卒論・修論の部屋
日米の大学ボランティア・センターとそこでのコーディネーションに関する一考察
中村寿美子さん
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4-1.アメリカにおける事例
1.イリノイ大学オフィス・オブ・ボランティア・プログラム(OVP)
A.設立経緯
B.コーディネーター、スタッフ
C.広報
●メールマガジン
OVPは希望した学生に対し、ボランティア情報を週一回メールマガジンとして配信している。現在受信者は3000名である。今の学生にとってメールは欠かせない通信手段であり、OVPもこのメールマガジンでの情報配信が一番効果的だと見ている。週一回という配信の多さも売りである。 ●ホームページ OVPのホームページでは主にボランティアに関する基本的な知識や考え方を紹介するページを充実させている(http://www.union.uiuc.edu/ovp/)。例えば"Being a Volunteer!" (http://www.union.uiuc.edu/ovp/resoueces/newvolunteer.htm)では、ボランティアをするにあたって、自分自身への問いかけ「1.どのような分野に興味関心があるか、2.どのような年代に興味関心があるか、3.どのようなタイプの活動をやってみたいのか、4.どの時間帯で活動したいのか、5.ボランティア活動を通して何を得たいのか、6.個人で活動に参加したいか、それともグループか」などがあり、ボランティア活動の対象の絞り込みを行えるようになっている。また、何か自発的な活動を自分たちの手で行いたいという学生向けには、"Organizing a One-Time Community Service Project"でプロジェクトを起こす際の目的、限界、手順が紹介されている。これら情報がホームページに詳しく書いてあることで、学生から社会や地域に対しての何らかのアクションを起こすきっかけとして一役買っていると考えられる。 ボランティア情報は、OVPと連携してコミュニティで立ち上げているCUVolunteer (http://cuvolunteer.org) に集中させている。キーワード検索、エリア・時間帯別の検索も可能で、情報は毎日更新されている。 ●チラシ チラシ配布は古典的な情報提供の形と言っていいが、OVPではひとつ工夫が施されている。それは、学生に対するターゲット・マーケティングという考え方だ。ターゲット・マーケティングとは、対象を絞って戦略的に宣伝し販売を促進するというビジネスの手法である。これをボランティアにも応用し、専攻学部別にボランティア案内のチラシを作成している。 この方法は学生側からしてもいくつかの点から便利である。例えば、大学の授業ではグループ活動の課題やどこかに訪問してレポートを書くという課題が出ることが多々ある。その際このチラシは活動先を探すヒントを与えてくれる。歴史の授業で実習が出た場合、"History Projects&Events"のチラシを見れば、Champaign County Historical Museumでニュースレターのボランティア・レポーターを募集していることが分かる。学生はこれを機に、ボランティア経験とかつ自分の専攻分野の現場での勉強もできるということになる。 また、ボランティアに関するターゲット・マーケティングの方法は、「ボランティアをしてみたいが、何をしていいのか分からない」という学生に、「あなたはここからボランティア活動を始められますよ」という方向をそっと差し出すという利点がある。決して強制的ではなく、学生の自発性を見えない形でしっかりと動機付け、サポートしている。大学ならではの方法と言えるかもしれない。
D.活動内容
●既存の活動との連携
・サークル活動との連携 OVPは学生のボランティアや社会貢献活動をする団体、いわゆるサークルの形態をとっているものとも連携している。OVPに登録されているそれらの団体は37あるが、これら各サークル対しOVPホームページ上での活動紹介またボランティア募集の呼びかけなどの機会を提供するなどしている。 ・授業との連携 イリノイ大学では学部1,2年生の希望者を中心にサービスラーニング制度が取り入れられている。OVPとしては、活動先の紹介、情報提供をするという形でその授業の一部の仕事を担っている。評価やサービスラーニングそのものの責任の所在は担当学部にある。 ●イベントの企画 ・ボランティア・フェア 年に一回学生会館で開催する。コミュニティあるいは全米で活動する20ほどのボランティア団体がそれぞれブースを持ち、活動内容を紹介している。一日中開催され学生は出入り自由である。 ・キャリア・フェア こちらも年に一度の開催である。NPOやNGOなどで働くことを望んでいる学生向けの就職セミナーである。ビジネスへの関心が高いと言われるアメリカの大学内でこのようなキャリア・フェアが開かれることを見ると、就職先としてのNPO、NGOの台頭も目立ってきているのだと感じられる。 ●地域とのかかわり OVPは地域との密接な関わりを持っている。地域のボランティア・センターとしての機能を担っているといっても過言ではない。 それは、Champaign-Urbanaというコミュニティがイリノイ大学を中心に成り立っているという背景も一因であろう。この地域のほとんどが学生をはじめとする大学の何らかの関係者である以上、地域のボランティア・グループも大学のボランティア・センターを利用することは当然かもしれない。大学側にしてみても、各ボランティア・グループと良い関係を保って、学生へ提供する活動先情報などを確保しておくことは必要なことである。 具体的な地域との活動例を挙げると、月に一度OVPとUnited Wayのボランティア・コーディネーターを中心に、この地域のボランティア・グループのコーディネーターが集まるミーティングが開かれている。ミーティングと言っても仕事が始まる前の朝の時間、朝ご飯を持ち寄って公園で雑談をするというぐらいのカジュアルなものであるが、コーディネーターたちにとっては交流と情報交換の貴重な場となっている。この集まりの利点は、全く異なるボランティア組織で働く人たちであっても、ボランティア・コーディネーターという肩書きで集まって来られるということである。ミーティングでは、まず、最近のボランティア事情(何人ボランティアが集まったのか、今どのようなボランティアのプロジェクトを抱えているのか、など)を交換しあう。また、心理学やマネージメントの専門家などを呼んで研修のようなものを取り入れるときもある。それに加え、OVP のボランティア・コーディネーターが地域のボランティア・グループの活動現場を訪問するという取り組みも行われている。これには、大学のボランティア・コーディネーターとして地域でボランティア活動の実態をその目で確かめるという目的と、さらには地域のボランティア・コーディネーターと一対一で話し合う機会を持つという目的がある。 この2つの例からも分かるように、OVPは大学だけではなく地域に根ざしたボランティア・センターとして機能している。大抵の場合、地域の中のボランティア・グループで活動する人は、OVPのコーディネーターとは顔なじみだ。学内にとどまらず積極的に地域と関わることが、地域のなかのボランティア・グループの横の連携を強め、ネットワークを形成していると言える。それが結果として大学はもとよりコミュニティの活性化につながっていると言えるであろう。
4-2.日本における事例
1.明治学院大学ボランティア・センター
A.設立経緯
B.コーディネーター、スタッフ
C.広報
D.活動内容
全学的な特徴として、ここ数年でボランティア活動を取り入れた授業が各学部で展開されるようになった。経済学部経済学科「社会参加実習」、法学部政治学科「フィールドワーク」、国際学部国際学科「実習」がその代表例だが、半期で40時間以上のボランティア活動を必須とし、ディスカッションやレポートにおいて評価をする(14)。ボランティア・センターはこれらの授業に情報提供等必要に応じて一部連携をとる場合もある。評価・単位認定は各学部に任されている。 ・イベントの企画 より多くの学生にボランティア・センターについて知ってもらうためには学内での イベントの企画は欠かせないものとなっている。 ・企業との関わり 近年、社会貢献活動を行いたいという企業が増えてきている。明治学院大学ボランティア・センターではそのような企業との連携を進めてきた。企業側にしてみれば、「ボランティア・センターがあることで、大学に話を持っていきやすい」ということで、複数の企業からの申し入れがあるという。現在のところ、当センターは「ソニーマーケティング学生ボランティア・ファンド」の事務局を受け持つほか、松下機器産業「シチズンシップ・コラボレーション・カレッジ」、Jスカイスポーツ「障害者向けスポーツ観戦プログラム」とプロジェクトを組んでいる。 これらの活動について、明治学院大学ボランティア・センターが独自に示している図ここに紹介する(図4-1)。 図4-1.明治学院大学ボランティア・センターの活動 (http://www.meijigakuin.ac.jp/~voluntee/L2-0005-contents/L3-0005-0005-zuhan.html)
E.特記事項―「特色ある教育支援プログラム」について−
2.龍谷大学ボランティア・NPO活動センター
A.設立経緯
B.コーディネーター、スタッフ
C.広報
D.活動内容
E.特記事項
3.大阪大学人間科学部ボランティア人間科学研究科
大阪大学にボランティア・センターは存在しない。しかし、敢えてここで取り上げるのは、国立大学で唯一のボランティアを専門にした研究機関があるからである。以下、大阪大学人間科学部ボランティア人間科学研究科について紹介する。
A.設立経緯
B.研究分野
本研究科はボランティア研究に特化している。ボランティアを研究する際、それをボランティアの実践と別のカテゴリーで考える必要がある。その理由を厚東氏へのインタビュー(2004)を基に述べる。 まず理由の一つに、研究者は実践家の邪魔をしてはならないということがある。大学でボランティアを研究するとなるとボランティアの研究者が生まれる。それに対し、現場ではボランティア活動を行う実践家がいる。研究者と実践家はともすると対立しやすい。本来ボランティア活動は実践家とともにある。そこに、大阪大学の場合、それも国立大学という権威をつけて研究者が入り込むと、現場の混乱を招きかねない。 もうひとつの理由に、研究者は実践家になってはいけないということがある。ボランティアは本来自発的な活動である。ボランティアの実践をボランティアの研究に取り込むと、ボランティアの自発性は消滅してしまう。つまり、「ボランティアしなくてはならない」となったとき、すでにそれはボランティアではないのである。 そこで厚東が基礎を立てたボランティア人間科学研究科の授業には、現在でも「ボランティアをしてみましょう」というボランティアの実践を取り入れたものはひとつもない。研究と実践を全く別のものと設定し、研究者は「ボランティアを研究することに意味があるのだ」という自己限定をすることが求められている。 また、ボランティアを授業に取り入れると、それを研究者が評価するかたちになり、自発性というボランティアの本質を覆すどころか、そこに「権力とコントロール」を介在させてしまう危険性まで出てくる。そうなるとボランティアとその研究を行うことが本末転倒となってしまう。 従って、本研究科では、3つの研究分野を柱に、研究と実践を分離し、あくまでもボランティアについての理論や学術を研究することに特化しているのである。
C.ボランティア・センター案
D.今後の動き
●大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)の部門構成
A.臨床コミュニケーションデザイン部門
4-3.日米の大学ボランティア・センターにおける違い
表4-2では第4章で扱った日米の大学ボランティア・センターの事例をまとめた。これをもとに日米の大学ボランティア・センターの比較(16)を試みる。
4-3-1.設立年
アメリカの大学ボランティア・センターは1980年代に設立されたものが多い。それに対し、日本の大学ボランティア・センターのほとんどが1995年の震災以後に設立した。その10年から20年の年月の差はそのままアメリカと日本のボランティアに対する歴史の違いと一致するだろう。アメリカでは80年代終わりまでに、United WayやPoints of Light財団が形成されるなど、ボランティア・センターの組織システムを確立させてきた。それに対し、日本では"ボランティア"という言葉さえ95年を経てようやく人々の中に浸透してきたというほど新しいものである。
4-3-2.学生スタッフ
OVPではアルバイト(有給)として学生スタッフを2名雇っている。それに対し、明治学院大学、龍谷大学の両ボランティア・センターでは学生スタッフは全員がボランティア(無給)である。
(参考:学生スタッフ募集要項)
一方、日本では学生スタッフはあくまでもボランティアとしているところが多い。ボランティアでいる限り、大学の授業のスケジュールに合わせて活動できるなどボランティア・センターへの出入りが自由にできるという利点がある。また、「出来る人が出来るときに出来ることを」行うことが大切だという見方が、ボランティアを扱うボランティア・センターには特に大切と考えることもできる。1. The Office of Volunteers is looking for some new office assistants for the next academic year. Don't fret, this position is PAID. This job requires a 10-12 hour commitment per week. The office is open between 9am-5pm. On occasion, nights and weekends may be requested; however, the bulk of the work is during office hours. Applicants must have a strong background in community service and volunteerism. Tech skills will be highly valued (website management, Excel, etc). If you have any questions, e-mail Kathy Guthrie at ovp@uiuc.edu. If you are interested in applying, pick up an application at 420 Illini Union (in the Employment Office). When filling out the application, specify that the application is for the OVP position. Applications must be handed in by May 14th. 学生スタッフを有給にするか否かという問題は、NPOでの有給スタッフとボランティアの関係についての議論と類似する。有給スタッフを確保することで活動の安定化と活動水準の向上がもたらされる。その一方経費面では大きな負担ともなる(早瀬、1998;p4)。またどこまでがボランティアの仕事でどこまでが有給スタッフの仕事とするのか、という線引きも難しい。 大学ボランティア・センターで学生スタッフに対して、そのどちらを取るかはボランティア・センターあるいはそこのコーディネーターが目的に応じて判断してもよいと考える。NPOが発達しているアメリカでは有給職員とボランティアを分け、それぞれの立場の責任を明確にすることで、その両者がうまく協働していけるような仕組みを作っている。OVPではその精神が大学ボランティア・センターにも反映されていると言えるかもしれない。
4-3-3.コミュニティとの連携
コミュニティという捉え方について、日米では様々な違いがある。例えば、OVPのあるイリノイ大学は、シカゴから車で3時間ほど南に行ったところにあるUrbana-Champaignという街に位置する。ここは、イリノイ大学が誘致されることで発展してきた町であり、そこに住むほとんどが教職員、あるいは学生といった大学関係者である。そういうところでは大学とコミュニティが連携するのは必然的なことだとも考えられる。その特性を生かして、OVPでは、コミュニティの各ボランティア・グループのコーディネーターとの懇親会を開いて情報交換をし合うという歩みよりを一層大切にしている。
【注】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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