優しき挑戦者(阪大・ゲスト篇)

第3次大阪府障害計画策定にむけて意見具申―人が人間(ひと)として普通に暮らせる支援社会づくり―
大阪府障害者施策推進協議会(2002年6月7日)

第3章.現行計画の検証と課題(その概要)

 現行の「ふれあいおおさか障害者計画」は、福祉、保健、教育、労働、住宅、まちづくりなど幅広い分野における総合的かつ計画的な施策推進を目標に8項目にわたる施策の展開方向を示している。この章における検証と課題は、後継計画検討委員会において重点的に調査、審議された「施設サービス」「地域生活の支援」「就労・日中活動」の事項を中心に整理し、その概要を記述することとする。

1.施設サービス

(整備状況と課題)

 ハード面における施設整備の進捗は、知的障害者更生施設をはじめとする入所施設においては、目標数値の80%から90%に達しており、おおむね順調に推移してきたといえる。一方、通所施設については、日中活動または就労の場として通所授産施設、通所更生施設の整備がなされており、進捗状況は約40%にとどまっている。

 また、精神障害者を対象とした援護寮(社会訓練施設)については、約40%、通所授産施設や共同作業所は、約60%となっている。

 通所施設における進捗率が低位な原因としては、土地取得について公的な援助がないため、都市部での土地の確保が困難であることや、無認可福祉作業所等の設置者の資金力不足による通所授産施設の整備が進まないこと、また、精神障害に対する偏見による施設コンフリクトの問題も大きい。

 通所施設の整備については利用の性格上、地域に偏在しないよう配置する必要があるが、知的障害者通所授産施設以外の施設については、16障害保健福祉圏域のうち、未設置圏域が約半数を占め、地域における格差の解消が課題である。

 また、入所施設の整備に際しては、知的障害者入所更生施設において新規開設の場合、定員の2〜3倍程度の入所希望者が殺到する現状があるが、現行の施設処遇や実態とニーズの格差から入所を希望していても申請を行っていないケースが多く予想され、正確なニーズの把握が重要である。さらに、重症心身障害児(者)施設については、さらなる整備の必要性に関し、そのニーズの予測と施設のあり方を総合的に検証する必要がある。

(生活の質の向上)

 現行計画においては、入所施設での生活プログラムは人権尊重を基本にプライバシーに十分配慮し、地域における通常の生活に近づけるなど生活の質の向上を目指すものとされている。しかしながら、施設内における障害者への虐待事案が時として明らかになる現実があり、問題の根絶のためには利用者と職員にとって閉塞感のない施設のあり方が求められ、その上にたった職員倫理の向上への取り組みが必要である。施設管理者の意識の向上を図り、ひいては障害者の人権を守る上で、障害者の生活体験の不足を解消する取組みとともに、経理指導だけではなく利用者の生活支援の側面にも重点を置いた施設に対する指導や個別の事案に対する府の研ぎ澄まされた指導姿勢が、大変重要である。

 大阪府は「知的障害者入所施設利用者の生活・支援のあり方に関するガイドライン」及び「身体障害者入所施設利用者の生活・支援のあり方に関するガイドライン」を作成し、その趣旨の徹底を図るとともに施設指導の場などにおいて生活の質のチェックをしているがまだ十分とは言えず、今後一層強化していく必要がある。利用者の生活支援のあり方に着目した施設指導の必要性に関しては、精神障害者社会復帰施設に関しても同様である。

 入所施設の生活の質(QOL)の向上についての施設関係者の意識はこの10年間で大きく高まっているが、プライバシーに配慮した居室の整備や利用者の柔軟な生活パターンを可能とする職員配置基準の緩和など課題は多い。

 社会福祉基礎構造改革において施設経営者による自己評価や苦情解決、第三者評価の仕組みが導入されたが、良質かつ適切な福祉サービスの提供に向けさらなる改善と検証、個別施設情報の提供のあり方などが今後の重要課題である。

(地域移行への支援)

 入所施設から地域生活への移行支援は、現行計画における大きな施策方向であるが、障害の重度・重複化や施設のバックアップ体制・地域生活における支援体制の確保が不十分なため、必ずしも進んでいるとはいえない状況である。知的障害者入所型における自活訓練実施施設は増加しているものの全入所施設に占める割合は35%に留まっている実態である。

 また、精神障害者の社会的入院が解消されていないのは、地域の受け皿の不足と共に、地域生活を支える社会資源の情報提供や退院準備の適切な支援が不足していたことが大きな原因である。「社会的入院解消研究事業」の成果に実証されたノウハウを活かし、ハード面とソフト面を有効に組み合わせた社会的入院解消のシステムづくりが必要である。

 ノーマライゼーションの理念を具体化する地域移行は、今後の障害者施策の根幹に関わる取り組みであり、体系だった取り組みへの青写真が必要である。

(地域生活支援機能の充実)

 現行計画は入所施設を地域福祉を推進する重要な社会資源と位置づけ、それに基づきショートステイやデイサービスの提供などを入所施設の機能に付加する取り組みがなされてきた。その結果、障害者入所施設では、ほとんどの施設が短期入所事業を実施しており一定の前進が見られるが、利用者個々人に対応した外出や、地域移行に向けての介護を使っての自立生活体験への取り組みが不十分であり、ガイドヘルパーやボランティア等の積極的活用が必要である。

 また、障害者のホームヘルパー派遣事業を実施している障害者施設運営法人は、わずかに2か所(吹田市、枚方市)であり、ホームヘルパーの総派遣時間に占める割合は1.4%と低調である。

 また、通所施設では地域生活支援機能は入所施設ほど明確ではなく、施設間格差が大きい。限られた措置者だけの資源となっているとの指摘もあるが、通所施設における短期入所の整備が始められてきており、今後実施施設の拡大が望まれる。

2.地域生活支援

(ホームヘルパー・ガイドヘルパー派遣事業)

 障害者向けホームヘルパー・ガイドヘルパーの派遣事業は、目標数値の約40%にとどまっている。府内全市町村においてガイドヘルパー派遣事業が制度化されるなど施策推進の基礎は整備されつつあるが、市町村において利用制限(等級、時間帯、曜日)を設定しているところがあり、早期の解消が必要である。

 また、障害の特性や固有のニーズに的確に対応するため、障害者向けヘルパーの確保は重要であり、養成研修の実施により平成12(2000)年度実績で約7,300人と年々増加はしているが、資質と定着率の向上と併せて、さらなる確保が必要である。

 ヘルパー派遣の供給主体については、市町村直営と社会福祉協議会がそれぞれ4割、民間法人等が2割となっている。早朝や夜間におけるサービス提供など柔軟な対応を可能とするためには民間法人等への委託を進めることも重要であり、障害者自らが参画しているNPO法人等への委託促進など多様な派遣ニーズへの対応が課題である。

 また、難病患者に対するホームヘルプサービス事業は、難病患者等居宅生活支援事業の一つとして平成9年(1997)から実施されているが、平成12(2000)年度実績において11市25人の利用であり、医療面からのケアなど難病患者のニーズへの対応と制度の幅広い周知が課題である。

 精神障害者に対するホームヘルプサービス事業は、精神保健福祉法の改正により、平成14(2002)年度から、精神障害者居宅生活支援事業として開始される。サービスの開始に当たっては、サービス必要量の把握と供給主体の確保に加え、サービスの中に占める相談・助言の重要性など、精神障害者訪問介護試行的事業を通じて得られた知見を活用し、ホームヘルプサービスのノウハウをどのようにして構築し、展開していくかといったスムーズな供給のシステムづくりが課題である。

(ショートステイ事業)

 在宅障害者短期入所事業(ショートステイ)は、平成12(2000)年度末現在881床の実績であり、現行計画が策定された平成6(1994)年度時に比べ2倍を超える数字となっており目標値の700床を上回っている。これは障害者入所施設の整備にあたりショートステイ専用居室の設置が協議要件とされたことや介護保険制度の短期入所生活介護の利用が可能となったことが大きな要因であり、数量的な整備については評価できるものである。

 しかし、長期休暇や土曜・休日に利用希望が集中し、緊急時への対応が十分ではなく、また、実施施設の地理的偏在や重度重複障害児の実施施設が少ないため利用者や家族の負担が大きいなど、実際のサービス利用にあたっては残された課題が多い。通所施設の活用による身近な地域における適正な資源配備など利用者の立場にたったサービス提供の取り組みが必要である。

 なお、この点については、第4章の1(2)「地域福祉の視点」において再述する。

 精神障害者のショートステイについては、府内全域で8床と知的障害者・身体障害者の実績に比べ格段に低い水準となっている。そのため精神病院が必要なケアを入院の形で保障してきた面がある。今後は地域生活支援の一環として本来のショートステイが行えるよう、生活支援センターの機能拡大等を含めてショートステイのあり方を検討する必要がある。

(デイサービス事業)

 在宅障害者デイサービス事業については、70%を超える実績であり、比較的順調な伸びを示しているが、身体障害者に比べ知的障害者向けのデイサービスが少なく、ニーズの掘り起こしとともにサービスメニューや利用時間(滞在時間)の充実など運営面における課題が多い。通所授産施設や障害者福祉作業所とともに障害者の日中活動の場としても重要な資源であることから地域生活支援に向けた取り組みの強化が必要である。

(相談支援機能)

 相談支援機能については、「利用する福祉サービス」の時代において重要な役割を担っており、質量ともますます充実されなければならない。「この相談はどこに行けばいいのかわからない」といった利用者の声も依然多く、広報誌の掲載など一方的な情報提供だけではなく、各種の相談員やボランティア活動など地域のネットワークを活かしたPRの取り組みも必要である。

 平成8(1996)年度から開始された市町村障害者生活支援事業、障害児(者)地域療育等支援事業、精神障害者地域生活支援センターは、主に身体障害者、知的障害者(児)、精神障害者に対する障害者生活支援センターとして障害保健福祉圏域ごとの設置を計画上進めてきているが、すべての圏域での実施にはいたっていない。量的な整備を進める一方、コーディネーターやピアカウンセラーの資質向上やその確保と合わせ、地域の中での多様な資源との実践的なネットワークと社会資源の開拓など単なる事業紹介にとどまらない、地域で暮らすための相談支援の拠点となることが望まれる。

 また、障害福祉サービスへのケアマネジメント手法の導入は、障害者の生活全般にわたるニーズを視野に入れて援助する重要な役割を担うものである。平成11(1999)年度から開始された障害者ケアマネジメント体制整備推進事業により、従事者の養成研修やケアマネジメントの試行的実施等に取り組んでいるが、今後の本格的実施に向けて市町村や障害者生活支援センター等におけるケアプラン作成の体制づくりが課題である。

(グループホーム・福祉ホーム)

 グループホームは、障害者の地域生活支援を進めるうえで重要な施策の一つであり、大阪府においては在宅障害者自活訓練事業をはじめとした支援策の実施によりその量的な拡大を図ってきた。その結果、現行計画策定当初においては全国的にも先駆的な取り組みであった本制度が一般的な制度として定着してきたことは評価される。

 しかし、現行のふれあいおおさか障害者計画の目標達成率からみると知的障害者向けで約25%、精神障害者向けで約30%、身体障害者向けにおいては15%となっており、多くの潜在的ニーズの前には、先に述べた更生施設の退所実態から見ても、精神障害者の社会的入院解消に必要な受け皿としても、地域移行の取り組みは全体として不十分である。

 今後、国の知的障害者入所更生施設の建設抑制策が見込まれる中、この取り組みが真に実態として機能しなければ、障害者の親の高齢化問題とあわせ、深刻な入所施設待機者の増加が予測される。

 ハード面においては低廉で良質な住宅の確保の観点から公営住宅の活用が進められてきたが現行の運用上、公募が前提の空き家を中心とした住戸の斡旋となっており十分な確保につながっていない。また、民間住宅についても都市部での高額な家賃、入居拒否、住宅改造の必要性など課題も多く、柔軟な運用が可能となるよう国への要望を行うとともに、多様な物件確保のため、公営住宅・民間住宅両面からの活用方策についてもさらに検討すべきである。

 ソフト面においては、社会福祉法人をはじめNPO法人など多様な運営主体の確保、世話人の養成及び定着確保、および在宅・施設からのグループホーム入居へ向けた自活訓練など移行支援を図っていくことが課題である。後期行動計画「身体障害者の地域支援」については、とりわけ達成率が低く、今後その居住の場づくりと生活支援の方策について十分な検討が必要である。

 また、福祉ホームについては、身体障害者福祉ホームが1か所、精神障害者福祉ホームが4か所の実績しかなく、平成12年(2000)、土地の賃貸借契約による確保やホームヘルパーの派遣が可能となったが、運営補助金が低額なため設置を希望する法人が少ない実態にある。今後その全体的なあり方を視野に置いた運営に対する補助体制の拡充が見込めなければ、生活の場として活用可能な施設類型として期待することは困難であり、府としての努力と合わせて現状の改善を国に対して要望すべきである。

3.就労・日中活動

(雇用の促進)

 障害者の雇用については、啓発活動の実施、企業・事業所に対する法定雇用率の達成指導、就職面接会などによる就職機会の確保などの取り組みを通じて改善されてはいるが、法定雇用率(1.8%)に対し、府域の雇用率は平成12(2000)年現在1.56%にとどまっており、未だ達成されていない状況である。地方公共団体の役割は地域の実情に応じた必要な雇用施策を担うことであり、大阪府は国、市町村、障害者雇用促進協会等の関係機関との連携やNPO法人等の民間団体との協働を図りながら「障害者雇用日本一」に向けてのきめ細かい効果的な施策の実施が大きな課題である。

 また、大阪府においては、目標としている雇用率3%の達成に向け、身体障害者を対象とした職員採用選考を継続的に実施しているが、今後は障害者の適性に合った職種の拡大と併せて、知的障害者や精神障害者、難病患者にも対象を広げていく検討が必要である。

(就労・日中活動の場の整備促進)

 就労の場の拡大については、福祉工場の整備を促進することを目標の一つにしているが、身体障害者福祉工場が1か所、精神障害者福祉工場が1か所という実態である。

 また、通所授産施設は、必要な訓練と働く場の提供を通じて障害者の自立を促進することを目的に整備が図られてきたが、実態は雇用されるまでの通過施設としての機能よりも 長期にわたる継続的な福祉的就労の場となっている傾向がある。就職を理由とした退所者は、全退所者の2割に留まり、月額平均約8000円の低い工賃の実情とあわせ、授産施設のあり方を検討していく必要がある。

 障害者福祉(共同)作業所については、現在府域において約370か所(補助か所)あり、計画において大阪府は運営助成等の支援に努めるとともに、認可施設への移行を促進させることを目標としてきた。身体障害者・知的障害者の福祉作業所においては103か所、精神障害者の共同作業所では6か所の移行実績となっており、認可要件が緩やかな小規模通所授産施設制度を活用した一層の移行促進が課題である。その際、作業所は福祉的就労の場だけではなく、社会参加や生きがいづくりの場など、幅広い日中活動の場となっている実態を踏まえ、資産要件等のため認可移行が困難な作業所のあり方を十分に検討していくことが重要である。

 精神障害者の就労の場については、現行計画において通所授産施設、職親制度(社会生活適応訓練事業)、共同作業所の整備を内容として進めてきたところであり、約60%の実績となっている。そのうち、精神障害者の社会復帰促進策である職親制度は現在約30か所の事業所において訓練を実施しているが、就職するなど社会復帰するケースは約1割に留まっており、約6割は訓練終了後に共同作業所等に戻っている実態がある。事業所での人間関係や訓練作業に適応できなかったり、精神障害の特性が理解してもらいにくかったりで、訓練を中断するケースがあり、障害者個人に合わせた訓練作業の選定と関係者の適切なフォロー体制を確立していくことが求められる。

 公的な事業・施設等を活用した取り組みとして、知的障害者等の雇用促進を図ることを目的に設立された「大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合(エル・チャレンジ)」の府有施設の清掃委託がある。府自らが事業主として就労機会を創出するため必要な協力を行っており、委託先は年々実績を伸ばしているが、今後、市町村や社会福祉法人などへの働きかけを行い、委託先の拡充を図るとともに建物サービス事業以外の業務内容の検討を行う必要がある。

(職業リハビリテーションの充実)

 障害者の職業的自立に向けて、「障害者雇用支援センター」が平成19年度(2007)をめどに既指定の2か所とあわせて各障害保健福祉圏域に1か所を設置する取り組みが進められており、現在5圏域において支援センターの指定要件を満たすための準備を行う準備センターが設置されている。従来からいわれてきた福祉行政と労働行政との連携を具体的な施策として実施する段階にきており、平成14(2002)年度から「障害者就業・生活支援センター」として本格実施されるが、生活支援と雇用支援を一体的に提供する視点から今後推進を図っていく必要がある。

〔本章の終わりにあたり〕

 大阪府は、個別施策ごとに設定した目標の達成に向けて事業展開を図ってきており、その結果、現行計画の策定時には先駆的、モデル的取り組みであった施策が一般的な施策として定着するなど一定の成果がなされてきたことは評価に値する。しかし、ニーズの把握に基づいて設定した目標数値に達していない状況は、障害者のニーズが見込みに比べ少なかったというよりは、行政や関係者の取り組みに力不足の点があったと考える。今後は、施策間の連携や相互利用の面を強化し、身近な生活圏においてサービス拠点の配置を行っていくことを基本に利用する障害者の立場に立った総合的な視点からの施策実施を図っていくことが課題である。

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