第3部トークライブ:「様々な挑戦」
福祉と医療・現場と政策の新たな「えにし」を結ぶつどいより
(2007.5.26(土)東京・内幸町のプレスセンターで)

川名:清水康之さんありがとうございました。私達一人一人が、人とどういう関係を結んでいくのが大事なのかという事を、今、伝えていただいたような気がします。
 「自殺は防ぐことができる」「自殺は社会的死なのだ」という共通認識に立てたことは遅まきながら一歩前進かなと思います。
 お待たせいたしました! 山本孝史さんです。今、清水さんからご紹介があったように、ご自身のがんを告白されて、がんの対策で大きな力を発揮されましたが、実は出発点は、交通事故の遺児の支援でした。その活動から枝分かれして、自死、自殺で亡くなった人の子供たちの支援が始まりました。
 最後に話していただく山本さんが、この濃縮シンポジウムの全部のまとめのような形になっています。今2人に1人ががんにかかると言われています。山本さんに、ご自身の体験を踏まえて話していただきます。

― 進行がんを告白、「がん対策基本法」制定に尽力した参議院議員 山本孝史さん −

山本:皆さんこんにちは。ご紹介いただきました、参議院議員の山本孝史です。きょうは治療日でしたので、遅れてきて、まず申し訳ありませんでした。
 去年の5月22日に、参議院本会議場で「がん患者です」と告白したのですが、その9日前の5月13日に、この「えにしの会」がありました。ここにバンダナを巻いて入って来ましたら、「花井十伍君、今日来てますか?(花井さんを見つけて)あっ、どうも」(笑)、花井君に「先生、どうしたん?」と聞かれたので、「がんやねん」って告白したら、「先生、あかんやんか」と言われて(笑)。「すんまへんな。病気はいやだと言うても、向こうから来るもんさかいな」といった会話を交わしたのを覚えています。
 公園デビューじゃありませんが、皆さんに、ここで、1年前にお会いして、カミングアウトしたのを今思い出しています。

 「えにしの会」のの半年ほど前、2006年暮れに、胸のがん、ここに胸腺と言うのがありますが、(胸元を指しながら)大人になったらなくなるそうなんですが、どういうわけか残っていまして、私の場合はそこにがんができ、それが他の臓器にもすでに飛び火していました。自覚症状は全くないのに、その時点で、「進行がん、ステージ4」と言われてしまいました。
 医学が進歩しているおかげで、こうやって今日皆さんにお話しすることが出来るという事になります。何だか、シンポジスト席のこっちに来ると(話している順番を指して)、話が深刻になってくるのはいけませんね(笑)
 国会で一生懸命に取り組んだことには薬害エイズも、あるいは自殺対策もありますが、川名さんと最初に会ったのは、民主党の年金案を…

川名:年金問題です。社会保障の専門家でいらっしゃるから、年金問題でインタビューさせていただいたんです(笑)

山本:どうやって民主党の年金案を納得してもらうかと言う事で、機会を作ってもらいました。

― 治らない患者を待ち受ける「落とし穴」 ―

山本:去年の医療制度改革では、医療費が足りないので、どこかでカットしようと。今、医療現場は深刻です。病院から勤務医はいなくなるし、地域でも診てくれない、夜はいない、というので、小児科、産婦人科をはじめとして、ほとんど全ての科で、医療崩壊状態になっています。「金が足らん、どこで使われてんねん」と言う一方で、「使うとこにはちゃんと使おうや」と言う事もあって、がん対策基本法はできました。超党派で皆が賛成してくれました。
 僕が1993年に初当選したときは、障害者基本法に、この会場にお見えの八代英太さんが取り組んでおられました。そのあと障害者基本計画っていうのができました。
 都道府県は来年に向かって、介護保険事業計画も医療計画も、それらみ〜んな見直しの時期になりまして、来年は大変な年やと思います。

 その中にもう一つ、がん対策も入れてもらう。がん対策基本法も同じように、がん対策推進基本計画の策定があります。
 それに、医療費適正計画を作らんといかんわけです。私がこの10日にした国会質疑でも、それでもめたのですが、医療費適正化をどうやってやるか。それは、在院日数をできるだけ短くしよう、それも疾患別に短くしようと。厚労省の考え方として、そういう考え方が出てきまして、疾患別というところに、実は、がんもその疾患別に入れられていますが、病院から出来るだけ早く出てもらおうと。今日の一部のところとつながるのかもしれませんが、病院の方はこれ以上受けられへんで、と。
 こういったところを皆さんに分かってもらって、がんだけでなく、すべの疾患を通じて、日本の医療の問題、あるいは医療を含む社会保障全体の問題を考えてもらいたい。がん対策基本法の制定が、そういうきっかけになったらええな〜と思っています。

― 個人に押し付けず、社会問題として捉えること ―

山本:清水さんが今、命の問題とおっしゃいました。私も、交通遺児の問題から命の問題にかかわって来ました。突然に交通事故で命を奪われてしまう、その理不尽な思い。私も兄を亡くしましたが、その事故の後で、家族みんなが思うのは、心の中にどこかぽっかり穴があいている、食卓の中で一つだけ椅子が空いている。その空虚さに耐えられない。救える命を救えない、次々死なれていくのを救えないのは、政治の問題やろうと。そんな思いで、本会議場の同僚議員の皆さんにお話しさせいただきました。
 がん対策基本法は、自分が作ったとは、実は思っていなくて、私は何もしていません。皆がすっと集まってこられたような感じがします。こんな法律があればいいねと言うと、皆がそこで力を出し合う。1つに集まってくれたような気がしています。

 自殺問題も4年越しで関わりをしてきましたが、それは交通事故や病気の場合と違い、自殺した親を持つ子供たちの気持ちは、心がなかなか開かれないというか、子供たちもそれでものすごく苦労している、困っている。どうしても自殺は、個人的な問題にされてしまうけど、その向こうにある社会的な問題をちゃんと見ようという事で、法律で「対策をちゃんとやっていこう」と言うたわけです。

 実は、武見敬三さんという、自民党のその時の厚生労働委員会の与党側筆頭理事ですが、私が野党側筆頭理事で、「武見さん、ずっと自殺者が3万人を超えている問題、なんとかならへんやろか」ということから始まったんです。参考人質疑だけで国会審議もなしに、一昨年7月の参議院厚労委員会で、「自殺対策の推進を求める決議」を上げて、それを後から法律が追いかけるような、極めて珍しいケースでした。去年、厚労委とは別の内閣委員会で、自殺対策基本法が成立しました。清水さんのライフリンクを初めとする市民団体との連携も、法律成立に大きな力を発揮しました。

 がん対策基本法も同時に成立して、2つとも議員が提出した法律ですが、それが一国会で2つも成立するいうのは、たぶん珍しい。それに関わったというのは、「なかなか、これはええ仕事ができたな〜」と過去形で言っておりますが、そんなふうに思っています。

― 社会的・経済的に弱い立場の人にこそ、政治はある ―

 人の命が軽んじられている社会状況、「生きていたい」という気持ちを否定する国の医療政策や福祉政策。
 末期がんと言われますが、末期がんと言うがんはありません。「末期」ってどこまで生きるかわからない。勝手に医者が余命を宣告しますが、そんなものは当たらない。それを跳ね返して、生きていくんだと。むしろ、治らない病気の人、進行がんの人、重度の障がい児・障がい者の人、あるいは、虚弱で経済的にも非常に困っておられる高齢者の方、そういう方たちこそ、政治がちゃんと対応しなきゃいけないと思っています。

 貧乏な政治家と言うか、私はお金には縁がありません。お金をもらっても元気になりませんが、マイクを持つと元気になりますので、こうやって話をさせてもらいました。これから先の仕事は、国もそうですが、都道府県で、知事さんら行政の皆さん、政治家の皆さん、市民の皆さんがご一緒にですね、様々な取り組みをされていかれる。福祉、医療などの問題にぜひ皆さんも参画をしていただきたい。
 「うちの県はこんなんやってるで」「これがうまいこといったで」というのが、この「えにしの会」の中で共有されれば、非常にうまくいくと思いますので、是非、皆さんのお知恵をこれからも、貸していただきたいと思います。今日は呼んでいただきまして、ゆきさん、ありがとうございました。どうも失礼します。(拍手)

川名:山本さんありがとうございました。参院選の事が、そろそろ、色々な形で話題になっていますが、山本孝史さん、ちゃんと参議院選挙にも立候補していただけるので、まだまだ、ご活躍頂けると思っています。(拍手)

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