卒論・修論の部屋

日米の大学ボランティア・センターとそこでのコーディネーションに関する一考察
中村寿美子さん

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3-1.ボランティア・コーディネーションの定義

 ボランティア・コーディネーションを考える際、コーディネーションの意味をまず正確に捉える必要がある。コーディネーションとは、「同等にすること、対等(の関係)、(作用・機能)の調整、協調」(リーダーズ英和辞典)、「the organization of people or things so that they work together well」(ロングマン英英辞典)という意味がある。その辞書的意味に従えば、ボランティア・コーディネーションは、ボランティアが対等によりよく働けるための調整機能といえる。
 巡(1996)はボランティア・コーディネーションとは「ボランティアを、@つなぐ(需給調整機能)、A知らせる(情報提供機能)、B育てる(養成・教育機能)、C支える(相談援助機能)、D調べる(調査・研究機能)」の5つの機能から成り立ち、さらにそれらの機能を全体としてまとめるという機能も持つと指摘する(p12)。
 ボランティアをつなぐ「需給供給機能」は、ボランティア・コーディネーションの中心となる機能である。上野谷(1993)はこれを「直接交渉できないもの同士をつなぎ、不特定多数の力を結集することによって、問題解決をはかろうとする」機能と説明する(p7)。つまり、ボランティアをしたい人とボランティアを求める人とをつなぐ機能なのである。
 しかし、"ボランティア"と一口に言ってもそれは実に様々である。そこで上野谷(1993)は、ボランティアに対する包括的なニーズには、多様なサービスを統合して対応する必要があることを指摘している(p6)。
 これらを総合すると、ボランティア・コーディネーションとは、ボランティア受け入れを望んでいる人も、ボランティアとして活動することを希望している人も、その両者がお互いの関係をよりよく保ちながらボランティアに携わっていけるようにする様々な機能の総称と、定義することができるだろう。


3-2.ボランティア・コーディネーター

3-2-1.ボランティア・コーディネーターの定義

 職業としての"コーディネーター"という呼び方は最近よく聞かれるようになった。インテリア・コーディネーター、フード・コーディネーター、ファッション・コーディネーター、臓器移植コーディネーターなどもそうである。一般的に「調整役」と訳されている。
 では、ボランティア・コーディネーターはどうか。以下に参考となる定義を引用する。

  • 「市民のボランタリーな活動を支援し、その実際の活動においてボランティアならではの力が発揮できるよう、市民と市民または組織をつないだり、組織内での調整を行うスタッフ」(日本ボランティア・コーディネーター協会、2001)
  • 「ボランティア・コーディネーターとは、生命、平和、人権が尊重され、個々人が自実現や生きがいを追及できるような多様で豊かな市民社会を市民達自身の手で作っていく活動(ボランティア活動)を支援する専門職」(東京ボランティア市民活動センター、1996)
 つまりボランティアをコーディネートする人とは、ボランティアが対等によりよく活動できるように調整をする人と捉えることができる。現在では、それをひとつの専門職としてみなしていこうという傾向にある。


3-2-2.ボランティア・コーディネーターの役割
図3-1: ボランティア、要援助者、コーディネーターの関係 (筒井、1992)

 ボランティア・コーディネーターの役割として筒井(1992)は、ボランティアと要援助者の両者に関わるとともに、ボランティアと要援助者の関係性そのものにも対等に関わっていくことを挙げる(図3-1)。
 ボランティア・コーディネーターの活動の場は主に、「中間支援組織」、「ボランティア受け入れ型組織」、そして「ボランティア送り出し型組織」の3つがある(筒井、2004、p61)。これら3つの組織タイプにおいて、「市民のボランタリーな活動を支援し、その実際の活動においてボランティアならではの力が発揮できるよう、市民と市民または組織をつないだり、組織内での調整を行ったりするスタッフ」というコーディネーターの立場は変わらないが、その役割には多少の違いも生じる。
 「中間支援型組織」ではコーディネーターは、ボランティアをしたい人とボランティアの応援を頼みたい人の間に入り、第三者として両者を結びつける働きをする。それに対し、「ボランティア受け入れ型組織」では、ボランティアを受け入れる組織内のみのコーディネーションを行うため、組織それぞれの目的や内容に沿って、言わば限定的にオリエンテーションや研修を行うということになる。「ボランティア送り出し型組織」ではメンバーの募集そして研修を経て、彼らをボランティアの現場に送り出すというコーディネーションを行う。メンバーを送り出すという流れは一方的なものの、メンバーが活動する場は様々であるので、メンバーに対する柔軟なコーディネーションが求められる。


3-2-3.ボランティア・コーディネーターの現状

 「ボランティア活動年報2001年」(全国社会福祉協議会、2001)によれば、ボランティア・センターあるいは同様の機能を持つ市区町村の社会福祉協議会は、2001年3月現在、全国で3,109箇所となった。この数は10年前と比べて2倍強となる。またボランティア・コーディネーターの数は3,196人であり、1989年の3.2倍である(図3-2)。しかし実際はこの人数のうち、専任のボランティア・コーディネーターは全体の60%(1,850人)にとどまり、残りの40%(1346人)は他の業務との兼任でコーディネーター業務を行っている職員である(図3-3)。

図3-2:ボランティア・センター設置数とボランティア・コーディネーター配置人数の推移出典:ボランティア活動年報2001年」全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター
図3-3.ボランティア・コーディネーター:専任、兼任の割合(ボランティア白書、2003)

 先述の東京ボランティア市民活動センター(1996)の定義にもあるように、ボランティア・コーディネーターは専門職とする必要があり、その点は改善が求められる。またこのデータは前節で述べた「中間支援型組織」でのコーディネーターのことを指しており、「ボランティア受け入れ型組織」や「ボランティア送り出し型組織」におけるボランティア・コーディネーターについての認識が不十分なことも課題として残る。
 一方アメリカでは、ボランティア・コーディネーターが組織の中できちんと位置付けられている(妻鹿、2000、p13)。特に「受け入れ組織型」のボランティア・コーディネーションはしっかりと確立している。McCurley & Lynch(1996)によるボランティアマネジメントのプロセスでは、「@ニーズアセスメントと立案、Aボランティア募集、B説明会の開催、C受付・面接配置、Dオリエンテーションと研修、E継続の支援、スーパービジョン、Fねぎらいや反省会、G評価(→その後また@へ)」(図3-4)という流れがあるが、アメリカではこのプロセスのうち@からGまで全てをボランティア受け入れ側がやるのに対し、日本では@からCまでを中間支援組織としてのボランティア・センターが行っている場合が多い(妻鹿、2000)。

図3-4:ボランティアマネジメントのプロセス(McCurley & Lynch, 1966; 妻鹿 2000)

3-2-4.ボランティア・コーディネーターの養成
 小原(2003)はボランティア・コーディネーターをめぐる課題として、「@それぞれの機関でのコーディネーターの機能や役割が明確でない。A分野や役割ごとのコーディネーターの養成、研修の体系が確立されていない。B分野や役割ごとあるいは分野や領域を超えてのコーディネーターのネットワークが未発達である。C専門の職業(役割)としての認知が十分に進んでいない。」(p92)の4点を挙げている。
 前節でボランティア・センターとボランティア・コーディネーターの増加傾向に触れたが、同時に専門職としてのボランティア・コーディネーターの少なさが課題として浮かび上がって来る。この課題について考える上でも、日本ボランティア・コーディネーター協会が設立されたことの意義は大きい。当協会は「ボランティア・コーディネーターの専門性の確立」などを目的として、2001年に設立され、ボランティア・コーディネーターのための研修プログラムなどを行っている(12)。(資料:ボランティアコーディネーター基本指針)
 アメリカでは、専門職としてボランティア・コーディネーターを養成するコースが各大学に出来つつある。一例として、ワシントン州立大学でのボランティア・マネジメント認定プログラムを紹介する。このプログラムの到達目標は、「1.ボランティアのマネジメントのために必要な新しく実際的なスキル、2.組織のコストを減らすためにボランティアをうまく導く方法、3.ボランティアの適性のスクリーニング、4.必要とするボランティアを募集する新しいテクニック、5.ボランティアを組織の役員としてどう使っていくか」を学ぶことであり、対象者は、主にボランティアを扱っているボランティア・マネージャーやNPO団体、あるいはコミュニティ団体で働く職員となっている。
 プログラムは「1. 募集(Recruitment)、 2. トレーニング(Training)、 3. スーパービジョンとマネージメント(Supervision and Management)、 4. 評価と認定( Evaluation and Recognition)」というシラバスを採って、全てオンライン形式で行われる。
 他にも大学のコースのひとつとして、ボランティア・マネジメントに関わる人材の育成を行うところが増えつつある。実際には、一度ボランティア・コーディネーターとしての現場での経験をつんだあと、さらに知識やスキルを伸ばすために学ぶ人が多いのが現状である。

3-3.大学におけるボランティア・コーディネーションの意義

 文部省高等教育局は1999年、「学生のボランティア活動の推進に関する調査研究協力者会議」で「大学教育におけるボランティア活動の推進について」を発表した。これは、学生のボランティア活動を推進する意義について「@大学教育における地域社会の教育力の活用、A大学の地域社会への貢献」の2点からまとめられている。
 これを受けて興梠(2003)は、大学にボランティアセンターを設立することの意義を「『ボランティア活動を行いたい』という意志を持つ学生のニーズ(学生ボランティア・ニーズ)と、『ボランティア活動の支援を求めたい』人や社会組織のニーズ(社会ニーズ)の間にあって、それぞれのニーズが充足されるために必要な支援や機会の提供を行う"触媒"としての役割を果たす専門的な部門」(p209)を担うこと、と述べている。その調整役として大学内のボランティア・コーディネーションの機能が発揮されるという。
 大学のコーディネーションとしては、そこにボランティア・コーディネーターがいるということの意味は大きい。明治学院大学ボランティア・センターのボランティア・コーディネーターである大島(2004)は、大学のボランティア・コーディネーターの役割を、「伴走」という言葉を用い、以下のように説明する。

「…コーディネーターの役割の一つとして大切だと感じるのが、『伴走』というかかわり方である。付かず離れずしばらく伴走していると、学生たちが目的を見定め自らの足で走っていることに、ある時ふと気が付くのである。学生が先に走り出すこともあるが、そのときに『ちょっと待って』とか『とまれ』とかは言わずに、まず少し一緒に走ってみる。段階的にはゴールの軌道修正が必要なときも、頓挫の危機に直面することもあるが、そのようなときに達するまでには学生たちもプログラムの一つひとつにもまれて、少しずつ強固になりながら、熟していくことが多い。そして、学生もコーディネーターも主体的にかかわったというプロセスを経験すると、その事業が終わってからも次のトライに幅と自信が出てくるように思うのだ。」(Volo 九月号、p31)
「伴走コーディネーター」として学生の活動の縁の下の力持ち、あるいは心の支えになるというのが、大学でのボランティア・コーディネーションの一つのポイントととして挙げられている。
 大学にボランティア・センターがある、そしてそこにボランティア・コーディネーターがいるということは、大学、学生にとって、どのような意味を持つものなのか。次章では、その事例を見ながら、考察に入っていきたい。

【注】
(12)最近では、2004年2月20日〜22日の日程で「全国ボランティアコーディネーター研修会2004 興しやすいコーディネーターの底力〜私たちの真価が問われる市民参加の質」が京都で開催された。

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