前章では情報室の現状についてレポートをまとめた。それを踏まえて情報室の将来の役割と展望について、これから述べるのだが、その前に「医療情報」について整理しておくことにする。「医療情報室」の役割と展望を述べるのに、医療情報とは何か、どのような医療情報が必要なのか、ということを論じておく必要があると考えるからである。
3.1. 市民・患者はどのような情報が必要なのか
医療情報がなぜ必要になってきたかの背景は2章の始めに述べたとおりである。ここでは、さらにどのような情報が必要なのかを考察する。まずは、データを見てみる。市民への調査として、東京都の調べ(1) 、河合らの調べ(2)のデータを、患者・家族への調査として向田らの調べ(3)のデータを使用する。
東京都の調べでは保健医療情報が足りないと感じている人は足りていないとあまり足りていないの項を合わせて約52%であり、十分足りているという人は4.5%に過ぎない(表1)。しかし、患者・家族に限定した向田らの調べでは情報満足度は19%である(表2)。一般市民、患者の立場双方で医療情報の入手には満足していないことが分かる。
表1:保健医療情報の充足度
十分足りている | 4.5% |
足りている | 42.2% |
無回答 | 0.6% |
あまり足りていない | 39.9% |
足りていない | 12.7% |
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表2:知りたいことは十分に知ることが できていますか?
できている | 19.0% |
どちらともいえない | 59.4% |
できていない | 18.1% |
未記入 | 3.4% |
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次にどんな医療情報が不足しているかを見る。前述の東京都の調べで、情報が足りていないとあまり足りていないの回答者の中で、どんな保健医療情報が不足しているかのデータは表3の通りである。また、河合らの調べによると、一般市民が関心ある医療情報は表4の通りである。向田らの患者・家族への調べでは表5である。
これによると、病気そのものや治療に関するものはニーズが高いことが分かる。医療機関情報も多く、市民で特に多い。筆者が実際にボランティアをしている国立大阪の情報室でもこの二つを求めてくる人が多い印象がある。
さらに、予防の情報や健康づくり、栄養・食べ物といった病気になる前段階での情報もニーズが高い。
医療そのものではなく、それに付随的なものもニーズがあることが分かる。例えば、相談窓口について(表3-10)や医療費(表4-4)、介護(表4-10)、などである。
表6は東京都調べのカルテの内容を知りたいかという調査で、どんな場合でも知りたいが約半数、病名や症状によるを加えると7割を超えニーズが高いと言える。
表3:不足している保健医療情報(複数回答可)
1.どこにどのような医療機関があるかについての情報 | 45.2% |
2.病気の症状や予防・治療に関する情報 | 39.3% |
3.休日・夜間、救急医療機関に関する情報 | 34.3% |
4.薬の効能、副作用や服用方法についての情報 | 34.3% |
5.がんなど特定の病気の専門医療機関や医師に関する情報 | 21.7% |
6.ダイオキシン・環境ホルモンなどの有害化学物質についての情報 | 21.6% |
7.こころの健康に関する情報 | 17.5% |
8.自宅で療養中の人が受けられる訪問看護やヘルパーなどの在宅サービスについての情報 | 14.2% |
9.食品の安全性や食中毒についての情報 | 14.1% |
10.保健や医療に関する苦情や相談の窓口についての情報 | 13.0% |
11.急病やケガ人に対する応急手当に関する情報 | 8.0% |
12.健康づくりについての情報 | 5.7% |
13.退院後の機能訓練や日常生活訓練施設等リハビリテーションについての情報 | 4.5% |
表4:関心ある医療情報(複数回答可)
1.病気の予防 | 59.1% |
2.薬の効果・副作用 | 45.3% |
3.医療費 | 36.5% |
4.病院に関する情報 | 33.6% |
5.栄養・食べ物 | 33.3% |
6.病院での診察・治療 | 29.1% |
7.病気のしくみ | 26.4% |
8.健康や身体のしくみ | 24.2% |
9.医師に関する情報 | 23.5% |
10.介護 | 17.0% |
11.カルテ開示 | 12.9% |
12.民間療法 | 9.2% |
表5:どのような情報に関心がありますか(複数回答可)
1.病気について | 67.7% |
2.薬について | 49.5% |
3.診療について | 37.3% |
4.検査について | 35.5% |
5.健康・体について | 32.0% |
6.病院について | 29.3% |
表6:自分のカルテなどの内容を知りたいか
どんな場合でも知りたい | 49.9% |
病名や症状による | 35.9% |
どんな場合でも知りたくない | 7.6% |
わからない | 6.6% |
では、市民・患者はこれらの情報をどのようにして手に入れているのだろうか。東京都の調べ「保健医療についての情報源」を表7、河合らの調べ「情報の入手方法」を表8、向田らの調べ「普段の調べ方」を表9に示す。
これらのデータを見ると、医師・看護師など医療者から直接情報を得る場合や、マスコミからの情報が多い。
インターネットはどの調査でも1割前後を占めているが、図書館で調べたり、公的機関やNPO、患者会への相談は低い数字となっている。
このことから自主的に情報を得られる場所がないと言えるのではないだろうか。情報を得られる場所という情報がないのである。
表7:保健医療についての情報源(複数回答可)
1.テレビのニュースや新聞 | 52.0% |
2.テレビの情報番組 | 48.8% |
3.友人・知人からの情報 | 39.9% |
4.東京都や区市町村の広報誌 | 24.6% |
5.雑誌の特集記事 | 17.6% |
6.健康関連の本 | 17.3% |
7.インターネット | 9.3% |
8.保健医療専門誌 | 7.6% |
9.駅などの看板や広告 | 3.0% |
10.国や自治体の相談機関 | 1.9% |
11.NPOや患者団体などの民間の相談機関 | 0.6% |
表8:情報の入手方法(複数回答可)
1.医師にたずねる | 61.3% |
2.本や雑誌で調べる | 43.6% |
3.家族・友人にたずねる | 34.2% |
4.新聞・テレビで調べる | 20.3% |
5.薬剤師にたずねる | 12.9% |
6.インターネット | 12.8% |
7.看護婦にたずねる | 11.8% |
8.図書館 | 6.6% |
9.わからない | 4.8% |
10.その他専門家にたずねる | 3.8% |
11.保健所相談室にたずねる | 3.6% |
12.講演会・講習会 | 2.6% |
13.必要ない | 2.4% |
14.電話相談にたずねる | 2.0% |
15.会社等の保健室 | 1.4% |
16.患者支援団体にたずねる | 0.3% |
表9:普段の調べ方(複数回答可)
医師・看護師 | 70.5% |
本・雑誌 | 42.2% |
新聞・テレビ | 33.5% |
家族・友人 | 33.4% |
インターネット | 9.8% |
図書館 | 6.6% |
保健所 | 4.3% |
電話相談 | 2.5% |
わからなかった | 6.0% |
以上のような多様な情報を得る手段として、医療情報室が登場したのである。次節では、医療情報のニーズには多様な種類を基に、医療情報を分類してみることにする。
【注】
(1)東京都 「保健医療に関する世論調査」 2001年6月〜7月調査、東京都全域に住む20歳以上の男女対象、(生活情報センター編 健康と美のライフスタイルデータ集〈2002〉情報センターBOOKs 生活情報センター、204-216頁)
(2)河合富士美 ; 江口愛子 ; 牛沢典子 他 2002 「一般市民の医学・医療情報需要調査」 医学図書館 49巻4号、日本医学図書館協会、376-382頁
(3)向田厚子 ; 阿部信一 ; 江口愛子 他 2001 「患者及び家族の情報需要調査」 医学図書館 48巻4号 日本医学図書館協会 404-409頁