優しき挑戦者(阪大・ゲスト篇)

第3次大阪府障害計画策定にむけて意見具申―人が人間(ひと)として普通に暮らせる支援社会づくり―
大阪府障害者施策推進協議会(2002年6月7日)

第2章.今後の障害者計画策定に向けた基本的考え方

 2001年5月、WHO第54回世界保健会議において採択された、新しい国際障害分類ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)は、旧分類ICIDH(International Classification of Impairments,Disabilities and Handicaps)の「社会的不利」分類が7項目しか無かったことと比較し、環境因子として小項目で約200の分類がなされている。また、障害のあることをマイナス面だけでなく、他にプラスの側面も多く持っていることを強調し、疾病などによって機能障害が起こり、それにより能力低下が発生し、そのため社会的不利を受けるといった決定論的な捉え方ではなく、「機能(構造)障害」があっても「活動」には影響がないことの可能性や、「活動制限」が比較的少なくても、制度や様々なバリアなど多様な環境因子によって、(社会)参加が制約されることもあるなどの相互に関係しあう考え方が打ち出された。この意味は、障害とは健康状況と環境の相互作用であるということが更に強調されたということであり、また障害に関与するリハビリテーションの視野も「機能(構造)障害」に対するその軽減への援助のみならず障害者のさまざまな「活動」や「(社会)参加」に対する社会生活力の向上などの精神的・技術的な支援を通じて障害者の可能性を拡大し、環境に対する「機会平等化」への取り組みと合わせて「障害」が必ずしもマイナス面のみに人間を押しとどめるものでないことを提唱しているものと考えられる。一人ひとりの「活動」や「参加」のあり様は、個人的環境・人々の態度、各種のサービス・制度など幅広い意味での環境の整備とそれを受け止める障害者自身の社会生活力の向上如何によって、良くも悪くも大きく変化することを強調している。

 障害者の可能性は、リハビリテーション・サービスも含めたその環境が障害者一人ひとりに対してどれほど支援しているかに依拠していると考えるべきである。国際障害者年の目標である、社会生活と社会の発展における「完全参加」と、社会の他の市民と同じ生活条件及び社会的・経済的発展によって生み出された生活条件の改善における平等な配分を意味する「平等」は、障害者の可能性へのチャレンジと社会のこれに応えるさまざまな環境改善があいまって進むものと考える。

 こうした考え方の下、大阪では、「自立支援型福祉社会」の構築をめざしており、「すべての障害者の地域での自立支援と社会参加の実現」を目標として今後の障害者施策の推進をはからなければならない。

【基本的考え方】・・・環境としての社会関係と態度(価値観)

○ 人としての尊厳の保持

 障害者は、指導や援助の眼で対象化される存在ではなく、障害のある一人の人として、いかなる時・いかなる場面においても人間としての尊厳が保持されなければなりません。施設はいつも社会に開かれていなければなりませんし、そして障害のある人が主人公です。

○ 主体的生活の構築

 障害とともに時を歩む人間にとっても、時は自分自身の人生に他なりません。
 障害の軽重や支援の有無に関わらず障害者はその自己実現を目指すことを最大限尊重されます。
 そして、障害者はその生き方に誇りと責任をもちます。

○ 社会関係の維持・強化

 いかなる生活の場で暮らしていても、家族や友人などとの絆は維持され、その人固有の役割が強化されることが大切です。
 孤独は、生きる力を萎えさせ、たとえ街中に身を置いていても地域で暮らしているとはいえません。

○ 可能性の探求

 チャレンジ(困難に立ち向かう)する人という意味で障害者のことを英語でいうことがあります。
 自分の可能性を伸ばすため、日々訓練に励む障害児や、勇気を出して親から離れ、自立しようとする障害者に社会は支援の輪で応える必要があります。
 障害者は、時にがんばったり、時に怠けたりする普通の人として、穏やかな生活を送りながら社会に少しでも貢献したいのです。
 こうした障害者の姿勢を排除する社会の動きに対して、行政や関係者は毅然とした態度で対処する必要があります。

 以上の基本的考え方に基づき、今後は障害のある人もその社会に包み込まれて暮らせる社会をめざして、地域福祉の構築を行政・地域住民・障害者団体が協働して推進しなければならない。

【障害者を理解してほしいという強い願い】

 平成12(2000)年に実施された厚生労働省の知的障害者基礎調査の「くらしの充実の希望」での本人回答は、一位が「相談や指導」で80%、二位が「障害者に対する周りの人の理解」であり、70%であった。父母の回答では、この理解が第1位で60%である。この傾向は、平成2(1990)年・平成7(1995)年の同調査でも変わらない。平成5(1993)年・平成9(1999)年に実施した大阪府の本人調査でも1位・2位という結果である。

 平成10(1998)年、大阪府内の障害者団体などの調査に基づく「障害者の人権白書」によっても、身体障害者の14.8%、知的障害者の27.9%、精神障害者の16.2%が障害者であることで差別、人権侵害を「いつも受けていると感じている。」との回答があり、「たまに」も含めると5割〜8割となっている。

 この「理解してほしい」という回答の背景には、さまざまな過去の生活上の体験が存在すると考えられる。先の「障害者の人権白書」にも「ここは、あんたらの来るところや無い」「保護者は付いていないのか」「早く、せんかい」「あぶない」「出て行ってくれ」などの様々な言葉と共に、時に暴言や暴力が伴うこともあることが訴えられている。また家探しに東奔西走せざるを得ないといった入居拒否など、府民一人ひとりの障害に対する誤った理解のレベルから障害者に対する地域からの排斥運動まで幅広い偏見や差別がまだまだ存在する。

 また、先の「障害者の人権白書」で「たまに」も含めて差別や人権侵害があると約7割の人が答えているにもかかわらず、知的障害者を除いて「自分自身に対して」では、逆に4割の人がほとんど何も感じていないというギャップを指摘している。その点について同書では「おそらく障害の問題を社会の問題としてではなく、自分自身の問題として自分自身で責め、つらい思いや悔しい思いを、社会や他者による人権侵害としてではなく、自分の障害ゆえに仕方がないこととして、いまだ認識している部分があるのだと思われます」と記載している。各種調査に現れる「自分は仕事になど就くことはできない」という回答の背景には、過去の挫折感やあきらめが存在すると考えられる。障害者への偏見や差別の実態は、障害者自身の内面にも影を落としている。本章冒頭に述べたように、こうした問題の解決のためには「個人的環境・人々の態度、各種のサービス・制度など幅広い意味での環境の整備とそれを受け止める障害者自身の社会生活力の向上」という両面からの継続的な取り組みがまだまだ必要であるということである。

 「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱くもろい社会である」という国連の提唱は、わが国においては障害者理解に対する社会への提唱だけではなく、多様性を受け入れがたいとされる日本と日本人への提唱の意味を持っているのではないかと考えられる。それゆえ「国連・障害者の十年」以降へ向けた「万人のための社会」への提唱は、障害者に対する社会の理解を核としながら、社会全般の人間理解の在りようの変革を求めていると考えられる。障害者の理解への願いは、多様な人間が、ありのままで暮らせる社会の構築への願いにつながっている。

 折りしも、昨年8月国連・経済的、社会的、及び文化的権利に関する委員会は、日本政府に対して「委員会は、締約国(日本を指す)が法令における差別的な規定を廃止し、障害者に関連するあらゆる種類の差別を禁止する法律を制定すること」を勧告した。「大阪が世界都市として発展していくためにも、私たち一人ひとりが命の尊さや人間の尊厳を認識し、すべての人の人権が尊重される豊かな社会を実現することが、今こそ必要とされている」とした「人権尊重の社会づくり条例」を抱く大阪府においても、これらの動きに留意しながら、条例の精神が隅々にまで行き渡るよう府民と一体となった積極的かつ継続的な啓発への努力が求められる。

【地域福祉の基本的要素】・・活動・参加と環境としてのサービスと制度と政策

 人々の暮らしの要素としては、障害の有無に関わらず、日々の疲れを癒し、家庭を育む住まいと、社会的な役割を担う活動や参加の場、そして余暇活動も重要なものである。ここでは、今後の障害者計画の策定を見据えながら、地域福祉の展開に当たっての基本的要素を強調する。

1.住居と介護

 障害者が、親亡き後兄弟など親族に身を寄せることは今後ますます難しくなる。社会は、こうした親族にまで身を寄せざるを得ない障害者の深いため息に耳を傾け、そして自立して暮らしたいという意欲に対して支援する必要がある。

 働き盛りで障害を受け、家族に過度の介護負担を強いることも近年の介護の社会化の観点からは、避けなければならない。

 若い障害者が親のいる間に一人で、あるいは結婚して、あるいは支えあい生活する場として数人で、あるいはこれらの生活を目指して一緒に互いに刺激しあいながら暮らす場が必要であり、これら全てが障害者の住まいの場である。

 グループホームや福祉ホーム、そして入所施設までも含めて障害者の住まいと位置付ける必要がある。それらの差異は、その支援の度合いや暮らす目的に応じて濃淡のある介護とトレーニングの方法が異なるのであると理解すべきである。障害者が、さまざまな場面で活動し参加することができる前提として、こうした様々な暮らしの場の整備は、今後の障害者の「自立と社会参加」の基礎的課題である。

2.住居と介護の基盤の上に立った、活動し、参加する場

 障害者は、社会の一員として、その活動を通じて社会に貢献することを望んでいる。自らの汗で収入を確保し、できれば納税の義務も果たしたいと考えている。一人でも多くの障害者が社会の中で皆と一緒に働きたいと考えている。身体が弱くても、短時間でよいから働きたいと考えている。障害が重くて生産のペースに合わない人も、狭い作業所の中ですら自己実現をめざして努力している。そして、できればより多くの収入に繋げたいと考えている。それが社会に貢献している証となると考えている。

 働くことが命を縮めることにつながる障害者もいる。働くことが唯一無二の社会参加の姿であるとはいえないが、その場合でも収入につながらなくとも社会に貢献したいという意味で創造的な活動を志向しているのが多くの障害者の姿である。

3.障害者の地域福祉確立のための市町村の主体的な参画

 新しい利用制度体系下での市町村障害者福祉が着実に進展するよう、新しい大阪府の障害者計画策定段階から、市町村の主体的参画を求め、市町村の実務の知恵も反映させる必要がある。

 また、現在策定が進められている府の「地域福祉支援計画」との整合性を図り、今後市町村で策定が進むと考えられる「地域福祉計画」に対する、障害者福祉の観点からの指針に結びつけることが必要である。

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