられないというときに、保険という仕組みを通して、一気に充実しようということで進めたわけです。

― 介護保険の仕組みを障害福祉に活用できないか? ―

 私は高齢者福祉を考えるとき、滋賀県の場合は、ありがたいことに障害者福祉が進んでいたこともあり、それをいかに普遍化するかというふうに考えることがあります。今度は逆に介護保険という仕組みを障害者福祉にうまく活用できないのかと思うのです。介護保険の見直しを考えるときに、ぜひ、国の制度として考えてもらえないかと思うわけです。

 今、国と地方の間で、三位一体の改革をするということで、財源を一緒にするのかしないのかについて大議論になっています。地方に権限と財源を移して、初めて地方分権が成り立ちます。
 介護保険は見事に財源を地方に、地域に移動した姿だと思います。住民の保険料と国の税の2つの財源を元に、地域で自らの福祉、介護福祉を自ら設計し、そして保険料を決め、進めていくということで、非常に良い経験をしました。

― ニーズの違いを理解しながら地域で設定していく福祉 ―

國松: なので、障害者福祉をみんなで支えあうという仕組みを着実に積み上げていくには、介護保険の仕組みというのは大変面白い仕組みだと思います。

 ただし、当然、高齢者福祉と障害者福祉ではニーズが違います。違う部分と全く同じ部分があるということをお互いに徹底的に整理しながら、仕組みを設定していくことではないかなと感じています。

― 市長会「介護保険検討委員会」の認識は? ―

熊坂: 前職は内科の開業医でありまして、死亡診断書約500書きました。いまも病院の院長でありますし、現場をわかっているつもりでいます。
 介護保険は、私は非常にうまくいったんではないかなと思っています。

 現在、全国市長会で、守口市の喜多市長さんが委員長で介護保険制度検討委員会を進めています。
 介護保険も走りながら考える制度ですから、例えば低所得者の問題とか、様々な課題がありますけども、その中の一つとして被保険者の範囲をどうするかという議論が起きています。すなわち障害者のみなさんに入っていただくかどうか。被保険者の年齢を20歳まで下げていくかどうかというような議論が行われています。

 私は國松知事さんがおっしゃられたように、これは一本化すべきだと思っています。4月から支援費制度が始まり、サービスを受ける方と提供者が対等の立場で、自己選択するという、介護保険と同じ仕組みが一歩進んで、非常によかったと思います。

― 問題は財政〜市町村は火の車〜 ―

熊坂: 支援費の一番の欠点は、税財源だということです。今、三位一体の改革が行われていますが、補助金の削減、超国税の削減、様々なことで今市町村財政が火の車です。税財源になっている以上は私ども、これからサービスの基盤を整備するにしても、全く先が見えないと思っています。

 支援費と介護保険では、サービスの様々な種類が違うのもわかりますし、高齢者福祉は自立支援で、障害者の場合は社会復帰ということはよくわかります。いろいろな議論をすればいいと私は思っています。

― 障害者福祉も介護保険との一本化で ―

熊坂: 障害者の福祉を向上させていく場合に、市町村としてはどうしても財源がほしい。市町村にとって介護保険はある意味で特定財源だと思うんですね。特定財源という考え方を入れて、保険で一本化すべきだと思います。

 また、市町村というのは、対住民直接ですから、福祉が縦割りになっているのは、全然よくないと思います。介護保険によって市町村の力が改めて、見直されたと思うんですが、障害者福祉も市町村に財源と権限を与えれば、介護保険と同じように十分にできると思います。

 例えば、39歳で脳卒中の方がいたとします。支援費を使っていて、40歳になったら今度は介護保険で要介護度5。39歳まではサービスが無制限に使えたのが40歳なったら今度は要介護度5で、どうやって上乗せなどをしていくかという話になります。これはやっぱりどう考えてもおかしいと思いますね。

― 必要なのは「保険」という概念 ―

熊坂: そういうこと考えますと、市町村はまずがんばるというのが前提ですね。それにプラスして、私はアメニティーフォーラムで出された「障害者福祉に関する7県共同アピール」のように、一本化をしていただいて、保険という概念をここで入れるべきだと思っています。そして市町村にそれを下ろしていただければ、市町村は介護保険と同じようにしっかりとやれると思っています。

― 障害者自身がサービスの担い手に〜自立生活センター〜 ―

中西: 自立生活センターは1986年にスタートして、今、全国に120ヵ所あります。代表や事務局長は障害者で、運営委員の50%が障害者という運営規約をもって、サービスを提供しています。

 介助サービス、自立生活プログラム、ピアカウンセリング、住宅サービスなどを提供しながら、地域で障害者が暮らせる状況を我々障害者自身がサービスの担い手になって提供するというシステムを作り上げてきました。

 障害者運動は今や全国に津々浦々広がり、北海道から沖縄までどこにいても、我々のサービスを訴えるような状況が今、全都道府県で実施されています。

― 当事者の意見を聞くことを先決に ―

中西: 障害者が今、介護保険をどう考えているか。今、県と市の方からは賛成の意向が出ましたが、私は反対です。

 介護保険に組み込むことによって、我々の生活はどうなるかということを、まず当事者に聞いていただかなければ、納得はいきません。
 今、国は検討委員会を開いて、我々と話し合おうという姿勢を見せ、今月から話し合いの場が設定されています。その中でこの議論もされるかもしれません。

 我々はまず地域で生きていることを目的としてます。地域の中で、サービスを1時間、2時間と交渉しながら増やし、そして必要なサービスを必要な人に提供できるような社会を築きあげてきました。
 人によっては12時間以上のサービスを使う人もいれば、20時間以上のサービスを使う人もいる。それぞれどんな重度の障害を持っても、地域で暮らしていくような社会を作ろうとしているわけです。

― 自立と社会参加の理念が異なっている! ―

中西: 介護保険の問題点は、自立と社会参加の理念が全く異なるということです。
 介護保険では、トイレで立ち上がってズボンをはければ自立。でも、幼い障害者が育っていく過程では、遊びもし、勉強もし、社会参加もし、そして恋もし、結婚も、子育てもし。その中での介助を我々は求めているわけです。在宅にとどまってそこでトイレ・入浴の介助ができ、生命維持ができればそれで済むというものではありません。

 我々に人生を味わわせてほしい。我々にも社会参加の機会を与えてほしい。これが障害者の切なる願いであり、それが支援費制度で理念的には実現されました。

― まずは支援費制度を根付かせよ ―

中西: 4、5年はこの支援費制度をきっちりと根付かせたい。
 財政、財政と言ったって、介護保険は5兆5千億円、支援費制度はたった280億円です。2千分の1の、微々たるお金で運営されているのです。このお金が足らないという論理は全くあり得ない話で、介護保険は施設サービスが6割、在宅4割です。一方の障害者サービスは8千億あるうち、知的に関しては施設が9割、在宅が1割です。

 実際、知的のホームヘルプサービスはまだ2〜3%しか実施されていません。ですから、サービスが全く根付いていないところで、介護保険で地域に広めようと思っても、2%しかサービスの受け皿がないわけです。しかも、その他の在宅支援のサービスも不足しています。

― 求められるは、本当の意味で生活術を支える支援 ―

中西: 今、地域の中で、グループホームが優先されてます。けれども、自立生活プログラムやピアカウンセリングなど精神的な、生活技術を支えるような支援をやらなければ、彼らは生きていけません。

 彼らに必要なのはグループホームではなく、自立生活体験室です。1週間から1ヵ月、親元から離れて暮らす経験を経る場所が必要です。そういうものを今作っていかなければ地域では、障害者は暮らしていけない。基盤整備に4、5年かけて、サービスメニューを用意していく。

― 障害と高齢を一緒くたにしてはいけない ―

中西: 支援費は自立の理念を高々に掲げた理念の高いサービスです。
 介護保険は家の中で閉じこもるホームバウンドケアサービスです。障害者と同じレベルのいいサービスにしていくために介護保険を一般化することはいいかもしれません。けれども、障害と高齢はまったくサービスの質が違います。
 それを理解していただいて、障害者が今、地域で支援しようとしているこの現場を支えてください。そして、障害者自身がエンパワーしようとしている、その現場を支えるネットワークを今、地域に作りたいと思います。

 みなさんのご協力をいただいて、知的、精神、聴覚、視覚、肢体不自由、すべての当事者が地域で支えあう組織を作っていきたいと思います。

― 常なる疑問は「親がいなくなったときどうするんだ?」 ―

松友: 全日本育成会は、知的障害の子どもの親の会で、約30万人の会員がいます。
 私は中西さんの考えと若干違います。やっぱり親だから違うんだな、と言われそうですが、個人としても会としても、結局親がいなくなったとき、誰がみるんだということを長らく引きずっています。それだけの受け皿が地域の中にあるのか。結局は入居施設に累々たる十数万の子ども達を入れてしまっている。

― 結局家族の中に作られてきた受け皿 ―

松友: 育成会としては、地域の中に移していくんだと、ぜひ戻っておいでということを、全国でアピールしたいと思っています。

 しかしながら、戻るべきところに支援があるのかと言ったときに愕然とする。結局、「親だからみるのが当然だ」という扶養義務制度というシステム、あるいは文化的な考えの中で親たちに受け皿を作らせて、そこで面倒見させてきたじゃないかと。
 そして時には、「親こそ最大の差別者だ」と批判されながら、分断されてきたというのが今までの運動でもあったし、施策でもありました。
 そういう事実があろうかと思いますが、私たちはここで一歩、本当の地域での支援システムをどう作るかということを考えたい。支援費の、それこそ何兆と言われているこの財源を、放っておけないという思いがあります。
 ただ、残念ながら、全日本育成会としては全然議論しておりません。

― 支援費と介護保険の合流は議論するに値するテーマ ―

松友: 私個人としては、介護保険制度が提案されたスケルトンというものが出されたときから、この問題を急速に取り込もうとしたんですが、流れはそういかなかった。
 そして今、まさに、これを合流したらいいかどうかという議論です。十分に検討し、議論し、徹底的に膿を出し、理念を高めることは必要だと思います。

― スペシャルニーズに対するスペシャルサポートはいかに? ―

松友: 私は2つほど心配をしています。一つは、一割負担という応益負担を障害者ができるのか。所得を保証するシステムがなく、資産もない中で、それにどう対応し、サポートができるのかです。

 二つ目は、ニーズの多様性です。発達期・青年期と言われている知的障害、発達障害の青年・成人達が、生き生きと社会の中で生きようとするとき、高齢者を中心としてなされてきた介護制度はシステムとしてはどうなんだろうか。
 別の視点から言うと、介護保険は、「痴呆性老人」と言われているメンタルな部分についての援助が非常に低い、これは大変大きな問題だと聞いています。支援費制度でもそういう問題があります。

 私達にも責任がいっぱいありますが、障害、特性などのスペシャルニーズに対するスペシャルサポートが介護保険システムの中で、用意されるのか。「用意しようじゃないか」とたぶん田島さんはおっしゃられると思いますので、そういう期待と不安を発言させて頂きました。

川名: 高齢者の介護にせよ、障害児の介護にせよ、長らく家族に負担を強いてきた、そういう歴史の上に立って、この問題を考えていかなければと思います。

― 地域での受け皿作りでぶちあたった三つの壁 ―

田島: 私は、1985年頃に、知的な障害を持った子ども達と施設のなかで一緒に生活をしました。そこから、「ふるさとへ帰りたい〔とか、あるいは「お母さんに会いたい」とか、「施設から外に出て生活をしたい」という彼らの願いを叶えるために、地域の中の受け皿作りをどんどんしていったんです。

 そのときに、ぶつかった壁が3つありました。
 一つは金。第二は仕組み。制度がないから、行政や周りの地域のみなさんに支えていただくことが非常に難しい。
 そして3つ目が本人たちの願い。訴えることが非常に苦手な人たちですから、それを正確に受け止めるということが非常に難しくなる。例えば、親の考え方と、本人の考え方に大きなズレが出てくることも非常にたくさんありました。

 一番頭が痛かったのが、お金がない問題です。我が国の福祉は、税金に頼っていて先行き、行き詰まるんじゃないかと当時思いました。
 一つは、政治、政治家に対する信頼感。二つ目は、地方分権がほとんどされていないことです。
 今年発表された「国に対する信頼感を持ってる国民」は、30%を割りました。こういう国で本当に国民のみなさんが高福祉をするために、高負担をする、税を払ってくれるでしょうか。無理でしょう。

― 公助と共助と自助を一緒に ―

田島: ならば、国民がみんなで支えあう仕組みと、自ら生み出すお金。公助と共助と自助を一緒にまとめて支えていく仕組みを作らなければならないのではないかということを、1985年ごろに盛んに議論をしました。

 そして、今、官房長になっておられる辻さんが介護保険みたいな共助の仕組みみたいなものを1987年くらいに出されたような気がします。そういうものに障害福祉の世界も乗っけてもらいたいと働きかけたのですが、そのときも結局、社会資源がないなかでは到底無理だから、あと10年くらいがんばって、受け皿を作るべきではないかというご意見が圧倒的でした。育成会、親の会もみんなそうでした。

 そこで、我々コロニー雲仙は待っていられなくて、親達だけで共助の仕組みを作りました。
 自助については、障害基礎年金を提案して国民年金の改革の運動も随分しました。しかし、介護保険の話が出てきたときに、障害福祉の関係者の意見がまとまらないということで、老人だけでスタートして、非常に変則的なかたちになりました。
 今回が3回目なんです。私はとってもいいチャンスだと思います。

― 財源と市町村の役割を考えて ―

田島: みんなでしっかり考えることによって、将来に育てていけるかたちの財源が、ある程度確保できる、責任と義務だけが行ってしまった市町村に、肝心の財源を移すことができると思っています。
 卵が先か鶏が先かみたいな議論を5年、10年、100年やっていくより、足りないものもあるかもしれませんが、両方がうまくかみ合うように、まずは1歩前に進むべきではないかと思います。

― 受け皿がないという不幸 ―

田島: コロニー雲仙では、800人の人が地域に出て行って、ごく普通の場所で普通の生活を生き生きとしています。ぜひ、それを全国に広げたい。
 特に、精神障害を持つ人たちは、受け皿一つありません。そして、7万2千人と言われる社会的入院の人がやがて押し出されていく。その中で、非常に不幸になるんではないだろうかという不安もあります。非常に遅れていると言われている精神障害の人たちのことも、しっかり考えていただきたいんです。

― 支援費制度 ―

河村: 私が障害者福祉問題にかかわりだしたのは、この1月のあの大行動が起きて以降で、まだ非常に日が浅い状況です。
 支援費制度は、概ね順調にスタートできたと思っています。支給決定は昨秋、各都道府県はこれぐらい増えるであろうということを積み上げた数字にだいたい沿ったかたちで行われています。それから事業者指定については、単価改善や介護保険の事業者を取り込むということで努力した結果、確実に増えています。

 特に、一番遅れていた知的障害者のホームヘルプ事業者も相当参入が広がっています。全国的な底上げは、できていくのではないかなと思います。
 今月末には検討会※を開きます。障害者の代表の方々に多数参加していただいて、障害者の地域生活のあり方を大勢で議論することになっています。(※障害者(児)の地域生活支援の在り方に関する検討会)

 障害者福祉と介護保険の問題は、省としても、個人としても、まだ判断をする状況ではありません。特に私などは、この支援費の円滑な施行に頭がいっぱいで、考える余裕もなかったわけですが、今月末に始まるこの検討会で、将来の財源の問題も十分議論していただければいいなと思っています。

― いいとこ取りの支援費制度 ―

河村: あえてこの段階で私見を申し上げさせていただきますと、支援費そのものが介護保険のいいとこどりになっていると思うわけです。
 つまり行政主導型の制度じゃなくて、利用者本位であるとか、自己決定、自己選択、対等な契約という、介護保険の思想と同じものを入れながら、なおかつこう保険料を払わなくて済む、税金でまかなってもらえる。
 しかしながら、皆さんが再三ご指摘のように、全額税財源に依拠しており、サービスが伸び悩むということは明らかであります。

― 財源確保と2つの選択肢 ―

河村: そこで選択肢は2つあります。いつの時点かは別として、介護保険に合流して、社会連帯による支えあいの仕組みで、公的サービスのさらなる拡充を図っていくのか、あるいはこの支援制度を中心にして、自助あるいは共助を組み合わせて、全体として障害者福祉の推進を図ろうか。

 どちらにしても長期的に見れば、サービスの拡充に伴って、ほとんどただ同然でサービスが受けられる今の現状は、改められていくであろうと。負担能力に応じるということは当然ですが、自己負担は出てくるであろうと思っています。

― 高齢障害者との整合 ―

河村: また、高齢障害者との整合という問題があります。65歳以上の障害者は現に、介護保険の給付を受けていますが、若年障害者との整合というのはどうするのかという問題は、あるんだろうと思っています。
 ちなみに、平成13年度の身体障害者実態調査によりますと、18歳以上の身体障害者のうち、65歳以上の方は6割を占めておるということで、すでに6割の方は介護保険に合流しているということになります。

― 精神障害者の合流 ―

河村: それから介護保険との合流で、一番変化が起きるのは、むしろ遅れている知的障害者あるいは精神障害者。精神障害者については、省内に対策本部を設けて、一層充実を図るということで一生懸命やっていますが、介護保険に合流するかしないかで、状況はがらっと変わってくると思います。

― 被保険者の問題 ―

河村: 介護保険の被保険者が「40歳以上」というのは、やや中途半端な感じがしています。20歳以上に広げていったほうがいいのではないかなと思うわけです。その場合、誰でも障害者になる可能性がある。年金と同じように障害者のサービスを取り込むことが、課題になると思います。

― タイミングはいつか ―

河村: 問題は、それがいつの時点になるかということが一つ。2年後の介護保険の見直しの時期がいいのか、あるいはさらに、あるかどうかわかりませんが7年後の見直しの時期にするのがいいのか。
 いずれにしても、仮に合流するとした場合には、例えば知的障害者や精神障害者の要介護判定の問題や、それにふさわしいケアマネ体制の確立とかの実務的な課題が山ほどありますので、事務的な作業が相当かかると思います。
 そうなると、4〜5年先あるいは10年先という選択にもなると考えます。

 もう一つは、それぞれの障害の特性に本当に十分配慮できるのかということ。これは検討会でも十分議論していかなきゃいかんと思いますが、おそらく今の65歳以上の障害者がそうであるように、上乗せなり横出しという2階建ての仕組みになっていくのではないかと思います。
 実効ある障害者のケアマネージメント、トータルとしてのケアマネージメントがちゃんとできるのかというのが、ポイントになるのかなと思います。

― 議論してみる価値 ―

川名: 議論はしてみる価値があるのではないかというのが、多くの方から出た意見ではないかしらと思います。けれども、当事者の考えは、とても大切にしないといけないと思います。
 中西さんに、ここだけはどうしても言っておきたいということを発言していただいて、私たちみんなでそれを重く共有してこの先を考えていく土台にしたいと思います。

― 当事者主体の地域整備を ―

中西: ありがとうございます。
 地域整備は当事者主体でやっていきたいというのが我々の気持ちです。
 親が中心になってやる、健常者が中心になってやる、プロフェッショナルが中心になってやるという改革は、お金は確保できるかもしれない。けれども、本当の意味での、我々自身の身になる改革になってきたかということをもう1回問い直してみる必要があります。確かにグループホームなどにはお金が落ちましたが、それは本当に我々が暮らしたい生活だったのか。
 マンツーマンで、ひとりの介助者の愛情を独占できるような地域ケアのほうが、よっぽど我々にとっては有り難かったんじゃないかと思うのです。

― 当事者は決して見放さない ―

中西: 地域で本当に我々が満足できるサービスは、自立生活センターという自分たちが利用者であり、サービス提供者であるところでしか受けられない。
 介護保険のサービスは、24時間対応ではありませんよね。深夜2時、3時に、緊急で介助者を呼ぶようなサービスは、自立生活センターでは儲けたお金から全部持ち出しでやります。自分たちの生活なわけですから当たり前です。そういうことは営利事業では不可能でしょう。

 また、我々は知的の当事者、精神の当事者、それぞれの人たちを決して見放すことはしません。ピアカウンセリングや自立生活への支援を精神的な意味で支えるとき、我々は地域で一生障害者ですから、一生見捨てません。
 でも健常者のスタッフがいたときに、この人に本当に頼っていいのか、この人は結婚したり、子どもができたらどっかに行っちゃうだろうし、頼りができないわけですよ。地域の中で、共に死ぬまで一緒に生きていく。そういう人の支援を、障害者当事者は受けたいわけですよね。
 ですから、時間はかかっても、そこをきっちり育て上げていく、その丁寧な作業が今は求められているんだと思います。

― ゆっくりと当事者を育てていく ―

中西: 我々は、お金のかかることを言ってるわけじゃないんですよね。自立生活センターは5千万円で運営してきました。支援費制度になって財源的には豊かになり、当事者を育てることができるようになってきました。地域は今、育ちつつあります。知的障害者は市の中で1人、2人、3人と、ようやく自立生活を始めたところです。その人たちのノウハウが積み重なって、そして彼らがリーダーとなって、他の人たちを支援できるように、ぜひさせてやってください。
 早急にやることは、いいかもしれませんけども、やはり禍根を残します。ゆっくりと地道に一人ひとりを育て上げることを、今やっていきたいと思ってます。

― 議論のきっかけに ―

川名: それぞれの立場から、切実でかつ現実的な意見が出たと思います。どうか皆さん、それぞれお一人お一人の考えを持ち帰って、あるいはメールなどを通じて、議論を深めていくきっかけにしていただければと思います。
 どうもありがとうございました。

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