卒論・修論の部屋

日米の大学ボランティア・センターとそこでのコーディネーションに関する一考察
中村寿美子さん

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1-1.問題の所在

 近年、日本では"ボランティア"という言葉が日常的に使われるようになった。"ボランティア"という言葉が最初に国語辞典に登場したのは、1969年の「広辞苑」が最初である。それから徐々に一般化していき、いまや2003年に文化庁国立国語研究所が行った「外来語認知度世論調査」で"ボランティア"という言葉の認知度はストレス、リサイクルに次いで第3位に入った。全体の90.8%の認知度であった。また、新聞メディアのボランティア関連記事の総数は1985年で約250件、1995年には6000件、そして2004年で13000件を超えている。一日に約10個のボランティア関連記事が新聞に載る時代になった。"ボランティア"という言葉、そしてその言葉の持つ意味も、私たちの生活の中に定着してきているといっていいだろう。
 阪神淡路大震災が起こった1995年は「ボランティア元年」と呼ばれた。それから10年が経とうとしている。2003年に発表された総務省統計局の調査によると2000年10月から2001年10月の一年間で何らかのボランティア活動を行った人は3263万4千人にのぼるという。これは、行動者率(10歳以上の人口に占める割合)で表すと28.9%になる。いまや、約3人に一人はボランティア活動をしたことがある時代になった。この10年間で、"ボランティア"は私たちのより身近なものになったといえる。
 そういう状況下にあって、いま"ボランティア"が直面している課題は何か。それは多くの人が自発的に活動する"ボランティア"をどのようにコーディネートするのか、ということではないだろうか。"ボランティア"というマンパワーをいかに活用し、いかに社会につなげていくのか。それが、ボランティア元年と言われた阪神淡路大震災から10年経った今、"ボランティア"が臨む次のステップであると考える。
 ここで注目したいのは、10代から20代にかけての若者、特に大学生である。彼らは先の震災が起きた当時、小学生高学年から中学生だった。"ボランティア"に対する世間の関心の高まりをもっとも多感な時期に目の当たりにし、自らもボランティアへの関心を高めていった世代であり、また、多くのボランティア団体やNPO組織などからも、関わって欲しいと望まれてもいる世代である。そこで、本論では特に、大学におけるボランティア・センターに着目し、そこでのボランティア・コーディネーションについて考察する。
 また日本では"ボランティア"への関心も高まってきているとは言え、その現状を国際的な視野で眺めたとき、日本のボランティアへの取り組みが進んでいるとは必ずしも言えない。総務省による第6回世界青年意識調査報告書(1999年)によると、「現在ボランティア活動をしている」と答えた青年は、被調査国のなかで日本が2.7%と最も少なく、アメリカは20.7%と最も大きかった。反対に「ボランティア活動をまったくしたことがない」と答えた青年も、日本が74.7%と一番多く、アメリカは40.1%と最も少なかった(図1-1)。この差はどのようにして生まれるのか。本論ではその点も踏まえてアメリカの大学ボランティア・センターの活動もあわせて紹介する。
 アメリカの大学ボランティア・センター、日本の大学ボランティア・センターの事例を分析し、今後のボランティア・センターとそのコーディネーションのあり方を考察する材料としたい。また、本論全てにかかわるものとして、ボランティア・センターやボランティア・コーディネーターに関する考察も行う。

図1-1

キーワード:ボランティア、大学、大学ボランティア・センター、ボランティア・コーディネーション、ボランティア・コーディネーター

1-2.目的

 本論は以下の4点を主な目的とする。

1.日米の大学ボランティア・センターとその活動事例の紹介と簡単な比較。
2.大学がボランティア・センターをもつことの意義についての考察。
3.大学ボランティア・センターにおけるコーディネーションあるいはコーディネーターのあり方の考察。
4.大学ボランティア・センターの今後の展望と課題。
 以上を踏まえ、本論を展開していく。

1-3.方法

 本論での調査方法は主に文献調査とインタビュー調査の2つである。
 ボランティアに関するデータ、またボランティア・センターやボランティア・コーディネーターに関する考察は文献・資料を中心にまとめた。
 またアメリカはイリノイ州立イリノイ大学Urbana-Champaign校のOffice of Volunteer Programs(OVP)を訪問し、コーディネーターへのインタビューを行った。地域との関わりを調べるために、大学が位置するコミュニティのボランティア団体にもインタビューを行った。
 日本では、明治学院大学、龍谷大学をそれぞれ関東、関西の大学ボランティア・センター成功例として訪問し、インタビューを行った。また大学としては珍しいボランティアの研究機関である大阪大学人間科学部ボランティア人間科学研究科でも聞き取り調査を行った。

1-4.限界

 本論の限界は、日米の大学ボランティア・センターについて、単純な比較が行えないことである。それはアメリカと日本では大学の規模、大学が位置するコミュニティの規模、コミュニティのあり方が異なるためであり、本論に登場する4大学を単純に並列し比較して論述するには問題があると考えられる。そこで、ここでは各々の事例を報告し、その上でそれぞれの大学のボランティア・センター及びそのコーディネーションを分析することに重点をおき、その中で必要と思われるものを随時ピックアップして考察の材料とする。

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