卒論・修論の部屋

日米の大学ボランティア・センターとそこでのコーディネーションに関する一考察
中村寿美子さん

※注釈番号にマウスを乗せると注釈が表示されます。


4-1.アメリカにおける事例

1.イリノイ大学オフィス・オブ・ボランティア・プログラム(OVP)

A.設立経緯
 オフィス・オブ・ボランティア・プログラム(以下OVP)は、イリノイ大学(13)学生部の一組織として、United Wayとの協力体制のもと1989年に設立された。1980年代はCampus Compact(全米大学連盟:1980年)やCOOL(Campus Outreach Opportunity League:1984年)が結成され、アメリカの大学の多くでボランティア・センターが設立された時期である。
 OVPのミッションは、「コミュニティ・サービスや公的サービスにおける学生の参加を深めていくこと。コミュニティとの連帯関係やパートナーシップを育むことによって、学生やスタッフの教育的経験を豊かにすること」(ホームページ)である。

B.コーディネーター、スタッフ
 OVP専属のボランティア・コーディネーターが1名勤務している。
 それに加え、2名の学生スタッフがアルバイト(有給)で働いている。ときにインターン生の受け入れも行う。

C.広報
 ボランティア・センターの重要な役割として学生へボランティア情報の提供を行っている。OVPは以下で説明する3つの方法で情報を提供している。

●メールマガジン
 OVPは希望した学生に対し、ボランティア情報を週一回メールマガジンとして配信している。現在受信者は3000名である。今の学生にとってメールは欠かせない通信手段であり、OVPもこのメールマガジンでの情報配信が一番効果的だと見ている。週一回という配信の多さも売りである。
●ホームページ
 OVPのホームページでは主にボランティアに関する基本的な知識や考え方を紹介するページを充実させている(http://www.union.uiuc.edu/ovp/)。例えば"Being a Volunteer!" (http://www.union.uiuc.edu/ovp/resoueces/newvolunteer.htm)では、ボランティアをするにあたって、自分自身への問いかけ「1.どのような分野に興味関心があるか、2.どのような年代に興味関心があるか、3.どのようなタイプの活動をやってみたいのか、4.どの時間帯で活動したいのか、5.ボランティア活動を通して何を得たいのか、6.個人で活動に参加したいか、それともグループか」などがあり、ボランティア活動の対象の絞り込みを行えるようになっている。また、何か自発的な活動を自分たちの手で行いたいという学生向けには、"Organizing a One-Time Community Service Project"でプロジェクトを起こす際の目的、限界、手順が紹介されている。これら情報がホームページに詳しく書いてあることで、学生から社会や地域に対しての何らかのアクションを起こすきっかけとして一役買っていると考えられる。
 ボランティア情報は、OVPと連携してコミュニティで立ち上げているCUVolunteer (http://cuvolunteer.org) に集中させている。キーワード検索、エリア・時間帯別の検索も可能で、情報は毎日更新されている。
●チラシ
 チラシ配布は古典的な情報提供の形と言っていいが、OVPではひとつ工夫が施されている。それは、学生に対するターゲット・マーケティングという考え方だ。ターゲット・マーケティングとは、対象を絞って戦略的に宣伝し販売を促進するというビジネスの手法である。これをボランティアにも応用し、専攻学部別にボランティア案内のチラシを作成している。
 この方法は学生側からしてもいくつかの点から便利である。例えば、大学の授業ではグループ活動の課題やどこかに訪問してレポートを書くという課題が出ることが多々ある。その際このチラシは活動先を探すヒントを与えてくれる。歴史の授業で実習が出た場合、"History Projects&Events"のチラシを見れば、Champaign County Historical Museumでニュースレターのボランティア・レポーターを募集していることが分かる。学生はこれを機に、ボランティア経験とかつ自分の専攻分野の現場での勉強もできるということになる。
 また、ボランティアに関するターゲット・マーケティングの方法は、「ボランティアをしてみたいが、何をしていいのか分からない」という学生に、「あなたはここからボランティア活動を始められますよ」という方向をそっと差し出すという利点がある。決して強制的ではなく、学生の自発性を見えない形でしっかりと動機付け、サポートしている。大学ならではの方法と言えるかもしれない。

D.活動内容

●既存の活動との連携
・サークル活動との連携
 OVPは学生のボランティアや社会貢献活動をする団体、いわゆるサークルの形態をとっているものとも連携している。OVPに登録されているそれらの団体は37あるが、これら各サークル対しOVPホームページ上での活動紹介またボランティア募集の呼びかけなどの機会を提供するなどしている。
・授業との連携
 イリノイ大学では学部1,2年生の希望者を中心にサービスラーニング制度が取り入れられている。OVPとしては、活動先の紹介、情報提供をするという形でその授業の一部の仕事を担っている。評価やサービスラーニングそのものの責任の所在は担当学部にある。
●イベントの企画
・ボランティア・フェア
 年に一回学生会館で開催する。コミュニティあるいは全米で活動する20ほどのボランティア団体がそれぞれブースを持ち、活動内容を紹介している。一日中開催され学生は出入り自由である。
・キャリア・フェア
 こちらも年に一度の開催である。NPOやNGOなどで働くことを望んでいる学生向けの就職セミナーである。ビジネスへの関心が高いと言われるアメリカの大学内でこのようなキャリア・フェアが開かれることを見ると、就職先としてのNPO、NGOの台頭も目立ってきているのだと感じられる。
●地域とのかかわり
 OVPは地域との密接な関わりを持っている。地域のボランティア・センターとしての機能を担っているといっても過言ではない。
 それは、Champaign-Urbanaというコミュニティがイリノイ大学を中心に成り立っているという背景も一因であろう。この地域のほとんどが学生をはじめとする大学の何らかの関係者である以上、地域のボランティア・グループも大学のボランティア・センターを利用することは当然かもしれない。大学側にしてみても、各ボランティア・グループと良い関係を保って、学生へ提供する活動先情報などを確保しておくことは必要なことである。
 具体的な地域との活動例を挙げると、月に一度OVPとUnited Wayのボランティア・コーディネーターを中心に、この地域のボランティア・グループのコーディネーターが集まるミーティングが開かれている。ミーティングと言っても仕事が始まる前の朝の時間、朝ご飯を持ち寄って公園で雑談をするというぐらいのカジュアルなものであるが、コーディネーターたちにとっては交流と情報交換の貴重な場となっている。この集まりの利点は、全く異なるボランティア組織で働く人たちであっても、ボランティア・コーディネーターという肩書きで集まって来られるということである。ミーティングでは、まず、最近のボランティア事情(何人ボランティアが集まったのか、今どのようなボランティアのプロジェクトを抱えているのか、など)を交換しあう。また、心理学やマネージメントの専門家などを呼んで研修のようなものを取り入れるときもある。それに加え、OVP のボランティア・コーディネーターが地域のボランティア・グループの活動現場を訪問するという取り組みも行われている。これには、大学のボランティア・コーディネーターとして地域でボランティア活動の実態をその目で確かめるという目的と、さらには地域のボランティア・コーディネーターと一対一で話し合う機会を持つという目的がある。
 この2つの例からも分かるように、OVPは大学だけではなく地域に根ざしたボランティア・センターとして機能している。大抵の場合、地域の中のボランティア・グループで活動する人は、OVPのコーディネーターとは顔なじみだ。学内にとどまらず積極的に地域と関わることが、地域のなかのボランティア・グループの横の連携を強め、ネットワークを形成していると言える。それが結果として大学はもとよりコミュニティの活性化につながっていると言えるであろう。


4-2.日本における事例

1.明治学院大学ボランティア・センター

A.設立経緯
 明治学院大学ボランティア・センターは、1999年に戸塚キャンパス(横浜)に設置され、2年後の2001年に白金台キャンパス(東京)にも設置された。もともと明治学院大学創設者ヘボンの"Do for others"の精神のもと、日本でのセツルメント運動創始者とも言われる賀川豊彦が学んだ歴史や、我が国の大学では一番古い社会福祉学科があるなど、ボランティアへの素地がある校風ではあったが、設立に直接影響を与えた背景には1995年の阪神淡路大震災におけるボランティアの活躍がある。明治学院大学からも多くの学生が被災地でボランティア活動に参加した。その取り組みを評価し、また社会のボランティアに対する関心の高まりもあり、創立120周年の記念事業の一つとして設置された。

B.コーディネーター、スタッフ
 ボランティア・センター専属のボランティア・コーディネーターが両キャンパスに1名ずつ計2名勤務している。日本の大学のなかではじめて、他の業務との兼任ではなく、専任として大学職員であるボランティア・コーディネーターを置いたことは注目に値する。
 その他学生スタッフが複数名おり、ボランティアとしてセンターの運営に関わっている。

C.広報
 広報は、チラシとニュースレターの配布・発行、そしてホームページがメインである。
 新入生を対象にボランティアに関するアンケートを行ったうえに、「これからボランティア活動へ参加する人へ」というチラシを配布したり、ボランティア・センターの情報を載せたリーフレットも随時配布している。また、ニュースレター「ボランティア通信」は年に3回の発行である。
 その他センター前にはボランティア情報を常時掲示している。

D.活動内容
明治学院大学ボランティア・センター
年間スケジュール例

4月:学生ボランティア・スタッフ新入生勧誘
   ボランティア系サークル合同説明会
   新入生アンケートの実施
6月:戸塚まつり
   初心者向けボランティア体験講座
7月:夏休みボランティア・オリエンテーション
9月:戸塚区・上倉田地区防災訓練への参加
10月:上倉田地区スポーツ大会
11月:地域学生わくわく交流会
3月:ボランティア・リーダー養成講座
・既存の活動との連携
 全学的な特徴として、ここ数年でボランティア活動を取り入れた授業が各学部で展開されるようになった。経済学部経済学科「社会参加実習」、法学部政治学科「フィールドワーク」、国際学部国際学科「実習」がその代表例だが、半期で40時間以上のボランティア活動を必須とし、ディスカッションやレポートにおいて評価をする(14)。ボランティア・センターはこれらの授業に情報提供等必要に応じて一部連携をとる場合もある。評価・単位認定は各学部に任されている。
・イベントの企画
 より多くの学生にボランティア・センターについて知ってもらうためには学内での イベントの企画は欠かせないものとなっている。
・企業との関わり
 近年、社会貢献活動を行いたいという企業が増えてきている。明治学院大学ボランティア・センターではそのような企業との連携を進めてきた。企業側にしてみれば、「ボランティア・センターがあることで、大学に話を持っていきやすい」ということで、複数の企業からの申し入れがあるという。現在のところ、当センターは「ソニーマーケティング学生ボランティア・ファンド」の事務局を受け持つほか、松下機器産業「シチズンシップ・コラボレーション・カレッジ」、Jスカイスポーツ「障害者向けスポーツ観戦プログラム」とプロジェクトを組んでいる。
 これらの活動について、明治学院大学ボランティア・センターが独自に示している図ここに紹介する(図4-1)。

図4-1.明治学院大学ボランティア・センターの活動(http://www.meijigakuin.ac.jp/~voluntee/L2-0005-contents/L3-0005-0005-zuhan.html)
図4-1.明治学院大学ボランティア・センターの活動
http://www.meijigakuin.ac.jp/~voluntee/L2-0005-contents/L3-0005-0005-zuhan.html

E.特記事項―「特色ある教育支援プログラム」について−
 当センターは2003年度文部科学省「特色ある教育支援プログラム」に選定された。このプログラムは国公私立大学での高等教育の改善について他大学の参考となるような取り組みを評価するものだ。
 明治学院大学は『大学教育における社会参画体験の取込と実践〜ボランティア・センターによる教育支援の取組』というテーマで選定された。ボランティア・センター、そして専属のコーディネーターの取り組みが全面的に評価されたかたちである。

2.龍谷大学ボランティア・NPO活動センター

A.設立経緯
 龍谷大学ボランティア・NPO活動センターは2001年に深草学舎(京都)、その3年後に瀬戸学舎(滋賀)に設立された。
 設立の背景には、1995年の阪神淡路大震災、1997年のナホトカ号重油流出事件がある。ボランティアへの社会的な関心を受けて、教員の中から「大学に拠点を持たない小規模のNGOの拠点となるようなNGOセンターを大学内に設けることができるように」と意見が出されたことがきっかけである。結果としては、ボランティア・NPOセンターという名称で、浄土真宗本願寺派社会貢献部のバックアップを得て、大学の一組織として誕生した。

B.コーディネーター、スタッフ
 専属のコーディネーターが各キャンパスに2名ずつ計4名勤務している。複数のコーディネーターがいるのは珍しく、画期的な取り組みである。
 また多数の学生スタッフがボランティアとして参加している。学生スタッフは、班に分かれ活動する。それぞれボランティア・コーディネート班、みなボラ(みんなでボランティア体験ツアー)班、情報班(ホームページ、メールマガジン、パンフレットの作成)がある。  ボランティア・コーディネート班では、当センターのリーダー育成事業に参加した学生が中心になり、活動の紹介やセンターの利用法など紹介する窓口相談業務をシフト制で行っている。

C.広報
 ホームページ、メールマガジン、パンフレットの三本柱で広報活動を行っている。これらの製作には学生スタッフの情報班が担当する。ホームページに関しては、外部から講師を招いてホームページ作成講習会を開き、まず学生スタッフが技術を身につけ、それをセンターに還元するというかたちをとっている。メールマガジンは、学生、教員だけに対する配信だけではなく、大学外部への配信を行っている。受信登録はホームぺージ上で可能である。

D.活動内容
ボランティアについての情報提供はもちろんのこと、主に学生スタッフの育成がボランティア・NPOセンターの核となっている。活動の種類は以下の5つである。

  1. キャンペーン事業:ボランティアやNPOを知らない学生を対象に、ボランティア体験事業などキャンペーン活動を行う。
  2. リーダー育成事業:核となる学生スタッフを養成することを目的に、具体的には学外から講師を呼び、講義や実習を行う。夏休みには国内研修、春休みには海外研修を(タイ、カンボジア、インド)予定している。(参加者は帰国後にプロデュース授業でのプレゼンテーションが求めらる)。
  3. 主催・共済イベント:NGO論のシンポジウムの開催や、全国ボランティアフェスティバルへの参加などがある。他機関、他団体とのネットワーク作りを目的としている。
  4. プロデュース授業:大学正規の授業である「国際NGO論」「ボランティア・NPO活動論」のコーディネートをセンターが担当。学生はこの授業で単位を取得することが可能である。学生スタッフの履修は特に求められる。
  5. その他:新入生オリエンテーションや学園祭への参加、センター委員会への出席などがある。

E.特記事項
 当センターでは書籍の充実も特長のひとつだ。また外務省・JICAからの委託で「国際協力プラザコーナー」も設置されている。

3.大阪大学人間科学部ボランティア人間科学研究科

 大阪大学にボランティア・センターは存在しない。しかし、敢えてここで取り上げるのは、国立大学で唯一のボランティアを専門にした研究機関があるからである。以下、大阪大学人間科学部ボランティア人間科学研究科について紹介する。

A.設立経緯
 本研究科は1997年に設立された。その背景にあるのは言うまでもなく1995年の阪神淡路大震災である。この震災でボランティアへの関心が一気に高まったのは詳しく述べるまでもないが、これを機に政府各省庁でも様々な動きがあった。そういう中、文部省(当時)は「ボランティアに関する研究機関を作る」という方針を打ち出した。
 当初は震災を経験した神戸大学が有力候補であったが、震災後の処理で慌しく、またアカデミズムを重んじる校風ゆえに「ボランティアはそもそも学問に値するのか」という反対意見も出て受け入れられなかった。そこで近隣の大阪大学人間科学部の一研究科として設置することになった。

B.研究分野
 このような経緯でボランティアの研究科は大阪大学に設置されることになったが、ボランティアといっても一体何を研究するかという点では非常に頭を悩ませるところであった。神戸大学でも聞かれた「ボランティアはそもそも学問に値するのか」という批判は、大阪大学でも同様であった。「ボランティアを研究分野にするとは人間科学部の質が下がる」との批判までも少なからずあったという。
 しかし、本研究科設置に携わった厚東(1999)は次のように述べる。すなわち「法、経済、政治の分野では reflexibility とでもよびうる状態が現出するのと引き変わるように、<制度の未熟性>が露呈されるような新しい問題領域が噴出してくる」(厚東、1999)。つまり、それらの問題領域が「災害、環境、グローバリゼーション、福祉」の4領域であり、ボランティア人間科学研究科が研究対象とするところなのである(図4-1)。それらは、本研究科の研究分野である「地域共生論、国際協力論、ソーシャルサービス論」と一致する。(環境については当初、研究分野に盛り込む方針であったが、人員・コストの面から、また工学部でも研究が進められているとの点を考慮して設置には至らなかった。)

表4-1:ボランティアの学問的領域(厚東、1999)
問題領域秩序・イメージ強制装置制度認識体系
法―権利人権司法国有化された法法律学
経済―自由市場経済行政府(官僚制)国民経済経済学
政治―参加デモクラシー立法府(議会制)国民国家政治学
グローバリゼーション−共生 多文化主義
環境−資源 生態系 環境学・エコロジー
福祉―生活 ノーマリゼーション
災害―安全 リスク社会?

 本研究科はボランティア研究に特化している。ボランティアを研究する際、それをボランティアの実践と別のカテゴリーで考える必要がある。その理由を厚東氏へのインタビュー(2004)を基に述べる。
 まず理由の一つに、研究者は実践家の邪魔をしてはならないということがある。大学でボランティアを研究するとなるとボランティアの研究者が生まれる。それに対し、現場ではボランティア活動を行う実践家がいる。研究者と実践家はともすると対立しやすい。本来ボランティア活動は実践家とともにある。そこに、大阪大学の場合、それも国立大学という権威をつけて研究者が入り込むと、現場の混乱を招きかねない。
 もうひとつの理由に、研究者は実践家になってはいけないということがある。ボランティアは本来自発的な活動である。ボランティアの実践をボランティアの研究に取り込むと、ボランティアの自発性は消滅してしまう。つまり、「ボランティアしなくてはならない」となったとき、すでにそれはボランティアではないのである。
 そこで厚東が基礎を立てたボランティア人間科学研究科の授業には、現在でも「ボランティアをしてみましょう」というボランティアの実践を取り入れたものはひとつもない。研究と実践を全く別のものと設定し、研究者は「ボランティアを研究することに意味があるのだ」という自己限定をすることが求められている。
 また、ボランティアを授業に取り入れると、それを研究者が評価するかたちになり、自発性というボランティアの本質を覆すどころか、そこに「権力とコントロール」を介在させてしまう危険性まで出てくる。そうなるとボランティアとその研究を行うことが本末転倒となってしまう。
 従って、本研究科では、3つの研究分野を柱に、研究と実践を分離し、あくまでもボランティアについての理論や学術を研究することに特化しているのである。

C.ボランティア・センター案
 大阪大学では、2004年に全学組織である「大学教育実践センター」(15)が設立された。その設置案が出た2002年、大学教育実践センター内にボランティア・センター的機能をもつボランティア部門の設置案が提案されていた。
 ボランティア人間科学研究科がいくらボランティア研究に特化しているとはいえ、研究機関があるのに大学がボランティア・センターの機能がないのはおかしいという意見だった。しかし、問題は人員である。案ではボランティア人間科学研究科から教官を引き抜き兼任させるということだったが、教官は研究者なのだから、研究と実践を混合させることはできない。そのような問題点を克服できず、この案は消えることになった。
 今後、大阪大学にボランティア・センターを設置するということになれば、ボランティア人間科学研究科とは全く別の流れとして捉えなければならないだろう。もちろんボランティアの研究者としての助言や情報提供はする必要があろうとは思うが、ボランティアの研究と実践は異なる流れなのだということを徹底しておかなければならない。そのためには、教員を起用するのではなく、専門職としてボランティア・コーディネーターを置くという試みが必要である。

D.今後の動き
 2005年4月より大阪大学は「大阪大学コミュニケーション・デザインセンター(Center for the Study of Communication-Design: 以下CSCD)」を開設する。このセンターの目的は、専門家や研究者をめざす全学の大学院生を主たる対象としてコミュニケーション教育と高度教養教育を行うとともに、市民の声に耳を傾け互いに対話することを促進することで、「産学連携」と並ぶ大阪大学の社会貢献の軸として「社学連携」の窓口・拠点として位置づけられている。開設の背景には、現代社会の諸問題(例えば、医療紛争や廃棄物処理問題、食品の安全性、家庭・学校・地域のさまざまなトラブル)は、専門家(科学技術者、行政、企業、エキスパート)と非専門家(市民)のコミュニケーション不全から起こるという点から、専門家と非専門家が双方向型のコミュニケーションを取る必要性が生じることを挙げている。大学を開かれたものにするべく、CSCDは、臨床コミュニケーションデザイン部門、安全コミュニケーションデザイン部門、アート&フィールドコミュニケーションデザイン部門の3部門で構成されている。
 臨床コミュニケーションデザイン部門の中に、「ボランティア・コミュニケーション・デザイン」がある。これは、ボランティア活動を通じたコミュニケーションなどを担いうる資質の育成という目的がある。この部門が医療や福祉などをテーマとして扱っていることから、ここでのボランティアはそれらと関係のあるものになると思われるが、具体的にどのようにボランティア活動が進められるのかは現時点ではまだ分からない。しかし、研究と実践を混同せず、その両者を生かしていけるようなコーディネーションが行われることを期待したい。
 

●大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)の部門構成
A.臨床コミュニケーションデザイン部門
  • 臨床コミュニケーション・デザイン
    (ケア・マネージメント、臨床行動デザイン、医療現場のコミュニケーション)
  • ウェルネス・デザイン(福祉デザイン)
  • 高齢者・障害者支援ネットワーク・デザイン
  • メディエーション・デザイン(裁判外紛争解決・調停技法、社会的合意形成)
  • 翻訳・通訳デザイン(医療通訳・司法通訳・特許通訳)
  • ボランティアコミュニケーション・デザイン
B.安全コミュニケーションデザイン部門
  • 科学技術コミュニケーション・デザイン
  • セキュリティ・デザイン(リスク・マネージメント)
  • マンーマシン・インターフェイス・デザイン
  • 消費者コミュニケーション・デザイン
  • 災害支援ネットワーク・デザイン
  • ロボティックス・デザイン
  • メディアネットワーク・デザイン
C.アート&フィールド・コミュニケーションデザイン部門
  • コミュニケーション環境デザイン
  • イメージ・リテラシー教育
  • アートマネジメント教育
  • マルチリンガル・デザイン教育
  • フィールドリサーチ・デザイン
  • マーケットコミュニケーション・デザイン
  • 移動生活デザイン
  • 地域コミュニティ・デザイン
  • 都市環境デザイン
  • ランドスケープ美学
  • 社会リソース保全デザイン
(http://www.osaka-u.ac.jp/jp/saishin/gaiyoh.doc)

4-3.日米の大学ボランティア・センターにおける違い

 表4-2では第4章で扱った日米の大学ボランティア・センターの事例をまとめた。これをもとに日米の大学ボランティア・センターの比較(16)を試みる。

4-3-1.設立年

 アメリカの大学ボランティア・センターは1980年代に設立されたものが多い。それに対し、日本の大学ボランティア・センターのほとんどが1995年の震災以後に設立した。その10年から20年の年月の差はそのままアメリカと日本のボランティアに対する歴史の違いと一致するだろう。アメリカでは80年代終わりまでに、United WayやPoints of Light財団が形成されるなど、ボランティア・センターの組織システムを確立させてきた。それに対し、日本では"ボランティア"という言葉さえ95年を経てようやく人々の中に浸透してきたというほど新しいものである。

4-3-2.学生スタッフ

 OVPではアルバイト(有給)として学生スタッフを2名雇っている。それに対し、明治学院大学、龍谷大学の両ボランティア・センターでは学生スタッフは全員がボランティア(無給)である。
 これについては賛否両論があるだろう。
 まず、学生スタッフをアルバイトとすることについて、OVPでは、「責任制と効率性」を求めるために学生スタッフを「雇う」という形式をとっている。学生は給与を受ける代わり、一週間の最低勤務時間はこなさねばならず、個人の都合で仕事を抜けることはできないのである。

(参考:学生スタッフ募集要項)
1. The Office of Volunteers is looking for some new office assistants for the next academic year. Don't fret, this position is PAID. This job requires a 10-12 hour commitment per week. The office is open between 9am-5pm. On occasion, nights and weekends may be requested; however, the bulk of the work is during office hours. Applicants must have a strong background in community service and volunteerism. Tech skills will be highly valued (website management, Excel, etc). If you have any questions, e-mail Kathy Guthrie at ovp@uiuc.edu. If you are interested in applying, pick up an application at 420 Illini Union (in the Employment Office). When filling out the application, specify that the application is for the OVP position. Applications must be handed in by May 14th.
 一方、日本では学生スタッフはあくまでもボランティアとしているところが多い。ボランティアでいる限り、大学の授業のスケジュールに合わせて活動できるなどボランティア・センターへの出入りが自由にできるという利点がある。また、「出来る人が出来るときに出来ることを」行うことが大切だという見方が、ボランティアを扱うボランティア・センターには特に大切と考えることもできる。
 学生スタッフを有給にするか否かという問題は、NPOでの有給スタッフとボランティアの関係についての議論と類似する。有給スタッフを確保することで活動の安定化と活動水準の向上がもたらされる。その一方経費面では大きな負担ともなる(早瀬、1998;p4)。またどこまでがボランティアの仕事でどこまでが有給スタッフの仕事とするのか、という線引きも難しい。
 大学ボランティア・センターで学生スタッフに対して、そのどちらを取るかはボランティア・センターあるいはそこのコーディネーターが目的に応じて判断してもよいと考える。NPOが発達しているアメリカでは有給職員とボランティアを分け、それぞれの立場の責任を明確にすることで、その両者がうまく協働していけるような仕組みを作っている。OVPではその精神が大学ボランティア・センターにも反映されていると言えるかもしれない。

4-3-3.コミュニティとの連携

 コミュニティという捉え方について、日米では様々な違いがある。例えば、OVPのあるイリノイ大学は、シカゴから車で3時間ほど南に行ったところにあるUrbana-Champaignという街に位置する。ここは、イリノイ大学が誘致されることで発展してきた町であり、そこに住むほとんどが教職員、あるいは学生といった大学関係者である。そういうところでは大学とコミュニティが連携するのは必然的なことだとも考えられる。その特性を生かして、OVPでは、コミュニティの各ボランティア・グループのコーディネーターとの懇親会を開いて情報交換をし合うという歩みよりを一層大切にしている。
 一方日本では、アメリカと土地の広さも全く異なるが、大学の多くが都市部にあり、コミュニティを限定するのは非常に難しい。特に東京などの都心部では昼夜間の人口差があったり、また学生も自宅から一時間以上かけて通学するということも珍しくない。そのような状況で、大学ボランティア・センターがそこでのコミュニティと連携するという考えは、捉えにくいことではある。しかし、大学をより外へ開いていくという試みが求めれる今、大学ボランティア・センターが地域のボランティア・グループとコンタクトを取るといったアメリカの取り組みは、参考にできるだろう。

表4-2:日米の大学ボランティア・センターの比較
イリノイ大学OVP 明治学院大学ボランティア・センター 龍谷大学ボランティア・NPOセンター 大阪大学ボランティア人間科学研究科
目的 ボランティア
実践
ボランティア
実践
ボランティア
実践
ボランティア
研究
設立年 1989年 1999年 2001年 1996年
コーディネーター 専属:1名 専属:各キャンパスに1名ずつ(計2名) 専属:各キャンパスに2名ずつ(計4名)
学生スタッフ アルバイト(2名)・インターン ボランティア ボランティア
広報 メールマガジン
ホームページ
チラシ
ホームページ メールマガジン
ホームページ
チラシ
授業と連携 サービス・ラーニングの一部を担当。責任の所在、単位認定は担当学部。 各学部の実習やフィールドワーク授業と一部担当することもある。責任の所在、単位認定は担当学部。 「国際NGO論」「ボランティアNGO活動論」(講義形式)などをボランティア・センターとして担当。単位認定あり。 「ボランティア人間科学実験実習」など人間科学部の授業として全面的に担当。(講義形式。授業にボランティア活動は取り入れない)単位認定あり。
組織タイプ 中間支援組織型 ボランティア送り出し型 ボランティア送り出し型 研究機関
活動タイプ コミュニティ形成型 学生育成型 学生育成型 ボランティア研究特化型
主な活動 ・ボランティア情報の提供
・学内サークルとの連携
・イベントの実施(ボランティア・フェア、キャリア・フェアなど)
・コミュニティと大学・学生のボランティアを通した連携
・ボランティア情報の提供
・人材育成
・イベントの実施
・企業との連携(ソニーマーケティング学生ボランティアファンド事務局等)
・ボランティア情報の提供
・人材育成(学生スタッフ)
・イベントの実施
・他機関との連携(外務省・JICAから委託 国際協力プラザコーナー)
・ボランティア研究
地域と関わり 強い 弱い 弱い

【注】
(13)イリノイ大学Urbana-Champagin校・学生数38,291人。筆者は03年8月から04年7月まで滞在。
(14)社会学部社会福祉学科「フィールドワーク」もこれに該当するとも考えられるが、社会福祉にはその学問の性質から実習は必至のものであると思われるのでボランティアを取り入れた授業としては扱わなかった。
(15)現在、教養教育実践部、教育実践研究部、開放教育実践部の三部問から構成される全学レベルの教育センターである。
(16)第一章でも述べたようにこの大学の規模、それをとりまくコミュニティの違いから4大学の単純な比較は行えないが、ここではそれらの違いがあまり影響していないと思われるもので、大学ボランティア・センターを考える上で必要となるだろう要素を取り上げる。

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