ボランティア・センターの定義は様々になされているが、最近では中間支援組織という名称もそれに代わりよく用いられるようになってきた。早瀬(2003)はボランティア白書の中で、
「...対価を得られずとも頑張ることの多い市民活動では、活動に真剣に取り組む中で、頑張る人ほど疲れてしまう「疲労と不振の悪循環」現象(金子郁容氏が「自発性パラドックス」と名づける状態)が往々にして起こる。この課題を克服し、より活動を活発化されるには、支援者を確保することが必要になる。この支援者確保(支援者にとっては支援先探し)を効率的に進め、かつ支援者との間に対等な協働関係を築くには、コーディネート機関を整備する必要がある。このコーディネート機関は市民が被援助者との間に「対等な協働関係」を築く上でも重要な存在となる。」(p.96)
と述べている。ここで示されているコーディネート機関が中間支援組織であり、いわゆるボランティア・センターである。つまり、ボランティア・センターとは、ボランティア活動なり市民活動なりを行う上で、ボランティアをする側やボランティアを受ける側の両方にその活動がスムーズになるように働きかける「場」と言ってよい。本論では、大学ボランティア・センターに焦点を当てる事から、このコーディネートを重要視する「場」としてのボランティア・センターのあり方を定義として採用する。
アメリカの全米規模のボランティア・センター組織であるPoints of Light財団は、ボランティア・センターの役割として以下の4点を挙げている。すなわち、「@誰かの役に立つ機会を人々に結びつけること、A効果的なの地域のボランティアの収容力を築くこと、Bボランティアを促進すること、Cボランティアを円滑に進めるためにイニシアティブを取っていくこと」である。そして、ボランティア・センターを次のように定義する。
「ボランティア・センターはコミュニティのための主催者であり、社会的行動を起こすための触媒であり、また、ボランティア参加のための重要な地域に根ざした資源である。ボランティア・センターはコミュニティ、人口学的領域、人口規模あるいはその他の要因やニーズに基づいた幅広いプログラムやサービスを通して、人々とそのコミュニティを一体にするものである。
(http://www.pointsoflight.org/centers)」
つまり、ボランティア・センターはコミュニティに根ざしていること、そして、そこに住む人々の自発的な活動や運動を最大限に生かしていくことが重要となる。
また全米ボランティア助成団体United Wayの報告書(1989)によれば、ボランティア・センターに必要な4つの要素として、「@ボランティアが働ける「場所」があること、Aボランティアが利用できる「資料」があること、Bボランティアの「リーダー」がいること、C「ボランティア」がいること」、を挙げている。ボランティア活動には「場所」と「資源(人的、物的)」が不可欠であるという明快な定義である。
社会福祉協議会は1973年よりボランティア・センターの設置を始めた。ボランティア養成事業研修会資料(2003)によると、市区町村ボランティア・市民活動センターの機能は、「情報ネット、協働促進、開発業務、拠点提供、コーディネート」の5点に集約されると説明されている。
全国に先駆けて誕生した市民活動サポート・センターである大阪ボランティア協会は、協会の理念を以下のように述べる。
@つなげる−「活動したい」「応援したい」意欲と、「応援を求める」人やNPOがつながる"広場"、
A学べる−「ボランティア活動をしたい」「もっと高めたい」という人を応援、
B伝える、提案する−「市民活動総合情報センター」として、情報を集積・編集・発信・解説、
C支える−現に活動するボランティアグループ、市民団体を強力サポート、
D貫かれる民間性−「市民の、市民による、市民のための」市民活動推進センター
大阪ボランティア協会は、1962年に発足した。日本で始めて"ボランティア"をその名称に取り入れた団体であり、その活動内容は注目に値する。ここに取り上げた協会理念では、情報を与え、活動を促進していくという機能がボランティア・センターの必要要素として述べられている。
以上をまとめてみると、ボランティア・センターはボランティアをする側とボランティアを受ける側の中央に位置する「場」であり、その「場」の中に、人的資源・物的資源、資金、そして情報が備わっていることが条件となる。
また、ボランティア・センターはボランティアに関わる人たちの地域に根ざしているものであり、その扉は常に開かれていなければならない(図2-1)。つまり、ボランティアをする側もボランティアを受ける側もボランティア・センターを媒体にしてスムーズに活動が行えるようになるのである。
例えば、2004年10月23日に発生した新潟中越地震では、地震発生2日目から4日目にかけて、早々と長岡市災害ボランティア・センターと小千谷市災害ボランティア・センターが設置された(1)。渥美(2004)によれば、これは、ばらばらに点在している支援の情報や、「何かしたくて被災地に来てみたが何をしていいのか分からない」というボランティアを一括して受け入れ、コーディネーションする必要があったからである。つまり、震災という特別な状態のときでも、まずボランティア・センターを設置し、受け付けを行い、情報や人間の管理(名前の登録、名札の配布など)、必要な情報や物資の管理を行うことが先決課題となってくるのである。そのことがスムーズなボランティア活動を促すことになる。
スムーズに活動が行えるというのは、ボランティアをする側も受ける側もボランティア・センターに備わる各資源に自由に手を伸ばすことができるということであり、また、そのこを通してボランティアを受ける側とボランティアをする側が相互に結びつくということをさしている。
ボランティア・センターとはいつ頃に誕生したものであろうか。表2-1にボランティア・センターの変遷をまとめた。
日本では"ボランティア"はもともと一般的なものではなかったが、戦後1951年に社会福祉事業法が公布、社会福祉協議会が発足してから少しずつボランティアへの意識も生まれてきた。
1962年に大阪ボランティア協会が設立された。当時"ボランティア"という言葉を使うのは大変めずらしく、日本で始めてボランティアを名乗る民間団体となった。
1970年代に入ると、社会福祉協議会(社協)がボランティア・センターの設置に取り組み出す。1975年、全社協に「中央ボランティア・センター」が発足、その翌年「全国ボランティア活動振興センター」が設立された。厚生省(当時)も1977年よりボランティア活動振興センターに対する国庫補助を開始している。現在では、ボランティア・センターを設置している市町村区社協は2,289ヶ所、ボランティア・センター設置まではいかないがボランティア・センターの機能を持っている市町村区社協が827ヶ所、計3,116ヶ所まで広がっている(全国社会福祉協議会、2002)。
1980年代は、政府のボランティア事業への取り組みも多く見られた。経済企画庁や総理府がそれぞれ「ボランティア活動の実態」(1981)や「ボランティア意識調査」(1983)をまとめた。また、文部省による「青少年ボランティア参加促進事業」(1983)や環境庁「環境ボランティア構想」(1984)も"ボランティア"を広める上では重要な役割を果たしたと言える。さらに、厚生省による「ボラントピア事業―福祉ボランティアの町づくり事業―」(1985)も特筆すべきである。
政府の動きと並行するように、この時機は民間のボランティア・センターやボランティア・グループも数多く作られた。1980年「日本国際ボランティア・センター」の前身である「日本奉仕センター」が、また翌年には「東京ボランティア市民活動センター」の前進である「東京ボランティア・センター」が設立された。今では全国レベルで活動を広げているボランティア団体「呆け老人をかかえる家族の会」も1980年京都で発足している。
1990年代は95年の阪神淡路大震災を抜いては語れない。しかし、95年以前にもボランティアに対する大きな動きがあったことは確かである。1990年には富士ゼロックスがソーシャルサービス休職制度を導入、企業の社会貢献の先駆けとなった。同年、経団連1%クラブ(2)が発足し、フィランソロピーを広めるきっかけとなる。メディアの分野では、1992年には岩波新書から『ボランティアもうひとつの情報社会(金子郁容著)』が出版されたり、1994年にはNHKが「週刊ボランティア」の放映を開始したりと、ボランティアに関係するものが徐々に出始めてきた。1995年以前にボランティアへの素地ができていたと言えよう。そのような社会的な動きのなか、阪神淡路大震災では今までにないほどの人数のボランティアがかけつけたのである(3)。1995年は「ボランティア元年」とも呼ばれる。
1997年には特定非営利活動促進法(NPO法)が制定された。NPO法人を立ち上げるボランティア・グループが増加傾向にあるなかで、ボランティア・センターがどうNPOと連携を取っていくのかが課題となっている。
さらにこの時機の大きな変化として早瀬(2003)は「ボランティア情報のIT化」を挙げている。1994年には大阪ボランティア協会が「主に関西!ボランティア・市民活動情報ネット」、そして翌1995年にはNHKが「NHKボランティアネット」というボランティア検索システムを始動している。ボランティア・センターへ直接出向かずとも、インターネットを通してボランティア情報を得るというシステムが浸透してきたのである。大阪ボランティア協会の調査によると、1997年以降ボランティア・情報検索システムへのアクセス数が窓口受け付けよりも上回っている。このようなIT化に伴い、ボランティア・センターやコーディネートのあり方も変化してくるかもしれない。
アメリカは「ボランティア大国」と呼ばれることもあり、"ボランティア"という言葉は早くから一般的に用いられてきた(4)。1887年という非常に早い段階で、いまや全米のボランティア・センターとして名高いUnited Wayが発足している。United WayはNPOやボランティア団体の資金調達を行う団体である(5)。
ボランティアの歴史を見ると政治的な側面が反映されていることもある。ベトナム戦争が起こった頃に、Peace Corp(6)が始まっているのはその代表例かもしれない。そんななかでボランティアへの関心は高まりを続けた。1974年の調査では、アメリカ国民の約24%が定期的なボランティア活動に参加しているという結果が出ているのだから、ボランティアの歴史の深さを感じさせる(Volunteer Resource Centers)。
その背景には、ボランティア・プログラムの発展とボランティア・センター組織の充実がある。1971年、ニクソン政権により、Peace CorpやRSVP(7)など既存のボランティア・プログラムが一括して奨励されるようになった。
ボランティア・センターもその数を増し、1986年までにUnited Wayと連携して設立されたボランティア・センターが115、またVOLUNTEER(8)と連携して作られたセンターが300となった。全米規模のボランティア・センターネットワークであるIndependent Sector(9)やPoints of Light財団の傘下にはいまや365のボランティア・センターが登録されている(Ellis, 1989)。
表2-1:ボランティア・センター年表
年 |
社会の動き |
ボランティア関連の動き (日本) |
ボランティア関連の動き (アメリカ) |
1887 |
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・United Way設立 |
1945 |
第二次世界大戦終結 |
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1951 |
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・社会福祉事業法公布 ・中央社会福祉協議会発足 |
・AVB(Association of Volunteer Bureaus)設立 |
1953 |
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・全国社会福祉協議会「ボランティア研究会」開催 |
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1960 |
ベトナム戦争 |
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・Peace Corps始まる。 |
1961 |
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・「善意銀行」が発足(大分県、徳島県) |
・RSVP(Retired and Senior Volunteer Program)始まる。 |
1962 |
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・大阪ボランティア協会設立 ・青年海外協力隊設立 |
・VISTA(Volunteer in Service to America)始まる。 |
1964 |
市民権(アメリカ) |
・日本青年奉仕協会発足 |
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1965 |
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・全社協「ボランティア育成基本要綱」策定 |
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1967 |
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・広辞苑に「ボランティア」が登場 |
・ACTIONが始まる。 ・Public Service Center at University of Carifornia |
1968 |
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・NCVA(National Center for Voluntary Action)設立。 |
1969 |
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・社協によるボランティア・センター設置開始 |
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1973 |
石油ショック |
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・全国ボランティア活動振興センター発足 |
1975 |
ベトナム戦争終結 |
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・NICOV(National Information Center on Volunteerism)設立 ・VOLUNTEER設立 |
1977 |
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・日本奉仕センター(現日本国際ボランティアセンター)設立 |
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1979 |
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・東京ボランティアセンター(現、東京ボランティア市民活動センター)設立 |
・Office of Community Service at The George Washington Univerisity |
1980 |
国際障害者年スタート |
・厚生省「ボラントピア事業」 |
・サービス・ラーニング制度を大学正規の課程とするところが増える ・Campus Compact(全米大学連合)が設立 |
1981 |
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・環境庁「環境ボランティア構想」発表 |
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1984 |
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・COOL(Campus Outreach Opportunity League)設立 |
1985 |
プラザ合意 |
・NGO活動推進センター設立 |
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1987 |
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・文部省「生涯学習ボランティア活動総合推進事業」開始 ・郵政省「国際ボランティア貯金」開始 |
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1988 |
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・Volunteer Service Center at George Mason Univeristy |
1989 |
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|
・Points of Light Foundation設立 |
1990 |
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・富士ゼロックス、ソーシャルサービス休職制度導入 ・経団連1%クラブ発足 |
・Office of Volunteer Programs at the University of Illinois |
1991 |
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・全社協「ボランティア活動推進7ヵ年プラン」 ・第13回世界ボランティア会議開催(東京) |
・Corporation for National Service(庁)設立 ・The National and Community Service Trust Act制定 |
1993 |
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・NHKボランティアネット開始 |
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1994 |
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・日本NPOセンター発足 |
・Corporation for National and Community Service(政府主導)形成 |
1995 |
・阪神淡路大震災 ・国連人権のための10年決議 |
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1996 |
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・きょうと学生ボランティアセンター設立 ・大阪大学人間科学部ボランティア人間科学研究科設立 |
・大統領ボランティア・サミット(By POL)開催 |
1997 |
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・介護保険法制定 ・日本海重油流出事故 |
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1998 |
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・特定非営利活動促進法(NPO法)制定 |
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1999 |
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・日本ボランティア・コーディネーター協会(JVCA)設立 ・明治学院大学ボランティア・センター設立 |
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2000 |
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・介護保険スタート |
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2001 |
・国際ボランティア年 ・9・11テロ事件 |
・龍谷大学ボランティア・NPOセンター設立 |
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2002 |
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・大阪NPOプラザ開設 |
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2-3.大学ボランティア・センター
次に本論のキーワードでもある大学ボランティア・センターへと話を進めよう。
日本において、大学を舞台にしたボランティア活動は、それをボランティアと呼ぶならば、セツルメント運動(10)が盛んであった1900年代前半にまでさかのぼることができる(阿部、2001)。セツルメント運動は「ユニバーシティ・セツルメント」とも呼ばれることがあるように、大学で学ぶ学生が中心となって貧困地区で活動を行う事業であった。しかし、それは戦中・戦後の時を経て、1980年代から徐々に姿を消してしまった。
それを一変させたのはやはり1995年の阪神淡路大震災である。もちろんそれまでにも学生のボランティア活動がなかったわけではない。複数の大学内にはボランティアクラブも見受けられたし、また1993年には大阪大学の学生であった中田厚仁氏が国連ボランティアで活動中に殉職するという事件もあった。学生個人個人がボランティア的な活動には参加し続けていたと言っていい。そうやってゆっくりと学生のボランティア活動への参加を促す下地ができかけてきたところに、震災が起こった。ボランティアが社会を変え得るかもしれないというダイナミズムを、学生自身も、またそれを応援する大学も感じたことであろう。
事実、後で事例紹介する明治学院大学ボランティア・センターや龍谷大学ボランティア・NPOセンターはそれぞれ震災での学生の取り組みに大学側が触発されるかたちで設立されている。2001年度内外学生センターの調査では、「学内おいて学生に対するボランティア情報の提供・相談等を担当する窓口や部署」が「ある」と答えたが大学は回答のあった大学のうち73.3%となっている(図2-2)。〔回答率65.6%)内訳:国公立218校、私立596校、計814校〕
2002年の中央教育審議会答申「青少年の奉仕活動・体験活動等の推進方策について」では、大学ボランティア・センターの開設が、学生の自主的な活動を奨励・支援するための、課題と明記されるようになった(11)。
図2-2:学内においてのボランティア情報の提供・ボランティア活動の相談の担当部署の有無
(出典)内外学生センター 2001年度「大学等におけるボランティア情報の収集・提供の体制に関する調査」
2-3-1.大学におけるボランティア教育
大学ボランティア・センターが奨励されると同時に、大学のなかでボランィアを取り入れる取り組みも注目されるようになってきている。1996年以降、大学でのボランティア関連講座の増加も著しい(図2-3)。先に示した2002年中教審の答申の中でも、「正規の教育活動としてボランティア講座やサービスラーニング科目、NPOに関する専門科目の開設等が望まれる」と記述されている。
ボランティアを教育に取り入れる場合、2つのアプローチがあると考える。ひとつはボランティア活動そのものは行わないがボランティアに関する理論を学ぶ方法、もうひとつがボランティア活動の実践を伴いその活動を評価する方法である。
両者には決定的な違いがある。前者はボランティアをするかどうかはあくまでも学生自身の意思に任されているが、後者はボランティア活動をすることが必須すなわち義務となる。
前者の例は大阪大学人間科学部ボランティア人間科学研究科に見られる。ここでは、ボランティア活動を評価の対象ではなく、研究・調査の対象として位置づけている。この点に関して、関(2001)は、
「...一番の課題は、大学の科目としての「ボランティア」は何を目指すのかというところにあるのではないでしょうか。つまり、基本的には調査・研究に主眼をおくのか、サービスラーニングなどの一環として位置づけるのかということです。私たちの研究室では、前者を中心にしながら、後者への橋渡しを行うという多少アクロバティックな方法を採っているかもしれません。このような取り上げ方が、はたしてどのような結果をもたらすのかは、今しばらく様子を見なければならないというのが実情です。」(p114)
と述べる。中教審が掲げるNPOに関する専門科目の設置や、ボランティアあるいはインターンの単位認定に関してはこれらの状況を踏まえ、吟味していくことが求められるであろう。
図2-3:ボランティアに関する講義科目を開設している大学数
文部科学省「大学における教育内容等の改革状況について」2002より。
2-3-2.大学におけるサービス・ラーニング制度
サービス・ラーニング制度(以下SL)は、近年日本でも徐々に注目されはじめている。SLの定義については以下に詳しい。
「サービスラーニングは、サービスの提供者と受け手の両方の変化を意図して、サービスの目標と学習目標を結合する。それは、自己の振り返りと自己発見、そして価値観・技能・知識の獲得と理解などの課題につながるように組み立てられた機会とサービスの課題を結び合わせることによって実現される。(NSLC、村上訳、2003)」
つまりSLの特性は、学問と社会規範を結びつけ、そのことによって学生の社会参加を促進することである。そして、サービスと学習の体験を結び合わせることによって、コミュニティとサービスの提供者双方に利する相互作用であると言える(NSLC、村上、2003)。
アメリカではこのSLの業務の一部を大学ボランティア・センターが担うという形が多いようだ。ここで強調しておかなければならないのは、SLがボランティアと多少の共通点があるとは言え、それがボランティア活動そのものに結びつくものではないということだ。すなわち、SLとはコミュニティへの奉仕を通して自ら得る学際的「学習」に重きをおくもので、基本的に大学のカリキュラムとは性質を異にする自発的で個人的な活動やボランティア活動とは同一視できない(佐々木、2001、p60)。
日本でも、中教審答申(2002)に「サービスラーニング科目」という言葉が登場している。その際、それをどのようにマネージメントしていくのか機関はどこになるのか。図2-2からも分かるように日本の大学内にボランティア相談担当部署が必ずしも十分だと言えない状況の中で、その点が課題である。
【注】
(1)2004年11月12日(金)大阪大学人間科学部公開講義「地域が変わる」渥美公秀氏講演による。
(2)経常利益の1%以上(法人会員)、可処分所得の1%以上(個人会員)を目安に社会貢献活動のために拠出することに努める企業を応援する組織。
(3)兵庫県の調査では震災時約137万5000人ほどのボランティアがかけつけた。
(4)もともとのVolunteerは「志願兵、義勇兵」という意味の英語である。ここで「一般的に用いられるようになった」と述べるのは、Volunteerが現在でいうボランティア活動の意味で用いられるようになったということである。
(5)ユナイテッドウェイに関しては、ボランティア・センターとしての資質を問う声もある。
参考:“ユナイテッドウェイはボランティアセンターの進む道にあらず”http://cw1.zaq.ne.jp/osakavol/energize/bk2002/bk200212.html
(6)アメリカ国籍を持つ若者を、途上国などに2年から3年派遣する制度。日本の青年海外協力隊はこの制度を参考にして作られた。
(7)RSVP(Retired Senior Volunteer Program)のこと。
(8)当時の大きなボランティア・センター組織であるNCVAとNICOVの合併によって1979年に誕生した。現在のPoints of Light 財団の前身のようなもの。
(9)全米規模のボランティア支援団体。ボランティア・ウィークやボランティアへの表彰を推進している。
(10)イギリスで1884年に創設。宗教家や学生が貧困地区(スラム)に宿泊所などを設けて住民の生活のための助力をする社会事業と定義できる。
(11)「学生の自主的な活動を奨励・支援するため、大学ボランティア・センターの開設(専任職員、学生ボランティアの配置)など学内のサポート体制の充実、セメスター制度や、ボランティア休学制度(休学期間中の授業料の不徴収、在籍年数制限からの除外等)など活動を行いやすい環境の整備、学内におけるボランティア活動等の機会の提供などに取り組むこと」(答申より抜粋)